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シュトーレン


「着きましたよ、お姫様…」


紅蓮にエスコートされ車を降りると有栖も栗栖同様に現実離れしたタウンハウスにひたすら感動していた


「素敵ね…わたしもこんなところに住むのが夢だったなぁ」


「有栖は結婚するまで風木のボナールさんみたいな彫刻家の弟子になって人里離れたお屋敷にひっそり住みたいって言ってたもんな」


「うん、浮世から離れて先生に尽くして暮らしたかった~」


夢を語る有栖に紅蓮は優しい瞳を向ける


「素敵な夢だね…」


「玲央はアーティストのプロデューサー兼作詞と作曲だからそんな暮らしは夢の夢だわ…」


「でもさ玲央くんは陶芸もやるし絵も上手いしお前のウェディングドレスも縫っちゃうし元速弾きギタリストで多才じゃないか」


「はいはい、おにいちゃんは玲央コンだからね(笑)」


「おや、ではわたしのライバルってことになるのかな?」


「紅蓮先生、とんでもないです(笑)おにいちゃんの良き理解者ではあるけどね」


「会ってみたいね、今度ぜひご主人と遊びにいらっしゃい」


『嫉妬深いのね…おにいちゃん、愛されてるぅ』小声で耳打ちする有栖に栗栖は吹き出すのを堪えた



玄関で爺やとゴウ、ヒロ、マリーとダンが出迎えてくれる



「おかえりなさいませ~」


『まあまあ、なんて可愛いお嬢さんなの♪』


『朝露を含んだ薔薇のような美少女だな! 』


「ありがとう~美人とイケメンのハスキーさんたち♪ 私、有栖よ、よろしくねっ」


ワンワンワン


マリーとダンに抱き着かれ激しく歓迎されながら有栖は二人を撫でている


「可愛い~おにいちゃんの大好きなハスキーじゃない、よかったね~」



「お前は昔から犬に好かれるもんなぁ」


『すごいわ~私たちの言葉が聞こえるなんて♪』


『ああ、兄妹とも素晴らしいな♪』


「ようこそいらっしゃいました…わたくしはバトラーの野崎と申します」


「はじめまして。栗栖の妹の安藤有栖です。ロマンスグレーの素敵な執事さん」


「はじめまして、料理と庭園の担当のヒロです」


「はじめまして、有栖ちゃん。ヒロと双子のゴウです。可愛いね~」


「おい、いきなりちゃんづけは馴れ馴れしいぞ」


「いいのよ~アリスって呼んでね。二人ともイケメンで嬉しいわ」



「OK アリスちゃんね~ちょうどよかった、これからクリスマスのデコレーションするんだけど見る?」


「うそ~! わたし、クリスマスフリークなの♪ ねえ私にも手伝わせて♪暖炉とかある?」


「うん、あるよ~♪嬉しいな、毎年ヒロくんと二人で大変だったんだ~」


「きゃ~暖炉にガーランド飾るの夢だったの♪」


「それはよかった♪うちはツリーもモミの木だよ」


「素敵!! 聞いた? おにいちゃん、本物のモミのツリーだって♪」


「栗栖」


玄関先できゃっきゃと騒いでいるゴウの頭を紅蓮が軽くこつく


「ゴウ…続きは中に入ってからだ」


「ほら、みろ、申し訳ありません。朱璃様、有栖ちゃん、どうぞ」


『こっちこっちよ』


「待って、待って、マリーちゃん」


初対面で紅蓮と双子と打ち解け、マリーとダンにスカートの裾を咥えられひっぱられる有栖に安心する栗栖


流石だな 有栖のコミュ力の高さは尊敬するよ


あれ…なんであいつマリーの名前知ってるんだ?



