夢…
これも美味しい! これもぉ♪ うわっ、チーズトロトロ~! これ全部爺やさんが作られたんですか?」
バトラーの野崎は上品に微笑んで栗栖の問いに優しく答える
「御口に合ってよかったです。ヒロとゴウも喜びますよ」
ヒロとゴウ?
「双子の兄弟で親父の同級生でうち専属のシェフだよ」
ひぇっ、専属のシェフか!
「ただいま呼んで参りましょう」
なんか わざわざ申し訳ないな
「ねえ朱璃、ぼく余計なこと言っちゃったかな」
「どうして?」
「いや、その…あまりに美味しくて感動して騒いじゃったから…わざわざ忙しいのに…」
紅蓮はふっと目を細めて栗栖の髪を優しく撫でる
「気にしないでいい。二人も喜ぶだろう」
5分ほどしてどう見ても二十代後半くらいに見えるコックコート姿のイケメンの双子がやってきた
「お気に召して頂いてありがとうございます」
「僕もハンバーグ大好きなので力入れました♪ あ、こちらが兄のヒロで僕が弟のゴウです」
「ゴウ、馴れ馴れしいぞ。すみません栗栖様」
まるで鏡のようにそっくりな二人が並んで挨拶している光景は栗栖には物珍しくそして人懐っこいゴウの態度がどことなく心地よかった
相変わらずヒロは仏頂面で…変わらないんだな
って…あれ?
僕はこの二人を知ってる…遥か昔から知っているような気が…
「デザートはチョコバナナパフェでよろしいですか?」
わわ、大好物じゃん♪
「では…栗栖様は特盛でお持ち致しましょう」
ふっと口元を綻ばせるヒロに栗栖は何とも言えない心地よい安堵感を覚えた
「はい、お願いします。ねえ朱璃…」
双子が部屋を出ていくと同時に栗栖は気になっていた朱璃の前世の記憶について尋ね始める
「ああ…薄々きみも気づいているとは思うけど私たちは前世からの恋人同士だ」
「続けて…」
「栗栖…きみは今と少しも変わらない澄んだ瞳の美少女だった」
えっ…美…
「そう…きみは素敵なレディだったんだよ。あれが何年前なのか定かではないが…珍しく東京に雪が降り積もった冬、俺の隣に引っ越してきたばかりのきみは妹と手袋にマフラーをして嬉しそうに
スノーマンを作っていたんだ」
※以下。紅蓮の記憶にある前世
きゃっきゃっ
「ミリィ、頭できた?」
「うん、おねーちゃん、みてみて」
「うわっ、おっきいね~でも…どうやって乗っけようか」
「あの子たち…雪が降ってるのに寒くないのかな」
窓から様子を見ていた僕の視線に気づいたきみは人懐っこい笑顔で駆け寄ってきて窓越しに話しかけてきたんだ
「あのぉ、雪だるま作るの手伝ってくれませんか? 隣に越してきたクリスティーヌです」
「え…僕が…」
「妹と頭と身体を作ったんだけど大きくてくっつけられないんです」
妹と手を繋いで救いを求めるように見上げるきみに俺はひと目で恋に落ちた
「いいよ、コート着てくるから待ってて」
「はい、ありがとう!」
マフラーと手袋の完全武装でスノーマン作りに加わったのをきっかけに僕たち三人はあっという間に打ち解けて仲良くなった
「クリスティーヌって…ぼくは外人の女性だったってこと?」
「そう…ちなみに俺はジョゼフだった」
ジョゼフ…なんだか聞き覚えのあるような…どこか懐かしい響き
「きみは人懐っこいのに好き嫌いが激しくて…俺の友達をみんな嫌い嫌いって言ってたよ(笑)」
「そうなんだ…なんか失礼なやつだね(笑)」
確かに僕は好き嫌いがかなり激しいけど…これは昔からだったのか…
てか…多分それってやきもち…だったのかも
それにしても女の子だったって…そういえば似合わないから伸ばさないけど長い髪が好きだもんな
