悪夢と破滅_後篇≪亡命≫
………ふん。
あぁっ!もう気分が悪い!!
こんな所からは一刻も早く立ち去って自由になりたい!
頭を掻き毟りたい衝動を抑えながら私は執務室に戻る
「……………?グラスターさんはどこに?」
「それが、その………泡を吹いて、倒れました」
「泡を?」
吹いた?
「それで?今どうしているんです?」
「とりあえず治療室で処置を受けている筈です」
「そう。どちらにしろ、会議が出来なくなりましたね
なら通常通り」
いつも通りに仕事をしようと言おうとする所でバタン、と勢いよく扉が開く
開いた先には真っ青な衛兵がいた
「さ、宰相様………」
「はい。」
「西口方面にて爆破、砲撃があったと報告がありました!」
『?!』
衛兵の報告にこの場がざわめく
それはユイも例外ではなかった
まさか、こんな事は予想外だ。
計画にはない
エジャには部屋から出るなと言ってある
言った所で聞く奴ではないとわかっているけれど、寝る人間が少ない午前中にうろつくと言う事はないとは思うし午前中に寝る事が基本の華街にはあいつは行かない(あいつはアルコールや香などの臭いのキツイ人間が嫌いだ)からこの騒ぎはあいつの仕業ではない
…多少なりとも屁理屈が混入しているかもしれないが
……………西?
「西と言ったら先日来ていた王の子息…どうしたのです?」
ユイが言うと重鎮達のざわめきは別のものになる
しばらくすると、重鎮達の中でも比較的若い重鎮が口を開いた
「き、昨日はあの御方の国の悪事が表に現れテロが起き、城が崩れ落ちたと伝達が来まして…」
あぁ。それは正真正銘大半自業自得。情報を流す方はエジャがして、それに連なってテロが起きたのか。中々面白い事をする。
「それを聞いた王子は錯乱をした?」
「……はい」
「よく押さえられましたね?被害は無かったのですか?」
「はい。」
「そうですか…よかったです」
ああ、そうか。なら、後ひとつクーデターもテロリズムも起きていない国はここだけになる
つまり、あの王子はこの国にテロを起こしてこの国も潰そうと言うのか
……………面白くない。
なんとも面白くない。
ほぼ確実な事実が組み立てられてこんなにも面白くないのは初めてだ
とりあえず、わたしの道をふさぐ岩は砕かなくてはいけない
子供で壊れかけひび割れた岩だけど。
「ちょっと、席を外しますね」
「え、宰相様?!」
私は早足で城の最上階へ向かう
〓〓〓〓〓
最上階につき、下を見下ろすと残念と言うべきか当たりと言うべきか。
未だ騒ぎの大本は捕まっていない
「ああ、やっぱり。相手が隣国の王子様だとやりにくいんだねぇ?」
「……………エジャ」
「やぁ、ユイ」
「………あんた、グラスターさんに見られていたのね」
「あぁ、偶然の事故さ」
悪びれずに言う目の前の悪魔は楽しそうに笑いながら下を見下ろす
「彼、泡を吹いて倒れたってね」
「やっぱり聞いてたの」
「あれ?気付いてたのかい?」
「あなたが大人しく私の部屋にいるとは到底思えないわ」
「なるほど?」
「これ、あなたの仕業じゃないわよね?」
「流石の僕でもそこまで無粋なことはしないさ。君の面白くないと思う様なことはね」
と笑うが、「もっとも、彼の夢は一度食い荒らしてみたいけどね」と追加で余計なことも言う
「それにしても、あの王子様。もう国もお城も壊れて王子じゃないのに何で早く捕まえないのかな?」
「……………エジャ」
「うん?」
「彼の手元は見える?」
「まぁね……………………あぁ、なるほどねー?王子様、自滅する気満々だ?」
やっぱりか。
「自滅するなら早くしなさいよ」
「おやおや。宰相様がそんな事を言っていいのかい?」
「この国の職人は仕事が早いわ。もし、そうでなくともどうせ近々滅びる国よ。一角が消え去っても問題ないわ」
「そうかい。でも、」
あそこに住む国民はどうでもいいのかな?と我よ先にと慌ただしく押し合っている国民をエジャは指差す
「構わないわよ。別に。本当に生きたいのなら自力で生きる根性を見せてほしいものね」
「本当に、宰相様のお言葉とは思えないね
―――――で?どうするんだい?この騒ぎに乗じて、王様を殺しちゃおうか?」
「……………」
「ユイ?」
「……………私は―――」
「失望させないでくれよ、ユイ」
ユイが口を開くとエジャはユイの背後に回り頬に手を沿えて耳元で囁く
「っ?!」
「僕は君の野心と目的に惚れたんだ。今ここで計画を止めるなんて言われても止まる訳ないだろう
空気の流れが止まらないのと一緒さ。砕けた石も戻らない。これもまた然りさ」
「―――――」
「君は、僕を失望させたりはしないよね」
「………あはは、」
「……?」
「あはははははははははははははははは!何を、何を言っているのエジャ?
私が、この私が今更この計画を止める?馬鹿言わないでちょうだい。
あの馬鹿に助けられるようで気に食わないけれど、こんな機会は滅多にないわ?
やらない手はないでしょう?こんな国、どうでもいいのよ。潰れるなり消えるなり残るなり好きにしたらいいわ」
ユイはぐるり、と背後のエジャに向き両腕を目一杯に広げる
そんなユイにしばらくエジャは目を丸くしていたが、すぐに口角をあげて笑う
「そう、そうだ!そうだよ、ユイ!やっぱり君は退屈しない。
僕の求めていたものが君の中にあるのかもしれないね」
じゃあ、どうしましょうか?宰相……いいや、我が契約主
もちろん。決まっているでしょう?
そうだね。
悪夢と破滅、後編でした。
亡命コンビの話はここで終わらせるか、続けるか苦悩中です。
読んでくださった方はぜひ意見を聞かせてください