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「やや甘口の病み病みバレンタイン」~ヤンデレ☆独占禁止法外伝~

『ヤンデレ☆独占禁止法(判決:死刑)』の外伝というかセルフ二次創作というか、そんな感じの息抜きで書いたお話。本編読んでる前提で進む、メタ・キャラ崩壊だらけのギャグ作品。

「皆様にお集まりいただいた理由は他でもありません」

 世界で五本の指に入る大財閥の一人娘・四方天山仙花(しほうてんざんせんか)の、聴く者の背筋に氷柱をぶち込むような冷えきった声に、部屋に集まった他五人の少女達は鋭い視線を彼女に向ける。

「あと数日に迫った恋する乙女にとっての大イヴェント――ヴァレンタイン・デイについてです」

「ちょっと待ちなさいよ!」

 やたらVの発音が良い仙花の言葉を遮るように、ファンタジー世界からやってきた魔法少女ルージ・ドリンクウォーターが立ち上がった。

「本編でアンタ達全員死んでアタシがシンイチと結ばれてハッピーエンドになったじゃない! なんで全員復活してるのよ!」

 いきり立つ彼女へ、H〇NDAから好評発売中の一般家庭向けメイドロボ・ふにこが機械的なツッコミを入れる。

「お言葉ですが、本編は哀れな人類滅亡エンドを迎えたと私のメモリに残っているのですが」

「細かいことはいいの!」

「その言葉、そっくりそのままお返しさせていただきます。難でしたら鉱山の一つでもお付けいたしましょうか」

「ど、どういう意味よ」

「細かいことはよろしいではないか、ということですわ。本編は本編。スピンオフはスピンオフ。そういうことです」

「つまり『ヤンデレ☆独占禁止法~ダークネス~』ってことだね!」

 本人の素知らぬところでストーリーが勝手に進んでいくことに定評のあるこの物語の主人公・藤原(ふじわら)真一(しんいち)。その幼馴染である三葉紀志子(みつばきしこ)が『ToL〇VEる~ダークネス~』の七巻を捲りながら割り込んできた。

「でもダークネスになってから幼馴染キャラの出番少ないし、こっちでは私が頑張らなきゃね!」

「何を言うか。ダークネスになってから出番が急増したといえば妹ポジション。よって外伝は私のターンだ」

 新一の妹・藤原茶々(ちゃちゃ)が茶々を入れてきた。

「都合よく髪や湯気や水滴が局部を隠してくれるようなことが無かろうが、私は兄の為ならいくらでもサービスシーンをやってやろう。それはもう東京都が回収に走るほどのな!」

「中二、病は黙っ、ててくれ、る?」

 部屋の隅っこに体育座りした、全身黒づくめの女・愛別離苦(あいべつりく)(自称)が途切れ途切れに呟いた。

「一番ダー、クネスっ、ぽ、い外、見なの、は、私」

「中二病が治癒せぬまま育ったような女が何をほざくか。貴様のセリフは読者も読みづらい上に作者も書き辛いのだから口を閉ざしてじっとカーペットの縫い目でも数えていろ!」

「まあまあ、喧嘩はそのくらいに。本日は穏便に話し合いをしようと集まったのですから」

 仙花が再び場を治めた。

「最初に言いましたが、間もなくヴァレンタイン・デイがやってきます。ここにいらっしゃる皆々様は、全員が藤原新一に思いを寄せる者達。このまま当日を迎えては、いつものように血で血を洗う闘争へ発展するのは確実でしょう。皆様それは本意ではないはず」

