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32話…修学旅行がつまらない話


「ポッキー食うか?」

「悪い、俺トッポ派なんだよ。」

「いいからバス乗って早々お菓子食うなお前ら。」

 只今絶賛修学旅行中だ。現地で色々観光をした後バスでホテルに向かっている。糞疲れたぜ全く。

 通路を挟んで隣の連中は元気が良い。ポッキー派の萩本とトッポ派の前島は、俺と隣の神崎にも勧めてくる。

「つかお前ら甘い物食べるイメージ無いんだけど。」

 前島が言うのももっともで、俺は甘いのはあんまり好きじゃない。神崎は違ったよな。と、隣に訊く。

「お前は甘いの食べるし自分でも作るよな?」

「ん、まぁ。」

 短い返事だなおい。ヘッドフォンで耳塞いですましやがって。

「バレンタインに沢山作って、自分にくれた女子にその場で返す最低な奴だからな。俺目の前でそれ見てたけど可哀想だったなー女子が。」

 マジか萩本。隣を見るとやはり音楽を聴いていてこちらは無視だ。

「それは不粋な。」

「だろ?」

「ただ知成が言うと僻みにしか聞こえない不思議。」

「おっ覚えてろ!」

 萩本と前島、仲良いのはわかるがあまりベタベタし過ぎじゃねぇか。昭葉の餌食になっても知らねー。まぁもう既にターゲットにされてそうだが。

 その昭葉は、後部座席でソフト部の連中と喋っている。

 まだ山本の奴と話せてないのか。まぁ仕方ないだろうが。

 そんな事をぼんやり考えていると、後ろで軽く騒ぎが起きていた。

「松野さん大丈夫!?」

 山本のその声で後ろ辺りの座席を見ると、俯いてビニール袋を凝視している一音に、一音の背中をさする山本、一音を支える黒沢の姿。

「大丈夫かよあいつ。」

「心配?」

 何故か神崎が訊く。

「別に心配じゃねーし!」

「ムキになるなよ。」

 近くのコンビニでバスが緊急停車すると、神崎は一音達の元に向かう。

「座席を俺達と替われば良い。前の方が良いんじゃないか?」

 こいつ…。

「わかった。あっありがとう!」

 明らかに顔を紅潮させている黒沢。コイツも大丈夫か。

 こうして山本と一音が俺と神崎と席を替わった。ん?これは良いのか?俺達と通路を挟んで黒沢が隣同士なわけだが…。

「ま、体調悪い子の世話はあたしには向いてないからね!」

「顔色変だな。大丈夫か黒沢。」

 顔を覗く神崎の頭を叩く黒沢。

「うるさいバ神崎!」

 吹いた。今、盛大に吹いた俺。バ神崎は初耳だ。

 そして黒沢、俺はお前のカミングアウトに立ち合ったんだぜ?神崎は勘が利くから案外気付いてたりしてな。







 案外ホテルの一室は広く、眺めも良い。まぁ眺めなんぞ興味無ぇが。

 荷物を整理していると入れた覚えの無いものが出てきた。これは…。

「母さんの…………下着か?」

「うわっ稲葉何入れてんだよー!」

 恐らく間違えて入れたんだろうな。だって昨日洗濯物取り込んだし。萩本のオーバーアクションが喧しいが別に動揺する事でもない…ハズだ!

