シーガルト侯爵家の四兄弟は、今日も仲良し。
なんでもあり。
「にいさま〜、絵本を読んでください!」
ぼくは最近お気に入りの勇者の絵本を持って、にいさまのところへ駆け寄った。
「あれれ、お仕事中でしたか?」
談話室に来たはずなのに、いちばん上のアーノルドにいさまと、二番目のブランクーロにいさまが、たくさんの紙を机の上に並べて怖い顔をしていた。
この部屋ではお仕事はしないから、遊んでもらえると思ったのにちがったかな?
この絵本の中の勇者は、にいさまたちみたいですっごくかっこいいんだよ!
「おや、リエン。もう礼儀作法の授業は終わったのかい?」
「うん!こうやってお辞儀するんでしょ?」
さっきまで家庭教師の先生に習った通りににいさまたちに見せると、ブランにいさまが目を輝かせた。
「あああっ、もうかわいい〜!リエン、おいで。にいさまを癒しておくれ〜〜」
呼ばれたブランにいさまの方に行くと、すぐにぼくを抱き抱えて、ほっぺとほっぺですりすりされた。
「うむむむっ、にいさまっ。ほっぺがとれちゃうよ!」
「リエンのほっぺはムニムニだねえ。はああ、リエンがかわいいことだけが僕の救いだよ〜〜」
「あんまりしつこくしてるとリエンに嫌われるぞ」
「えっっ、リエン、僕のこと嫌いになったりしないよねっ!?」
「にいさまのことは大好きだけど、ほっぺばっかり触るからイヤ。ぼく、ちゃんとお辞儀の練習がんばったんだよ?」
そう言って、むすんとほっぺを膨らますと、ブランにいさまは「か〜わ〜い〜い〜!」と言いながら、ぼくの頭もほっぺもすりすりと撫でてくれた。
そうだよ、ぼくがんばったんだから、ご褒美にまず撫でてくれなくちゃっ!
ブランにいさまは、そのままぼくを膝の上に乗せてぎゅっと抱きしめた。
機嫌をよくしたぼくを見てか、向かいに座っていたアーノルドにいさまも手を伸ばして、ぼくの頭を撫でた。
「よくがんばったな」
「うん!だから今日はもうにいさまたちと遊ぶのっ!」
「そうか、じゃあこの面倒くさい案件もさっさと終わらせないとな」
「そうだよ、リエンと遊ぶ時間がなくなっちゃうよ〜!そんなの解せない!」
「にいさまたち、やっぱりお仕事中?」
「ちょっとだけねぇ…」
はあ、と息を吐いたブランにいさまは、ぼくの頭に顎を乗せて、もっと近づいてくる。
顎がぐりぐりしてきて、くすぐったい。
「国の穀物庫が厳しくなりそうだからどうにかしてくれと投げてきたものだからね、どれだけ高く売ってやろうかと思っているところだよ」
「アーノルドにいさまの言っていること、難しくてわかんない……」
「侯爵家に寄ってたかってくる蠅は、うまいこと扱ってやらないといけないんだよ」
「ふーん」
やっぱり言っていることはわからなかったけれど、こういう時ににいさまはキリッとしてかっこいい。
ぼくのにいさまたちはとっても仕事ができるから、みんなが頼りにしているんだって。
「そもそも侯爵なんて、そこまで高くない我が家に頼んでくるなんて、この国終わってるんだけどねえ〜」
「我が家は、裏を支えている家の一つだからしょうがない。それこそ、表の全部は全ての公爵家がやってくれているだろう」
「あれだけ派手好きなんだから、表じゃないと拗ねてくるでしょーよ」
「そう言ってやるな」
アーノルドにいさまとブランクーロにいさまの会話を聞きながら、ぼくは一つあくびをした。
遊んでほしかったけど、まだまだ時間がかかりそうかも。
にいさまたちのために、お菓子をもらってこようかな。
ぼくも食べたいし。
お菓子食べながらだったら、一緒にいてくれるかも。
そう思った時、談話室の扉が勢いよく開いた。
「リエンがここにいるって聞いたんだけど、リエンいるーっ!?」
「ジョヴァンニにいさま!」
「リエーーーンっ!!」
ジョヴァンニにいさまはぼくを見つけると、ヒシッと抱きついてきた。
三番目のジョヴァンニにいさまは、ぼくのすぐ上のにいさま。
今日も王城に呼ばれて行っていたはずなんだけど、帰りがいつもより早い気がする。
「おかえりなさい、ジョヴァンニにいさま」
「ただいまぁ。リエン、会いたかったよぉ」
そう言って、ジョヴァンニにいさまはぼくのお腹に顔を埋めて固まってしまった。
ぼくがにいさまたちに頭を撫でてほしいように、ジョヴァンニにいさまもぼくが頭を撫でるとすごく喜んでくれる。
だから、ぼくは一生懸命にいさまの頭を撫でた。
ぼくと同じ色の髪が、今日も柔らかくてサラサラだ。
「リエン、大好きぃ」
「ぼくもにいさま大好き」
「まったく、少しは大きくなったと思ったのに、いつまでも甘えて」
アーノルドにいさまがやれやれと首を振ると、ムスッとしたくぐもった声がぼくのお腹から聞こえてきた。
「むっ、いいじゃないですか!お兄様たちはいいですよね、家にいていつでもリエンに会えるんですから!俺なんか今日も王女に呼び出されて腹立たしいったらありゃしないですよ…!」
「ああ、また呼び出されたの」
「そりゃあもう、こき使われまくりですよ。あんな可愛げのない王女の相手なんて、誰もしたがらないですもの」
「ジョヴァンニは年も近いし、顔もいたく気に入られちゃったからしょうがないね」
ブランクーロにいさまは優しい声でそう言いながら、ジョヴァンニにいさまの背中を撫でた。
ふうう、と安心したような息がジョヴァンニにいさまから漏れていく。
ぼくも、もっとジョヴァンニにいさまの頭を撫でた。
「……大体、あれだけ性悪だからいまだに婚約者も見繕えないんですよ。国王も頭弱すぎます」
「こら、ジョヴァンニ。発言には注意しなさいと、いつも言っているだろう?」
「だってぇ〜!」
「私は大事な弟をつまらない不敬罪などで処罰されたくないぞ」
「……は〜い、ごめんなさい」
ジョヴァンニにいさまは、グリグリとぼくのお腹に頭をくっつけてくる。
なんだか元気がないみたいだ、やっぱりお城に行くってすごいことなのかも?
