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第18話「事件の真相」

 まずは、《魔物の氾濫オーバーフロー》というものから説明しようか。

 そう言ってフェリックスさんは、あの日の事、俺の知らない一面を語りだした。

 自然災害ともいえる《魔物の氾濫》だが、発生条件だけは解っているらしい。

 発生には、《迷宮ダンジョン》が深く関わっているらしい。

 ダンジョンと言えば、俺のゲームや漫画知識で言うところの、モンスターが蔓延り、お宝ざくざくで、それを狙うハンターが出入りする迷宮だが、おおよそ、その認識であっているらしい。

 《迷宮》は、《迷宮核》と呼ばれる巨大な魔石によって作られるらしい。迷宮核は魔力をため込む性質があり、その課程で、魔力を求める魔物が、樹液を求めて集まる虫のように、迷宮核に向かって集まってくるのだという。迷宮の形は、その場所などによって、様々らしい。洞窟のようであったり、深い森であったり、果ては、知能を持った魔物が、遺跡のような物を作り出したともいう。

 そして、全ての迷宮で共通するのが、迷宮核からの魔力を受けて、魔物は強くなり、迷宮内、または迷宮付近で群を作り始めるということ。その群が、大きくなりすぎ、餌が枯渇すると、その群が餌を求めて、周りを無差別に襲うのが、《魔物の氾濫》という現象らしい。


「普段なら、《魔物の氾濫》など起こらないのだ」


 迷宮が発見されれば、大抵の場合、すぐに迷宮核を取り出し、無力化。それが叶わない場合は、迷宮付近の魔物を、冒険者などに依頼して間引くらしい。そのため、魔物の氾濫が、街を襲うような事はないのだそうだ。


「どうも、欲を張った貴族がいたらしくてな。迷宮を秘匿したものがいるらしい」

「危険なら、早く処分するべきなんじゃないですか?」


 本来、この街では、迷宮の類は発見され次第すぐに腕利きを向かわせ、迷宮核を無力化するらしい。危険なら当然のことだろう。前世でいえば、爆弾を抱えながら寝ているのに等しい。精神衛生上よろしくないし、いつ爆発するかも解らない。

 わざわざ、リスクを犯す意味が分からない。

 フェリックスさんは、俺の疑問に頷く。


「そうだな。普通なら、な。しかし、利益がでない訳じゃない。腕利きさえ揃えば、迷宮は利益を生む金なる木だ」


 魔物の素材は、武具などに利用されることもあり、狩ってその素材を売れば金になる。また、迷宮は言ってみれば大きな魔力溜まりらしく、放っておけば、良質な鉱石や、資源などが取れるようになったりするらしい。

 しかし、それは、その迷宮を恒久的に間引けるだけの腕利きが、常に見込める場合であれば、らしい。

 前世の記憶では、ダンジョンなんて言っても、経験値を稼ぐための稼ぎ場、くらいのイメージしかない俺も、少しは納得できた。


「迷宮を管理し、この街を迷宮都市として活気づかせれば、自分の懐が暖まると思った輩がいるらしくてな」


 ……迷惑な話だ。そんな奴のせいで、自分は二度も死にかけて、クリスやオリヴィアが命の危険に身を晒され、アリシアが消滅したと言うのか?


「その貴族は、どうなったんですか?」

「……逃げた。この街が襲われる前日、適当な理由を付けて街を離れていてな。今、その貴族の処分について、各方面で手を回しているところだ」

「良いの? そんな事まで言ってしまって」


 母がそう口を挟む。フェリックスさんは、そんな母に苦笑を返した。


「ちゃんと対応している、という事を言わないと、誰かが暴走しかねないからな」

「確かに。カトレアなら……ね」


 フェリックスさんと、父が笑う。共感できる程度には、母がお礼参り行くのは確定らしい。


「あら。失礼ね。私はそんな《脅迫おねがい》に行くような面倒なことしないわよ?」


 気のせいか、おねがい、という言葉のニュアンスが、俺の知っているものと違った気がする。これは、俺がまだこの世界の国の言葉に慣れてないせいですよね? そうだと思いたい。



