7話…喧嘩上等なんてマジ勘弁な話
「さっさと始めようぜー稲葉ぁ。」
内野の不良の一人が痺れを切らし始めた。名前は確か島村だったはずだ。一回ボコボコにしたから覚えてるぞ。
「おい、何突っ立ってんだよ!」
俺は転がっていたボールを拾って少し考えた。喧嘩はしねぇ。だが外野の連中をどうにかしなければ…。
すると外野の方が殴り合いを始めてしまった…え?一体誰が…。
「女子だからってあんまりあたしらを舐めてんじゃないよ!」
ドスの効いた女子の声。
「黒沢!」
「そっちは任せたわよ!」
黒沢含む数名の女子が次々と三年不良を倒していく。しかし強ぇな。うちのクラスにはこんなに黒沢の配下の奴がいたのにはびっくりだ。
まぁ外野はアレでいいとして、俺はこいつでどうにかするか。ボールを構えて、勢いよく投げる。
ボールは島村の肩に命中し、もう一人がそれを取ろうとして失敗した。二人同時にアウトになった。ミスったらマジで喧嘩するつもりだったがその心配も無くなった。良かったぜ。
「こ……これで二年四組と三年二組の試合を…終わります。」
すっかり怯えてしまった審判の生徒はドンマイって事で。取り扱えずもう一回勝てば決勝トーナメントだ。
「稲葉、次の試合は休んでろよ。」
柳川にそう言われたので遠慮なく休ませてもらう事にした。まぁ無駄に働き過ぎたな…。
「つか何で試合に出ないんだ神崎。」
「柳川曰わく、俺は決勝トーナメントで使うから取り敢えず温存らしい。」
次の試合負ける気はしないってか。次は確か二年との試合だ。つかそんなに事が上手く運ぶもんでもねぇだろ。
「ま、俺出ずにして終わるというオチを希望する。」
「お前って奴は…。」
運動は嫌いじゃないが日光に弱いらしい。今は上下とも長袖のジャージだ。
「まぁ柳川も昭葉も居るし勝つだろ。」
「だけど決勝トーナメントのために温存したいからって主力が程出てない。」
「まぁ逃げ切ればイケるんじゃね?」
「面倒だなー。」
「お前って奴は…。」
どうやらさっき別の所で三年と揉めていたらしい。四人地面に倒れていた。試合が終わるまでずっと黙ってこちらを睨むように見ていた…多分相当キレたなこいつ。今はそんな様子を微塵を感じさせないくらいダルそうにしている。
「岡田は元気だな。」
「じいさんかお前は!あ、山本がアウトになった。」
「稲葉何か飲み物買ってこいよ。」
「マイペースか!」
しかしうちのクラスは劣勢だ。
「こりゃ負けるだろ。」
折角俺が三年チームを全滅してやったのに。あ、昭葉もボールに当たった。
「寂しいな、結局俺出ないのかー。」
「嬉しそうに言うな!それにまだ決まったわけじゃねぇよ!」
「負けず嫌いだもんなぁ稲葉は。」
…確かにそうだけどよ。しかしこいつ面倒臭がり過ぎだ。努力家なのに面倒臭がりとか意味解らねぇ。
結局、僅差で俺達のクラスは負けた。柳川が、「俺の采配が間違ってた!」と言っていたが、まぁ俺が居たら勝てたかもな。…という自信はどうでもいいか今更。
「あー!試合出てないとか馬鹿じゃん!仁馬鹿じゃん!ばーか!」
「俺だって出たかったさ。今となっては仕方ない事だ。」
「嘘だ!本当は嬉しいくせに!」
「まぁな。」
昭葉が五月蝿い。まぁ今に始まった事でもないが。
「もういい!弁当食べてくるから!じゃあね!面倒臭がり細目ドS攻め男!」
「おー。」
昭葉は山本や坂井亮子達と昼飯を食ってる。たから俺はこの面倒臭がりと二人という事になる…が。
「元気を出せ戦友!お前の活躍振りは皆驚き尊敬してるぜ!」
はい来ましたウザ男。柳川巧。
「何の用…。」
俺追い返そうとして言いかけて、神崎に遮ぎられる。
「柳川今日はここか?」
「かっ神崎!すまねぇな…俺の采配のせいでお前の出番を無くしちまった…!」
「俺は気にしてない。柳川もそう気落ちするな。」
「いい奴だなぁ神崎…!」
柳川は知らない。こいつが試合に負けた事を喜んでた事を。
「そうだ稲葉!お前があんだけ働いたお陰でクラスでのお前の株が上がってるぞ!」
知らなかった。クラスでの株ってもんがあるのか。
「まぁちょっとこいって!」
俺は腕を掴まれて半ば強制的にどこかへ連れていかれた。神崎が手を振っている。畜生後で覚えておけよ!
