幼馴染の恋人が女グセが悪いイケメン野郎に目を奪われてるんだけど……
「あっ……ご、ごめん」
「う、ううん、気にしないで」
朝の通学路。
隣を歩く美奈穂に手が触れそうになり、反射的に謝ってしまったが失敗だっただろうか。
だってつい先日、僕らは幼馴染から恋人へと変わったのだから。
小さい頃からずっと美奈穂のことが好きだった。でもどうしても言い出せなくて高校二年になっちゃって、このままじゃダメだって思って一念発起してついに告白。美奈穂は大いに喜んでくれて晴れて僕達は付き合うことになった。
それなら手を引っ込めず、このまま繋ぐべきでは無いだろうか。登校中ということで他の生徒も沢山いるけれど、気にせずに見せつけてやるべきではないか。
「…………」
無理!
やっぱりそんな恥ずかしいこと出来ない!
意気地なしと笑うが良いさ。
こんなんだから今まで告白が出来なかったんだもん。むしろ告白出来たことを褒めて貰いたいくらいだね。
こういう時は気持ちを切り替えて話しかけ……え?
「美奈穂……?」
「え? あ、ご、ごめん透。何の話だっけ?」
慌てる美奈穂だが、僕は見逃さなかった。
彼女が何に意識を取られていたのか。
うちの学校で有名なイケメン男子、不破が少し前方に歩いている。
三人の女子に囲まれ、爽やかな笑顔を振りまいて楽しく登校している。
いや、四人か。ちょっとだけ離れた所で大人しそうな女子がもう一人ついている。
そんなことはどうでも良い。三人だろうが四人だろうが変わらない。
問題は美奈穂が不破の方を見てぼぉ~っとしていたことだ。
ま、まさか、ね。
告白が間に合わなかったならまだしも、告白が成功した直後にそんなこと無いよな。
美奈穂を信じたい。
でも不安は全く消えてくれなかった。
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その日の放課後。
「美奈穂。帰ろう」
「ごめんね。私、ちょっと用事があるから」
「え?」
「ほんっとうにごめん!」
「あっ……」
行っちゃった。
何の用事かを確認する時間すらなく、むしろ確認されたくないのではと僕を避けたようにすら感じられた。
「あ~あ、可哀想に」
そんな僕にクラスの女子が声をかけた。
「止めなよ、智子」
「でもこのままじゃ本当に可哀想だって。玲華もそう思わない?」
「え、うん、そりゃあそうだけど、部外者が言うのは良くないかなって」
話しかけて来たのは僕と接点があまりない二人の女子。
雰囲気的には置いてけぼりにされた僕を茶化すというよりも、心配してくれている感じだ。
胸騒ぎが凄い。
怖いけど聞いてみよう。
「あの、何の話?」
僕から聞いてきたのであれば問題無いだろう。
そう思ったのか、二人は顔を見合わせて小さく頷いてから教えてくれた。
「小乾さんのことなんだけど……」
「う、うん」
小乾さん、とは美奈穂のこと。
「昼休みに不破と楽しそうに話をしているのを見かけちゃって」
「な!?」
まさか不安が的中してしまったというのだろうか。
美奈穂は僕ではなくあいつを……
「それだけなら良いんだけどね」
「そうそう。浮気くらいならよくある話だし」
「ま、まだ何かあるの?」
浮気だけでもしんどいんだけど、それより可哀想なことってなんなのさ。
「不破って女子の間で悪い噂が流れてるの」
「悪い噂?」
「やり捨てクズ野郎なんだって」
「は?」
「だから、女を抱くのが目的で女に声をかけてる最低野郎なの」
じゃあなんだ。
美奈穂はそんな奴の毒牙にかかろうとしているっていうことなのか。
「う、噂、だよね? だってそんな男ならあんなに女子が群がって来ないでしょ」
今朝、不破は数人の女子と一緒に楽しく登校していた。もし不破が彼女達をやり捨て目的で話をしているのであれば、いくらイケメンとはいえ女子達は距離を取るに違いない。
「そりゃあイケメンとやりたい女子もいるでしょ」
「え?」
イケメンってそんなことが許されるの?
「それにあくまでも噂だからって信じてない人も多いしね」
そっちの方がまだ分かる。
むしろそっちであってください。あまりの格差に世界を呪いそうになっちゃうから。
「ただ、噂はマジだと思うよ」
「どうして?」
「不破に喰われたって噂の女子、暗くて大人しくなって、でも不破に何をされたのかは絶対に口にしないんだってさ」
「アレ絶対に弱み握られて脅されてるよね」
「そ、そんな……!」
じゃあ美奈穂もそうなってしまうっていうのか。
本当に浮気されたのであれば自業自得だなんて言う奴もいるかもしれない。
でも僕にはそんな風には思えない。好きな娘が卑劣な男にいいようにされるだなど我慢出来る訳がない。
「ありがとう!僕、探して来る!」
「あっ」
「行っちゃった。どこにいるか分かってるのかな?」
まだ校内にいると良いけど。
とりあえず不破のクラスに行ってみたけれど、誰もいない。
「あの、ちょっと良いですか?」
そのクラスに残っている人に、不破の話を聞いてみた。
すると美奈穂らしき人物と一緒に教室を出たと言うではないか。
慌てて昇降口に向かい、美奈穂を探そうとしたら、外に出た所でまた声をかけられた。
「あれ、お前一人だけなのか? じゃあさっきのはやっぱり?」
「どういうこと!?」
クラスメイトの男子で、僕が美奈穂と付き合っていることを知っている人物だ。
どうやら美奈穂が不破と一緒に歩いているところを見かけたらしく、不思議に思って僕に声をかけてくれたらしい。
「あいつらなら、校舎の裏手の方に向かったぜ」
「ありがとう!」
危なかった。まだ二人は帰って無かったんだ。このまま外に出て探していたら見つからなかったよ。
慌てて校舎裏に向かい、二人の足取りを探す。
しかしその辺りに人はおらず、これまでのように誰かに聞くことが出来ない。
考えろ。
考えるんだ。
どうして二人はこっちに来たんだ。
『だから、女を抱くのが目的で女に声をかけてる最低野郎なの』
もしも不破がそれを狙っているのであれば、それに相応しい場所は何処だ。
誰も立ち寄らず、多少の声が漏れても平気で、それなりのスペースがある場所。
「…………あそこだ」
校舎裏から少し離れた、学校の敷地の隅。
そこに古くて使われていない大きな用具入れがある。
近いうちに撤去される予定で、危ないから立ち入り禁止になっている。
秘密の秘め事をするには格好の場所だ。
「っ」
ごくり、と生唾を飲み込み、ゆっくりとそこに近づいた。
立ち入り禁止のテープを乗り越え、なるべく音を立てないように歩く。
そして入り口まで辿り着いたら、耳を澄ませて中の様子を探る。
「……っ!……んっんんっ!」
嘘……だろ……?
