表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/34

28話…時には馬鹿さと愛が人を救う話

 昭葉と黒沢と俺は、荒れた視聴覚室の掃除に取りかかった。みんな無言で非常に重々しい。さっさと終わらしちまいたいぜ。そんな中、昭葉が口を開いた。

「やっぱり…悪いのはあたしなんだよね。」

「お前だけの責任じゃねーよ。」

 昭葉は山本の言動の真意が理解出来なかっただけだ。

「よく考えると、山本はお前を庇おうとしてわざと悪役買ったみてぇだな。」

「そんな…。でもハルの憶測でしょ?」

「大体マジで鬱陶しいとか嫌いだとか思ってたら呼び出されてピンチだったお前の所に来ねぇよ。」

 お前がいつも馬鹿と言う俺にさえわかったのに。昭葉の口が驚きで間抜けに開いている。

「あ…………。」

「単純なお前も強がり過ぎた山本も悪い!って事だろ。お互い話して謝れば良い。」

 うなだれていた昭葉は顔を上げた。

「でもあるみんは謝ったじゃすまない位酷い目に…。」

「それは…悪いのは白石だ!」

「単純なのは稲葉もだねぇ。」

「んだと黒沢コラ。」

 まぁしかし、単純な奴も単純じゃねぇ奴も苦労する事に変わりはない。

 さぁ神崎の奴は何をしているのやら。







 フェンスの外側に出ると、風の冷たさを感じた。冬も近い。

 もう怖くなくなった。フェンスから手を離し、目を閉じる。

 さっきまで、色々と後悔していたけどどうでもよくなった。考えるのも面倒になった。死にゆく体を風に預けると、もう何も感じなくなった。一歩前に出た。…今だ。行ける。



 風が吹き、体が揺れた。




その時。




 両脇を抱えられたかと思うと、体がふわりと宙に浮き、気付いた時には、屋上の地面に転がっていた。

 すぐさま立ち上がると、真正面から両腕を掴まれ、フェンスに押さえられ動けなくなった。

 随分と乱暴だ。でも全然痛くない。こんな事をするのは…。

「か…神崎君…。」

 何時になく真剣な目が私の目と会い、強く押さえられているわけでもないのに抵抗出来ない。

「ごめんな…。」

 そう呟いて手を離すと、それでも固まっている私の髪に触れ、ゆっくりと撫でた。

 …あぁ、死ねない。死ねるわけがない。ずっと一人でやっていこうと考え、さっきまで、完全に全てを投げ捨てようとした私は、ひっくり返されたように、優しさに触れたくなった。

「痛い所はないか。」

「………うん、大丈夫だよ…本当に…本当に大丈夫だからっ…。」

 声が震えている。目頭も熱い。どうしよう。泣きたくなんてなかったのに。

「良かった。」

 そう優しく言うと、私を包み込むように抱きしめた。私は静かに涙を流した。







 何かを思い出した時、私はいつも一人だった。小学生の頃から。自分で望んで一人になった場合が多い。

 些細な事がきっかけだった。小学三年の頃にみんなの前で先生に誉められて、気に食わなく思った同級生に散々物を言われた。私を庇った友人も、心ない言葉を浴びせられて、私は友人から離れる事にした。

