個展…
驚いたよ! 紅蓮朱璃に気に入られるとは…クックック…」
「そんなに笑っちゃ可哀そうよ、あなた…クリちゃんらしいじゃない。クスクス」
なんだよ、ふたりして愉快そうに…
「すまんすまん、そうむくれるなよ(笑) 個展、行ってくるといい」
「クリちゃん、彼の作品見たことないんでしょう? 」
「あるわけないじゃん。名前も知らなかったんだから」
「それもそうね、じゃあ驚くわよ。きっと…」
驚く? 美知留ちゃん…もしかして紅蓮さんのファンなのか?
「はっはは、栗栖はマニアックだからな 彫刻家に興味ないもんな」
「正直興味ないけど…直々に招待されたし…」
おじきはニヤニヤと俺の顔を覗き込む
「作品よりあの人が気になるって顔に書いてあるぞ…」
「ばっ、ばかなこと言うな! 男が気になるわけないだろうがっ」
「そうだったのね…やっぱり…いいのよ、クリちゃん、私は応援するわ!」
美知留ちゃんが嬉しそうに瞳を輝かしてる…なん…なんだ…この反応…
「定休日だし断る理由もないだろう。芸術に触れるのはいいことだから行っておいで」
おじき夫婦に冷やかされながらも内心、俺の心は行く気満々だった
あの人はどんな作品を造るんだろう
彫刻も絵画も興味なかったけど…紅蓮さんの美しい指が生み出すモノを見てみたい!
こんな気持ち はじめてだ
そうだ、個展に行く前に少しでもおさらいしておくか!
ドキドキしながらググると…
なっ…!!
出てきた作品はどれもみな 男性の裸体や手や顔
しかも あろうことか俺にそっくり…
こんなことって…
「彼の作品見たことないんでしょう? じゃあ驚くわよ。きっと…」
美知留の言葉が栗栖の脳裏に何度も反復される
だからか…
それにしてもなんだってモデルが俺そっくりなんだよ…
どれだけ検索しても女性をモデルにされたモノがひとつもなかった
これって…もしかして…
一瞬Wikipediaを見ようとした栗栖は咄嗟にその画面を閉じてしまう
ドクンドクンドクン…
な、な、なんなんだ…この胸の高鳴りは
怖いのかな俺…もし、もし彼がゲイだったら…どんな顔して会えばいいかわかんないし…
そうだよ、紅蓮さんはあくまで当店のお客様じゃないか
知らなくていいことなら知らないほうがいいに決まってる!
トゥルル
びくっ…!!
紅蓮からの着信に放心する栗栖
このタイミングで何でだよっっ
い、いや、出ないのも失礼だよな…
落ち着け…落ち着くんだ…
「もしもし…」
「やあ…出てくれないかと思ったよ」
相変わらず心地いい声だな
ずっと聞いていたくなる
「あ、あの、本日はお買い上げ頂きありが…」
「そんなに固くならないで…気に入ったんだよとってもね…」
ドキッ!!
え…な、な、なっ…
「今も手のひらにいる…キラキラと嬉しそうに輝いてね…」
あ…石か…そうだよな、何勘違いしてんだよ…俺ってば!
「仲がいいからやはり一緒にお迎えして正解だったよ…ねぇ栗栖?」
「は、はい?」
「ああ、この子の名前…栗栖にしたんだ…もうひとつの片割れは何だと思う?」
「石に名前つけるの…俺だけかと思ってました…」
いきなり自分の名をつけられて驚いたせいかポロリと本音を呟いてしまった
「そう…似た者同士…だね」
「俺、モルガナイトが好きでピンク色で優しい波動が聖母のようでママンって呼んでるんです」
「ママン…」
はっ、何言ってんだ…俺…
「栗栖はマザコンか…ふふ…」
カーッ…首まで熱くなったのが自分でもわかる
ヤバい…恥ずかしすぎるだろ
話題を変えなくちゃ!
「そうだ、紅蓮さん、栗栖の片割れは何て名付けたんですか?」
「…それを聞いたんだけど…?」
ああ~そうだった! またまた恥ずかしすぎる…
「どうでもいいか…ごめんね、気にしないで」
え…気を悪くした?
「あ、あのっ! 興味なくないです、気になります! 俺も自分の石やぬいぐるみに名前つけてるんでっ!!」
「ぬい…あっはっは、あはは」
ウケてる…
笑ってるからとりあえず 怒ってはいないんだよね…
「可愛いね…きみ…」
ええぇぇっっ!!
か、か、かわ…い…い??
ノーブルなセクシーヴォイスでそんなこと言われたら…!!!
「日曜までに考えておいて…当たったらご褒美あげるよ」
「ご褒美…」
「おやすみ…」
…………
電話が切られたあと しばらく俺は放心したまままたまた眠れない夜を過ごした
※
個展当日
ついについに来てしまった
昨夜なんとか強引に寝て目も充血してないし
髪型よし、服装よし、
おじき夫婦に聞いて黒のスーツにしたけどよかったかな…
えっと…たしかこのあたりだよな
ギャラリーS…ここだ!
いた…! 紅蓮さんだ…
洗練された物腰で来場者に挨拶している紅蓮に栗栖の心臓は跳ね上がりそうになった
日本人離れしたスタイルに優雅な所作…横顔も端正だな
やっぱりかっこいいな…
「やあ! 栗栖」
入り口でぼぉーっと立っている栗栖を見つけ優しそうな笑顔を向け紅蓮はツカツカと近づいてくる
「よく来てくれたね、嬉しいよ」
あたたかい手で握手をされた瞬間…ふと懐かしさを覚える
なんだろう…この感覚
俺の手は このぬくもりを知ってる? いや、憶えて…る?
「大丈夫かい?」
自分でも気づかぬうちにハラハラと零れる涙をハンカチで拭われながらも栗栖は言葉が出てこない
なんだろう…たまならくこの人が懐かしくて…なんで今まで…離れていられたんだろう…
「おいおい、まだ失恋から立ち直れてないのか! こっちへおいで…」
入ったとたんに泣き出す栗栖を奇異な目でみている来客たちの気をそらすように紅蓮は栗栖の肩を抱いて控室に連れて行く
「飲みなさい」
椅子に座らされ熱い珈琲を渡された栗栖はようやっと冷静になっていく
「すみません…ぼく…」
あれ…いま、ぼくって言った? ずっと俺だったのに…てか…ヤバい!
せっかく招待してもらったのに思いきり紅蓮さんに恥かかせちゃった…
「綺麗な髪だ…」
瞳にかかる栗毛の前髪をそっと撫でられると再び懐かしさがこみあげてくる
「ごめんなさい、おれ、おかしいんです。自分でもよくわからなくて…こんな風になったことなかったのに…俺…」
泣きながら必死に謝ろうとする栗栖の言葉を次の瞬間 紅蓮の唇が塞いでいた




