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ep.6

病院は宿屋から歩いて1分くらいのところにあった。

そこはどう見ても病院には見えない。

ボロい小屋にしか見えないその建物の中へ入ると受付のようなところがあった。

受付の時間は終わっているようで、そこには誰もいない。

シルクは誰もいない受付を素通りして奥に向かった。

ナースステーションのようなところもないし、そもそも誰かがいる気配もない。

「この時間は無人なんです。」

シルクは慣れた様子で奥に進んでいく。


「ソレイ、すごい人を連れてきたよ。」

廊下のつきあたりの部屋のドアを開けながらシルクは小声で部屋の中の人に向かってそう言った。

小さな部屋にはベッドが1台ギリギリ入ったという感じだった。

「ゾーマ様、ソレイです。」

シルクは苦笑いをしながらベッドに横たわる何かを紹介した。


「ほぉ??」

ゾーマはソレイと呼ばれる何かを見て首を傾げた。

そこにはどう見ても人間ではないものが寝ていたからである。

私には鱗と岩で覆われた何かに見える。

「最初は顔に少しだけ出ていただけなんですが、だんだんこんなふうになっちゃって。今はここに隔離されています。」

どうやらこれがソレイという男性らしい。

「意識はあるのかな?」

「わかりません。話しかけても返事がないので。ただ、動いているので生きてはいると思います。」

ゾーマは険しい顔になった。

「申し訳ないが、わしの持っている薬では治らんな。」

「やっぱりダメですか…そうですよね。そうだと思ったんですが、ソレイはゾーマ様の大ファンで…会わせてあげたくて…すみません。」

シルクはボソボソとそう言うと泣きだしてしまった。

「すまんな。これは病ではなくて呪いの類じゃよ。何か古い物を触ったり壊したりしとらんか?」

シルクは泣きながら思い出しているようだった。

「そう言えば、こうなる少し前に遺跡探索の仕事が…部屋が崩れてきて死にかけたって…私は現場は見ていないのですが砂だらけになって出てきたことがありました。」

「ふむ。それかもしれんな。」


ゾーマが言うには、そういう古い遺跡には宝を隠すときに呪いをかけてあったりするところがあるという。

「呪いだなんて…ソレイ…」

シルクは両手で顔を覆って泣いている。

ゾーマも残念だと言って黙ってしまった。

その時、ソレイの腕が動いて私の手に触れた。

その瞬間、何かが私の頭の中に入ってきた気がした。


金髪で青い瞳の好青年が「すまないシルク」と悲しんでいたのだ。

「ソレイさんは金髪で青い瞳ですか?」

私が聞くと「そうだよ。ユトはソレイを知ってるの?」とシルクは驚いた顔をした。

「『すまないシルク』って、ソレイさんから伝わってきたんです。」

「ユト?!ソレイの言いたいことがわかるの?!」

「えっと、どうなんだろう…ソレイさんの手を握ってもいいですか?」

シルクはソレイの手だったところを私の前に出した。

私は両手でそれを握った。


ソレイはずっとシルクに謝っていた。

そして『殺してほしい』と願っているようだった。

私はそれをみんなにどうしても言えなかった。

そうしているうちにソレイの中に黒いトゲトゲしたものが見えた。

どう見ても悪いものだった。

私は少し悩んで、それを取り出すことにした。


トゲトゲは私が近づくと抵抗するようにトゲトゲを大きくしてきた。

悪い奴らの中にあった黒いものとはまったく別の何かだろう。

本能的にこれはここにあってはいけないと感じた。

取り除くことが難しそうだったので私はそれを破壊することにした。

攻撃的なトゲトゲを1本ずつ引っこ抜いて、丸くなったその黒いものもろともギュッと握りつぶした。

潰れたそれはシュッといってそこから消えた。


私はソレイさんから手を離した。

「ソレイは?何か言ってた?」

シルクは心配そうにそう聞いてきた。

「えっと…」

私がどう説明していいか悩んでいると、ソレイの体から鱗のような岩のようなものがポロポロと取れはじめた。

シルクは「ソレイ?!何?!どうしたの?!」と叫んだ。

「ユトや、何かしたのかな?」

ゾーマも驚いていた。

「中にあった黒いトゲトゲを…やっつけたんだけど…どうしよう?ソレイさん大丈夫かな?!」


ソレイの体を覆っていたものが次から次へと剥がれていく。

私たちはどうすることもできずにただそれを見守った。

そしてついに中から人が出てきたのである。

ゾーマは慌ててソレイに毛布をかけた。

裸だったからである。


「ソレイ?」

心配そうに見つめるシルクの方にソレイはゆっくりと顔を向けた。

「シル…ク…」

ソレイはかすれた声を振り絞る感じでシルクの名前を呼んだ。

そしてゆっくりと目を開けたのである。

そこにはさっき見えた青い瞳があった。


シルクはそのまま抱きついて大きな声を上げて泣いた。

ゾーマと私はシルクが落ち着くまで黙って見守った。

ソレイはみるみるうちに顔色が良くなり、話ができるようになった。

「ゾーマ様…本物なんですね…」

ソレイは嬉しそうにそう言った。

シルクは何があったのかを順番にソレイに話した。

ソレイはある時から何かに支配されたようで記憶がないと言った。


ソレイのお腹がぐぅーっと鳴ったので、私は持っていたゾーマが焼いた硬いパンをソレイに渡した。

ソレイは「硬い…」と言いながら必死に食べている。

シルクはそれを見て嬉しそうに笑った。

シルクとソレイは何度も何度も私たちに「ありがとう」と言った。

「私も何をしたのかよくわかってないので…何かあったらごめんなさい。」

