第3話 仕様書をください
この世界のルールを伝える――
ギルドマスター・ジョンからの言葉。
エラーを防ぐため、本当は口頭ではなく、
仕様書をくださいと言いたいところだが――
なんせ相手は、組織のトップオブザトップ。
グッとこらえて、黙って耳を傾けることにした。
「この世界で、飼い主だけが持つ能力。
私たちはそれを“スキル”と呼んでいる」
“スキル”!?
おお……
本当にゲームの世界だ……
俺がそれを持っていると言われても、
正直、まったく実感がわかない。
「君が、私やペロの言葉を理解できる。
それだけで、ひとつ分かることがある」
ジョンは俺を見て言った。
「君は、言語に関するスキル……
名づけるなら、
"完全翻訳スキル"を持っているだろうね」
「……なるほど」
確かに、金髪に青い目をしたジョンは、
どう見ても日本語が母国語ではなさそうだ。
それなのに、こうして普通に会話ができている。
――これが、"完全翻訳スキル"。
「……そもそも、
ジョンさんは、どこの国の人というか……
地球の人ですか?」
「私は地球人だ。
出身はアメリカ。
というか、ここにきている飼い主は、
私が知る限りすべて地球人だ」
アメリカ。
……ということは、
租税条約が適用される。
つまり、所得税源泉の際には留意が必要――
とか言っている場合ではない。
飼い主は地球人しかいない。
俺の異世界仕様に一つの定義が書き加えられた。
ジョンは、話を続ける。
「君は、地球で、
何匹の動物を飼っていたことがある?」
「……えっ?」
質問の真意が分からず、
思わず言葉に詰まる。
そして、ペロの方に目をやった。
……しかし、嘘をついても仕方ない。
「……二匹です」
そう答えた瞬間、
ペロの視線を感じた。
胸の奥が、ほんの少しだけ疼く。
ペロがどう思うだろうか――
だが、俺にはペロと――
そう、もう一匹の相棒がいた。
ジョンは、静かに頷いた。
「なら、もう一つスキルがあるはずだ」
「え?」
俺は、その意外な言葉に驚いた。
「私の経験上、
スキルは“飼っていた動物の数だけ”
授かるはずなんだ」
「へえ……」
返事はしたものの、
頭の中はまったく追いついていない。
(……なんの話だ、これ)
でも、ジョンがふざけている気配は、
微塵もなかった。
「……もう一つのスキルは、
どうやったらわかりますか?」
「……今は、
それを知る方法はないんだ」
今は?
「昔は、人の持っているスキルが分かる――
そういうスキルを持った者がいたんだが、
今は亡くなってしまった」
「ええっ?」
新たな驚きが、胸を打った。
「というか……
この世界でも、亡くなるんですか?」
俺は、地球で一度命を落としてここに来た。
それなのに――
この世界でも、同じように死があるのか。
「そうだ。
飼い主も獣人も、この世界では新たな命を授かっている。
そして、命を落とすこともある。
私はこの五十年、
亡くなった者を何度も見てきた」
俺は一瞬、言葉を失った。
せっかく待って、やっと会えた飼い主と、
また離ればなれになることもあるのか……
なんだか、少し悲しい。
でも――
命がある限り、仕方ないことなのかな。
それから俺は、ジョンに質問を繰り返し、
とうとう――
異世界仕様書【暫定版】を完成させた。
その充実感と、
この世界で業務を遂行して……ではなく、
生きていけるのかという不安が、
同時に、俺の胸を支配していた。
~異世界仕様書~
【異世界転生1日目・暫定版】
1 飼い主は地球人しかいない。
2 飼い主は必ずスキルを持つ。
3 スキルの数は、
飼っていた動物の数だけ授かる。(はず)
4 スキルの詳細は、自分で探していくしかない。
5 飼い主である人間も獣人も寿命があり、
事故やケガなどで命を落とすこともある。
6 この世界の広さは不明。
(ジョンもわからない)
7 人口は不明。
(人間・獣人合わせて、少なくとも1,000人はいる)
8 暦や時間、単位などは、すべて地球と同じ。
9 この世界には朝・昼・夜があり、四季もある。
(現在は4月18日・春)




