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第10話「異変」

 盾の出来が思ったより良かったので、それをサンプルに防具も作る。

 

「ふぅ……」


 三日程かけて、母さんから貰った皮鎧の上に木で出来た装甲部分を追加する。モザイク模様の防具の出来に満足した。素人細工ではあるが、盾と同じで細工よりも模様にこそ意味があるので、OKとする。実験が一通り終わって、安全性が確かめられたら、その内本職の鍛冶師などと相談して、防具をつくって貰うのも良いかもしれない。

 部屋で試着して見て、自分の姿を見ようとして、鏡が無いことに気づいて顔をしかめる。

 この世界では、鏡は高価なもので、姿見なんていったら目がぶっ飛ぶくらい高いらしい。アリシアが、そんなものは貴族か王族しか使わないと言っていた。

 情報は古いらしいので、物価がどれくらい違うのか知らないが、家には無い程度には高いようだ。母さんも手鏡を使っていたし。


『どうかな? 似合う?』

『良いと思う。戦士っぽくなければもっと良い』


 アリシア基準で、ちゃんと戦士っぽく見えることに安堵する。それをもって、デザインとしてはOKという事にしておく。

 最初、皮鎧などで武装するのは、魔術師っぽくなくて嫌、とアリシアが言っていたが、寄木細工風の盾と鎧は魔術師としてOKらしい。アリシアの基準がイマイチ解らない。


 今回もサンプルとして満足いくものが出来たので、俺はそれを演算領域内にメモっておく。将来ロボットを作成する時に、役に立つだろうからだ。

 こうやってちょっとずつ必要なものをつくっていって、最後にそれらを合わせ、目標であるロボットを作る。なんでこんな遠回りな事をしているかと言うと、肝心な部分が無いからだった。


「電気みたいなものがあればなぁ……」


 思わず呟く。問題はそこだった。前世で動力と言えば、基本的にバッテリー。つまり電気だった。ロボットの総重量の三分の1から2くらいはこれだと言っても良いくらいの重要機関。これの代わりになるものがない。

 いや、魔力はあるんだが、人間の持っている魔力を当てにするとなると、人間がバッテリー代わりになれるくらい大量の魔力を保持していなければならず、それだとコンセプトである、「才能に関わらず使用できる」という部分が解消できない。魔力は万人が持っているが、そこまで大量に持っている者はまれで、そう言った人物は大抵、上級魔法使いとか言われる存在である。


「まぁ、いったんは自分で動かすって方向性でいいか」


 そこは仕方なく棚上げする。無いものねだりしてもしょうがないし、まだロボットも出来ていない。形を作ってから入れ込んでも良いのだ。

 そう言い聞かせて、俺は防具をしまって日曜学校に向かう準備を始めた。といっても、荷物なんてない。ナイフだけは、「早く扱いになれるために、常に身に付けて置きなさい!」と母さんに言われたので、目立たないように腰に付ける。下手に振り回したりできないし、学校でこれを見つけた他の子供が、触ってきたりしないようにだ。つか、良いのかな? 母さん、これはやっぱり5才時に持たせるには早い気がします。信頼してくれてるって事なら、多少嬉しいけども。

 荷物忘れ物がないか、最後に部屋を見回す。


『アルド、いこ』


 アリシアの念話に一つ頷いて、俺は部屋を出た。

 

「いってきまーす!」

「あ、アルド! 待ちなさい!」


 部屋を出て、さぁ行くぞ! とテンションをあげていたので、突然の声に出鼻を挫かれた。はて何かやらかしただろうかと首を傾げる。

 

「何? 母さん」

「えっと、今日は真っ直ぐ帰ってくるのよ」

「? 解った」


 母さんが、少し固い表情でそう言う。何かあったっけ? 今日は。

 ちょっと不思議に思いながら、俺は素直に頷く。頷いてから、ふと、クリスとオリヴィアの顔が浮かんだ。今日は日曜学校。2人が病気で休みでもしない限りは、当然顔を合わせるだろう。合わせたら、そのまま遊ぶ約束をするかもしれない。

 そこまで思い至ったので、即答した後で言いづらいが、母さんに聞いてみた。


「あ、友達と遊んでくるかもしれない……だめ?」


 さっき解ったと言ってしまった手前、普通に言ってもダメだろうと、少し首を傾げあざとい感じに聞いてみる。


「……ごめんね。今日は、帰って来てからお願いしたい事があるの。だから早く帰って来てね」


 あれ? 

