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第16話「オーガ討伐の後には」

 俺は、丸3日も眠っていたらしい。

 身体を起こしてまっていたのは、父と母の容赦のない包容だった。


「ばかっ! 支配級ルーラークラスのオーガなんて……死んでいたかもしれないのよ!? 命を懸けてまで、街の人を守るなんて……偉いわ! 流石わたしの息子ね!」


 ……誉めたいのか、叱りたいのかいったいどっちなんだ。


「身体は起こせるか? 今、消化に良いものを用意するから」


 父は、目を覚ました俺に涙を流し、お腹が減ったろう、と消化にいいスープを飲ませてくれた。体感ではそんな感じはしなかったが、三日ぶりらしい食事は、身体に染み渡るようで、安堵と、その旨さから涙がこぼれた。



「いてて……」


 俺は身体の痛みを押しながら、外に出てきていた。正直、立つのがキツい程筋力が衰えていたが、そのままにしておいても、体力が回復しないので、リハビリを兼ねて親の目から隠れ、外に出てきている。


「家に居ると、尚更意識しちまうしな……」


 家に居ると「アリシアが居ない」という事実が浮き彫りになる。

 アリシアはいつも、俺が他の人間と話やすいように、他の人間が居るときはほとんど話かけてこなかった。

 そのせいか、声をかけられなくても、アリシアが側に居てくれているんじゃ、と思ってしまう。


『なぁアリシア、これって──』


 いつものように、何気なく質問しようとして、アリシアが居ないと気づいた事が、今日だけで三回。気分転換した方がいいだろう。

 あても無く街を歩いていると、身体の痛みにもなれ、動かしやすくなってくる。何となく東口まで歩いて来てしまったところで、俺は街の状態が気になる。それを目標にしても良いかもしれない。

 もうアリシアが宿っていない、お守り代わりの宝石を、俺は無意識に触りながら歩き始めた。


「おや……坊や、坊やかい!? あんたぁ! クリス! 坊やが来たわよ!!」


 そんな声に引き留められると、見慣れた紅い髪の女性が、驚きの表情をしてこちらを見ている。紅い髪の女性──クリスの母親が出てきたその建物を見上げると、「ガストン工房」と看板がでている。


「あ、どうも……」


 とっさに挨拶しようとして、クリス母の名前を聞いていない事に気づき、俺は中途半端に頭を下げる。


「坊や、よく来たねぇ! そうだ! 先日のお礼をさせとくれよ。あんたのおかげで、街は救われたんだ! あんたは英雄さね」

「えっ!? い、いやそんな事はないですよ」


 英雄なんて言われても、実感はない。何より、自分は何も守れず、ただ守られただけ……そんな風に思ってしまう。

 そんな風に話をしていると、店の中からどたどたどた! っと二つ分の足音が建物内から響いてき、木造のドアが、ばんっ! と弾けるように開かれた。


「おう坊主! 目が覚めたのか──」

「アルドぉ!」


 クリス父が言い終わるより早く、玄関先から、弾丸のようにクリスが飛び込んでくる。回避不能、激突必至の先制だった。


「うぉ……!」


 俺は咄嗟に、身体強化してクリスを受け止め、殺しきれない勢いを、クリスを抱いたまま、一回転する事で相殺する。


「ひぐ、ひっぐ……アルドぉ……生きてた、よかったよぉ……」

「心配してくれて、ありがとう」


 ぐすぐす言っているクリスの背中をぽんぽんと優しく叩く。……あ、肩辺りで鼻をかむのは止めていただけると嬉しいんですが……


「おやまぁ。坊や。少し上がって行きなさいな」

「おう。坊主にはしっかりと礼をしたいしな。あとは、余裕があれば、例の件、よろしく頼むぜ」

「あんた、仕事の話は今度にしなさいな!」

「いえ、大丈夫ですよ。えっと、じゃあお邪魔します」


 クリス母の案内で、工房内に通される。そこは、自分の知識とすりあわせるなら、ゲームのRPGなんかでよく見る、武器、防具屋だった。剣や槍、弓などの武器が雑然と並び、その横の棚には、鎧や兜が並べて展示されている。値札がおいてあるものもあるし、高価そうなものには、値札がつけられていないものもある。そういうものは店主と交渉するんだろうか?

