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30話…わかりやすい恋の話

 アパートに帰ると鍵が閉まっていた。そうか、山本さんは帰ったのか。合い鍵を持たせて帰る時は閉めておくように言っておいて良かった。

 鍵を開けると靴が散らばっていた。何故か山本さんの靴もある。帰ってないのか。廊下には服やクッションが落ちていて、嫌な予感しかしない。

 慌てて彼女に貸していた部屋に向かった。

「山本さ…。」

「嫌ぁぁぁぁ来ないでぇっ!!」

 悲鳴がしたかと思うと枕を投げつけられた。入り口近くの壁に当たると、間抜けな音を立てて床に落ちた。

 突然の事で混乱しそうな頭を落ち着かせ、部屋の隅で毛布にくるまって息を荒げている山本さんを認識した。

「神崎君…。」

「ん。ただいま。」

 散らかっていた服にクッションに枕、そして彼女の携帯電話を拾い一ヶ所にまとめた。帰って早々片付けは面倒だ。

「ごめんなさい…。」

 開いたままの携帯電話の画面が目に入る。着信51件、Eメール受信82件の文字。

「何だろね、ストーカーかな…。あいつから何度も何度も。ここにも来たんだよ。何されたら全く覚えてないけどさ。」

 俺の知らない所で。

「あぁー。全く情けないね。家に帰らなきゃいけないのに一人で外出るの怖いし、学校行くのも怖いし、君にまた迷惑かけちゃって…。私馬鹿。」

「不法侵入に暴行に警察に突き出してやろうか。」

 冗談で言ったつもりが自分でも引くほど真面目な声になってしまった。

「やだな…止めてよ。」

「嘘だよ。」

 隅で動かない彼女に近づきしゃがむと、彼女の方から抱きついてきた。

「ごめんね、甘えて良い?」

 すがりつく彼女に答えるように頭に、腰に手を回しゆっくりさすった。

「…一々許可取るなよ。」

 甘えて欲しい。今まで耐えてきた分甘えて欲しい。傲慢なのかもしれないが、俺は全て受け止めてやりたい。







「てめぇ昨日は…。」

「山本さんはちゃんと帰したからな。」

「まだ何も訊いてねぇだろうが!」

 朝っぱらから腹立たしい神崎の脇には、二日振りに見る山本が居た。

「よっ山本。」

「稲葉君、おはよ。」

 見るからに一緒に登校してきたようだ。俺は空気の読めない奴になってないだろうか。

「稲葉君!」

「…あ?」

「勉強はサボってないよねぇ?昼休みにでも抜き打ちテストしよっかな。」

 …こいつ、何も変わってねぇ。

 酷い目に遭ったはずなのに、相変わらず笑顔で強気な姿勢は変わらないようだ。無理してるように見えなくもないが、強いなこの女。

 神崎は興味なさそうに、先に行くと告げる。全く、山本はこの馬鹿をどう思ってんだろうか。先に行く神崎に着いて行こうとするのを見ると、嫌で一緒に居るわけでもなさそうだ。良かったぜ。

「悔しいけどあいつら似合ってるよなー。」

「うおっ!?」

 背後から急に声をかけたのは、萩本だった。

「神崎と山本ちゃんが同じ日に休んだ時、結構噂があったんだぜー。」

「噂?」

「山本ちゃんには白石が居るのに神崎をたぶらかしてるだの、男食い荒らし始めただの。」

「たぶらかしてんのは神崎だと思うぜ。」

「女子って怖ぇよな。」

 女好きと定評の萩本の口からそんな言葉が出るとはおもわなかった。

「だから今は怖くない女子と絡んでんだ。及川って覚えてっか?生徒会選挙に出てた。あいつ可愛いんだぜー。」

 知るか。

「お前も選挙出たよな。いやぁモテる男は良いよな、柳川に白石。白石なんて女子票しかねぇだろ。そのくせ副会長かよ。」

「僻みか、みっともねー。」

「絶対裏あるよなー。だって選挙管理委員長が桜木先輩だぜ?」

 こいつ、女の話をしてたんじゃねぇのか?