 何か変な気がする。まぁ、ここまで言うくらいだから、重要な事があるんだろう。


「ん。わかった」


 が、少し不満な顔はしておく。2人に誘われた場合、今日はどんな魅力的な内容であっても断らなくてはならなくなったのだ。これくらいは許してもらおう。


「……ふふ。真っ直ぐ帰って来たら、お菓子焼いてあげるから」

「ほんと! わかった!」


 うん。もう許す。許すわ。この世界、甘い物が少ない。母さんは料理が上手く、たまに焼いてくれるが、そうでもなければ食べられない。お菓子は頻繁にはない嗜好品なのだ。




 日曜学校。

 俺は今日も今日とて、授業をさぼりながらモニターに思いついた事を書き込んでいく。最近は、アリシアは俺のメモを見ながら(自分しか見れなかったが、彼女にも見えるように改良した)大人しくしていた。自分で言うのも何だが、面白いのだろうか? 

 彼女は魔術師として研究者っぽい資質があるので、興味が引かれるものがあるのかもしれない。

 授業も休憩時間も関係なくそうしていると、横から声をかけられた。


「また空見てる。面白いものでもあるの?」

「あると言えばあるし、無いといえば無いかな?」

「何それ。また変な事いってる!」


 声の主で、誰だか解っていたので、特にそちらを見ずに答える。そうすると、目には見えないが、ちくちくと視線が自分の横顔に集まって来ているのを感じる。


「こんにちは。クリス」

「こんにちは! アルド」


 俺は根負けして、クリスの方を向き、まず挨拶した。

 すると彼女は、当然ね! と言わんばかりに腕を組み、元気よく挨拶を返してくれる。まぁ、今のはちゃんと挨拶しなかった俺が悪いとはいえ、ドヤ顔が少々うざい。


「お二人とも、こんにちは。今日もいい天気ですね」

「オリヴィア、こんにちは」


 挨拶と一緒に、社交辞令じみた天気の話題を投げかけてくる、オリヴィアとは雲泥の差だなぁ、なんてクリスを見ていたら、睨まれた。俺はすかさずクリスから目をそらす。


「こんにちは、オリヴィア。……なんか、アルドの挨拶が私の時よりちゃんとしてた気がする」

「いや、ちゃんと挨拶したよ。うん」

「そういう所がてきとうなのよ!」

 

 技とらしく、クリスを煽ってやる。すると、予想通りにうがー! っと声をあげるクリスを余所に、俺はくくく、と笑いを漏らす。オリヴィアも俺とクリスのやり取りをみて、口元を手で隠しながら、小さく笑っていた

 最近は、こんな風にじゃれ合えるようになった。クリスは段々俺が適当になった、失礼になったと目くじら立てるが、残念だがそれが素だ。逆をいえば、俺は、素を出せる程度には、2人に気を許していた。


「ねぇ、2人とも、今日は学校が終わったら遊ばない?」


 半ば予想していた通り、そう俺とオリヴィアに言って来たのは、クリスだった。


「あー……ごめん。今日は母さんに家の手伝いをするように言われてるんだ。また今度な」


 歯切れが悪くなったのは、仕方ない事だろう。予想はしていた、とはいえ、断りづらいものは断りづらい。


「わたくしも……今日はお茶のお稽古がありますので」


 と、困ったような顔をしていた。意外である。二重の意味で。一つは、俺はオリヴィアはてっきり、クリスと一緒にいるであろうと思っていた事。

 俺とオリヴィアに断られたクリスは、くしゃっと顔をゆがめる。


「そ、そう……なら、仕方ないわね!」


 今度、何か埋め合わせしてやらないとな。


 学校の授業は滞りなく終わった。相変わらず、意欲的に学べる授業はなかった。どの授業も触り程度しかやらない。

 最近、歴史の授業が始まったが、内容は自国の事に偏っており、いかにして勝ったか、また、いかに素晴らしいか、という事しか教えて貰えず、退屈な分、英雄の物語より質が悪い。授業内容は演算領域にコピーだけし、知識の肥やしにしてしまった。


