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27話…信じる事は脆い話



「自分の事強いとか思ってるよ絶対。だから友達居ないんだよ寂しーわぁ。」

「居ても心の中で優越感に浸ってんでしょ。自分のが可愛いし頭良いみたいな?」

「絶対彼氏出来ないよねあーゆー人。」

「いや、中学の頃の彼氏とヤバい関係らしいよぉ。」

「ヤバいってナニよ超ウケる!」

 中学の時にも耳にした私に関する似たような噂。いい加減聞き飽きたな。

 只今絶賛いじめられ中の私。まぁ何度目よ、って話だから慣れてる。けどやはり痛いのは嫌いだし力で抵抗出来ないのは悔しい。

 そしてまた呼び出しを受けて視聴覚室に居る。最近頻繁に呼び出される。それも亮子さん達だけではなく色々な人達から。部活に行きたいのになぁ。無視しても良いんだけど後でとばっちりを食らうからどうせ同じなんだよね。

 何故視聴覚室がいじめスポットになったのか。隣の校舎のシアタールームが出来てから使われなくなったし管理も杜撰だからって事みたい。暗く、人通りもあまり無いから嫌がらせに絶好の場所だよね。

 待っていたら私のこの世で一番嫌いな男子が現れた。白石だ。

「何か用事?」

「そんな態度を取らなくても良いだろ?今の亜留美の居場所は俺くらいじゃないか。」

「寝言は寝てから言いなよ。」

 強がってみるけど、ドアの鍵を部屋の内側から閉められ、段々不安になってくる。更に視聴覚室は完璧な防音がされていて、窓は無く、どんなに騒いでも気付かれない。こんな時に何だけど、流石私立。

「寝言も何も事実だろ。お前自分の手で人を遠ざけた。みんなお前の事を人間不信の可哀想な奴とかナルシストとか思ってるだろうな。」

「そうするしか無かったんだよ。」

 じゃなきゃ昭葉ちゃんは酷い目にあってた。

「まぁお陰で俺と一緒になれるな。」

「一人の方がずっとマシだよ。」

「強がるな。」

 そう言って私を強く抱き締める。反射的に蹴り飛ばすと思ったより強かったのか尻餅をつく白石。逃げようとすると後ろから違う人に腕を掴まれた。しかも男子二人。どこに隠れてたんだろう。

「なぁ亜留美、俺さ、坂井亮子と少し絡んでて約束したんだよ。」

 また三人現れて、五人がかりて私は白石の元に引きずられた。白石は仰向けになった私を見下ろす。

「お前をメチャクチャにしてやるってな。」

 二人に手足を押さえられている。一人は私を蹴り、二人は制服を脱がし始めた。薄着状態になった私に、白石は馬乗りになった。あぁどうして白石も薄着状態なんだろう。下をワイシャツで覆っていて何がしたいんだろう。

 勢いよく薄着を破く白石。下着状態になる私、どうなるんだろう。

 ぼうっとしていると、口付けをされた。舌で口内を舐めまわされ、気持ち悪い。しかも長い。やっと口を解放されたと思ったら、胸元を舐められた。反応するまいと歯を食いしばっていると、白石の手が私の下部の下着の中をを弄ぶ。

「やっ…。」

「いい子だからもっと声出せよ。」

 その手は私の下着を思い切り下ろした。白石の舌が、手が、私を侵食していく。


「んっ…っやめて…やらぁ…。」

「いいね。感じてるのか?」

「いっ…いやぁぁぁぁぁ!!!!」



 終わった。

 私はこの男の思い通りなんだ。

 昔からそうだった。白石は私に絶望感を与えてくれる。悪い噂を流したのもきっとこの男。私を初めて好きだと、愛してると言ったのも、口付けしたのもこの男。

 自分のものにならないからと言って誰かに私をいじめさせ、好きな人が出来たから諦めてと言ったら殴られ、それでも救われたかった私は馬鹿だった。自分から一人になったんだから。

