第12話 社会人としての必須スキル
「ハジメ……
今日はもう遅い。
会議の続きは、また明日行うとしよう」
「……そうですね」
時計を見ると、すでに十八時半を回っていた。
サクラが捕まっている以上、
一刻も早く助けてやりたい気持ちはある。
だが――焦りは禁物だ。
ジョンさんの言うとおり、
正式な判断は、明日以降でいい。
問題は――
今日、どうするかだ。
ギルドに頼めば、
二人の寝床を確保すること自体は、そう難しくない。
飼い主がまだこの世界に来ていない獣人用の宿舎が、
近くにあるらしい。
しかし。
アカネとフジは、
どう見ても、俺についてくる気満々だった。
正直に言おう。
……今日は、泊めるしかない。
「……しょうがないな」
俺は、ペロの方を見る。
「ペロ。
今日は、俺たちの家に泊めてもいいか?
アカネとフジを」
「ほんと!?」
ペロが、ぱっと顔を輝かせた。
「うん!
アカネちゃんとフジちゃんと、
いっぱいお話する!」
……仲良くしてくれるのは、何よりだ。
本当にありがたい。
ただし――
俺のこと以外で、頼む。
内心で、そう祈った。
「でもさ」
アカネが、少し心配そうに言う。
「ハジメの家って、
どんな感じなの?
さっき、狭いって言ってたよね」
……えーと。
「いや、その……」
一瞬、言葉に詰まる。
「狭いというか……
泊まれる場所がないくらい、
片付いてないんだ」
我ながら、完璧な軌道修正だ。
適当なことを言って、
バレそうになった時、
どう取り繕うか。
これはもう、
完全に社会人としての必須スキルである。
「えー? そうなんだ!
でも片付いてなくても、
大丈夫だよね! フジ!」
「うん。大丈夫だよ! アカネ!」
「ねー! 大丈夫だよね!
アカネちゃん! フジちゃん!」
……ねー!じゃないよ、ペロ。
全然、大丈夫じゃない。
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「こ、これは凄いね、フジ……」
「う、うん……
想像以上かも……」
「え、えへへ……」
二階の寝室を見た二人が、言葉を失った。
そして、ペロが恥ずかしそうに頭をかいている。
結局、俺とペロは、
アカネとフジを連れて家に戻ってきた。
現在、時刻は十九時。
今から何とか片付けて、
寝床を作らなければならない。
「よーし、片付けるぞ!」
俺は意を決して、片付けを始めた。
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そして、三十分後。
片付けが終わった。
……早すぎるんじゃない?
「すごーい、ハジメ!」
「めちゃくちゃきれい!」
自分でも、正直驚いた。
共生化スキルのおかげで、
動きが素早くなっている。
物の移動が、異様に速い。
ただ、それだけじゃない。
片付けの手順や、
「こうすればいい」という情報が、
次々と頭に浮かんでくる。
散らかった物を、
カテゴリーごとに分類。
デッドスペースへ、
寸分の狂いなく詰め込んでいく。
そして、スーパー高速拭き掃除。
百裂連打布団たたき。
超精密ベッドメイキング。
……そして、
自分でも訳が分からないほど、
あっという間にきれいに片付いていた。
まさか、片付けに関するスキルも、
持ってるのか? 俺。
いや、俺が飼ってた動物は、
ペロとサクラだけだし、
すでに、翻訳スキルと共生者スキルという、
2つのスキルを持っている。
……まあ、いいか。
「じゃあ、晩御飯だね。
ジョンさんからもらったパンを食べよう」
「うん!」
だが、今回、ジョンさんからは、
パンの他に人参やキャベツなどの野菜、
調味料も分けてもらっている。
「ペロ。
コンロとか、調理器具とか食器はあるの?」
「調理器具も食器もある!
コンロは無いけど、
火は、そこの囲炉裏で使えるよ!」
ただ、俺は、
正直あまり料理をしたことがない。
コンビニのなんたらプレミアムは、
全種類完全制覇四周目に突入している。
それほどのコンビニの虜だ。
……この野菜については、後々考えよう。
と思ったそのとき。
頭に流れ込んでくる、
野菜の調理方法の数々。
野菜のカットは、
繊維を壊さぬよう精密に。
火の通りは、
甘みを最大化させる完璧なタイミングで。
気づけば――
あっという間に野菜炒めを作り上げていた。
「すごーい! おいしそう!」
「ハジメ、料理もできるんだね!」
「……あ、ああ……」
……なぜ、できる?
この手先の精密な動き。
素材を最大限に活かそうとするこの情熱。
よく分からず、俺の中に、
ある夏の日々の記憶が甦ってきた気がしたが……
この世界は、
分からないことだらけだ。
野菜炒めとパンが、
果たして合うのかは分からないけど――
今はただ、
目の前の晩ご飯と、
明日のことだけを考えよう。