「またね!」


 クリスの元気な声が響く。街壁の門の方に向かう彼女を見送り、途中までオリヴィアと歩く。


「ほんとは、クリスちゃんと遊べたら良かったんですが……」

「だな。急に母さんに手伝いとか言われなかったらなー」


 何気なく言った言葉に、オリヴィアがあら、と声をあげる。


「アルドさんもだったんですか。私も、今日はお稽古の日ではないのに、急に親に稽古を入れるから、と言われまして……」


 オリヴィアは、俺の言った事に、何気なく返しただけなのだろう。

 だが、俺はその言葉に、とてつもなく、違和感を覚えた。


「何だって?」


 俺は思わず立ち止まった。何か、喉の奥に引っかかるような思いがあった。その疑問を押し広げるように、大人たちの焦ったような声が聞こえる。


「おいっ! 向こうの門だ!」

「本当か!? なんてこった、急げ!」


 向こうの門。咄嗟に、その方角へ走り去った、クリスの顔が浮かぶ。

 俺は、急かされるように走りだす。


「あ、アルドさん!?」

「ごめんオリヴィア! ちょっと用事を思い出した! 先に帰ってくれ!」


 唐突に走りだしたオリヴィアが、驚いた声をあげるが、俺は言い捨てて、止まらない。


『アルド? どうしたの?』

『解らない。でも、何か不安で』


 浮いてついてくるアリシアが、少し戸惑ったように聞いてくるが、俺も確信がある訳では無かった。

 ペース配分を考えずに街の中を走り抜ける。見かける街の人の様子が、いつもと違って見える。

 不安が、焦燥に変わり、もっと速く走らなければと思う。しかし、息があがって思うように足が動かなくなる。

 もう少しで街壁の門、という所で、俺は足を止めた。もう走るのは限界だった。最近は剣の修業もしていたが、もっと持久力を付けるべきかもしれない。

 立ち止まり、膝に手を付いて、息を整える。


「……アルド?」


 そこで、探していた人物の声が聞こえた。

 息苦しいのも忘れ、顔をあげる。そこには、怪訝な顔をしたクリスがいた。彼女の様子は、さっき別れた時と何も変わっていない。

「どうしたのよ。いったい」


 なんだ。何もなかった。

 俺はなんだが、急に恥ずかしくなってきた。ちょっと違和感が重なって、それを不安に感じて、空回りして。


「えっと、いや……」


 クリスに何て説明しよう。まさか、俺が勝手に不安になって、クリスが心配になったとか、恥ずかしすぎて言えない。


「あ、もしかして、遊べるの!?」


 クリスが、目を輝かせてそう言いだす。俺は恥ずかしさを誤魔化すために、遊びに来た、と答えるか迷った。

 母さんには、後で謝ろうか。そう考えた。


『アルド!』


 アリシアの、焦った声が聞こえた。アリシアを見ると、彼女は、怯えた様子で一点を見ていた。

 俺も、何気ない気持ちで、アリシアが見ているものを見る。


 最初に、違和感があった。

 街壁の門が閉まっている。門が閉じるとああなるんだな。事態が呑み込めていない俺は、呑気にそう思った。

 

 すぐに気づくべきだった。周りは誰もいなかった。衛兵も、街の人も、不自然なくらいに。

 異変と、俺がさっき感じていた不安は、すぐに現実のものとなった。


 街壁の門が音を立てて崩れるのが目に入った。

 ささやかで、不変だと思っていた日常が、唐突に、崩れた気がした。

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