「まったく、良く言う……ともかく、そういう事だから、迂闊に手を出さないようにして欲しい、という事と、そんなバカのせいで迷惑をかけてしまって済まない、という事を伝えにきたんだ」


 言うことを言ってやった、という感じに、フェリックスさんは一息つく。

 これで話は終わりらしく、フェリックスさんも立ち上がる。両親とも、特に異論はないのか、同じく見送りのために立ち上がった。

 俺は、まだ若干、胸の内にわだかまりがあったが、貴族のややこしいつき合いに巻き込まれたくないので、今は納得しておく。

 そして、全員が立ち上がったところで、ぱさっとそれが落ちてきた。


「あら? 何かしら。羊皮紙?」


 俺の、羊皮紙である。より正確に言えば、ガストン工房で結んできた契約について書かれている契約書。

 さぁっと、俺の顔から、血の気が引いていくのを感じる。ただでさえ勝手に出ていった事を怒られるのを待つ身としては、これ以上、何か怒られる要素が増えるのは避けたい。こういうのは、両親の機嫌が良いときに、それとなく言質だけとってしまえるような形が理想だ。

 母さんが、狼狽えた俺の様子から何かを読みとり、父さんにアイコンタクトを飛ばす。父はそれを正確に読みとって、羊皮紙を拾い上げた。


「なになに……契約、書?」

「アルドちゃん、いったい何の契約を、親に黙って結んで来たのかしら」

「ほうそれは気になるな。我が街の英雄は、いったいどこのどいつと、どんな契約を結んで来たのかね?」


 三者が仁王のようになり、俺は母に抱かれながら、観念するしかなかった。

 俺は、ガストンさんの家で結んできた契約を、洗いざらい吐いた。盾と鎧の事もそうだし、魔導甲冑の研究の事も残さずゲロった。


「それは……なんとまぁ。我が息子ながら驚くね」


 本当に驚いているのか、いまいち表情からは判断出来ない父さんがそう言う。母さんは言葉を失って顔をしかめており、フェリックスさんは面白そうにニヤついている。

 俺はもちろんというか、正座である。子供の軽い体重とはいえ、堅い床に正座しているせいで、足がジンジンする。


「契約書の内容は良く出来ているね。内容に不備は無いように見える……けど、それでも、子供であるアルドだけで結んで良い訳じゃないよ」

「はい」


 その通りだった。知り合い、といっても付き合いが浅いし、父さん、母さん抜きでそんな話をして良いはずなかった。ガストンさんはそんな風には思わないが、子供だからと言って、契約を踏み倒す可能性もあった。

 それを淡々と父さんに指摘され、段々と憂鬱になってくる。正論すぎて言い訳もできない。


「まぁ、これは後でガストンさんには僕から挨拶しておこう。カトレアも、それでいいね?」

「……良いわ」

「ふむ。それでは、私の方からも一つ良いかね?」


 おっと。これで終わりかと思っていたのに。フェリックスさん何を言うつもりですか。ちょっと帰ってくれませんか。こっちは足の感覚が無くなってきて限界なんですよ!