「きみのウェーブがかった長い髪を指に絡めてキスしてる俺が浮かぶんだ…俺たちは大人になるにつれ互いの恋心に火がついて何の障害もなかった二人は自然に愛し合うようになった。
将来は一緒になると信じて疑わなかったのに…婚約を前に…きみは乗馬の最中に馬から落ちて…二度と帰らぬ人になってしまったんだ…冷たくなったきみを抱きしめながら泣き叫んでいる夢を何度も何度もみるたび涙で目覚めて気が狂いそうになった」
「落馬して…そうか…だからなのか、僕も妹も子供の頃から馬が怖くて仕方ないんだ」
「前世の記憶がそうさせるのかもしれんな…俺は物心ついた時から幾度となくこの夢を見るので一時は頭がおかしいのかと真剣に悩んだ時期もあったよ」
「父の友人の彫刻家がいてね…きみは感情の起伏が激しすぎるからそれを吐き出すモノが必要だって言われて彫刻を教えてくれた…」
栗栖は無言で話に耳を傾ける
「何故か脳裏に浮かぶのは栗栖…きみの顔と身体…だが女性だったきみを作品に反映させようとすると男の身体になるのが不思議だった。
そうこうしているうちに気づけば彫刻にのめりこんでいた…でね…うちの客人に石の愛好家がいてハーキーマーダイヤを手にすると運命の相手に出会えると教えてくれた…」
それで…店に来たのか…
「元々パワーストーンは好きだったが人には感化されない俺がその言葉を聞いてまるで雷に打たれたような衝撃を受けてハーキーマーダイヤに取りつかれてしまってね…
ありとあらゆる石屋やミネラルショーに顔を出したがなかなかピーンとくるハーキーマに出会えず…ネットで検索してたら偶然にきみの店を見つけたんだ」
「ショップにはきみの顔もハーキーマーダイヤも掲載されてなかったんだがどうしてもこの店に行きたい衝動に駆られて気になって居ても立っても居られなくなってね…尋ねずにはいられなかった」
「石が導いてくれたんだね…」
「…だな…むしろ石に呼ばれた…といったほうがいいかもしれん」
「お前に会った瞬間…子供の頃から見てきた夢が走馬灯のように蘇って失ったパズルのピースが出てきたようにすべてに合点がいき俺は全身が震えるのを堪えるのに必死だったが
『こっち、こっちだよ』って声が聞こえて振り向くと虹入りのハーキーマーがキラキラと輝いていて…吸い寄せられたように手にすると『待ってたわ…でもまだ完全じゃない…
あと二つ…弟たちを見つけて』って言われて…」
そう…だったんだ…それで…まるで熱に浮かされたようにハーキーマーを手に話しかけていたのに納得する
「これがお前に話せるすべてだ…栗栖…お前はどう思っている?」
「最初は…正直ね、かっこいいけど石へのこだわりが強くて変な人だと思ったんだ…でも初めて電話で声を聞いた時…自分でもとまどうくらいにドキドキして…
僕は人間嫌いで男にも女にも興味なくて…この年まで誰とも付き合ってこなかったのにどうしょうもなくあなたのことが気になって頭から離れなかった
いったいどんな人なんだろうって…彫刻家って聞いてどんな作品を造るのかこの目で見たくなったんだ…
だから個展に招待されて嬉しかった…なのに…」
心情を語るうちに自然と涙がこみ上げる
紅蓮は頬に伝う栗栖の涙を唇で優しく吸った
「よく泣くね…可愛い子だ…」
「わかんないんだっ、ぼくはめったに泣かなかったのに…あなたに会ってからすぐおかしくなる!」
「パフェが出来ま…」
デザートのパフェを運んできたヒロとゴウは…
栗栖の両頬を大きな手で包み込み情熱的に接吻している紅蓮に思わず言葉を飲み込んだ…