 ついつい目が取られる店の中を、クリスの手を引かれながら、奥へと進む。扉一つ隔てた先には、鍛冶場があった。火が落とされていない、熱気を放つ炉と、使い込まれた金床にハンマー。ネットやゲームでしか知らなかったその光景に、少なからずテンションがあがる。


「おぉ……!」

「アルド、こっち!」


 思わず立ち止まってしまうと、クリスに強く引っ張られ、さらに奥へ。毎日見ている景色なのか、クリスとこの気持ちが共感できないのが少し寂しい。前世の友人となら、ここまで案内された内容だけで、2時間は時間を潰せるに違いない。

 さらに分厚い扉を越えると、そこはキッチンとつながっていた。二階へ続く階段が見えるので、そこから居住スペースにつながって居るのだろう。


「さ、好きなところに座っておくれ。……あんたはサボってないで仕事なさいな。武器が入りようで仕事が溜まってるでしょうに!」

「いや、わしは……」


 クリス父が、何かを言おうと口を開いたが、クリス母の無言の重圧に耐えかね、鍛冶場へと消えていく。ややすると、カーン、カーンという規則正しい音が聞こえてきた。

 俺はクリスの隣に無理矢理座らせながらクリス母が手渡してくれたコップを受け取る。ぬるい水の入ったそれを、一口だけあおる。


「すまないねぇ。あの日以来、仕事がてんこ盛りでね。武器とか防具とか、何かと注文が多くてねぇ。ま、一時のもんかとは思うんだけどね! ……あの時、全然役に立てなかった分、働いてもらわないと」

「そんな事ないです。研いでもらった剣のおかげで、オーガに手傷を負わせられましたし、取っ手をつけて貰った盾のおかげでオーガの一撃を防げました。

 それに何より、子供の俺の言葉なんかを聞いて、みなさんで街の人を集めてくださいました。あれがなければ、俺は生きてられませんでした。俺の方こそ、ありがとうございました」


 座ったまま、俺がそんな風に頭を下げると、クリス母が慌てた。


「頭なんか下げるんじゃないよ! 坊やのおかげであたしらは救われたんだ。おかげで誰も犠牲がでなかった。坊やはもっと胸張ったっていいんだよ?」

「胸なんて……張れません……俺は、弱くて……」


 誰も犠牲がでなかった。俺に取ってはそうじゃなかった。泣くつもりなんてなかったのに、気づけば俺は喉を詰まらせ、泣き出していた。


「アルド……?」

「俺は、守れなかったんだ……! もっと、自分が、強くあったら……!」


 心配したクリスが、強く手を握ってくる。俺はその温かさと、柔らかさに縋るように、握り返した。ぽたり、ぽたりと、繋いだ手の上に涙がこぼれ落ちる。


「ごめんねぇ……坊やの気持ちも知らないで……でも、忘れないでおくれよ。あんたのおかげで、あたしら家族は命を救われたんだ。あたしらだけじゃない。街のモンだって、同じように思ってるはずさ。それを、忘れないでおくれよ」

「はい……!」


 俺は、涙が収まるまで、クリスの手を握り続けた。

 落ち着いた後は、クリス母の手作りの焼き菓子をごちそうされ、心休まる時間を堪能した。



「おう。坊主! どうだ。家のモンの菓子はうめぇだろう!」


 一泣きして、焼き菓子をたくさんいただいた俺は、すっきりした気持ちで鍛冶場へと足を踏み入れていた。

 入って来たときも熱を感じたが、炉に火をくべ、鉄を溶かしているとさらに熱い。クリスは慣れているのか、涼しい顔をして俺の隣にいるが、俺は熱い。握りっぱなしの手に汗をかいてきたので、離したいのだがら、クリスががっちり握って離してくれない。


