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SMOの世界をふりかえる

 部隊と共に、北の大門から都市内部へ侵入した。その先に広がった光景に、その場の全員が息を呑む。地面一面に広がっていたのは、かつて機械種(アンドロイド)だったものの無数の残骸。強大な力で破壊された痕跡が生々しく残り、どれも原形をとどめていない。周囲には焼け焦げた跡や、氷柱が突き立ったままの場所もあり、建物のあちこちにも破壊の爪痕がまざまざと刻まれていた。


「これは……」


「周囲の警備用の機械種(アンドロイド)を、全部排除したって感じですね。目的は……どうやらクリスタルタワーかもしれません」


 サクヤの指す先には、高地にそびえ立つクリスタルタワーがあった。その方角へと続く道には、まるで導線を描くかのように、機械種(アンドロイド)の残骸が山のように連なっている。


 私とサクヤは部隊に住民の捜索を指示し、自らは残骸の散らばる道を突き進むことにした。ここで索敵を使えば、ソナー範囲内の機械種(アンドロイド)を呼び寄せてしまう危険があるため、使用は控える。

 あくまで目視で周囲を警戒しつつ、素早く前進する。


 幸いなことに、道中の機械種(アンドロイド)はほぼ壊滅しており、戦闘をせずにクリスタルタワー前の高台まで辿り着くことができた。


「うえぇ……」


「いやぁ、壮観ですね」


 眼前には、何百段とも知れない長大な階段がそびえていた。頂上まで続く果てしない道のりを見上げて、思わずげんなりする。ゲームなら、1枚絵を挟んで頂上に直行だったのに……。


 そのとき、遥か頂上で閃光が走り、直後に大爆発が巻き起こった。ここからでもはっきりと見えるほどの規模――あの威力は間違いなく、究極攻撃魔法(アルティメルスペル)だ。あの場所に、暗黒神がいる。はたして、話が通じる相手なのだろうか。もし戦いになったら、私たちは勝てるのだろうか。せめて、ドッちゃんやサクラと合流できれば、あるいは……。


「では、頑張って昇りましょうか!」


「うん、頑張ろう!」


 機械種(アンドロイド)の残骸を横目に、私たちは長い階段の踏破へと走り出した。――と言っても、このアバターの能力値が反映された身体は強靭で、思ったほどの苦行ではない。ただ、距離的な問題で時間はかかるだろう。走りながら、私は胸に引っかかっていた疑問をサクヤにぶつけた。 


「サクヤはどう思う? 暗黒神ザナファは、なぜクリスタルタワーに来たんだろう?」


「基本的に、暗黒神ザナファはアビスダンジョンの50階層に鎮座し、プレイヤーが挑んでくるのを待っている……そんな存在です。わざわざ、この国に来る理由は……正直、私にも想像できません」


 階段を昇りながら、私たちは首をひねる。私は呼吸を整えつつ、再びSMOの設定や物語を頭の中でなぞっていった――。

 

 ■世界設定

 世界の最果て、北極に位置する『ハルモニア大陸』には、100階層からなる巨大ダンジョン――『アビスダンジョン』が存在する。このダンジョンは、世界に満ちる魔力を“ろ過”する装置として機能しており、魔力から負のエネルギーだけを残し、純化された魔力を南極大陸へと再放出する。


 しかし、残留した負のエネルギーは周囲の生物をモンスターへと変貌させ、各地へと拡散していく……というのが、この世界の根幹設定である。


 ■第1章:プロローグ

 プレイヤーはアルテナの地に生まれた冒険者として旅立ち、数々のミッションをこなして冒険者ランクを上げていく。仲間と共に洞窟の奥深くへと挑み、未知の脅威――赤龍を討伐するまでが序章となる。このパートは、基本操作やキャラクター育成、仲間との共闘システムに慣れるためのチュートリアル的役割を果たす。


 ■第2章:オスロウ国編

 オスロウ国での目的は、Aランク冒険者になること。数々の依頼やお使いミッションをこなし、武具の強化やキャラクターの育成を行う。最終的な目標は、この国で開催される武闘大会で優勝することだ。