「新ちゃんにバレて嫌われたくないもんね」

「毎度毎度地球滅亡エンドになるのも御免だしな」

「わ、悪かったわよ……」

 茶々の悪そうな双眸から視線をそらすルージ。仙花はそれらの反応を覧じてから続けた。

「そういうわけで、事前に全員が納得できる落としどころを探ろうというのが、この会の目的ですわ」

「そ、の前に、ちょっ、と質、問」

 離苦がのろりと細く白い手を上げた。

「一、人足り、ないみた、い、だけ、ど、あの犬っ、ころ、は?」

 現在新一の部屋に、その主の許可なく集合しているメンバーは五人。ある日突然人間体へ変化した新一の愛犬である犬耳少女・メイの姿が無い。

「ああ、その質問には私が答えよう」

 口を開いたのは茶々だった。

「実は数日前、私とふにこがバレンタインへ向けてチョコレート作りの練習をしていた時だった――」




 新一が台所へ入ると、妹とメイドロボが何やら作業をしている。

「あれ、珍しいな。茶々が料理してるなんて」

「おっ、お兄ちゃん!?」

 茶々は焦ったように振り向いた。

「今は入ってきちゃダメ! あっちいっててよぉ!」

「何だよ、俺は飲み物取りに来ただけだって」

「新一様」

 ふにこがずいっと前に出た。

「茶々様は現在お料理の練習中なのです。なんでも、美味しい手作り料理を新一様に振る舞って、喜んでもらいたいのだとか――」

「ふ、ふにこ!? もーぅ! お兄ちゃんには秘密って言ったじゃん!」

「あはは、なんだそういうことか」

 頬を膨らます茶々を、新一は微笑ましく思った。

「そういうことなら、俺は見ない方がいいな。料理、楽しみにしてるぞ」

「う、うんっ! 茶々、お兄ちゃんの為に頑張るからねっ!」

 新一が退散したのを確認し、茶々はふにこへ向き直った。

「……良いフォローだった。感謝する」

「使用人として当然のことをしたまでですが」

「そうか。さてと――」

 茶々の目の前の調理台には、完成間近なチョコレートが数個。バレンタインデーへ向けての試作品である。

「レシピどおり作ったのだから失敗は無いと思うが……味見してみるか」

 ハート型の小さなチョコをつまんだ時だった。

「聞いたゾ! 茶々料理作ったんだって!? ボクにも食べさせろ!」

 ビッチ、と書かれた自作Tシャツを着たメイがダッシュで台所へ突入してきて、茶々の手からチョコを奪い取り、あっという間に口に入れた。

「あっ、お前――」

「うぉー! 甘いゾ! こりゃ美味し、い……あ、あれ……グ、ガ……」

 突如メイが口から泡を吐いて苦しみだし――

「ボク、新一くんのイヌになれて、幸せだったゾ……」

 本編の名台詞を言ってから、バッタリと倒れ、意識を失った。




「……貴女藤原新一に対してだけ普段とキャラが違いすぎません?」

「だから本編でも言っただろう。こちらのキャラが作っている私。兄に対しての素直な妹キャラの方が素だ。ほら、カッコいいだろう?」

「はいはい、それであのメス犬はどうなったのかしら」

「ああ、残念ながら――ゲフンゲフン、幸いなことに一命を取り留め、動物病院に入院中だ。イヌにチョコレートは毒だというのに、あのアホ犬は……」

「ああ、なるほど……茶々ちゃんのチョコが不味すぎて倒れちゃったわけじゃなかったんだね」

「む? 聞き捨てならんな」

 紀志子をギロリと睨む茶々。

「その後にちゃんと味見をした。普通に上手く出来ていたぞ。そう言う貴様はどうなんだ。飯が不味いのが萌え要素になるのは二次元だけだ。現実にはメシマズ嫁など離婚の理由に過ぎん。そんな女、兄には相応しくないと私は思うが」

「何その言いぐさ。私が料理できないみたいな。殺すよ?」

 紀志子は茶々を睨み返した。

「まあそう言うと思って、今日は私が作ったチョコを持ってきました。みなさん、どうぞ食べてみてください」

 紀志子がバッグから五つの小さな包みを取り出し、全員に一つずつ配った。

「新ちゃんにあげるチョコの試作品ですから、出来れば感想でも頂ければと」

「……喰えるかこんなもの。どうせ毒でも盛ってあるに決まっている」

「嫌だなぁ茶々ちゃん。私だって今年のバレンタインに勝負かけてるんだから、チョコくらい真面目に作るよ。まあ本番では私の血とか涎とか××とか入れるけど、そのくらいだったら恋する乙女ならみんなやってるよね」

 紀志子の問いかけで、その場の全員が『あるある~』と和やかな雰囲気に。

「ふむ……ではいただきましょうか」

 仙花が丁寧な手つきで包みを開き、星型のチョコを行儀よく口に含んだ。

「どうですか?」

「……ええ、まあ普通といったところでしょうか。まあパリの一流パティシエに教えを受けた私のチョコに比べれば、とても藤原新一を満足させられるような出来ではグボォ……ッ!?」

 仙花は唐突に吐血してもんどりうった。それを眺める他全員は、一人として紀志子のチョコを口にしてはいない。

「やっぱり毒入りだったわね」

「まあそんなことだろうとは思いましたが」

「本編でも私に毒殺されたくせに、学ぶということをしないのかこのクソセレブは」

「――み……三葉紀志子ォ……! 図りましたわねェ……!」

 息も絶え絶えに庶民のお手本のような少女を憎々しげに睨むお嬢様。対する紀志子はいつものひまわり笑顔。

「うふふ、コメディ色の強い外伝なら殺されないとでも思ってました? 本当におめでたい脳みそしてるんですね。私が味を見てあげましょうか? ふふふ……」

「新一さん新一さん新一さん新一さんしんいちさんしんいちさしんいしんさいんしししいちしんさんさしんちささしんちしcnsisnsissaini……」

 かくして世界有数のセレブプリンセスは、またもや最初に惨めに息絶えた。死体は後でスタッフが(以下自粛)




