33…行き過ぎた友情の話
なぜ私立高なのに修学旅行が沖縄でもなく海外でもなく長野でスキーなのか。なんて考えてたが実際やるとハマるもんだぜ。
「稲葉は運動神経良いよなー。」
「教えろよ稲葉ぁー。」
などとクラスの男子が寄って来るのもまぁ悪くはねぇ。
「神崎、お前が教えろ。お前上手いだろ。」
少し離れた所に居た神崎を呼ぶと、面倒臭そうに近づく。
「いや、やっぱ良いや。」
「じゃあまた後でな稲葉。」
そう言って何故かそそくさと離れていく男子供。神崎もまた面倒臭そうに戻っていった。
「いや、正直神崎って何考えてっかわかんねーし。」
そう言ったのは、さっきの男子供の一人、野球部の佐藤だ。うんうんと頷いた西原も鳥羽も佐々木も野球部だ。
「安心しろ。俺だってわかんねぇよ。だって見てみろ。今女子に絡まれてるだろ。」
教えろとせがまれてるようにも見える。
「あー黒沢達じゃん。」
「黒沢もおっかねー。」
「黒沢とまともに話せる男子ってお前と神崎位だよな。」
「よし、俺らも舐められないように練習すんぜ!」
佐藤の一声で野球部連中が練習し始めた所で、黒沢達の所に向かう。
「なかなかじゃないか黒沢。」
「はっ…舐めんじゃないよっ!」
「愛さん素敵ッス!」「格好いいッス!」だのなんだの囃し立てる女子に囲まれた黒沢と神崎。しかし相変わらず女子に人気な黒沢だ。
「全く、あの二人がお似合いだと思うのはあたしだけかしらね。」
輪から少し離れていた一音が俺に寄ってくる。
「そうか?つか奴には山本が居るからあまりそういう事言うのは控えろよ。」
とは言ったものの…一音の言う通り似合ってるな。黒沢と居る時の方があいつらしいというか…つかあいつらしいって何だ?
そんな事をぼんやり考えてたら、背中に雪をぶつけられた。振り向くと萩本と前島達がスキーを止めて雪合戦をしている。
「…ふっ………いい度胸じゃねーかてめぇらぁぁ!」
スキー道具をその場に捨て、連中の元に走る。呆れる一音を後目に雪合戦に加わった。
「明日絶対筋肉痛だわ。」
ホテルに戻ると、先に萩本がくつろいでいた。
「情けねーなおい。」
「俺体力ねーもん。」
萩本は身長もそこまで高くなく(俺が言うのもあれだが)、投げ出された手足は細い。色白でいかにも文化系男子だ。
「おい稲葉、知成を変な目で見んじゃねーよ。」
「見ねぇよ!」
前島はベッドに転がり携帯を弄っている。
「逸樹は疲れてねぇの?」
「そんなもやしじゃないよ俺。」
そう言う前島は、萩本と正反対というか。背も高くて二人並ぶと萩本が女子に見える。…そうか、だから昭葉にあんな風に見られるのか俺と神崎は。嫌に納得してしまったじゃねぇか。
「知成、柳川の部屋何処だっけ?」
「305だけど…」
「サンキュー。」
そう言って部屋を出ようとする前島の腕を何故か掴む萩本。
「何?柳川に用事?」
「まぁな。どうした知成、何か必死だな。」
笑っているようで、目は真剣な萩本。嫌がっているようにも見える。
「いや、最近柳川と仲良いよなーって思ってさぁ…。」
「だからって様子がおかしいな。帰ったら構ってやるから。寂しがりだなお前は。」
萩本の頭を軽く叩くと、前島は部屋を出た。立ち尽くしている萩本になんとなく訊いてみる。
「お前…、柳川嫌いなのか?」
一瞬、肩をビクッとさせ、こちらを向いた萩本は明らかに焦っていた。