「ジョヴァンニにいさま、元気ない?」
「…ううん、リエンに会えたから元気になってきたよ」
「ぼく、にいさまといっぱい一緒にいるよ!」
「ううう、ありがとう〜!あんな王女じゃなくて、リエンとずっと一緒にいたいよぉ〜〜!!!」
「…それにしても、穀物庫といい王女殿下といい、少しは痛い目を見た方がいいんじゃないですか?」
「そうは言っても、あの方たちは贅沢をやめないだろう。それが生き甲斐なんだから」
「王族が一番質素に暮らしてくれたら、それだけで民が飢えずに済むといいのにね」
「はははっ、そんなことしたら無い威厳が、ますますなくなってしまうではないか」
アーノルドにいさまとブランクーロにいさまが、笑っているのに笑ってないみたいな変な顔で、ケラケラと笑い出した。
あれれ、ジョヴァンニにいさまだけじゃなくて、にいさまたちみんな元気なくなっちゃった?
ぼくは急いでジョヴァンニにいさまの頭と、ブランにいさまの頬に手を伸ばして撫でた。
「お兄様たちお願いします、あの王女をさっさと他国にでも売ってくださいぃ〜〜〜」
「そうだねぇ。ジョヴァンニがそんなに疲れるなら、早めに手を打った方がいいかもね」
「あの王女の貰い手になってくれる国があるか微妙なところだな。我が国に不利な条件でもいいから、しれっと飛ばしてしまうか」
「あはは、兄様怖ーい」
「こら、リエンの前でそんなことを言うんじゃない」
「俺、ほっんとに侯爵家の三男でよかったっ!!!だって、あの我儘王女の結婚相手に選ばれなくて済んでるんだものっ!」
ようやく顔を上げたジョヴァンニにいさまが、ニッと笑って、ぼくのほっぺにキスをした。
「リエンが四男でよかった。じゃなかったら、俺じゃなくてリエンに目をつけそうだもの、あいつ」
「ぼく、にいさまの弟でよかったに決まっているよ?」
「そうだよねっ、リエンは俺の可愛い弟だもんねっ!!!」
そう言ってまたジョヴァンニにいさまは、ぼくのお腹に顔を埋めてしまった。
それから、いつもみたいにギュ〜〜〜ッと力を込めて抱きしめられた。
アーノルドにいさまを見ても、眉毛の間に皺ができている。
ブランクーロにいさまを見ても、頬を掻いて困った顔をしている。
ジョヴァンニにいさまもせっかく顔を上げてくれたのに、また見えなくなっちゃった。
ぼくは不安になって、にいさまたちに訊いた。
「にいさまたち、大変?」
ぼくはにいさまたち三人を見るように首を傾けたけれど、にいさまたちからはそれぞれ笑顔で返ってきた。
「いいや、リエンと遊ぶためにすぐ終わらせるから待っててくれ」
「ううん、リエンが抱っこさせてくれてるから頑張れちゃうよ〜〜」
「リエンがいてくれるから、何にも問題ないよっ!」
「ふふふ、ぼくもいつかにいさまたちと一緒にお仕事できるようになりたいな!」
「「「リエン…!」」」
三人のにいさまたちに一気にギュッとされたけれど、ぼくにはいつものことだから、ただ嬉しくて笑っちゃった。
シーガルト侯爵家は、四人兄弟。
長男アーノルド18歳、次男ブランクーロ16歳、三男ジョヴァンニ12歳、そして四男リエン6歳は、今日も今日とて平和さながらに仲良しなのであった。
了
お読みくださりありがとうございました!!
265日目。




