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第11話 重大インシデント発生

「うわー、ウサギさんの獣人だ。

 かわいいね!ハジメ!」


「……ああ、うん、そうだね」


俺はペロの無邪気な問いかけに、

気もそぞろなまま、答えた。


確かにかわいいけど……

それどころじゃない。


アカネ。

フジ。


それは――


俺が昔、

付き合っていた元カノ、ミカ。


彼女が飼っていたウサギの名前と、

まったく同じだったからだ。


よく見ると――


アカネは、グレーの耳。

フジは、うすい茶色の耳。

色の組み合わせまで、同じ。


どう考えても、間違いなかった。


この二人は、

俺の知っているアカネとフジが、

転生したに違いない――

そう確信した。


そして、俺は、反射的に視線を落とした。


アカネがジョンに言う。


「ミカがこの世界に来てたら……

 私たち、どうしても会いたくて」


フジが続く。


「すごく遠くから頑張って、

 ここまできたんだよ!」


「そうか……大変だったね」


ジョンは微笑んだ。


「どちらか、私の手を握ってくれるかな」


アカネが手を差し出す。

ジョンはその手を握り、

目をつぶったあと……

険しい表情になった。


「残念だが……

 まだ、君たちの飼い主――

 ミカは、この世界には来ていないようだ」


ジョンが、静かに告げる。


「そう……なんだ」


アカネが、少しだけ肩を落とした。


すごく遠いところからやってきた。

そう言っていたから……

落胆も大きいだろう。


しかし、アカネは顔を上げて、

笑いながら言った。


「……でも、向こうの世界で

 ミカが元気にしてるなら、

 それでいいよね!」


「うん!

 そうだね、アカネ!」


フジも、にこっと笑う。


その笑顔を見て、

俺の胸が、きゅっと締め付けられた。


なんて、いい子たちなんだ。

俺も本当は声をかけたい。


しかし、この子たちは――

俺がこっ酷く、

何度もミカに怒られていた姿を見ている。


俺のことは、

情けないヤツだとインプットされているだろう。


これは……

重大なインシデントの発生危機だ。

俺の個人情報の漏洩リスクが、

最大レベルに達している。


絶対に――

俺だと気づかれてはならない。


その時だった。


「ねえ、フジ?」


「なに、アカネ?」


「なんか……

 嗅いだことある匂い、しない?」


「え? ……あ、ホントだ」


二人が、くんくんと鼻を動かし始める。


――ヤバい。

そうだ。

ウサギの嗅覚は、犬並みだ。


この“懐かしい匂い”が指すもの。

それは俺以外、考えられない。


ここは、一度

用があるフリをして、戦略的撤退を――


「あ、この人だ」


(え? もう?)


アカネが、俺の方を見ようとする。

俺は必死で、

視線を逸らした。


「ほんとだ!」


フジが、声を弾ませる。


「アカネ、この匂いってさ、

 あの人じゃない?」


「昔、ミカのところに

 よく来てた――」


「そうだ!」


アカネが、ぱっと顔を上げる。


「確か――

 ハジメ!」


……ああ。


バレた。


「いやあ、俺は確かにハジメだけど、

 人違いじゃ……」


「久しぶりだね、ハジメ!」


「こんなところで会えるなんて、

 思わなかったよ!」


一応の抵抗を試みたが、

全然聞いていない。

確信があるのだろう。

……もう諦めるしかなさそうだ。


でも、その屈託のない笑顔たちに、

俺をさげすむ様子はまったくない。


「うん!

 私たち、この世界で、

 初めて知っている人に会ったよ。

 なんかうれしいね、フジ!」


「うん!

 私もうれしい!

 ハジメもうれしいでしょう?」


「うん……俺も嬉しいよ」


確かに……

誰も知っている人のいないこの世界で、

初めて知り合いに会えたら、

それは嬉しいだろう。


草を食べる姿が、

本当に可愛かったこと。


ミカに怒られた後も、

この子たちの顔を見ると、

心が少し癒されたこと。


そんな思い出が甦ってきた。


「ミカはまだ来てないみたいだけど、

 そのうち来るだろうから……

 元気で待ってあげてね」


「うん! フジと二人で待ってるよ!

 あたしたち、ミカのこと大好きだから!」


なんて、いい子たちなんだ。


「うん、ミカも喜ぶと思うよ。

 じゃあ、二人とも元気で――」


「うん、ハジメも元気でね!」


よし。

これで、重大インシデントは回避された――

そう思った、そのとき。


「うーん、アカネ?」


「なに?」


フジが、何かを思いついたような気がした。

嫌な予感がする。


「ミカもまだ来てないし、

 ハジメのところに行くっていうのはどう?」


「え?……

 あーーー、そうだね!

 せっかくここまで来たんだし!

 フジ、頭いい!」


「でしょでしょ?」


「いやいやいやいや」


でしょでしょ、じゃない。

俺は慌てて手を振った。

恐れていたことが、現実になろうとしている。


「家、狭いから!

 ウチはちょっと――」


「へぇ?」


アカネが、にっこり笑った。


「じゃあさ」


くるりと振り向き、

ギルド中に響く声で――


「みなさーん!

 ハジメってね、ミカと付き合ってたんだけど、

 いつも怒られてたんだよー!」


「お、おい!!

 やめろ!!」


……電光石火のごとく、

俺のプライバシーが公開された。


この空間に守秘義務という、

コンプライアンス概念は、

まったく存在しない。


ギルドに、笑いが広がり、

ペロがキョトンとしている中、

ジョンが、ゆっくりと口を開く。


「……ハジメ」


「はい」


「その二人は……

 私たちの探していた能力を

 持っているかもしれんぞ」


俺は、ハッとした。

ウサギ。

その特徴は――優れた聴力。


……プロジェクト承認の兆しが見えた。

これは、大きな前進だ。


ただし――

代償として、俺のプライバシーが、

ますます犠牲になる可能性が高い。


……いや。

可能性というか、

もう確定している気がしていた。

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