「つかマジヤバかったよね!」
「神技だよね。」
柳川と俺は講義室を覗き込んだ。昭葉達じゃねぇか。部屋の一角で、梅宮、坂井、柏木に山崎、そして山本と弁当を食べている。
「おい、盗み聞きする気かよ?」
「なぁに、大した事じゃない。」
「いやそういう問題じゃねーって。」
「いいから黙ってろって。」
柳川に口を塞がれる。俺達は廊下に座り込んだ。幸い人通りは無い。
「稲葉君、マジで最初大丈夫かよと思ったけど裏切られたわ。いい意味で。」
「だよね!」
冷静に話すのは山崎縁、テンション高いのは柏木るかだ。柏木は確か試合の時、不良に余計な事を言ってバットで殴られそうになった奴だ。
「助けてくれた時とかマジヤバかったし!!マジ格好良くない!?」
こいつマジヤバいとしか言えねぇのか。まぁ典型的なギャルだな。
「るか結構タイプかもぉー。」
「えー。あぁいうのが?意外。」
「あぁいうのって何よー縁ぃ。だって意外とイケメンじゃない?ヤバっ!」
おいおいこんな馬鹿に好かれても吐き気しかしねぇぞ。ニヤニヤすんな柳川。
「ウチ応援するよー。」
「さっすが美香!るか頑張る!」
もしかしてこれは、俺ドンマイって奴か。そうなのか。自分のこと名前で呼ぶような女ごめんだぜ。つか女嫌いなのに…。
「だっ駄目だよハルには付き合ってる人が居るんだから!」
と、昭葉。何言ってんだコイン。坂井も加わる。
「てかウチ松野さんと付き合ってるって噂聞いた事あるけど。」
「松野さんとハル別れたよー。」
「じゃあ何!?もう彼女作ったワケ!?るかショックぅー。」
いや、多分昭葉が言ってんのは…。
「彼氏だよ!」
という妄想だ。
「またそれかよー。」
「どうせ神崎君と、とか言うんでしょ。」
「神崎君とるかなら絶対るかだもん!」
山崎と坂井はちゃんと理解していたようだ。ただし柏木は意味不明だ。柏木と神崎だったら消去法で神崎を選ぶ。
「じゃあるか安心していいわけね!」
「でも元カノあんなんだからるかなんて眼中に無くね?松野さんって所謂ボン、キュ、ボン的なさ、エロいじゃん。」
「何、じゃあ稲葉君エロいの好きなのかな。」
何故そうなる。
「意外と松野さんとやる事やって…。」
意外と山崎はこの手の話に積極的だな…。坂井も乗り気だ。たのむ昭葉止めてくれよ…。
「とにかく!るかは稲葉君気に入ったんだから余計な事言わないでよね!縁っ!」
「へーい。」
うわぁ。どうしよう俺。この女に好意持たれるなら一音と付き合った方がマしだ。マジでそうするか?
「そういや亜留美、あんたさっきから元気ないねぇー。」
山崎が言って、山本が一言も話してない事に気付いた。山本はいつものように、笑顔で返す。
「大丈夫だよ!」
「そう?まさか自分も稲葉君好きなのにるかがウザいから言い出せなくなった?」
「違うってば!」
まぁそうだろうな。…柏木より山本の方が数億倍マシだが。
「だよねー。亜留美に限ってそんな事無いよねー。」
「マズい…ウチはどっち応援すれば…。」
「真に受けるな美香っ!」
これはもう盗み聞き止めた方がいいんじゃねぇか?いや、最初からこんな事はしたくなかったけどな。
「いやーお前も人気者だなー!」
「うぜぇ。」
あれから、渋る柳川を連れて教室に戻った。途中で、クラスの連中から、お疲れだの何だの言われたが適当に受け流してやった。
「別に柏木悪くねーだろ?」
「あのな、俺は基本的に女子は苦手なんだよ。中でもあのタイプの女子は。」
というか全ての女子にああいうイメージを持っていたからな。
「彼女作るなら今だぜ?」
「いらねー。」
一度失敗したからもうこりごりだ。神崎の元に着くと、柳川がある事ない事喋り出したからたまったもんじゃねぇな。何だ、こいつも俺がエロ好きだと思ってんのか?
「でもまぁ柏木はともかく?山本もやっぱ気はあると思うんだよなー。」
「そうなのか?山本さんが…。」
「まぁ本人は何も言ってなかったけどよ、訊かれた時明らかに動揺してたよな。」
俺は冷静に対応してるように見えたぞ?マジ止めてくれよ。
「ぶっちゃけ俺誰に好かれようが知らねーぞ?」
「山本はまんざらでもないだろ?」
こいつ話聞いてないだろ。
「大体山本が俺を?有り得ねぇって。」
「いや、だってこの前二人で話してる時楽しそうだったもんなー。見ちゃったんだよな俺。」
見られてたのかよ!…じゃなくてあの位普通だろ。第一そこまで楽しそうに見えなかった。
俺は神崎に助けを求めようと奴を見たが、綺麗に目を逸らされた。
「と言うわけで!モテモテ稲葉君!頑張ってくれたまえ!」
拳骨を一発くれてやった。
ただ何か知らねーが、悪い気はしない。