「はい! とても美味しかったです!」


 合間合間に入る、カーン! カーン! というハンマーの音に負けないように、俺は大きな声でかえすと、がっはっはっは! とそれに負けない大きな笑い声が聞こえてきた。


「そうだろうそうだろう! 坊主、クリスと一緒に店の方でまっててくれい! これが一段落ついたら、そっちにいく!」

「わかりました!」


 クリス父の指示したがって、店の方に向かう。

 店内には客が無く、売り上げなど、家の家計が気になったが、よく考えたが、武器や防具は、消耗品である一方、壊れなければ何年も使う事があるもの、車の販売のようなものか? と店をぐるりと見ながら思う。

 それよりも


「……」


 ずっと無言で俺の手を握っているクリスが、ちょっと怖い。何か思い詰めたような顔をしながら、俺の手を離そうとしない。さっき、焼き菓子を食べる時に、それとなく離そうとしたら、まったく離してくれなかった。おかげで左手で食べる事になり、非常に食べずらかったと追記しておく。


「……アルド」

「……何?」


 やっと口を開いてくれたクリスを、変に刺激しないように、なるべく優しく声をかける。

 クリスはすぐに口を開く事はなく、何度か口を開閉させる。俺は、辛抱強く言葉を待つ。繋いだ手から、緊張が伝わってきたので、そっと握り返してやる。

 クリスは、少し驚いた顔をしたが、何か、意を決したように口を開く。


「アルド、私──」

「おう、坊主! 待たせたな!」


 何か言おうとしたクリスの声を、大きな声が遮る。

 クリスはビクっ! と身体を震わせて、俺から手を離した。


「う~!! お父さんのばかぁ!」


 クリスはぽかぽかと父親の腹を叩いてから、扉を慣らして、鍛冶場の方に行ってしまった。クリス父は、クリスの行動に唖然とし、ばか、と呼ばれた事がショックだったのか


「女の気持ちは、これだから解らん……」


 と大きな身体を小さく縮ませていた。


「えっと、ああそうだ! 盾と鎧の件、ちゃんと話を詰めましょうか」

「お、おう! そうだな!」


 ちょっと無理矢理に話題を変え、俺はオーガとの戦闘をした日に交わした約束について話していく。


 クリス父、ガストンさんとの契約の内容を、羊皮紙を見ながら確認する。(クリス父の名前は、契約書に書かれた名前から確認した)


 ・俺は、ガストンさんに盾、鎧に施した魔術式を提供する

 ・ガストンさんは、俺から提供した盾、鎧の魔術式を使用した武具の売り上げの、3割を俺に渡す


 ざっくり言うとこれだけだ。俺にとっても、ガストンさんにとっても損の無い話しだと思っている。そもそも、俺の中では、あの武具はどれだけ売れるのか、いまいちピンと来ていないので、ちょっと未知数であるのだが。そこはガストンさんの鍛冶師としての勘を信じようと思う。


「おう。ほんとにこれでいいのか?」

「ええ。構いませんその代わり、お願いがあるのですが……」


 俺は、そういって魔術式を展開する。自分の魔力演算領域にあったメモを、自分の魔力をモニター代わりに、空中に投影させる。

 ガストンさんは、最初俺の魔術に驚いていたが、俺が解説を交えてメモの内容を説明していくと、その内容に驚き始める。


「お、おい。坊主。こいつは……」

「はい。俺がお願いしたい内容は、こちらです。俺への取り分を減らし、余裕がでた分をこれの開発に回せないでしょうか」


 ガストンさんに言いながら、俺は、俺の中で決意を固めていた。

 俺には、力が無い。守る力が欲しい。

 これまで、俺はロボットは、人の役に立つものが作りたいと思っていた。そしてそれは、平和だった前世の知識から、介護用であったり、土木作業などのものとして、ロボットを欲していた。

 しかし、この世界は違う。魔物という危機が隣にあるこの世界で、俺はもっと単純なものとして、ロボットの存在が必要だと思った。


「俺は、鎧の概念を根本から変えようと思います。そのために、俺に力を貸して貰えないでしょうか」


 つまりは──敵を討ち滅ぼす剣として。

 前世でいうなら、兵器として。

 アニメやゲームでは良くあっても、現実世界ではなかった、ロボットという兵器。それは浪漫であって、趣味であって、玩具だった。

 だけど俺は今、ロボット兵器という力を欲していた。

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