 微かな違和感を覚えながら教室に入ると、眼前に強面の女の顔があった。

「いっ一音!?」

「んじゃ俺はこれで。」

 ニヤニヤしながら立ち去る萩本はどういうつもりだ。

 周りの目が気になる。俺は一音の袖を掴むと、誰も居ない空き教室に入った。カーテンも閉まってて丁度良い。

「随分と久々の登校じゃねぇか一音。」

「あんたに会いたかったの。それに修学旅行も近いし。」

 柄にない事を言う奴だ。

「修学旅行で久々にあんたとセッ」

「よーしわかったもういいそれ以上何も言うなよ。」

 相変わらず恥も外聞も無い奴だ。俺が言えた義理じゃないが。

「あたしにはあんたしか居ない。」

「知らねーよ。そんなの。」

「あんたしか愛せない。」

「俺はどうもしねーよ。大体、黒沢が居るだろうがてめぇには。」

 そう言った俺に一音は体当たりをくらわせた。突然の事に対応出来ずに倒れる俺に跨る一音。

「愛はあたしを見てないよ。強がってあたしを好きなフリして。自分でもわかってる癖に。」

「おいおいどういう事だっ…。」

「愛はね、神崎が好きだよ。」

 は、何言ってんだこいつ。

「やっぱり気付いてなかったんだ。」

「サッパリわからねぇ。」

 急に言われても頭がついて行かない。なんだそのモテモテ設定。

「…何でそうなるんだよ。」

「見てりゃわかるでしょ鈍感。」

 クソ、言われ慣れてるがこいつには言われたくねぇ。

「愛は神崎に勝てなかった。喧嘩も勉強も」

「喧嘩なら俺にも勝った事ねぇぞ?」

 それに勝てない相手、しかもそれが男子なら敵視する気がする。

「あんたとは決着ついてないんでしょ。愛は神崎に完璧に負けたのわかる?」

「つー事はあれか、あいつらやり合ったのか。なんでまた。」

「愛が喧嘩売ったみたい。本気の愛に流石の神崎も本気出して…。」

 俺の肩を押さえる手に力を込める。

「こんな風に押さえつけたみたい。んで動けなくなった。愛の負け。」

 更に俺の体に密接させる一音。スカートから長く出した脚を俺の脚に絡ませて、動きを完全に奪われた。

「あの時の愛は不安定でね、女だからとかで男子に何言われたかは知らないけどさ。で、あの選挙。相当悔しかったみたいね。当然みたいだけど。」

「だろうな。」

「あんたも知ってるだろうけど、神崎は愛に味方してた。応援してくれたし愛を女とか関係なしに認めてくれた。」

「あいつが…。」

 そんな事本当に言うのか。好きでもない女に。

 まぁだがしかし、神崎は貶すのが得意だが誉めるのも上手い。弱ってるのに付け込むのも上手い。プラス見た目に釣られて奴に告白した女子は少なくなかった記憶が。

「黒沢は利用されただけだろ。白石の件で協力求めてきたらしいじゃねーか。」

「そんな事…!」

「あるんだよ。利用されてる本人はわからねぇもんだろ。お前がよくわかってる筈だぜ?」

 自分にとっても負い目だが、敢えて言った。いい加減目を覚ませ一音。

「あいつはなぁ大抵の女子には優しいんだぜ?だから中学の頃なんか慕ってる奴が男女問わず多かったわけだ。黒沢が女子に慕われてるみたいに。」

「愛みたいに?」

「中学での裏の問題もいじめも上手く解決してた奴だ。まぁ問題起こしてたのは俺だったけどよ。」

 本当に黒沢みたいだ…そうか。

「…前言撤回だ。黒沢に良くするのは利用する為だけでもなさそうだ。」

「何よもう。」

「わかったらどけ、邪魔だ。」

 俺に体を擦り寄せている一音の肩を掴んで無理矢理起こすと、勢いで押し倒した。

「まぁでも黒沢には諦めてもらうぜ。あいつはもう一人しか見ていない。いや、一人しか見てなかったんだ。」

「何それ。じゃあ愛はどうなんの?あたしは愛に普通に恋して欲しかったのに。」

「本人もお前を好きになる事で認めようとしてないんだろ、神崎が好きだっての。」

 一音が涙目になりたけた時、腹に衝撃を感じ、俺は横に転がっていた。

 見上げると、黒沢が険しい顔で俺と一音を見下ろしていた。






 稲葉と松野が何かやってるぞ、と男子が噂しているのを聞き、あたしはその空き教室を覗いた。

 聞きたくもなかった事を一音が話すのを聞いて、我慢の限界だった。色々と。

 稲葉を蹴って一音を起こす。

「愛…どこから。」

「ずっと聞いてた。」

「痛ぇな何すんだ馬鹿。」

「黙れ稲葉。ちょっと聞いてなさい。」

 あたしは一音が好きだ。でも、女になりたくなくて、一音を好きでいたのかもしれない。

「一音、あんたは友達として…好きだよ。強がってたんだ。悪い。」

「わかってた、そんな事。」

 女になりたくない、そう性別にこだわって一音を好きになった。違う。男か女か以前に、あたしは黒沢愛だ。

 じゃあ黒沢愛としては…。

「わかってるさ、あいつには大事な人が居て、今はその人の為に必死な事くらいさ。でも悪い、好きなんだよ。」

 理性じゃない、感情が好きと言っている。

「弱ってる時に優しくされて、あたしはあたしだって認めてくれて、好きになって何が悪い。」

 恋の理由は単純だ。そんな事もわからなかったんだ自分は。

「愛、やっと認めた。」

 一音が優しく言う。

「これで心おきなく晴明を好きでいられる…。まぁお互い叶わない恋だけど。」

「だね。」

 あぁそっか叶わないんだ。仕方ないんだ。

 でももう一音を恋愛対象として好きだと言う事はない。いつもならここで抱き締めるけど、何もしないでその場を立ち去る事にした。







 黒沢の奴、マジだった。マジで神崎が好きだったのか。

 そして一音も俺を諦める気はないのか。困った奴だ。

「晴明。あたし…。」

「何も言うな。お前も俺に依存すんの止めろよ。」

 そう言って立ち去ろうとすると、一音が涙を流し始めながら言う。

「正直さ、愛が好きでいてくれるなら晴明の事は諦めようと思ってたよ。駄目だ、やっぱり依存しちゃう。」

「俺はお前に酷い事したんだぞ。」

「あいつ。」

 一音は思い出したように呟く。

「あいつの為に変わったんでしょ。あたしなんて眼中に無いのわかってる。ねぇあいつって誰?」

 何で浮気した男みたいになってんだ俺は。こいつやっぱり鈍感だ。鈍感でドMとか救いようがない。

「お前、何もわかってねぇな。」







 晴明は一音の肩を掴んで引き寄せ、強く抱き締めた。すぐさま驚く一音から離れると、二度と一音に振り向きもせずに教室を出た。予鈴のベルが虚しく響く空き教室に、一音は一人取り残された。







まかさの恋愛メインで

すいませんでした。


恋愛した事ない私が書いて

すいませんでした。





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