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2話…過去と決別したい話


 優雅な昼休み、と言ってもいいんだろうか、いや、言ってはいけない。

 この物語の主人公である俺、稲葉晴明は、只今非常にピンチだ。

「何目ぇそらしてんのよ。」

 因は眼前の女にある。奴は四限目が終わると共に颯爽と俺に近づき、兎のように怯える俺を屋上まで連れ出したのだ。ある意味拉致だと思います、え、違う?

「挨拶してやってんのよ晴明。」

「挨拶ってお前何の用だよ。」

 あぁ混乱して意味不明な日本語になっちまったじゃねぇか。奴…もとい一音は俺に急接近し――やめろその無駄にデカい胸を近づけるな――白く細い指で俺の顔に触れる。

 女豹が獲物を見つめるように俺を愛おしそうに見て…はいストップ!

「何がしたいんだ。」

「アンタ…変わったなぁって思って…。」

「まだあんま変わってねぇよ。」

 この位で変わった何て思われてたまるか。まだまだだ。

「二年から変わるって言ったの本当だったんだね…。」

「……………。」

 一音があまりにも切なそうに俺を見て来るから返答に困る。

「変わったアンタも好きになれるといいな……。」

 そう、これからの自分の希望を述べて俺から離れた。

「その時はまた抱いてくれる?」

「知りません。」

 思った事をハッキリ言うのって大切だと思う。本当に。

「…なんか悪いね。連れ出して。」

「なら最初から連れ出すな馬鹿野郎。」

「じゃあまた連れ出すから。」

 言ってる事矛盾してます。





 まぁそんな感じで俺と一音は元々恋人関係にあった。一音から告白して俺から振るというあの女の一方通行だったわけだ。俺は一音を好きとも嫌いとも思わなかったまぁ最低な彼氏という奴で、ある条件の下俺達は付き合っていた。


 ――――取り敢えず上級生や他校の不良共の情報を俺に寄越せ―――


 俺は中学から高一の間、喧嘩ばかりしていた。自分から喧嘩を売る事はあまり無かったが、どこの誰を殴れだの、俺に金を渡して依頼する奴が現れて始め、俺は目的の人間の動向等、情報を得る必要があった。

 そんな時出会った一音は、情報収集が非常に上手く趣味としていて、更に俺に好意があるという。高校に行けるかさえ危うい貧乏の家庭に生まれ、依頼を断る訳にはいかなかった俺は、一音を利用した。