「ほう…結構若向けのものを身に付けてらっしゃる。お前のかぁちゃん美人だろ。」

「見てんじゃねーよ変態萩本。」

「稲葉のお袋さんは若いよな。あと稲葉に似ている。」

 神崎の奴今までそう思ってたのか。確かに母親似とは言われる。

「へぇじゃあ親父さんどんな人?。」

 思わず萩本の胸倉を掴む。そう言った萩本に悪気は無いのはわかっているが手が先に出てしまった。

「へ…?」

 こいつは親父の事を知ってるわけじゃない。呆然とする萩本に謝り、離れようとするより早く、前島に俺の腕は強く掴まれていた。

「何してんだ…よっ!」

 振り払うと、腕に絞めつけられた痕が残っているのに気付いた。普通に、いや結構痛い。

「やー、何?お前の事情とか知ったこっちゃねぇってわけだよ。」

「んた事わかってるし今謝ろうとしたわ!」

「あ、そう。」

 と言って、何事も無かったように荷物を整理し始める前島。

 傍観している神崎に目をやると、華麗に逸らされた。

「あ、悪い萩本。」

「いや、俺も悪かった。」

 秋なのに汗をかいている萩本に申し訳なく思いつつ、何となく居心地が悪く感じていた。

 取り敢えず、厄介な奴と同室になってしまったようだ。






 夕飯も食べ終わり、部屋で一人ゆっくりするか、と思っていたらいつの間にか男子が溜まっていた。部屋のメンバーに川田と板野を加えた六人だ。

「お前ら自室行けよ。」

「いやだってオレんとこ女子来てるし!」

 板野に言われて納得する。確かこいつらと同室の奴ら彼女持ちだったな。厄介だよなそういう奴、とベッドで携帯をいじる神崎をチラ見する。

「面倒だなぁ。」

 何を察したのか、だるそうに起き上がり、部屋を出て行った。すぐさま前島が訪ねてくる。

「稲葉、神崎どこ行った。」

「山本んとこじゃね?退屈そうだったから良いだろ。」

「お前も行けば良いのに。…松野んとこ。」

「あぁ?」

 こいつ…一々腹立つな。

「逸樹…お前稲葉を挑発し過ぎ。」

「え?冗談なんだが。」

 と、笑う前島。冗談と言って全く笑いもしない神崎も嫌だったが、こいつは…。

「ちょっと売店行くわ。」

 追い出される形で出るのは気に食わないが、こいつと話しているとその内マジギレしそうだ。生理的に受け付けない。

 部屋を出てから、財布を置いてきた事を後悔した。売店の隣には、こぢんまりとしたゲーセンがある。

 なんとなくゲーセンを覗くと、中にいた一人の女子と目があった。

「晴明。」

「いっ……。」

 逃げるかどうするか。逃げなければ前島の奴の言う通りだ。一音が段々と俺に近づいてくる。胸倉を掴まれて顔を寄せられた時点で手遅れだと感じた。






「神崎君。」

「ん?」

「良いね、これ。」

「あー。だろ。」

 ベッドの中、二人で一つの毛布にくるまって音楽を聴いていた。電気を消して、部屋の扉もオートロックで鍵をしめて、完全に山本さんと二人だ。黒沢や松野が戻ってきたらインターホンがあるから大丈夫だ。