「別にそんなんじゃねーよ!」
「じゃあリアルに嫉妬か。てめぇなんか昭葉のネタにされろ。」
冗談ぽく言ってのたが、何故か肩を掴まれた。そして引き寄せられる。
「何を…。」
「柳川は怪しいんだよ。」
「あぁ!?」
「デカい声出すなっ。」
いや、出さない方がおかしいだろ。怪しいだと。何を根拠に…。
「選挙の不正だ。実行委員をしてた元会長の沢木先輩を知ってるな?」
「あぁ。あいつか。」
「あの先輩に…。」
萩本何かを言おうとした時、神崎が入ってきた。
「何話してるんだ。」
「いや…ちょっとな…。」
「神崎、お前、生徒会長を降ろさせたくないか?」
俺がごまかそうとしたのにいいのかこいつ。
「柳川だけじゃない、白石もグルだ。グルで選挙に不正で当選して、学校の権力を牛耳ってるんだよ。」
「うん。」
「元会長の沢木先輩が独自にこの事を調べて俺や他の生徒会メンバーに協力を求めてんだ。」
「うん。」
「だからお前も…って聞いてんのか?」
確かに。さっきから返事がテキトーだな神崎は。
「別に不正あろうがなかろうが柳川がトップだっただろうさ。それに権力牛耳ってたのは沢木の時も同じ。」
「そうだけど…。」
「やりたきゃ勝手にやれ。俺は興味無い。」
そう言うと思ったぜ。
「諦めろ萩本、こいつはこんなんだ。」
「チッ。だろうよ、だって神崎は暴力事件起こして生徒会長辞めさせられたんだもんな。」
吐き捨てるように言ったのは、あまり当事者以外には知られてないハズの…。
「てめぇ、それ何処で知った。」
神崎より先に、萩本に掴みかかる俺。
「神崎が問題を起こして辞めさせられた」というのなら同じ中学の奴は勿論、そいつらから聞いた奴は知っているだろうが、「暴力事件」というのは知られていないハズじゃないのか。昭葉や俺だって知らなかった。
「サイトで…。」
「あぁ!?」
襟を絞める手が強くなる。
「この学校の人が結構見てる裏サイト…。」
「知ってる。」
そう言ったのは神崎だ。
「最近何故か俺の事がサイトで噂になっていたのは知ってる。」
「んな…。」
驚く萩本。そりゃそうだな、こいつ平然としてるし。
「俺だけじゃないだろ、萩本。」
「まぁな…。山本ちゃんとか…黒沢さんとか、逸樹とか…。」
前島も?何でまた…。
「そして他校の奴にも広まってんだよ。不良共なんかそれをエサに動いてるしな。」
だから前島も狙われていたのか…。
「神崎…あの…ごめん…。」
「ん、俺についての噂は事実だし、言い訳するつもりも無い。書き込みしてないなら気にするな。そしてなるべく見るな。」
うなだれている萩本を横目に、神崎は携帯を弄り出した。
稲葉も神崎も眠りについたようだ。俺も眠りにつこうと布団に潜り込んだら、隣のベッドの逸樹の手が伸びてきて、布団を剥がされた。
「おわっお前何すんだよ!」
「言ったろ、構ってやるって。」
「だけど今夜中…うわっ。」
笑いながら俺のベッドに入ってくる逸樹。そして体をくすぐってくる。
「何、するんだ、よっ!」
「まぁまぁ。久々に一緒に寝るからさ。」
そう言って、俺の上に覆い被さる。
「なっ…………。」
「お前さぁ、沢木とコソコソ何やってんの?」
「っ……!?」
「驚いてんな、知らないとでも思ったか。」
知らないと思うわ普通。つか何で知ってんだよおかしいだろ!
