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レジスタンス発足

 酒場にいた冒険者たちは、手際よく動けなくなった騎士たちを縛り上げていった。私が「共犯になるから手を出さない方がいい」と忠告しても、「その時は、口を封じればいいんだろ?」と、誰もが悪戯っぽく、しかし邪悪な笑みを浮かべていた。


 ……少し前に自分が吐いた脅し文句を、今になって後悔している。もしかして、犯罪者予備軍を育成してしまったのではないか? そんな嫌な予感が頭をよぎる。そしてもう一人――ギュノス王立騎士団長、『ゴウト・ジェーソン・ハジェンズ』は、酒場の奥の別室で椅子に縛り付けられ、うなだれている。


「……それで、私に何の用でしょうか?」


 私は気持ちを落ち着かせるように深呼吸し、尋問を始める。とはいえ、尋問なんて生まれてこの方やったことがない。内心では心臓がバクバクと跳ね回り、手のひらにじっとり汗が滲む。


 映画やドラマだと、こういう時どうやってたっけ……? 喋らない相手には、爪の間に針を刺してグリグリとか、爪を剥がすとか、歯を抜くとか……いや、無理だ。考えただけで吐きそうになる。……そもそも、こういうのは咲耶に任せるべきだったのでは? 隣の部屋でシゲオ店長の治療をしながら、女性客に囲まれている彼を思い浮かべ、溜息が漏れる。


「ま、待て……部下は、部下はどうした……?」


 ゴウトが低く呻くように言う。私は表情を崩さず、静かに答える。


「縛って外に待機させています。一切、傷付けてはいません」


 その言葉に、ゴウトはほっとしたように肩を落とし、再び俯く。……しかし、その口元が微かに動き始めた。小さな声で、何やら呟いている。呪文か? 暗号か? 何を言っているのか、聞き取れない。私はそっと椅子に近づき、彼の顔の横に耳を寄せる。緊張で心臓の鼓動が耳の奥でうるさいくらいに響く。


「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……」


「……うぉ!?」


 思わず変な声を漏らしてしまった。ゴウトは地面の一点を見つめ、かすかな声で謝り続けている。目尻には涙が溜まり、今にもこぼれ落ちそうだった。


 もしかして、この人……あれか? 部下の前では態度が大きくて威圧的に見せているけど、実際は相当な小心者なんじゃないだろうか? でも、私が思いきりトレンチで殴ったのに生きていたし、肉体的には弱いわけではないのかな。


 ……いや、トレンチが先に壊れたから助かっただけかもしれない。それより、トレンチを弁償しないと……と、色々な思考が頭の中で混線していた。


「あの、泣いててもわからないので、ちゃんと答えてもらってもいいですか?」


「ギュノス国の……防壁が作動したのは、創世教の仕業だと聞きまして……そして教祖が、この町で働いていると……」


 ゴウトは今にも消えてしまいそうなか細い声で呟いた。教祖って、もしかして私のことかしら? はっきり言って、それは完全なる誤解だ。やっぱり“御使(みつか)い”なんて二つ名が、宗教絡みを想起させるのだろう。これは早急に対処しないと、面倒なことになりかねない。すべては、サクラが作った変な設定のせいだ。次に会ったら、徹底的に問い詰めてやる。


「あのですね、“御使(みつか)い”なんてのは勝手につけられた二つ名で、自分で名乗ったことなんか一度もありません。それに創世教とは一切関係ありませんから!」


「ひいぃ! ご、ごめんなさい!?」


 苛立ちまぎれに語気を強めると、ゴウトは過剰なまでに怯え、身を震わせた。……なんだか、とてもやりづらい。これでは、まるで私がいじめているみたいじゃないか。それにしても、さっきまで偉そうにしていたというのに、部下がいない状況だと、この変わり様はどうなんだ。


「……で、でも、貴女様が、ぼ、防壁が閉まる事を予知していた……と、言う証言も、その……ありまして」


「それは……、はい、言いました。私、夢で見たことが当たるんです。それを、皆が予知って言うんです」


 自分の軽率な発言が、こんな大事になるとは思わなかった。今度からは言葉選びに気をつけよう。――そう反省していると、隣の部屋のドアが開き、咲耶が入ってきた。


「調子はどうですか? なんなら私が変わりますけど」


「ひ、ひぃぃ!?」


 OLスーツに着替えた咲耶が、黒手袋をつけた拳をポキポキと鳴らしながら不敵に笑う。髪型はオールバックのままで、今はまるで美形のインテリヤクザにしか見えない。しかし、そんな咲耶もゴウトの様子にはさすがに眉をひそめた。椅子に縛られたまま、全身を小刻みに震わせて、大粒の涙をポロポロと流しているのだから。