「……? 何でしょうか」


 俺の代わり答えたのは父さんだ。父さんはフェリックスさんの言葉に、少しだけ怪訝そうにしている。


「この、魔導甲冑とやらに、少し噛ませて貰えないか?」


 たぶん、俺は今顔をしかめているだろう。フェリックスさんは、俺の顔を見て、困ったような表情を浮かべているから。


「それは、どういう事かしら?」


 母さんの目が鋭くなる。フェリックスさんが何か迂闊な事を言えば、襲いかかり兼ねない雰囲気。


「いや、何。利益をかすめ取ろうという訳ではない。そもそも出来てもいない物の利益なぞ、期待できんだろう?」


 フェリックスさんは、若干母さんの圧力に冷や汗をかきながらそういう。しかし、今の言葉は、裏を返せば期待できる物ができれば、圧力をかけるかもしれない、という事だ。


「まぁ、そんな顔をするな。一つ、面白い案ができてな」


 そう言って、フェリックスさんは、考えを口にする。


「これは、成功すれば、確かな戦力になるのだろう? なら、それを使って迷宮を管理してしまえればと思ってな」


 にやりと笑うフェリックスさんは、悪戯を企てる、悪ガキのような顔をしていた。


「迷宮が管理できないのは、それだけの戦力を維持、運用できないからだ。迷宮都市としてやっていける都市は、都市が迷宮を囲ったのではなく、迷宮があったから都市ができた。根本からして都市としての発足の仕方が違う。この街のように、元からある小さな街に迷宮ができるなら、それは驚異でしかない」


 だからな、とフェリックスさんは続ける。


「これは思いつきだが、戦力が確保できるのなら、街を、迷宮街として新しい一歩を踏み出してみても良いと思ってな」

「しかし、そんな単純な事なんですか? そもそも、さっきフェリックスさんが言ったように、出来きてもいない物で、利益を見込むなんてできないでしょう」


 俺が思わず、揚げ足を取るようにそう言うと、フェリックスさんは、強気な笑みを浮かせたまま、頷く。


「勝算がないなら、そうかもしれないな」

「勝算があると?」


 黙って聞いていた父さんがそう問いかける。フェリックスさんは、もちろんだとも。と自信ありげに答えた。


「アルド君が居るからな」

「俺が、ですか?」


 思わず、素でそう返してしまう。

 みんな俺に期待しすぎじゃないだろうか。ガストンさんも、似たような事を言っていたように思うが、俺は、俺自身がそんな器があるとは、思えない。

 俺は、感じた恐怖に対して、打てる手を打ちたい、出来ることをしたいと思っただけなのに。


「そうだ。君がいるから、だ。これはな、依頼だよ。私から、アルド君への。魔導甲冑を製造し、私に幾つか提供して欲しい。代わりに、魔導甲冑完成まで、研究のための資金援助をしよう」

「見込んだ通りの戦力にならないかもしれませんよ?」

「あの盾と鎧を作った、君の作品が、か? 私はそうは思わん。が、だとしても、街の衛兵に配り、鎧の質をあげる事はできるだろう。無駄にはならんさ」


 俺が自信を持てないのに、フェリックスさんは自信満々にそう言う。俺は、思わず父さんを見る。何を言った訳でもないが、父さんは俺の気持ちを組んで、こう言った。


「僕はやってみても良いと思うよ。アルドが好きにすると良い。……ただ、迷っているなら、挑戦してみると良い。失敗を恐れているのかもしれないけど、お前はまだ子供。親に迷惑かけたっていいんだ。それに、親としてはもう少し手が掛かってくれても良いよ」

「私たちの息子に、出来ないはずは無いわ!」


 母さんに関しては、ちょっとは疑ってください、と思ったりするが、両親に手放しに応援されては、断るとはいえない。


「……やります。やらせてください。きっと、魔導甲冑を完成させてみせます」

「……そうか! 細かい事は、また話し合う機会を持とう。ガストン工房の人間も交えてな」


 俺は頷いて、フェリックスさんが差し出してきた手を握る。

 こうして、俺は魔導甲冑制作への、後ろ盾と、資金の伝手を手にした。

 なぜもっと、早くにこうしておけなかったのだろう。

 そう思ったが、皆、あの時の俺の功績を見て、判断してくれているのだ。平時にそんな事を言っても、誰も見向きもして貰えなかったに違いない。

 なら、出来る事を全力でやっていくしかない。

 それが、俺の為に命を尽くした、アリシアに報いることなんだろう、と思いながら、俺は決意を新たにした。


 そんなカッコ付けてみた俺は、フェリックスさんが帰った後、三時間程継続して正座し、足の痛みに泣きながら、母さんの説教を聞いたのだった……

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