そして顔を近付けんなよ。何なんだよ、サイトで書かれてるような事止めたんじゃないのかよ。
「沢木は危ない。」
「柳川のが…危ねぇ…だろ…。」
「そうかい。」
逸樹の顔が更に近付く。止めろ、と思った瞬間、口付けをされる。
「んッ……!?」
女性経験もあるのか、こいつ、前よりやり方が上手くなって…じゃねぇ!
「んッ!んふッ…、ん…。」
嫌な音を立てて、口内が舌でかき回される。
「…ッバかぁ!何して…あ…。」
抵抗しようとしても無駄だった。力が強い逸樹の奴。もやしな自分が憎い。
シャツを捲られて、白く薄い胸が露わになる。逸樹は一瞬笑うと、俺の無いに等しい胸を舌舐めした。
「何する…んッ…やめ……はぁッ…。」
「相変わらずじゃないか。」
女みたいだと言いたいのか。
「いつきっ……ぁん。」
「知成、良い?。」
「なに…。」
俺の上半身を起こし、ジャージとパンツを下ろす。指を舐めると、逸樹は俺の後ろの穴にそいつを入れた。
「あッ…ばかなにして…!!」
「お前これ好きだろ?」
「いやッ、はぁん、やぁッ…ぁんッ…」
覚えてたのか、俺の感じやすい所をくにゃくにゃと押す。俺の前も限界で、逸樹のジャージにぶっかけてしまった。
つか何でこいつの起きてねぇの腹立つ。
「いつ…き、そこ…あぁん…。」
「簡単に感じやがって。」
畜生、何でだよ。
「いつき、きもち…いい。」
俺は逸樹に抱きつくと、ゾクゾクと感じる快楽を、甘んじて受けた。
駄目だ、俺は本当は女の子好きだし、彼女欲しいしヤるなら女とが良い。でもどうしても逸樹と居ると駄目だ。
そんな駄目な俺を逸樹は優しく抱きしめた。
「………前島が両刀で…へぇ。」
「全く、嫌らしい裏サイトだわ。」
憤慨しているようにも見える一音。前々からこのサイトを知っていたらしく、丁度管理人を突き止めようとしているらしいが。
「また黒沢から頼まれたのか?」
「違うわ。まぁ愛だとしても言わないわよ。」
「そうかい。」
そして気になってた奴の事を訊く。
「前島って…どんな奴?」
「優しいわよ。真面目だし、Sっ気あるけど基本良い人。」
一音が俺以外の男子を誉めるの初めて見た。
「勿論、性癖については知ってたわ。前島君と仲良い人はそれも踏まえて仲良くしてるし。」
そんなもんなのか。ただ前島が信頼されてるのか。
なんとなく眠気の残る体をベッドに預ける。生徒がまだ朝食を食べている中、俺と一音は先に食べ終わって今こうして俺達の部屋に居る。
「しっかしなぁ、前島はともかく、神崎や山本が絡むと白石が怪しくないか?」
「同意、チェーンメールもそう。」
「何?何なんたよあいつ何がしたいんだよ。」
山本を独占するためにそこまでやるか?そんな事で…と考える俺は甘いのか。
「白石なら任せなさい。あたしが徹底的に絞り出してやるわ。」
何故ここまでこいつが関わるのかと思うが、一音は感情で動く奴だった。そして、俺も巻き込まれそうなのは何故だ。
二日続けのスキーは流石にキツい、と思っていたが俺の体力は流石なもんだ。
「稲葉って運動部入ってねーから勿体無いよな。」
そうぼやく筋肉痛らしい萩本は、座りながら俺を見ていた。
「お前、今日は一人なんだな。」
萩本はさっきから前島達と離れている。
「逸樹は柳川んとこだよ。」
「またか。」
「どうしよう稲葉、逸樹絶対、柳川に騙されてるぜ?」
そんな大袈裟な。それに柳川は騙すような奴なのか。
「そういや神崎も居ないな。」
萩本に言われて、スキー場を見渡しても神崎が見当たらない事に気づいた。最近フラフラしてるから気にならなかったが。山本も一緒かと思ったが、山本は黒沢達と居る。仲良くなったようで何よりだが、何か違和感を感じる。
「あいつ、何考えてんだろーな。」
「山本の事じゃねぇの」
「俺はそうは思わないぜ。」
萩本も黒沢と同じか。あいつはそんな良い奴じゃない。今までの行動が全て、山本のために繋がるなら、山本以外にとってあいつは偽善者だ。
「正直何考えてっかわかんねーよ。」
わかろうとしてないのもある。
「何かわかるな。逸樹も何考えてるかわかんねーし。」
「前島?」
「柳川と白石側に付いてんのも理由があるのかも…。」
柳川と白石側?