 一音はしたたかだった。俺がどんなに注文を付けても、どんなに酷い事を言っても、決して弱気になる事は無かった。ただ、俺の為にひたすらら働いた。

 去年までの俺はどうしようもなく最低て、鬼畜で、何故この女は俺に付いて来るのか理解に苦しんだ。

 そんな俺も、ごくたまには一音の望みを聞いてやったのを覚えている。一緒に寝たのも一度や二度じゃない。女に興味の無い俺には、無意味な行為だったが。

 ―――――そんな日々がいつまでも続くとは思っちゃいなかった。


 俺だって大人になる。考え方も変わる。…まぁ、俺が変わるきっかけとなる出来事があったのだが。

 変わろうとした俺には、『暴力的な強さを持つ稲葉晴明』の事が好きな一音は邪魔以外の何でもなかった。


『じゃあな。』


 そう冷たく言い放った後の一音の表情は、鮮明に覚えている。

 悲しさと諦め、それでも俺を恋焦がれていたいという…鬱陶しい表情。



「さっきから何考えているんだ。」

 頭の中で回想をしていた俺の横に、長身が並んだ。


――――――――神崎仁


 相変わらずの眠そうな顔。軽く茶に染めた髪を掻きながら俺を見下ろしている。

「さっきのは…松野さんだっけ。」

 こいつ、昭葉以外の女子には名字にさん付けだ。何か気に食わない。因みに神崎の奴、昭葉を岡田さん、と呼んだら鳩尾殴られた。女相手にざまぁねぇな。

「だっけ、っててめぇ中学同じだっただろうが…。」

「そう…だったかな。」

 真顔でとぼけるのも悪い癖だ。

「あぁあれか、てめぇの脳味噌老化してんのか?」

「英語のテストが赤点ギリギリだった奴よりかは幾分かマシかな。」

 遠回しに俺を馬鹿と言ってやがる。しかも真顔で。この野郎覚えとけよ。

 俺は何となく野郎の横顔をちらりと見た。こいつの表情が、眠そうな顔、または真顔から変化した事は滅多にない。『眠い』意外の感情あんのかこいつは。



「何~?屋上で痴話喧嘩?」


 後ろから呑気な声。

「何が痴話喧嘩だ!」

「駄目だよ仁。嫁…ハルを怒らせたら。」

―――――悪質な腐女子…岡田昭葉。


 黒い縁の眼鏡たまにワインカラーになるをくい、と上げて、ニヤニヤしている変態だ。重たそうなセミロング(というのか?)が屋上を吹く微風に揺れている。

周りからは可愛い可愛いと評判なのに変態なのが残念な俺の幼なじみだ。

「大体ハル?あんた仁という大切な恋人がいながら何女作ってんのよ!」

「神崎は恋人じゃねぇ!」

「はっ!もしや仁…ハルが愛人作ってたの嫉妬してここまで…。」

「一音との話聞いてたのか!?」「ハル、あんた『受け』失格よ!何よあの女『また抱いて』って!何『攻め』に転向してんのよ!」

「だぁぁぁぁぁうるせぇぇぇぇぇ!」

 何だ『受け』『攻め』って一体!神崎を見るが奴は少し離れた所で俺達を鑑賞していた。







 俺達三人は何となくつるんでいる。本当に何となく、だ。それなりに色々あったのだが今思うと何でつるんでいるのか疑問だ。

 昭葉は同性の(勿論、腐女子の)友人が居ない訳では無い。同じ部の女子ともよく一緒に居る。ただ、俺達を鑑賞するのが楽しいんだとか。

 神崎は性格に問題があり、まぁ俺も似たようなもんだが、友人は少ない。吹奏楽部に居る僅かな男子とは絡むらしいが。

性格良かったら女子にモテるだろうにと昭葉に言われた覚えがある。

 厄介な友人ばかりで俺も苦労してるよな、うん。

 さて、授業が一通り終わり、定番の終礼があって、部活の時間だ。部活生共は、いそいそと教室を出て行く。昭葉や神崎も例外ではなかった。

「神崎ぃー、お前今日も部活かよ?」

 音楽室へいかんとする神崎を試しに呼び止めてみた。

「ん…あぁ。夏にはコンクールもあるしな。一年が見学に来るといいんだけど。」

「熱心だよなー。」

「当たり前だよ。」

 何に対してもこいつは努力を惜しまないんだろうな。俺とは大違いだ。

「そういや昭葉が…。」

「あ、神崎くん。」

 俺がふと思いついた事を話そうとしたら女子の声に遮られた。

「今から部活?」

「あぁ……。」

 天然パーマの女子。

 確か山本と言ったか。昭葉が何かと、可愛い可愛いと言っていた気がする。二年だけ、同じ中学に居たらしいが知らなかった。

 神崎を見ると、その山本から顔を逸らしたさそうに、目を泳がせている。

「えっと…稲葉君だっけ?」

 山本に話しかけられたのに気づき、俺は改めて、昭葉が絶賛していた顔を見る。女子には興味の無い俺でも、普通に可愛いと思える顔立ちだ。あれか?目が並以上にデカいのか?胸もあの女並だ。

「お…おう!よろしくな!」

 畜生、考え事をしていたせいで微妙なテンションになってしまった。山本がクスリと笑う。何がおかしい。

「よろしく。」


 山本はニッコリ笑う。…ニッコリという表現が非常に合う微笑みだ。クラスの男子共の注目浴びる事間違いない。胸もデカいし良かったな男子共。

 神崎はというと何やらそわそわしている。そうかコイツも山本に魅了される男子共の一人なのか?

「山本さん。」

「どうしたの?」

「…いや。俺部活に行くから…。」

 ……例外の男子だった。

 どうやら早く部活に生きたかったらしい。どんだけ熱心なんだよ。

「あ、私も行くよ。」

「稲葉に用事があるなら先行くから。別に時間もまだ早いし。」

「いや特に用事ってわけじゃ…。」

「じゃあ稲葉、また明日な。」

 そう言うと三階の音楽室に向かい階段を一気に駆け上がった。

 …おいおい、俺が言うのもアレだが酷くないか神崎。女子には優しい奴なのにらしくもない。もしかして山本が苦手なのか?

「山本?」

「あ、あはは。別に何とも思ってないよ?」

「いや別にお前の為にに心配とかしてねぇからな。」

 ツンデレか俺。

「神崎に用事があったんじゃねぇの?」

「うーんどうでもいい事だしいいや。それより稲葉君ってさ…。」

 俺にも用事か?

「なんか…イメージと違うなぁ…。」

………………あ。初めて言われたな。

「いやいや何でもないよ!ごめん何か!」

「いや。」

 俺は少し変われたって事か。

 山本は躊躇う事無く俺に話しかけた。今までなら女子に話しかけられる事すら無かったのにな。






 山本に別れを告げてから、俺は一人、教室に向かう。ふと、脇を通った柄の悪そうな男子三人が俺をチラリと見てきたのを感じた。

「あいつ稲葉だよな…。」

「丸くなったって噂だがマジかよ。」

 ひそひそと話しているようだが俺にまで聴こえてんぞ。俺の聴力舐めんなよ?

「今ポコッても反撃して来ねぇって事だよな?」

 おいおい、連中何考えてやがる。

 頭が一瞬にして冷えたのと同時に、肩を掴まれた…………。




≫≫≫人物紹介


稲葉晴明いなばはるあき


誕生日:9月9日

身長:172cm

部活等:帰宅部、バイト好き


好き:喧嘩、運動、

嫌い:勉強、ウザい女子、弱い男子


容姿等:黒髪、短髪。制服はブレザーだが、ネクタイが嫌いで着けていない。カッターシャツの中は黒や赤のインナーだったり。普段着はジャージが多い。



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