「シノブちゃん……いったいどんな酷い拷問をしたんですか?」


 異様に怯え切ったゴウトを見て、咲耶は私の方へと視線を向け、恐る恐る問いかけてくる。その顔は、私が行ったであろうありとあらゆる恐怖の与え方を想像しているかのようだった。


「えっ!? 違うよ、私は何もしてないからね。完全な風評被害。たぶん、この人、もともと騎士団長って柄じゃないんだと思うよ」


 私は慌てて否定した。だって、本当に何もしてないし。確かに拷問方法を頭の中で想像はしたけれど、実際にやったわけじゃない。咲耶は「ふぅ」と胸を撫で下ろし、安心したような表情を浮かべると、再びゴウトの方へと向き直った。


「騎士団長、私もシノブちゃんも今回の事件には関与していません。むしろ、私たちの仲間も都市内に閉じ込められているんです」


 泣きじゃくるゴウトをあやすように、咲耶は優しい表情と穏やかな口調で語りかけた。いつの間にかオールバックを崩し、女性らしい柔らかさを前面に押し出している。――これは男性客専用の妖艶フェイスだ。サクラとは違うタイプの常時発動型特殊技能(パッシブスキル)、”ネカマの魅了”。ゴウトは完全に目を奪われてしまっている。


「ここはひとつ、協力し合いませんか? 騎士団長が采配した……という形で構いません。私たちが主戦力となり、戦いますので」


 そう言って、咲耶が極上の流し目を送る。その一撃が決定打となり、ゴウトは女神を拝むかのように瞳を輝かせ、咲耶を見つめ続けていた。


「お願いします! どうか! ――どうか私を導いてください!」


 ゴウトは再び涙をこぼしながら、深く頭を下げ懇願する。咲耶は微笑みを浮かべたまま、ゴウトを縛っていたロープをほどき、自由にしてやった。そして、彼の肩に優しく手を置き、落ち着いた声で語り始める。


「――ゴウト、ここにいるシノブちゃんは……いえ、シノブ様は創世教などと言うエセ宗教団体とは違います!」


 シノブ……様? なんだか口調と話の方向性がおかしなことになっているような気がする。私は困惑しながら咲耶の言葉に耳を傾け続けるしかなかった。


「”御使(みつか)い”という名は正しくありません。本当の二つ名は――”救世主(メシア)”です。神の声を聞き、人々を幸せに導く存在なのです! 貴方はそんな御方に、事もあろうか刃を向けたのです!」


「おお……おおおお……なんということだ。私は、私はなんて恐れ多いことを……」


 ナニコレ? なんか子芝居が始まったんですけど……。しかも”飯屋(めしや)”って。確かに私は食堂兼酒場で女給をしてますけど、それが何か?


「私たちはこれから、閉じ込められた大多数の住民と仲間を救うために、国の防壁を物理的に破壊しなければなりません。……そうですね?」


「は、はい。4ヶ所の”大門”を守る守護機兵(ガーディアン)を破壊し、閉じ込められた国民を解放しなければなりません」


 確か、ゲームの設定では40日以内――リアル時間にして40分だった。恐らくこの世界でも、40日以内で良いのだろう。その制限時間内に防衛システムを停止させなければ、対人間種用の毒ガスが散布され、ミッション失敗となるはずだ。ドッちゃんとサクラが内部で色々と動いてくれていると思うけど、ゲーム内のチャットのような連絡手段が皆無なのが痛い。


 私はそんなことを考え込んでいると、咲耶が突然、机の上に立ち、片腕を天に掲げた。


「我々は、ギュノス国の防衛システムを破壊し、国民を救い導く者! そう、レジスタンスになるのです!」


 咲耶は、これでもかというほど芝居がかった動作と台詞で、その場を支配する。ゴウトは床に座り込み、両手を胸の前で組み合わせ、咲耶を見上げて祈りを捧げていた。その姿は、まるで神の救済を仰ぐ信者そのものだった。


 こうして、ゲームのシナリオ通りにレジスタンス組織が結成された。そして私も――今日から”救世主(メシア)”という二つ名が付いてしまったらしい。

お読みいただき、ありがとうございました。

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