「そりゃどういう…。」
「だから、生徒会であの二人がグルなんだよ。前島も柳川ときっと…。」
「きっと……?」
「柳川と白石の企み…俺と沢木先輩と止めてやる。逸樹の為に……。」
話を聞く限り沢木も胡散臭い気もするが、まぁ俺の知った事でも無いのかもな。
珍しく神崎が付き合えというので、夕食後、ホテルの土産屋に向かう。
神崎が土産とは珍しいと思ったが、後輩と離れて暮らす家族にらしい。
「妹居るんだよな、どんな奴?誰に似てるとか。」
「…………俺に似てる。」
昭葉が以前「仁を女体化したらすんごい美人!黒沢さんみたいな!」と言っていた。妹はさぞ美人なんだろう。確かこいつの実家の近くの女子高に通ってるから会う事も無いと思うが。
妹に何をあげるか頭を悩ますこいつを見て、ただ普通に良い奴なんじゃないかとも思う。
でも黒沢をあんなに変わらせたり、山本のために手段を選ばないあいつを見ると恐ろしく感じる。
まぁ一音を捨てた俺なんかよりずっと良い奴なんだが…………。
「あれー、稲葉じゃね?」
間の抜けた声がして、思考が止まる。声の方を見ると、昨日絡んできた他校の連中だ。
神崎はまだ気付いて居ない。俺はまた面倒事になるのは嫌なので、土産物屋から出る。昨日と同じ所に向かうと、また連中に囲まれた。
「今日こそ前島を出してもらうぜ?」
「あいつ何も覚えが無いと言ってたぞ。」
小柄の奴にそう言うが、引き下がる様子も無い。いっその事前島を渡すか。俺関係ねーし、あいつ腹立つし。だが面倒だ。
「自分達で探せば良いだろ。」
「あぁー?舐めてんのか?」
俺に掴みかかろうとする一人を、小柄な奴が止める。
「止めろ、お前らじゃこいつに勝てない。」
「何だと!」
「それに、神崎が居るかもしれないだろ?」
そう小柄の奴が言った時、一瞬連中に走る同様。
「何だ、俺より神崎が怖いみたいな言い方だな。てめぇ何モンだよ。」
「久しぶりだな。」
包囲網の外側から神崎の声。神崎がこちらに歩み寄ると、連中が道を作るように退き、小柄な男と相対した。
「神崎、一体どういう…。」
「久しぶりだな仁!会いたかったぜ!」
急に小柄の男の顔つきが変わり、やけにテンションを高め神崎にすがりついた。神崎は動揺もせず奴を引き剥がすと、ため息をついた。
「何のつもりだ。」
「修学旅行が一所の場所だった。偶然だよ、嬉しいなぁ。」
睨む神崎と笑う小柄な男。わけもわからずに突っ立っていると、神崎に肩を掴まれた。
「下らん、帰るぞ。」
小柄な男の笑い声を聞きながら、急ぎ足で立ち去る神崎を追う。
「なぁあいつ何なんだよ。」
再びため息をつく神崎。
「お前も一度聞いたよな。」
「は?」
「橋本浩輔。中学の時の友人で事件に関わった白石の仲間だ。」