嘘であって欲しいと願っていたのに、現実はなんてむごいんだ。
パンパン、と何かを激しく打ち付ける音。
くぐもった呻き声。
それが中から聞こえて来たのだ。
絶望で目の前が真っ暗になる。
酷い吐き気が襲ってきて倒れそうになる。
でもそれ以上に、様々な怒りが僕を動かした。
どうして付き合い始めたばかりなのに不破なんかに気を許してしまったのか。
そんなにイケメンが良かったのか。
僕の大切な人を汚すんじゃない。
美奈穂に対する怒りと、不破に対する怒り。
その両方を携えて、思いっきり用具室の扉を開けて中に突入した。
そこで僕が見たのは、両手両足を縛られ、口枷をつけられ、肌を露出させ、マットにうつ伏せになっている……
不破の姿だった。
「は?」
あまりの衝撃的なキモい光景に、怒りなど消えてしまった。
その代わり困惑するのだが、そんな暇は与えないと言わんばかりに衝撃映像は続いていた。
「………んんっ!んんっ!」
しなやかな縄のようなもの。なわとびの縄かあれ。
それが背中に打ち付けられ、快感に悶える不破の姿。
そして縄を振るっているのは、今朝不破と一緒に歩いていた女子の一人だった。確か他の三人から少しだけ距離を取って歩いていた大人しい感じの女子。その子がこれまた恍惚の表情で縄を振るい、不破が痛みに悶える度に身を震わせて喜んでいた。
あぁ、なるほどなぁ。
こんなの見せられたらこいつに憧れてた女子は怖くて何も言えなくなっちゃうわ。
「なぁに、これ」
見てはいけないものを見てしまった。
一刻も早くここから逃げなければ危ない。
僕の中の何かが激しい危険信号を発していたのに、間に合わなかった。
後ろで扉が閉まったのだ。
「み……美奈穂?」
閉めた犯人は愛しの美奈穂。
制服が乱れた様子はなく、無事だったことに安心……出来なかった。
微笑む美奈穂が何故かとてつもなく怖かった。
「来ちゃったんだね、透」
「ど、どうして美奈穂がここに?」
「透のことだから、また時間をたっぷりかけてから行動すると思ったのに」
「え?」
話がまったく繋がって無いんですけど。
というか、まるで僕が美奈穂を探しに来るって分かっていたかのような言い方だ。もしかしてわざと不破と一緒にいて浮気を匂わせることでここに来るように誘われてたの?
そんなことする意味が分からないし、そもそも美奈穂はそんなことするような人じゃない……はずだけど自信が無くなって来ちゃった。
「私ね、彼を見た時にビビっと来たの」
彼……というのはそこで転がっている不破のことだよな。
「あれは真性のドМだって」
「何言ってるの!?」
「しかもちゃんと調教されてるドMだって」
「あの……美奈穂?」
「ご主人様が誰なのかはすぐに分かった。だからお願いしたかったの、練習させて欲しいって」
「よし帰ろう美奈穂。ここは良くない場所だ。うん、そうだ、そうしよう」
現実逃避して逃げようと思ったけれど、唯一の出入り口は美奈穂が塞いでいた。
お願いそこを通して!
これ以上はダメ!
「透を調教する練習を、ね」
「うわああああ!聞こえない!僕何も聞こえない!」
美奈穂が怖いと思う時は時々あった。
でもそれは気のせいだと思っていたんだ。
優しくて可愛くて面倒見が良い最高の幼馴染。
僕にとってはそれが美奈穂。
「大丈夫、安心して。すぐに気持ち良くなるから」
「全く安心できない!」
「彼女の事が信用できないの?」
「この状況で出来るかああああ!」
「ふふふ。言葉遣いが良くないわ。たっぷり躾けないと」
「ひいっ!」
「透はドМの素質がある。私が保証するわ」
「そんな保証いらない!僕帰る!そこを通して!」
「だ~め」
くっ……こうなったら強引にでも。
「あ……れ……?」
おかしい。
全身に力が入らない。
「ダメじゃない。ご主人様に手をあげるなんて、ペット失格よ」
背後から聞こえた妖艶な声を最後に、僕の人生は……
最高に幸せになりました!ご主人様!
なんだこれ。
たまにこういうの書いてる時の自分の精神状態を疑う時があります。