「ユトはおそらく呪いの元凶を倒したんじゃろう。何をどうやったのか、わしにもまったくわからんが。」

ゾーマはそう言って笑った。

「明日ちゃんとお医者様に診てもらってくださいね。」

私はなんだか心配で2人にそう言った。

2人は「そうだね」と嬉しそうに微笑んでいた。


「この剥がれた岩のようなもの、もらってよいかな?」

ゾーマは落ちているソレイから剥がれたものをすべてアイテムボックスに入れた。

「何に使うんですか?呪いが残っていたりしませんか?」

「ふむ。それを調べようと思う。とりあえず今はただの石ころにしか見えん。」


私たちはまた明日様子を見に来るといって病院を出た。

シルクはそのまま付き添うと言っていた。

2人はどうやら恋人同士のようだった。


「おじいちゃん、あれでよかったんだと思う?」

私は自分がしたことが良かったのか悪かったのかまだわからず不安だった。

「心配することないぞ。あのままならあの男は近いうちに死んでしまっていただろう。」

私は『殺して』と懇願していたソレイを思い出した。

「なんともなければいいな。」

「そうじゃな。明日またお見舞いに行こう。」


私たちは宿に戻り、すぐに寝た。

夜も遅くなっていたし、なんだか疲れてしまっていた。


────


翌朝、ゾーマと私は早起きをして病院に向かった。

受付にはもう人がいた。

「ソレイさんに会いたいのですが。」

とゾーマが言うと、受付にいた人が「あなた方がソレイさんを治した人ですか?!」と大騒ぎした。

「ごめんなさい!!」

私は怒られるのかと思って咄嗟に謝った。

「えぇ?!なんで謝るんですか??とりあえず先生を呼んできますので!!」

受付の人は慌てて隣の部屋に入っていった。


すぐに髭モジャの男の人が出てきて、「ゾーマ様!!」と大声をあげた。

「なんじゃ、ここの医者とはダッツじゃったのか。」

またゾーマの知り合いだったようだ。

「最近この町に来たんです。ゾーマ様が絡んでいるとさっき聞きまして。まさかこんなところでお会い出来るとは。さすがゾーマ様です。」

ダッツはウンウンと頷きながら奥の部屋に向かった。

私たちもそれについていった。


シルクも騒ぎに気がついたようで廊下に出てきていた。

「ゾーマ様、ユト、おはようございます。」

シルクは泣きはらしたような顔だったが笑顔で迎えてくれた。

部屋の中にはすっかり服を着込んだソレイがベッドに座っていた。

「おはようございます。昨日は本当にありがとうございました。」

ソレイは立ち上がり深く頭を下げた。

「もう大丈夫なようじゃな?」

ゾーマはその様子を見てにこやかにそう言った。

「はい!」


ダッツは小さな丸い椅子に座り、「いったい何をしたら治ったんですか?」とゾーマに聞いてきた。

「わしじゃなくて、このユトがやったんじゃよ。呪いを解いたんじゃ。」

ダッツはそれを聞いて「なんと」と驚きながら私をジロジロと眺めた。

私はどうしていいかわからなくてゾーマを見た。

「ユト本人も無意識にやったことなんじゃ。どうやったのか聞かないでおくれよ。」

「そうなんですね。とにかくソレイさんはもう退院して大丈夫かと思います。体力が落ちていると思うので無理はしないようにしてくださいね。」

「はい!ありがとうございました!」

シルクとソレイは私たちに深々と頭をさげて何度も感謝を伝えた。


「しかしユトさんは不思議な能力をお持ちのようですね。」

ダッツは眉間にシワを寄せて私を見ながらそう言った。

「秘密にしてくれるかの?」

「もちろんです!こんなこと貴族たちに知れたら大変なことになるかもしれません。」

「私たちも誰にも言いません!」

シルクとソレイも頷いていた。

貴族に知られたら私の力を取り込もうとする人が出てくるかもしれないと心配してくれているようだった。

「ではそろそろわしらは行かせてもらうよ。隣の島に行く予定でな。」

「また帰りにでも寄ってくださいよ!」

ダッツは名残惜しそうにそういった。

シルクたちはもうしばらく宿屋で療養すると言っていた。


私たちは病院の前で別れた。

「なんともなくてよかった。」

私はゾーマと2人きりになり、ふぅーと息を吐いてそう言った。

「そうじゃな。まさか呪いも操れるとは思ってなかったのぉ。まぁ、呪いと言っても誰かの強い感情から生まれるものだからの。」

「そっか。そう考えたら呪いも感情になるのか。」

私たちは正解もわからないので今日のところはそういうことにしておくことにした。

何はともあれ、ソレイさんが元気になってよかった。


────


漁船が行き来する港から少し離れた浜辺に出るとゾーマはアイテムボックスから船を取り出した。

小さな船だと言っていたが、私が思っていた船より何倍も大きな船だった。

ゾーマは梯子をかけて私に登るように言った。

「これで小さな船なの?!」

近くにあった漁船より遥かに大きいように見える。

「まぁ、貰い物じゃからな。安いものではなかったと思うぞ。」


船の上に上がると沖に出ている遠くの船まで見えた。

「どうやって漕ぐの?」

私はボートをオールで漕ぐイメージしかなかった。

「わしは漕がんよ。魔法でちょちょいとやれば動くさ。」

ゾーマはそう言って「出発進行!」と言った。

船はゆっくりと沖に向かって動いていった。


船に乗るのは初めてだった。

潮風が顔にあたって潮のにおいがした。

私たちは隣の島に向けて海に出た。


────



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