「なぁ、また何かあった?」

 ここに来た時、ベッドで肩を震わせ丸まっていた山本さん。俺に気がつくと何も無かったように笑って。

「平気な振りする癖は抜けてないんだな。」

「案外通るんだよ。稲葉君とか黒沢さんにはね。君には通用しないかなー。」

「勿論。」

 シーツが濡れているのに気付いて、彼女が音楽を消さないように泣いているのを理解した。






「何だよ…このメール。」

「チェーンメール。この画像を送らないと画像と同じ目に遭います、って厄介だわ。」

「白石の仕業だな。」

 一音に胸倉を掴まれ見せつけられたその内容のメールには山本の写った視聴覚室での写真三枚。しかもあまり口に出したくない状況のもので。

「俺の所には来てないぞ。」

「だろうと思って見せてやったのよ。メアド教えないのは相変わらずみたいね。」

「どれだけ回ったんだろうな。」

「少なくとも…うちのクラスの女子は殆どみたいね。愛やウチらの仲間にも全員送られたわ。ま、愛が送るなって釘打っといたけど。」

 まぁ黒沢の仲間は黒沢を信頼してる連中だから安心か。

「あたしもこれは純粋に許せないし、愛も怒ってたから協力するつもり。山本さんは一人にさせて欲しそうだったから置いてきたけど。」

「あぁ。今ごろ神崎と一緒じゃね?」

「そう…。」

 一音も他人を心配する事があるのか。どっちかっつーと心配される側の奴なんだが。

「何か失礼な事考えてるでしょ。」

「別に、まぁてめーの知った事じゃねぇよ。」

「何よそれ…。」

 むくれる一音。

「大体あんたのその言葉足らずな所ムカつくんだけど。この前だってあたしを…。」

「あ?」

「あたしの事どう思ってんのよ!」

 あぁこれだから女は嫌だ。言葉で表さないと必死になりやがって。

「嫌いだね。」

 敢えてこう言ってみる。

「嘘。じゃあなんであたしはあんたに抱き締められたわけ!」

 付き合ってた頃から、こいつは察しようとしなかった。だから危なっかし事するわ常に俺につきまとうわ。本当に馬鹿だ。

「一音……。」

  俺が言おうとした時、ゲーセンに他校の男子の集団が入ってきた。

「…クソッ。おい、場所変えるぞ。」

 一音を促し、ゲーセンを出ようとすると入口を塞がれた。

「お前、樟葉の稲葉だよな?」

 男子の集団の一人が言う。会った事あるのか?心当たりありすぎる。本当、前の俺一回死ね。

「喧嘩してぇなら余所当たれ。」

 そう言ってみたが、去る気配は無し。集団がじりじりと寄ってきて、俺と一音を囲んだ。その中に居た小柄な奴が俺の目の前に来る。

「こいつが稲葉晴明か。つか、ツレが女なんて聞いてねーし。」

「いや、金髪の彼女が居たっての有名だったぜ?」

 話を聞く限り、一音に用は無いようだ。

「俺に用か?一音には…この女には用無いんだな?」

「別に無ぇけど。逃がそうなんて考えてないぜ?」

 小柄の奴がいやらしい目つきで一音を見る。そして両脇にいた男子に目配せすると、一音は両腕を掴まれてしまった。

「取り敢えず聞け。そしたら自由にしてやるよ。」

「何だよ。」

 こういうパターンは自由にしてくれる確率は低いが用件を聞いてみる。

「お前んとこの学年に居る前島って奴連れてこい。」

「…………………………………は?」

 何故前島。あの普通に真面目そうな奴がこんな不良共と関わってるとは思えねぇ。

「良いから呼べ!」

 いやまずあいつ何したんだよ。何か嫌味でも言われたのか。

「わかった。呼んでくるからそいつ離せ。」

「連れてくるまでこのままだ。」

 やっぱりそう来たか。

「あたしは構わないで行きなさい!」

 何だ、格好つけてんのか?本当は怖いくせに。

「一音。」

「晴明、あたしは大丈夫だか…っあっ!」

 俺は一音の顔を思い切り殴った。

「…………。」

「お前…女を殴っ…。」

 呆然とする連中。一音の両脇に居た奴らも突然の事で一音から離れる。元、伝説の不良(笑)舐めんなよ。

 一音が自由になり、連中が固まっている隙に、一音の腕を強く掴み、連中を軽く押し倒し逃走した。

「しまった!逃げたぞ!」

 連中が気づいた時には大分離れていた。しかもここはホテルだ。流石のあいつらも騒ぎになるのを理解している…筈…。

「いたぞ!」

「追いかけろ!」

 馬鹿だろこいつら。

 なるべく人通りのある所を選びながら、自室へたどり着いた。なんとか逃げきったようだ。他校の奴が沢山居るここまで来るわけないしな。

 部屋には、萩本と川田に板野、そして問題の前島が居た。

「おう稲葉!松野連れて来たのか!」

「それ所じゃねぇんだよ変態。」

 萩本を一蹴すると、へらへらと何か話していた前島の前に立つ。

「お前、他校の不良共に呼び出されてんだけど。何したよ?」

「え?いや、何もしてねーよ?」

 俺と一音を見比べ、本当に何も知らないように言う前島。

