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5話…ドッジボールの話

 クラスマッチって何だ?



「クソ暑いなオイ。」

「我慢しろ稲葉ァ!決めただろ優勝するってよォ!」

「決めたのはテメーだけだァァ!」

 むちゃくちゃに投げたボールを奴はいとも簡単にキャッチする。

「いいか!お前が先陣きるんだろ!この俺がお前の本気を出させてやるぜ!」

 あぁ熱血な奴は好きになれねぇ。この学級委員長…柳川巧やながわたくみみたいな。






 数日前。

「…というわけでクラスマッチは男女混合のドッジボールに決まりました。」

 生徒会の岩倉が単調な声で告げる。いや何でドッジボールなんだ。小学生じゃあるまいし。しかも男女混合って…。

「女子死ぬだろ。」

「殺すなハゲ。」

 俺の呟きに後ろの昭葉が突っ込みを入れる。この前の席替えで昭葉は俺の後ろの席になった。

「お前は殺しても死ななそうだもんな。」

「そうかそんなに後であたしの打球を体に当てて欲しいんだね。」

 そんな事したら問題になるぞハゲ。だが昭葉なら本当にやりかねない。

「というわけで、優勝狙おうぜ!二年四組のみん…。」

「相変わらず暑苦しいんだよ!」

 学級委員長として教卓に立つ柳川に突っ込む俺。

「第一ドッジボールって普通高校生がやんねーだろ。」

 つか中学でもやった覚えねぇぞ。

「生徒会に意見する気ですか?稲葉君。」 俺の前の席の岩倉は立ち上がって後ろを振り返り俺を睨みつける。なんか無駄に迫力あるな。俺も睨みをきかせた。

「おいおい、生徒会に意見しちゃいけねぇのかよ。とんだワンマン生徒会だなァ。」

「少なくとも、貴方のような不良生徒の意見は聞きません。」

 こいつの中では俺は不良生徒なのか。いや、クラスの大半がまだ俺を不良生徒だと思っているに違いないが。まぁ簡単に脱不良出来るとは思っちゃいねぇ。

 それでも不愉快だ。この女。

「差別かよ?いけねーなー。」

「差別ではなく分別です。使えるものとゴミは分別するでしょう?」


 俺達の睨み合いに終止符を打ったのは柳川だった。

「競技の変更はきかねぇんだ稲葉。わかったら落ち着こうぜ!」

「っせぇな。てめぇ黙ってろ。俺はこの女の言い方が気に食わねぇだけなんだよ。」

 クラス中の視線が俺に集まった。恐怖の目。汚いモンを見る目。ひそひそと話し声も聞こえる。

「稲葉君所詮不良だよね。」

「マジ怖。消えろっての。」

 誰だ今の女子。クラス中を睨みつけようとして昭葉に肩を叩かれる。

「昭葉…。」

「柳川君ー。この馬鹿を試合で先陣きらせてやってくんない?」

 何言ってんだ昭葉。つか馬鹿って俺の事か!?