 それからだ。私と深く付き合おうとする人は居なかったし、居てもその子も酷い目に遭った。幼い頃から関わってきた白石の影響もある。

 私の所為で傷つく人が居てはいけない。私は一人で大丈夫、傷つかない。大丈夫。 そう自分に言い聞かせてきた。でももう駄目だ。






「もう一人にはさせないからな。」

 そう囁く、低く優しい声が心地良い。

「はは…私も一人は懲り懲り…かな。」

「…俺は一人でも平気だが…一人より君と一緒の方が良いかな。」

「何それ…。」

 困惑する私の目を彼はもう一度見つめた。

「俺さ。」

「うん?」

「好きだ、山本さんが。」

「……。」

 どう反応したら良いんだろう。さっき諦めようとした言葉を先に言われてしまうなんて。いや、言われるとは思ってなかったから。

「…っあー悪い。何て馬鹿なんだ俺は。そんな場合じゃないってのにな、山本さんは。」

 私からすこし離れ、頭を掻きながら目を逸らす神崎君。

「そっそんな…。」

「だからわかったな?死のうなんて考えるな。俺が居るから。全力で君を幸せにする自信がある。」

 そう真顔で言うものだから、恥ずかしくて…嬉しくて。思わず抱きついた。







「岡田、さっきは悪かったよ。言い過ぎた。」

「あたしもどうかしてた。ごめんね。」

 視聴覚室の片付けを終わらせ、軽く和解をしている間も、なぜか心が沈んでいた。

「はぁ…。」

「さっきから溜め息ばっか吐くんじゃねぇよ黒沢ァ。」

「っさいね。」

 稲葉に指摘された通り、ずっと溜め息が止まらない。

「屋上行くか?黒沢。」

「何言ってんのさ!あたしが気になってるわけ…!」

「いや誰もそんな事言ってねぇよ。」

 稲葉にそう言われると非常に腹立たしい。そう言う稲葉はあまり気にしてなさそうだ。

「あんた達二人はあれか、お互い心配無用みたいな?」

「どうだかな。お互い強いとは思ってるが案外心配してんだぜ?」

「要するに心配なんでしょ。」 

「心配するだけ無駄だけどな。」

 怠そうに腰を上げる稲葉。

「何処行くのさ。」

「屋上。気になるわけじゃねぇがな。」

 やっぱり気になっんじゃない。

 岡田も行くというのであたしも行くことにした。別に気になってるわけじゃないけどね。

「そういう所がまた萌えんのよね。ハルと仁は。」

 岡田が腐女子というのは知っていたからあまり引かなかった。けど…。

「そんな事考えてて罪悪感とか無いわけか?」

 実際には稲葉も神崎も彼女が居たり好きな女子が居たりするんだから。

「別に…?まぁ流石に仁がずっと片思いだった時はあれだったけど。黒沢さんも同性好きな噂あるけど。」

「…同性愛とボーイズラブとやらを一緒にするんじゃないよ!」

 まぁ本当に自分が同性愛主義なのかは最近疑問だけどね。

「ちょ…何その言い方馬鹿にした?」

「馬鹿にしてるのはどっちさ?」

「喧嘩すんなお前ら。」

 扉を開き屋上に出る。

「やっぱ駄目なんじゃ…。」

「今更おせぇよ昭葉。」

 さて何処に居るんだ、と辺りを見渡す。

「ハル…。」

「おう。」

「居ないよ?」

 誰も居ない屋上に、虚しくあたしの溜め息が響いた。






 すっかりぐったりしてしまった山本さん。帰る元気もない、そして何より誰にも会いたくないと、珍しく甘えた様子の彼女を連れ、自分の住むアパートの一室に居た。

 取り敢えず風呂を貸した。着替えは妹が忘れていったものを貸す事にした。仕方あるまい。そして夕飯の準備をしながらずっと考えていた。

 自分は恐ろしく馬鹿だったな、と。

 山本さんが死のうとしていたのを止められたのは良かった。ただ勢いに任せすぎた。告白してあんな恥ずかしい事を言うとは自分も考え無しに言動するようになったな。あ、山本さんが絡んだ時は大抵そんな感じかもしれん。今白石を見たら半殺しに間違いない。

 妹の服を着た山本さんがキッチンを覗く。

「お風呂…ありがとう、ね。」

「ん。まぁ適当に座っててくれないか。」

 適当に応対したが、内心焦っていた。もしやこのまま泊まるつもりか?

 夕飯を食べ終わった後、恐る恐る尋ねた。

「家、帰らないのか。親御さん心配するんじゃ…。」

「親は明後日までどっちも居ないよ。父は出張で母は旅行中。今頃男と京都じゃないかな。」

 …これ以上訊かない事にした。

「やっぱり帰るべきかな…。」

「好きにすればいい。」

 そうは言ったものの高校生の男女の泊まりはあまり賛成出来ない。見た目の割に真面目だと稲葉に言われそうだが。

 しかしこの際仕方ない。それに俺は何もしない。

「神崎君?」

 山本さんのやつれた顔に覗きこまれる。

「ありがとうね。」

「構わないさ。大した事は出来ないが力になりたいしな。」

「あのさ…。」

 なるべく目を逸らしていたが、彼女の真剣な眼差しと合った。

「私も…好き…だからね。神崎君が…。」

 顔を赤らめながら一言一言呟く。

「へへ…ごめん、好きって言われて嬉しかったの初めてだから。」

 机の向かい側で照れくさそうに微笑む彼女の側に寄ると、軽く口付けをした。







「山本の携帯はつながらねーし、自宅にも居ないみてーだし。」

 心配になって電話したらこの様だ。何処に居るんだ。何だか嫌な予感しかしねぇ。

 試しに神崎の携帯に電話してみた。あいつは固定電話を使わない。しばらくして神崎が電話に出た。

『稲葉どうした。』

「どうした、じゃねーよ馬鹿野郎!勝手に消えやがって、今家か?」

『まぁな。』

「山本が居ないんだよ。家にも携帯にも電話しても繋がらねーし。お前何処居るかわかるか?」

『……………。』

 何だこの沈黙は。

「おいもしもし…。」

『さっきベッド貸して寝かせた所だが。』

 そうか、だから小声なのか…じゃねぇ!何だこいつつまり泊まらせたのか!?

「お前……。」

『随分と疲れきってたみたいだったからな。最近眠れてないらしく熟睡してる。…どうせお前はよからぬ事しか考えてないんだろうけどな。』

 あぁそういう事言うかマジでムカつくなこいつ。

「お前を信じていいんだな。」

『安心しろ。今から課題済ませるし山本さん起こすのも何だから切るぞ。』

 電話を切ると、黒沢と昭葉が寄ってきた。お前らそういう所女子だよな。

「二人とも無事だ!以上。」

「何よそれだけ?」

「まぁ神崎程面白くなくて健全じゃない男子は居ないしね。…稲葉と違って。」

 どういう意味だ黒沢。つか何を期待してたお前ら。

「俺らも帰るぞ!」

「ああ結局部活さぼっちゃった。」

「あたしもさね。全部神崎のせいだ。」

「部活入ってねぇだろ黒沢。」

 そういう俺はバイトをサボっちまった。



 昭葉も黒沢も山本も神崎も俺なんかよりずっと悩んでやがんだ。

 俺は馬鹿だから悩みは出来ない。単純だから難しい事はわからない。だが馬鹿で単純だからこそ力になれんだよな。考え過ぎる事は時に誰も救えない。考えて昭葉から離れようとした山本も想い信じるだけだった神崎も。

 まぁかくいう俺も誰かを救えたわけじゃねぇがな。

 でもやはり馬鹿で良かった、そう思えるんじゃないだろうか。





前回に続いて残念回でした(テヘ


キャラ崩壊が凄まじいですね。

特に山本に神崎ェ…


稲葉は軽く説教する位で役にたたないしお前マジで主人公か、って話ですね。


黒沢はツンデレになってしまったし昭葉はただの残念な子に。


稲葉と昭葉を救済せねば!次回に続く。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