「一音が人質にされそうになったり、追い回されたり兎に角やべぇんだよ!本当に心辺りねーのか!?」

「何かの勘違いじゃないか?」

 嘘をついているようには思えない。仕方なく引き下がった。

「松野、大丈夫?間違いとはいえ俺のせいで大変だったな。ごめん。」

「謝らないでよ。前島君こそ気をつけてよ?」

 いや俺にも謝れ…と突っ込もうかと思ったが止めておいた。てかこいつら親しいのか?…あぁ同じ部活だっけ。

「じゃああたし部屋戻ろうかな。」

 いや今戻ったらマズいんじゃねぇのか?連中に会ったら…。

「俺送ってくよ。」

 と、前島。なんかムカつくなこいつ。

「いや、俺が行く。連中に会った時の事を考えてだな…。」

「へぇ、稲葉も心配なんだな。」

 胡座をかいて俺を見上げて笑う。目は笑っていない。萩本がそんな前島の様子を見て奴の腕を引っ張った。

「まぁここは稲葉に任せよーぜ!稲葉喧嘩強えし安心だろ?」

「わかってる。」

 わかってんなら笑いながら睨むな。

「まぁ行ってらっしゃい。気をつけろよ。」

 俺はそう言う前島を無視し、一音を送りに出た。






 一音の部屋は閉まっていて、インターフォンを鳴らして気付いてもらった。やはり神埼と山本しか居なかった。何をしていたか想像しないでおこう。

 帰る途中、トイレに寄ると中が何やら騒がしい。覗いてみると恐ろしい光景があった。

「てってめぇ何なんだよ!」

「女の癖に調子のんなや!」

 と、怒鳴る先程追いかけていた連中と、その目の前に、

「ウチの一音を追い回していたのはあんたらだねぇ?」

 連中を己と壁で挟むように、立ちふさがっている黒沢が居た。

 何やってんだ黒沢。ここ男子トイレだぞ?

「女だからって手加減しねーぞ!」

「やっちまえ!」

 連中が一斉に黒沢に襲いかかる。流石にマズいと加勢しようとしたが、無意味だった。

「こっちも不良もどきとはいえ容赦しないよ!」

 次々と倒していく黒沢。しかもいつもの武器は無く素手だ。こいつ素手でも強かったのか。

「見てるのはバレバレだよ稲葉。」

 ちっ仕方ねーな。

「てめぇ素手でもやれるんだな。」

「この事黙っておかないとタダじゃすまさないよ。」

 そう言いながら、背後から襲いかかってきた奴に踵落とし。

「わかったら紙持ってきて故障中って書いてトイレの前に張っつけなさい。」

 奴の命令を聞くのは気に食わないが、事がバレるのも厄介なので、仕方なく指示通りにした。






「今、一から鍛え直してんだよ。」

 ロビーの椅子に腰掛け、訊いてもないのに話す黒沢。手にした微糖のコーヒーを口付けると苦そうに顔を歪ませる。

「知らなかったっけ、あたしが前神埼とやり合ったの。」

「マジが!知らねーな。」

「勿論負けたけどね。」

 あぁ何か神埼が強いみたいだからよろしく的な事言ってたなこいつ。大方黒沢から喧嘩をふっかけたんだろう。

「鍛えてまた戦ってあたしが勝ったら嫌いになれると思ったのさね。自分より弱い男は全員屑だから。」

「おいおい。」

 じゃあ同等っぽい俺は何なんだ。

「安心しなさい。あんたはゴミだから。」

「あぁ!?」

「本当に、どうすりゃ良いのやら。」

 そう呟く黒沢は普通に女子だ。凄い違和感あるが。

「言っておくがな、神崎は可愛い系の女子がタイプだぞ?」

 これは多分だ。

「あっそ。」

「優しくしてるのは面倒なだけだし。」

「そんなのわかってるし。」

「じゃあ何で…。」

「うっさい。」

 恥ずかしそうに目を逸らす。そんな黒沢に追い討ちをかけるように俺は言った。

「あいつは山本以外の奴なんざどうでも良いんだよ。」

「そんな事…!」

「あるんだよ。」

 黒沢に反論の余地を与えない。俺は続けた。

「大体てめーに近づいたのは利用するためだろ。山本を助けるために。」

「じゃあ…あんたと一緒に居たって事も否定するわけ?」

「丁度出会ったのは山本が俺らの中学離れてあいつが荒れてた時だよ。」

「は…?」

 黒沢からしたら脈絡の無い話だろう。

「何でああなったのかその時はわからなかったけどよ、山本が原因だって知ったし、よく考えたらあいつが真面目に戻ったの高校からだったかな。」

「待ってよ何が何だか…。」

「全て山本のためだったんだろうよって事だ。」

 なんとなく理解した風の黒沢。だったが反応は予想外だった。

「そんな事言うなんて情けないね。男のくせに嫉妬?マジでホモだった。」

「あぁ!?」

「良いだろ一人の為に必死になれて。一人を捨てたあんたよりよっぽどマシさね。」

 そう言いながら俺の頭をコンコン叩き、その場を去る黒沢。もうすぐ点呼の時間だ。

 黒沢が言うのももっともだろう。でも気に食わねー。嫉妬ではないと信じてはいるが。


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