 昭葉は俺の胸倉を掴み顔を寄せると小声で言ったー

「クラスに認めてもらいたいならこんくらいやんなさいよ。」

「てめぇ…。」

「それともスポーツで本気出すのはダサいってつまんない考え方未だに持ってるのかなぁ?」

 ニヤリと笑う昭葉。いつもの卑猥な事を考えている笑いとは違う、挑戦的な表情だった。

「良し!稲葉は運動出来そうだしな!練習すればいいだろ!優勝狙おうぜ!」

 暑苦しいな。だがスポーツで本気出すのも悪くねぇな。

「わかった。」

 クラス中の驚きの視線を無視し、柳川に言った。







 元々体を動かすのは好きだ。ボールを扱うのもワケない。ただ柳川が暑苦し過ぎる。まぁどうでもいいか。

 柳川もそれなりに。奴は剣道部で体力も筋力もある。

判断力もあるし勉強も出来るらしいから伊達に学級委員長やってはいないんだな。…ウザいけど。

 昭葉は流石ソフトボール部スタメン。意外と力ある。ソフト部がクラスに何人か居るが一番出来るんじゃないかコイツ。

 神崎が意外過ぎる。まぁ何でもこなす器用な奴だけどここまで神がかったボールの扱いをされると俺の立場が無い。まぁ本気出さないだろうが。

 俺が水道で顔を洗いタオルで拭いていると一人の女子が声をかけてきた。

「お疲れ様、稲葉君。」

「……山本。」

「いやぁみんな凄いね。」

 山本亜留美も練習に混じっていた。山本は…まぁ女の子なんだなぁ、と。

「私避けるので精一杯だよ。」

 相変わらず常にニッコリと笑っている。ただ、昭葉が以前なんとなく言った事を思い出す。


『あるみんってさー。笑ってるようで笑ってないよね。影あるっていうかさ。ハルどう思う?』


 そう言われるまで気づかなかった。昭葉は同じ部の神崎にも訊いたらしいけど。まぁ興味無さそうに逸らされたというのがオチってわけで。

 山本がふとつぶやく。

「みんな楽しそうだね。」

 校庭では柳川達のはしゃぐ声。

「お前は…。」

「ん?」

「お前は楽しくねぇの?」

 一瞬、虚を突かれた顔をする。その隙を隠すかのように直ぐ何時もの笑顔に戻る。貼り付けたような、違和感のある笑顔。

「やだなー。変な事訊くね。早く行こうよ。みんな待ってるよ。」

「………応。」

 先に走って行った山本を追い、俺は柳川達の元に戻った。






「あれ、神崎が居ねぇな。」

「仁なら部活あるから行ったよ。」

「あ、私も行かないと。」

 見ると、クラスで陣取った練習場所には俺と柳川、昭葉と山本しか居ない。

「なんなら今日はここまでにすっか!んじゃ散開!」

「解散だろ。」

 さり気なく柳川に突っ込むと、薄い革鞄を手に取り、一同に手を振る。

 ふと、喉が乾いたと思い、自販機に向かった。そこには、黒髪を二つに結った女子が居た。名前を覚えてねぇがウチのクラスの奴だ。

 少ししか話した事が無いから何も言わずにアクエリアスを買おうとすると、そいつに話かけられた。

「ドッジボールの練習かい?アンタの柄じゃあ無いねぇ。」

 随分変わった口調だ。つかそいつこんな話し方だったか?不思議に思い黙っていると、近づいてきた。というより迫って来た。何だ。

「あたしを忘れたとは言わせないよ、稲葉晴明。いや、狼イナバ。」

 うっわ、今更ダサい二つ名で呼んで来たよこの女。まて、こいつもしや…。

「黒沢…。黒沢愛か?」

「そうだよ。」

「黒沢愛。中学時代、近辺の中学の不良女子を統一したカリスマ(笑)女裏番長。高一の時は学年の不良女子を裏でまとめ、不埒な男子を成敗していた。通称、御台様。大奥かおい。群れて大変だなぁ。」

「稲葉晴明。中学時代、適当に不良を倒しいつの間にか学校最強(笑)に。金をくれる代わりに喧嘩を請け負うというのを去年までやってた。通称、狼イナバ。仲間が少なくて可哀相に。」

