悪夢と破滅_前篇≪亡命≫
―――あなたが悪魔?
キミが僕の契約主かい?
そうよ。あなたが悪魔なら、あなたを呼んだのは私。
では、僕は主人であるキミに従おう
―悪夢と壊滅―
「また隣国で反乱が起こったらしい。」
「またか…こうも立て続けに隣国でクーデターが起るといつ我が国で起るかと不安になる…」
「現国王は特に警戒する気もなし…反乱が起ったとして、防ぎようがない」
「宰相様、如何致しましょう?」
「そうですね…国王陛下に警戒の意志はなくとも、いざという時の為に念を入れて兵士達の士気を上げておいた方がいいかと思います」
と、無表情で答えるのは先程『宰相様』と呼ばれた女性だった。
先程から騒いでいるのは、さる王国の国政をまとめる重鎮たち。
そのほとんどが老いた者たちだがその中で『宰相様』と呼ばれた人物は、驚いた事にまだ二十代ととれる若さの女性だった。
彼女の名は『ユイ』それだけ。
名字も何も無く、ただ『ユイ』という
「やあやあユイ君。キミはまだそんな仕事に精を出しているのかい?」
と、ノックもなしに勝手に執務室に入ってきた失礼極まりない人物は、未だクーデターの起っていない隣国の国王の子息…つまり隣国の王子だった
「私が何をしていようとも私の勝手です。貴方様には一切の関係もありません」
「冷たいなぁ。僕としては未来の花嫁には仕事を辞めて、家庭についてもらいたいものだけれど」
「では、その願望を叶えてくれる御嬢様をお探しになられることですね。」
「キミは僕の婚約者だろう?僕の願いを叶えてくれないのか?」
「その様な気はさらさらありませんし、私は貴方様と婚約した覚えなど全くありません」
「さ、流石国王の娘と言われるだけあって相手が王子でも強気だね……」
表情を変えず目線もよこさない自分の婚約者(自称)の言葉に頬を引きつらせながらも言い返してくる隣国の王子にユイは呆れたような表情と視線を思い切り向けて言った
「国王の娘?何を言っているんですか?まさか貴方様もこの私が国王の隠し子であり、そのコネでこの宰相と言う立場に就いていると言うくだらなくも無責任にて大した確証もない噂を信じておられるので?
それを期待して私の婚約者……と、言っても貴方様が勝手に仰っているだけですが。…になられたと言うならいますぐにお止めになる事をお薦めします
…………グラスターさん」
そう一息で言うユイの視界にはとうに隣国の王子は入ってなく、既に存在すら無視している
「はいはい、何かな宰相どの」
「私は疲れたので自室に戻らせていただきますね。
書類の方は私の机に置いているので、よろしくお願いします」
「はいはい。わかりましたぞ」
「では。」
ユイは呆けている隣国の王子のわきをすり抜け自分の中では信頼性の高い重鎮に声を掛けてから出口に向かう
「あ、後。そこの王子は今すぐにこの国から自国へお帰りになられる事をおすすめします。
最近は隣国でのクーデターが多いようなので。お気をつけください」
廊下へ出ようとしたところで衛兵とすれ違う
「あ。さ、宰相様!失礼ですがご連絡が!!」
「私は良いから、先に中の彼らにお願い。
それと、グラスターさん以外は私の部屋には近寄らせないようにして」
「は、はい。分かりました!」
そうして、ユイが出た後、衛兵が告げた事実に執務室は騒然とし、その後錯乱した客人を抑えるのに一悶着あったという
〓廊下〓
全く、慌しい上に苛立たしい
一体どこから私があの国王の隠し子と洩れるのだろう
根も葉もない話だとは言わないがそれにしても最悪すぎる
コネなんてあり得ない。私はこの地位に私の力で伸し上がって、私の力で立っている
ユイは苛々と爪を噛み、乱暴にドアを開けて自室に入る
…そういえば私が出た後に執務室が騒がしかった。と、言う事は『彼』の方は巧くいったのか。
室内を見渡すと、想像通り耳の尖った青年がにこにこと笑ってソファに座っていた
「お帰り、ユイ」
「ええ、ただいま。巧くいったのね。」
「まぁね。えーと?コレで2、3…6つ目か。キミは何を考えてこんな事をやっているのかな?」
指を折りながら興味深そうに聞いてくる青年にユイは青年の向かいのソファに腰掛けながら、いともあっさり「さぁ?」と答える
「タダの憂さ晴らしかもしれないし、復讐かもしれない。
もしかするとこの国を潰す為の下準備かもしれないわね」
「う~ん………わからないなぁ」
青年はユイの言葉にポリポリと頬を掻いて天井を見上げる。
「ここ近辺の国は潰したし…。そろそろ潮時かしらね」
「この国を潰すかい?」
わくわくと聞いてくる青年に少し呆れながらも「違う」と返す
「潰すのは国じゃなくて国王よ。アレを恐怖に陥れればいくら重鎮たちが優秀といってもパニックは免れないわ」
「流石、ズル賢いね。宰相サマは」
ふふ、と笑って言うユイに青年は意地悪そうな笑みを向ける
「褒め言葉として受け取っておくわ」
「でもアレを壊すって事は殺すのかい?ならキミの手で殺った方がいいんじゃないか?」
「それも魅力的だけど違うわね。私はこの国を他の国と同じ様にあっさりと潰す気なんてないわ。
言ったでしょ?『恐怖に陥れる』って。つまりはあなたの得意分野よ。エジャ」
それを聞くとエジャと呼ばれた青年はパッと顔を輝かせて、ユイに言った
「じゃあ良いんだね?ユイ!」
「えぇ。いいわよ」
「やった!」
「…ちゃんと帰ってきなさいよ?」
「わかってるよ。
満足したらちゃんと帰ってくる」
(どのくらいで満足するのよ……)
エジャの『満足』の基準がわからないユイは目の前で煙と消えた彼の座っていたソファを眺め、本日何度目かとなる溜め息をついた
前中後の三篇です。




