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3話…いい奴の話


「やっぱ悪かったか…。」

 先程の言動をやや後悔しながら、楽器の準備に取り掛かる。

 細長いケースから、俺の愛器が現れる。この部で唯一の銀色のトロンボーンだ。

「何が悪かったんだよ?」

 今部室に居るのは俺と…打楽器担当で同級生の萩本知成だけだ。萩本とは同じクラスだった筈だ。多分。

「別に。」

「またソレかよー。たまには相談しろよな?」

 こいつの事をざっと言うと軟派だ。砕けて言うとどこかチャラい。でも楽器の腕は確かだ…。

「つーか山本ちゃんと同じクラスだったなぁオレら。なんかラッキーだわ。」

 髪を明るい茶に染めていて(因みに俺は若干暗めだ)ワックスで癖をつけている。あと見た目に関して俺が言えた事じゃないが制服の着崩し様が酷い。これは許せない。…まてよ?こいつ今何と言った。

「可愛いよなぁー。な?」

「別に?」

「うぉい!?冷たっ!」

 大袈裟な反応だな…。この男にはうんざりする…

 だが…この軟派野郎は俺が部室に来る何分も前から来て基礎練習をしていた努力家でもある。

 それに普段は人当たりも良く友人も男女共に多い。俺もこいつみたいな性格だったら今みたいに後悔しないのだろうか。

「つかウチのクラス可愛い女子多くね?あ、お前興味無いか。もったいねーなぁ。」

「おーそろそろそういう話止めた方がいいかもしれないな。」

「何?」

 音楽室に向かって走る音。聞こえて間もないうちに山本さんが駆け込んできた。

「神崎君!」

 何だろう。慌てた様子で俺を呼ぶ。

「ちょっと来て!」

「どうした?そんなに慌てて。」

 俺の腕を掴もうとした彼女の手を避けるように半歩下がる。

「さっきの所で稲葉君が…。」

 そこまで聞くと、さっき居た渡り廊下まで駆け出した。






 俺が着いた頃には全てが終わっていた。傷ついた稲葉が壁にもたれかかって座っている。

「稲葉…………!」

「おーう。安心しろ。防御しかしてねぇよ。」

「かなり怪我してるじゃないか。」

 俺が先に行かなければ加勢出来たのに。

「神崎ぃ。俺は変わったぞ。」

 稲葉は笑う。

「自分の為に殴らねぇ。もし殴るとすれば…………お前の為だ。」

俺もだよ、稲葉。だが…………。

 稲葉にそっと寄りかかると肩を支えた。ゆっくりと立ち上がり、そしてニヤリと笑って言った。

「…………なんて言うと思ったか?」

「思わないな。」


 お前は自分以外の誰がの為になら殴れるんだろ?


 俺もだよ。





 どうしても保健室に行きたくないと言うので、俺は校門まで稲葉を見送った。

まぁあまり酷い怪我ではないようだ。

 頭上からトランペットのロングトーンが聴こえる。この澄んだ高音は山本さんだ。そろそろ部活に行かなければ。

「じゃあ稲葉。俺は部活があるから。」

「…まて。」

 校舎に戻ろうとして呼び止められ、俺をじっと見る立ち尽くしている稲葉を背中越しに見る。

「どうした?やっぱ保健室行くってか。」

「そうじゃねぇって。」

 稲葉は俺に歩み寄って何故か胸倉を掴んだ。

「昭葉には…このこと言うなよ?」

「わかってるさ。」

「あと…。あの女子にはちゃんと謝っとけよ。あれはいい奴だ。なのにあんな言い方しやがっててめー。」

 こいつ…。

 俺は胸倉の手を払うと、稲葉の頭に手をのせた。

「…………何を…。」

「人の心配するなって。お前は自分が変わる事を考えていればいい。」

「頭の手をどけろ神崎…。」

 なんやかんやでこいつもいい奴なんだ。今まで散々暴力奮って来たこいつも。

 頭にのせた手で髪をぐしゃぐしゃに掻き回すと(流石に睨まれた)稲葉から離れて再び校舎に向かう。

 背後の稲葉の視線を感じる。俺は振り返らずに手を振ると、稲葉は帰ったようだ。







 音楽室に戻ると既に殆どの部員が音出しをしていた。

 俺もトロンボーンの音出しを始めようと廊下に向かうと、山本さんに話しかけられた。稲葉が無事だった事を伝えると、彼女は安心したように微笑む。

「稲葉君ってほら、怖いイメージあるけど実際話すといい人っぽいって思うよ。」

 まぁ実際そうなのだから。

「神崎君仲良いんだね。中学の時から?」

「そうだな…。なんやかんやで一番つるんでるな稲葉とは。」

「いいな…。」

 何を羨ましく感じるのだろうか。

「中学転校しなけりゃ良かったかなー。」

「え?」

 山本さんは俺達と途中まで同じ中学だった。転校先で何かあったのか。

「いや、こっちの話。…さっ部活部活。基礎練あるから行こっか。」

 山本さんは音楽室内へ促し先に行こうとした。何を思ったのか俺を彼女の肩を掴んだ。

「…神崎君?」

「さっきは悪かったな。」

 意外とすんなりと言えた。山本さんは俺の真顔を凝視した後笑った。

「そこまで笑うことは…。」

「全然気にしてないって!」

「いや話があったんじゃないかなと思ってさ。」

 相変わらず笑いながら言った。

「同じクラスになって嬉しいって。」

 そして呆然としたままの俺を残して音楽室へ入っていった。




≫≫≫人物紹介



神崎仁かんざきじん


誕生日:4月2日

身長:180cm

部活:吹奏楽部、トロンボーン


好き:音楽、運動、勉強、睡眠

嫌い:弱い男子、面倒事


容姿:若干茶色い髪。少し長め。制服はちゃんと着る。ちゃんとお洒落もする。ジャージは絶対着ない。稲葉とは対照的。



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