 ■第3章:隣国戦争編

 武闘大会の後、隣国ハイメス国との戦争が勃発。プレイヤーはオスロウ国、もしくはハイメス国のいずれかに加担し、戦争を収束へ導く。しかし、平和は長くは続かない。魔人の謀略によって、加担しなかった方の国が滅亡してしまう。その後、プレイヤーは魔人を討伐し、英雄として讃えられる。


 ■第4章:ギュノス国編

 ギュノス国では、防衛システムの誤作動によって都市ドームが閉ざされ、国民が幽閉される事態が発生。プレイヤーは救出作戦に参加し、4体の守護機兵(ガーディアン)を撃破して国民を解放する。続いてクリスタルタワーを攻略し、国家中枢を担うマザーブレインを停止させることに成功する。


 この過程で、ギュノス国の防衛システムが作動した原因が判明する――それは、封印されていた暗黒神ザナファの力の増大によるものだった。マザーブレインは、封印の最終防衛装置でもあった。結果として、プレイヤーの行動が引き金となり、暗黒神ザナファが完全復活してしまう。


 ■最終章:暗黒神討伐編

 プレイヤーはアビスダンジョンを攻略し、各10階層ごとに鎮座する魔人を倒しながら下層を目指す。そして、最終50階層にて元凶である暗黒神ザナファとの決戦に挑む。


 ここまでがストーリーモードの全容だ。それ以降は、随時アップデートによって物語が追加され、最終アップデートではアビスダンジョンの100階層に真のラスボス──『創造神アザドゥ』が実装された。


 私たちがこの世界に来た原因は、おそらく暗黒神ザナファとの最終決戦にある。現実世界でプレイ中、ラストバトルの最中に見た“謎の光”──あれこそが引き金だと、ギルドメンバー全員の意見は一致している。だから私たちの共通目標は、この世界に転移してきた仲間を全員探し出し、暗黒神ザナファを倒して現実世界に帰還することだ。


 この世界に来てから、ゲームとの差異はいくつも見つかった。まず、私たちはそれぞれのアバターの姿で転移し、レベル・能力値・強化済みの武具もそのまま反映されている。しかし、お金や復活薬、イベント用の重要アイテムはストレージから消えていた。要所要所を繋ぐワープポータルも存在はするが使用不能。


 さらに、声優ボイスは適用されず、なぜか地声固定。そして当然のように、五感も備わっている。なかでも一番驚いたのは、NPCの存在だ。ゲーム時代のような定型反応ではなく、普通の人間と変わらず、この世界で暮らし、人生を謳歌し、家庭を築き、息づいている。感情もあり、笑い、泣き……そして私たちとも、きちんと関わりを持つことができる。


 状態異常も違っていた。毒はただのスリップダメージではなく、精神面にも影響を与える。たとえば“下痢”の状態ではまともに戦えない──そんな具合だ。ただし、状態異常耐性はゲーム通り反映されている。そのため、お酒を飲んで”酔う”というのは状態異常と判定されるらしく、サクラが言うには並みの量の酒では酔えないから、つまらないらしい。また、SP(スキルポイント)を使い過ぎると精神に影響し、一定値を下回ると気絶する。


 最大の問題は、インターフェイスが存在しないことだ。ステータスや数値を確認できず、ログアウトもできない。死亡時の仕様も不明で、ホームポイント復帰や経験値減少といったゲーム時代のペナルティがそのまま適用されるかは分からない。それに痛覚がある以上、絶対に死にたくない。

  

 不明な部分は多いが、私たちはこの異世界に順応しつつある。そして──もう物語の半分は進んでしまった。暗黒神ザナファがこの国に現れた理由は分からない。けれど私たちは進むしかない。この世界のどこかにいるミカさんとハーちゃんを見つけ、皆で現実世界へ帰るんだ。


 ――そうこう考えている内に、私たちは高台の頂上、クリスタルタワー前へと到着した。

お読みいただきありがとうございます。

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