 部屋も綺麗になり、残ったメンバーは姦しくガールズトークに花を咲かせていた。

「さてと、作者もこの人数の会話劇は書くのめんどくさがってたから、丁度よく一人減ってくれたね」

「しかし、私達を招集した張本人が消えてしまっては、もう我々が一堂に会す意味は無いのではないか?」

「まあまあ茶々様。ここは残ったメンバーでバレンタインの作戦を練ってはいかがかと」

「だがバレンタインというテーマも、元はと言えば作者が『メイが犬のくせにチョコを食べた』というネタを使いたいがために季節感を無視して設定しただけだからな」

「ホント作者ってあのイヌの扱い酷いわよね。自分ちで飼ってる愛犬をモデルにしてるくせに」

「個人誌作ったときに挿絵を描いてくれたおおやけ先生にも同じこと言われてたね」

「そういえばその個人誌もまだ在庫が残っているそうで、他の掲載作品を電撃大賞に応募してしまったためもうイベントで売ることも出来なくなり、一冊一〇〇円で買ってくれる方を探しているそうですが――」


 ♪ソーレハー ユーキーノヨーニー フーリーツモーオッター イーノーセントナイータミー


 突如新一の部屋に誰かの携帯電話の着うたが流れた。

「こ、これはヤンデレを世に定着させたアニメ・スクール〇イズのOP曲……誰だこんな安易な選曲をした奴は!」

 茶々が声を上げるが、紀志子は首を横に振る。

「わ、私じゃないよ!」

「アタシはケータイデンワなんて持ってないわ」

「私も右に同じでございますが」

「ということは……」

 四人が一斉に視線を向けた先に無言で座っていた全身黒づくめの愛別離苦は、おもむろにポケットからiPhone5を取り出し、電話に出た。

「もっしー。あ、お母さん? ――うん、うん、そう。今? 彼氏の家ー。分かってるってー、今度紹介するからさー。え? んふふ、年下。いーじゃん別にー! 似合わないとか言うなーぁ。あ、お父さんにはまだ内緒ね。うん、だから今日晩御飯いらないからー。うん、うん、はい、はーい。じゃあねぇ」

 ふう、と息を吐いて電話を切り、じゃらじゃらと本体よりも重そうな大量のストラップのついたiPhone5をポケットにしまい、何事も無かったかのように元の体育座りに戻った愛別離苦は、そこで初めて他四人からの視線に気が付いたかのように顔を上げた。

「…………な、に?」

「何じゃないわよ!!」

 ルージのキレのいいツッコミが炸裂した。

「アンタ何!? やっぱりあの、前世からの繋がりがーとか、アスンシオンがーとかいう痛い発言は全部キャラづくり!? チャチャといい外伝で素をあけっぴろげんの流行ってるの!?」

「わ、たしの、は……なん、て言う、か…………ファッションヤンデレみた、い、な」

「ファッションヤンデレ!? 初めて聞いたわそんな単語! いい加減にしなさいよね! アンタの台詞は読み辛いやら書き辛いやらで誰も得しないキャラだったのにファッション感覚!? きゃりーぴゃむぱむ並のぶっ飛び度ね!! このファッションヤンデレモンスターが!!」

「噛むくらいなら無理して例えツッコミなんて高度なテクニック披露しなくていいんだよルージちゃん」

「うるさいわね! 殺すわよ!?」

「ふーん、やってみれば?」

 紀志子はバッグから家庭的ヤンデレ伝家の宝刀・包丁を取り出し、魔法の杖を構えたルージと一触即発……と、次の瞬間――


「ただいまー」


 玄関から遅れてきた主人公・藤原新一の帰宅を知らせる声が響いた。

 実際は「響いた」というほど大きな音ではなく、常人にはかなり聞き取り辛いレベルでしかこの部屋に音は届いていないのだが、ヤンデレ少女にとって地獄耳は標準装備なのだ。

「新ちゃんだ! 新ちゃんおかえりー! 私の一部入りチョコ食べてー!」

「ちょ、ちょっと待ちなさーい! そんなもん食べさせてシンイチがイヌっころみたくなったらどうすんのよ!」

「お兄ちゃ~ん! 茶々ねっ、お兄ちゃんの為にチョコ作ったんだよぉ! 茶々ドジだからちょっと失敗しちゃってるかもしれないけど、お兄ちゃんに美味しいって言ってもらいたくって頑張っちゃった☆」

「あんたほんっと普段とキャラ全然違うよねー」

「流石の茶々様も貴女程ではありません。貴女はもはやセリフから誰か判別するのが不可能なレベルですが」

 五人は一斉に玄関へ向かって駆け出した。お互いの進路を包丁やら傘やら魔法やらで邪魔しながら辿り着いた玄関には、新一の他にもう一つの影があった。


 そこには、元気に走り回るメイの姿が!

「いやぁ、酷い目にあったゾ。ボク、もう二度とチョコを口にしたりしないよ」

「ネギ類なんかもダメだぞ? そういえば病院で訊かれて思い出したけど、メイってイヌ年齢ではまだ三歳なんだよな。良く考えたら俺のストライクゾーンじゃん。好きだ! 付き合ってくれ!」

「ボクも新一くんが大好き!」

「あはははっ」

「うふふふっ」


『……………………』

 かくして、ルージの魔法により全世界のイヌが絶滅し、日本から秋田犬を贈られる程のイヌ好きとして知られるロシアのプーチン大統領が報復攻撃を宣言。

 やがて人間界と魔法界の全面戦争へと発展し、人類は滅亡してしまったとさ。


〈了〉

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