「それにしても素敵なお屋敷ですね~わぁっ、踊り場に肖像画! ますます少女漫画の世界だわ…」


「こちらへどうぞ…ショコラとコーヒー、どちらになさいますか?」



「ありがとう野崎さん、では ショコラを頂くわ」


「栗栖くんはパフェにする?」


「うん♪ 有栖も食べてみろよ、彼らの作るパフェ絶品だぞ」


「おにいちゃんは食べたことあるんだ~♪じゃ私もパフェにする」



「では栗栖と有栖ちゃんにはマンゴパフェを…バナナのほうがいいかい?」


「ん~どちらも魅力的ですけれど…マンゴーパフェはめったに食べないからマンゴーお願いします」


「はいっ、畏まりました♪朱璃さまはマロンになさいます?」


「ふたりと同じで頼むよ(笑)」


「朱璃、すごいや♪ どうして有栖がバナナ好きなのわかったの?」


「なんとなくね」


「不思議だわ…」


室内を見まわしながらポソリと呟いた有栖の言葉に栗栖はピクリとした



「どうしたの? 有栖…」



「はじめて来たような気がしないの…最初、お屋敷に着いた時はあまりに素晴らしくて興奮してたんだけど…こうして周りを見ていると…


このテーブルもソファも…昔から知っているような…懐かしい気持ちになるわ」



「僕と一緒だ…」


「おにいちゃん…リインカーネーションじゃない?」



「素晴らしい! では…有栖ちゃん、俺の顔に見覚えはあるかな?」



有栖は猫のような黒い瞳で紅蓮をまじまじと見つめる



「…お隣のおにいさん…雪の日に遊んだような…」


「ビンゴ…どうやら有栖ちゃは霊感が強いらしい…そうだよ、前世、俺たちは仲良しだった…そして栗栖はクリスティーヌとい名の婚約者だったんだ」



「…正確には婚約寸前の恋人ね…」


凄いな…有栖…



「見えてくる…はっきりと映画みたいに私たちの過去が…あ…」


「大丈夫? 有栖、有栖!!」


軽い眩暈を起こした有栖を栗栖が顔面蒼白で泣きそうになりながら心配する


「爺や…」


「畏まりました…どうぞ…有栖様…」



野崎が濃厚な香りを放つ真紅のダマリスクローズを金色のトレイいっぱいに乗せて有栖に差し出す


「薔薇に触れてごらん…」



朱璃に言われるまま有栖が薔薇に触れるとみるみるうちに薔薇は枯れてゆき青ざめた頬はバラ色に染まり瞳も生き生きとしてくる


「濃くて美味しい…ありがとうジョゼフ…」


ジョゼフ…って…朱璃の前世の名前…


てか…いま…いったい…何が起こったんだ…



放心しているところにパフェも持ったゴウとヒロがやってくる


「パフェの前にショコラをひとくち…」



ヒロに差し出されたショコラをコクリ…と飲みながら有栖は揺らめく炎のようなルビー色の瞳を栗栖に向ける


「平気よ…お姉さま…心配させてごめんなさい…」



えっ…有栖…? えっ…ええっっっっ!!


お姉さまって…何言ってんだろう…


「そんな顔して私を見ないで…どうなさったの? お顔の色が優れないわ…」


なんだろう…この妖艶な表情…だけど…愛しい僕の…私の妹…アリス…



「パフエが溶けるぞ…」


はっ、紅蓮の言葉にふと我に返ると有栖はいつもの有栖に戻り嬉しそうにパフェをつついていた



「美味しい~こんな美味しいマンゴとクリーム初めて♪ ね、おにいちゃん?」


「あ、う、うん…」



「どうしたの? 顔色が悪いわ…」


暖かな華奢な指先が栗栖の頬を撫でる


あったかい…いつもの有栖だ…


今のは錯覚?


「ほ、ほんと美味しいや…有栖、お前のほうこそ大丈夫なのか?」



「? なに言ってんの? なんともないけど…」


「だってお前がさっき薔薇を…」


テーブルを指すとつい先ほどまであったはずの枯れた薔薇はものの見事に消えていた


え…何で??


…錯覚…か…


そうだよね…ヴァンパイアとか好きだからおかしな幻覚見たのかもな…



薔薇を枯らすなんてまるで…



「大丈夫ですか? 栗栖様…ソファで横にならては…」


「うん、平気平気、パフェ食べたら僕もツリーの飾りつけ手伝うよ」


「本当ですか♪ 今年は賑やかで楽しいな~ね、ヒロちゃん」


「そうだねゴウ、おふたりとも、シュトーレンも焼いたんですけど召し上がりますか?」


シュトーレン…って


あのドイツのシュトーレン!!


アドベントから毎日少しずつ食べるあの…ドライフルーツやマジパンが入った


しかも…手作り!!!




「食べる♪」


瞳をキラキラさせながら栗栖と有栖は同時に即答


切り分けられた真っ白なシュトーレンを紅茶と共に食べ終える頃 栗栖は先ほど見た不思議な光景をすっかり忘れていた



『ダメじゃない…朱璃』


『残さず召し上がられたので大丈夫ですよ…』


『すまないマリー…助かったよ、ヒロ…』


『覚醒するには少し早い…薔薇で抑える必要があった…まだ栗栖が目覚めていないからね…』


『栗栖ちゃんは天然だから時間かかりそうね…』


『アリスはじき目覚めるな…姉思いだから俺たちから混乱させないように言っておくよ』


「アリスは優しい子だわ。私たちとよく遊んでくれたもの…朱璃、待ち遠しいわね。早く目覚めてほしいでしょう?」


『気長に待つさ(笑)今までのことを思えば大したことはない…』



テレパスで会話しながら忘却の粉がかかったシュトーレンの粉砂糖をペロリと舐め紅蓮は紅茶を飲んでいる栗栖を愛しそうに見つめていた
















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