個性って大切だよね。
「ここで少し待っていろ。」
先ほどの牢屋とは違い、小奇麗な部屋へと案内される。
部屋の真ん中には人が3人は座れるであろう高そうなソファーが向かい合うようにあり、その間にも何処か高級感を醸し出す机が置かれている。
周りの壁にはまさにファンタジーに出てくるような壮大な草原と、そこに単騎でたたずむ騎士が描かれた絵画が掛けられており、その騎士の面影は何処か昨晩の少女とダブルものがあった。
「さっきまでの牢屋とはエライ違う対応だな。」
先ほどまで牢屋で話しかけていた男に探るように質問する。
「まぁ・・・もともとお前の素性あおそらく『迷い人』である事は身につけていた服や持ち物から、ほぼ予測していたからな。牢屋に入れていたのは、お前の性格とか、危険性がないかとか、そんな感じのものを調べる為のもんだ。お嬢様は問題ないだろうって話だったが、近衛騎士である俺らからしたらやっぱ自分の目で判断したくてな。・・・まぁ悪かったよ。」
デカイ図体に何処か人好きのする笑みを浮かべ男が謝罪する。ちなみに『迷い人』とはユウのような異世界から原因もわからず迷い込んだ人間の総称である
「まぁ、いいけどな。人生で意外と牢屋に入るってのはない体験だったし、ある意味貴重な体験だったと思うことにすよ。」
「ははっ。お前変わってるなぁ。そっちの世界では皆お前みたいな性格してるのか??」
「さぁ??でも人様にはユウ君って本当に個性的だねって言われるけど??これってつまり、世界でたった一人のオンリーワンで素敵だねって事だろ??」
「まぁ、その解釈さえも個性的だとは思うけどな。そういや、まだ名前も聞いてなかったな。ジェイド・アーサムだ。」
ジェイドが差し出してきた手を握り返す。その大きな手には明らかに向こうの世界の人間にはないような傷や、肉刺だ出来ておりジェイドが戦いに身をおく人間だとい事を認識させられる。
「カタギリ・ユウ・・・こっちの世界だとユウ・カタギリになるかな。」
「よし、じゃあ少し待っていてくれ。お嬢様をお連れする・・・まぁくれぐれも粗相のないようにな。」
「・・・・・俺の個性は粗相じゃないよな??」
「俺にとってはな。」
微妙な表情のままジェイドが部屋を出て行く。
一人になって改めて落ち着くと思考はすぐに今後の身の振り方に向かう。
ジェイドはいっていた。この世界には俺のように『迷い人』がまれにくると。
それはいったいどれくらいの頻度なのだろうか??
それでも、服装や身につけるもの(携帯や財布)である程度特定されるなら、そこまで時代年齢はずれていない筈である。
特に今のように携帯が小型化されたのは最悪でもここ20年以内の出来事である。つまりこの世界には自分の世界の先人がいるという仮説が成り立つ。
(やっぱここは先人に頼るのが一番か??)
少なくとも一般のこの世界の人間よりは、同郷という事で取り入りやすいのは間違いないだろう。
(となると・・・あとはジェイドのおっさんか、昨日のお嬢様に先人の知り合いがいるかどうかが問題だな。)
コンコンッ
「入るぞ。」
「だが断る。」
「わかった出直そう。ってなるかッ!!なんでお前が我が物顔で占拠してんだッ!?」
意識ぜず出た言葉にジェイドがノリ突っ込みのような反応を返す。
(この世界でもお笑いって職業あんのか??)
「悪い。思わず。」
まったく悪いと思っていない顔のユウの謝罪に、ジェイドが深いため息をつく。
「フム、ずいぶんと仲良くなったみたいだな。」
大して大きな声で話したわけでもないのに、その声はよく部屋に響いた。
癖のなさそうな髪の色は日の光を反射する金で後ろで一まとめにしており、服装が男装の為かどことなく中世的な雰囲気を感じさせる。パッチリとした瞳の色は青で少女自身の意思の強さを感じさせた。
「お嬢様・・・失礼致しました。」
「かわまない。君を執事として雇ったわけではないのだからな。」
クスリとした微笑を少女が湛え、そのままユックリと部屋に入りソファーに腰掛ける。
その行動一つ一つが洗礼されており、美しく、そして気品を感じさせる。
「そうだな、まずは自己紹介をしよう。アグリアス・ルーセントだ。」
「ユウ・カタギリ。とりあえず始めましてって事でいいのか??」
「そうだな。昨夜はろくに挨拶も出来ず剣を向けたからな。お互いの印象の為にも始めまして・・・ということにしておいたほうがいいだろう。」
(いきなり剣をむけられた事に対する嫌味を、さらりと受け流された上になかった事にしようという神経の図太さに脱帽だな。)
「それで??なんか用か??」
とりあえず、あまりいい印象もないので用件を訊ねる。
「フム、君はあれだね。私のことが嫌いなのか??」
「今までの流れで好かれる要素があるとでも??」
「美少女だ。」
「性格は壊滅的だけどな。」
「料理、洗濯、裁縫、謀略も出来るぞ。」
「まて、なんか最後おかしいだろ!?」
「ん??あぁ。もちろん直接的な戦闘もそつなくこなせる。」
「そぉいう事じゃねぇよ!!!!好かれる条件に謀略は関係ないだろ!?むしろヒカれるわ!!」
「そうか、惹かれるか。」
「字がちげぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!」
「まぁ、落ち着け。冗談だ。だが私も突然の侵入者だったので昨夜は仕方なかったのだ。だが、あの時は
本当に助かった。ユウ、貴方に心からの感謝を。」
ほんの少しの微笑と言葉、それでもそこに乗せられた言葉に本当の気持ちが乗っている事がわかった。
(本当に・・・容姿がいいってのは何かとズリィな。)
「別に。まぁ、俺も狙って落ちてきたわけじゃないしな。それでもあんたの役にたったなら、それはアンタの運がよかったんだろ。」
「フフッ、そうか。それで・・・ユウ、今後の君の身の振り方なのだが。しばらくこの屋敷で居候するといい。こっちには知り合いなどもちろんいないのだろう??」
「あー、でもなんかわりぃしいいよ。それより、俺以外の迷い人ってのはどっかこの近くに住んでるのか??出来ればその人達にあって色々と話をききたいんだけど。」
「??・・・あぁ、そういう事か。ジェイド、まだ話していないんだね??」
「はい。すみません、お嬢様。」
「??何の事だ??」
「ユウ。君のいた世界とこの世界とはどうやら時間の流れが違うみたいなんだ。その流れにも規則性はなくて、一時はわりと頻繁に・・・といっても1年に数人のペースでの話しだったが、『迷い人』が来ることもあったんだ。だけど、ここ100年の間には『迷い人』が現れたとい報告は何処からも上がってきてはいない。」