試練
短編です
※一応閲覧注意と書いておきます。
拝啓
小春日和の続くこの頃、元気にお過ごしでしょうか。
毎日書き続けているこの手紙もようやく最後の手紙となります。長くかかりましたが、ようやく外に出る許可をいただけました。これもひとえに、あなたの事を思えばこそ。
思えば、あなたと私は、多くを語る間柄ではありませんでした。しかし私にとっては、あなたがあの日くれた白いハンカチが今でもお守りの代わりになっています。つらい刑期をあのハンカチと共に乗り越えられました。あなたには感謝してもしきれないほどです。
あなたは、可憐で、優しく、聖女のような女性です。しかしあなたの美しさを利用しようと近づく悪い輩は、この世にごまんといるでしょう。どうか、私が刑期を終えるまで、あなたがその毒牙にかかっていないことを祈っております。
ベランダで育てていたハーブには、少し栄養を与えた方が良いと思っていましたので、定期的に栄養剤を与えていたのですが、最近はいかがでしょうか?私の世話が無くて、枯れてしまっては、と思うと、夜も眠れません。
でもそんな心配も、あと少しです。ようやくあなたに会うことが出来る。今でも私は、なぜあなたと引き離されたのか、よくわかりませんが、拘留中は、変に暴れたりすると、より外に出ることが困難になるので、我慢しました。ソレもこれも、あなたがくれたハンカチのおかげです。
いつも代わり映えのない部屋からも、最近は桜の花びらが散る様子が見られます。マンションの前の桜の木、管理人はちゃんと水をやっているのでしょうか?私も気づいた時には必ず水をあげていたのですが、今はどうなっているのやら。
食事はちゃんととれているのでしょうか?仕事はどうですか?上司にいじめられたりしていませんか?
あなたの傍にいられないと、心配ばかりが頭に浮かんでしまいます。
しかしそんな心配もようやく終わると思うと、長い刑務所生活も、あなたとの関係を深めるための神からの試練のような気もします。
神の試練を耐え抜いた私たちを、きっと神も祝福してくださるでしょう。
満了日まであと少し、待っていてください。
○○ ○○
敬具
「これ、中身読んだ?」
「読んだ。こんなのあの子に見せられないわよねぇ」
「そうねぇ」
「305号室のですか?」
「そうそう、相当まいっちゃったらしくて」
「そりゃぁ、ずっと家の中に知らないおっさんが一緒に住んでたんでしょ?怖すぎるわよ」
「引っ越しも考えたけど、ずっと視線感じちゃって、ついに幻覚とか幻聴が聞こえるようになったって」
「怖・・・」
「ようやく普通に会話できるようになったけど、まだ男性職員とはちょっと距離あるのよねぇ」
「まぁそりゃそうかぁ」
「だから、今回もこの手紙は、私たちで処分しておきましょう」
「でも、○○ってやつ、この病院に来たりしないですよね?」
「実家からは近いけど、事件のあったアパートは他県だし・・・大丈夫でしょう?」
「ですよねぇ~」
——大丈夫、大丈夫・・・。——
刑期満了まで、あと少し。