「人の過去を…。」

「アンタが先。」

 睨み合う。女の睨みなんて大した事無い。…が、こいつは凄みがある。

 黒沢が先に止め、溜め息をついた。

「私もアンタと一緒。不良止めたの。だからアンタが余計な事クラスの連中に言わないようにナシつけとこうと思ったけど。私の事よく覚えてなかったみたいね。」

「ったりめーだ。てめぇは裏番長だったし喧嘩してない奴に興味ねぇよ。」

「一音とは別れたようね。」

 いつの間にか口調が変わっている。そんな事より何故一音の話が。

「一音は私の仲間だったの。アンタに惚れたとかで抜けてね。心底アンタを憎んだわ。」

 やはり一音も不良の仲間か。つか俺あいつに何もしてねぇしな…。やったっちゃやったが。

「私は一音が好きなの。」

「…………へぇ。」

「だからもう出だししないでよね。」

 あぁ、モロに勘違いしてらぁ。だから正直に言った。

「安心しろ。俺別にあいつを好きとか思った事ねぇし。」

「最低!」

 黒沢の拳が俺の腹を命中する。女だからとて舐めるのは間違いな力だ。

「いや矛盾してんぞその反応!」

「まぁいいわよ。まぁ一音がアンタについて私に相談するのは嫌だけど。」

 そう言うと、自販機のスイッチを押し、烏龍茶を出す。

「じゃあね。」

「あ、おい!」

「ご馳走さま!」

 颯爽と駆け出す黒沢。そう言えば、小銭自販機に入れたままで…。アクエリアス買おうとして…。

「やられた…。」

 






 当日もこんなに暑いとは思ってなかった。すでに、暑さで女子連中がダレている。一人を覗いて。

「っしゃー!コノヤロー!やるからには優勝よ!ハル!」

 いつも以上にテンションの高い昭葉。意味わかんねー気合いの入れ方だ。だが。

「確かに、負ける気はしねぇなぁ…。」

「良し!それでこそ稲葉だ!いくぞ稲葉!俺達が狙うのは優勝だ!」

 相変わらず暑苦しい柳川。何故かすでに汗臭い。

「優勝か…難しいかもしれないな。」

 いつの間にかそこに居た神崎が、柳川に対戦相手表を渡す。

「な…!いきなり三年が相手…だと…!?」

 柳川のリアクションがうぜぇ。しかし、いきなりの負けも勘弁だな…。

 表を見ると、相手のメンバーの名前が書いてある。

「稲葉…。」

「おー。わかってらぁ。」

 神崎が心配そうに俺を見るが、普通にしてりゃ大丈夫だろ………対戦相手に以前俺がボコボコにした不良連中が居ても。







「久々じゃねぇかぁイナバよぉー!」

「今度こそ殺すぞっらぁ!」 …神崎が心配した通りだ。シカト決め込もうとしたが連中が絡んでくる。

「てめーらのクラス皆殺しな!」

「ひゃはぁぁぁぁ!」

 なんかうざいぞこのチンピラ共。女子が怖がってんな。

「俺が当てた女子は俺のモンな!」

「男子は問答無用で殺ーす!」

「ひゃっひゃっひゃっひゃっ!」

 唾を吐いてくる。何故か持っていたバットを地面に叩きつける。あぁ、こいつら殴りたくなってきたが我慢だ。

「マジ不良超うざ。きも。」

 女子の一人が呟いた。

「誰だぁ今キモいっつった奴ー。」

 その女子がビクッと不良の一人を見る。そいつはバットを持っていた。

「お前殺ーす!」

 ゆっくりと女子に近づく。その女子も周りも硬直して動かない。不良がバットで女子を殴ろうとしたので、俺は動いた。

 大股で不良に近づき、腕を掴む。バットごと地面に叩きつけて、動きを封じた。情けない声を上げて、ダサいメッシュ頭を地面につけた。

 不良から離れると、殴られそうだった女子を見る。コイツも阿呆だな、と。

「あんまコイツらを挑発するような事ぁ言うなよ。みんなもだ、試合中特に何をするかわかんねーぞ。まぁ俺が居るせいなんだけどよ…。」

 起き上がったさっきの不良がバットを俺に背後から振り下ろそうとする。ギリギリの所でバットを掴み奪うとそこらへんに投げ捨てた。

「わかったら試合しようぜ。」

 つか審判の生徒何やってんだよ。さっきからビクビクしてたが、柳川が始めるように促すと、やっとホイッスルを吹いた。





≫≫≫人物紹介


柳川巧やながわたくみ


誕生日:8月4日

身長:178cm

部活:剣道部

容姿等:制服の着こなしは稲葉みたいな感じで、私服もジャージが多い。

案外似ている二人(笑)


その他:学級委員長。ウザいだけではなく人望もあるようだ。


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