 白石の思うがままなんだ私は。




 大声で泣きながら、私は壊れていった。






 昭葉が部活が休みだと言うから、バイトに行く時間まで宿題を教わっていた。まぁ途中で飽きたけどな。

「お前の教え方下手なんだよ。」

「ちょっとハル、それが教わる側の態度?」

「やっぱり山本のが…。」

 そう言った時、昭葉の顔色が変わったのを感じた。

「お前、山本のいじめに加担してねーよな?」

 言ってからしまったと思った。

「仕方ないよ。亮子ちゃん達も居るし。」

「昭葉…。」

「裏切られたんだよ、仕方ないじゃん。苦しいのはこっちだよ。」

 何も言えずにいると、黒沢が教室に入ってきた。なぜか少し焦った様子で俺達に訊いた。

「山本さん見なかった!?」

「いや、見てねーよ。用事か?」

「違うわ!、神崎が探すっていうからあたしも探してるんだよっ悪い!?」

「悪かねーよ。」

 一人で焦りやがって何だこいつ。

「岡田。あんた坂井達と山本さん呼び出した事あるんでしょ?どこに呼び出したの?」

「黒沢さんには関係な…。」

「あたしは関係ないけど神崎が関係あるんだ。珍しく部活に来ないから心配だって言っててさ。」

 昭葉を睨む黒沢。

「知ってる事は教えて貰うよ。」

 昭葉は観念したのか、重い口を開いた。

「亮子ちゃんと…白石君が…今日視聴覚室でどうするとか話してて…。」

 思わぬ名前が出てきた。白石だと…何で坂井と関わってんだ?

「岡田…。あんた前白石に山本さんが酷い事されたの知ってて…。」

「そういう事か。」

 昭葉の肩を掴もうとした黒沢を止めたのは神崎だった。

「中学の時の件もそうだ。白石が間接的に山本さんに嫌がらせをする。坂井と関わってたのも納得だな。」

 あくまでも冷静か。こいつらしい。怒り気味の黒沢を促すと、視聴覚室に向かった。

「昭葉。」

「何、ハルもあたしを責める?」

「ちげーよ。違うが…俺らも行くぞ。」

 俺は昭葉ばかりが悪いとは思わない。だが昭葉のこういう所はもう見たくない。嫌がる昭葉の腕を引くと神崎の後をつけた。





「何これ…。」

 黒沢がそう呟いたのも無理はない。視聴覚室は荒れ果てていて、明らかに数人で揉めたのが見てとれた。そして誰も居なかった。

 神崎は何も反応せず黒沢と中に入る。黒沢が何か落ちているのに気が付いた。

「インナーに…下着?何で…何されたっての…。」

「黒沢、それは頼む。取り敢えず片付けないか。稲葉と岡田も手伝って…。

「どうしてそう冷静ななのさ、腹立たないのかい!」

 そこは触れちゃ駄目だろ黒沢。俺が止めるより早く、黒沢は神崎に怒鳴った。

「あたしはムカついてるね!白石に坂井に奴に…岡田!あんたも同罪だよ!」

 怒りが昭葉に向かい、昭葉も負けじと言い返す。

「っ…どうしてウチらばっかり悪いわけ。山本さんの自業自得に決まってんじゃん!」

「言い訳するな!悪いのはどう考えたっていじめる奴だ!なぁ、神崎あんたも…。」

 黒沢と昭葉の言い争いは、神崎が椅子を蹴り上げた音で止まった。転がる椅子を、俺も昭葉も黒沢も呆然と見つめた。

「悪いのは俺なんだよ。すまん…だからそう怒らないで欲しい。」

「あんたが悪いわけ…。」

「強いから大丈夫だと盲信してたんだよ。信じるだけで良いってな。駄目だ。彼女は一人で溜めこみ過ぎた。その結果これか。白石の奴め。」

「おい、どこ行くんだよ。何する気だ。」

 出て行こうとする神崎は振り向くと、吹っ切れたように笑いながら言った。

「屋上に居る気がしてな。想ってるだけは止めにする。」













 気付いたら屋上に居た。乱れた制服で、裸足のまま。下の階の視聴覚室からやっとの思いでたどり着いたのがここだった。

 フェンスの下を見下ろす。四階ある校舎。普段は怖くてこんな事はしないけど今は全く怖くない。こうやって、目を逸らそうとしても、先程の事を思い出す。

 全て奪われてしまった。白石に。もうどう考えたって私はあの人のものだ。逃げようにも逃げられないだろうな。なんて、今更逃げる気力も無いけど。

 嫌がらせだけなら耐えられた。全ての人に何をされようとも、自分を持っていた。でももう駄目。白石に、数人の男子に見られながら尊厳も何も無い事をされて。恥ずかしくて情けなくて悔しくて、何か不快な液体でベトベトの口からは笑いしか出てこない。

 部活に行きたかったな。もう行けないよ。誰にも顔向け出来ないよ。

 自分勝手な理由で傷つけてしまった昭葉ちゃんに謝れなかった。謝って、事情を説明してありがとうって言いたかったよ。都合の良い話だけど。稲葉君とももっと色々話したかったのにな。

 大好きな人にも会えない。当然だ。もう信じて、なんて言えない。いつか言いたかった事も諦めるしかない。

 自分一人で何とかしようとした罰だ。驕るにも程があった。馬鹿だよ。本当に馬鹿。大好きな人を遠ざけて大嫌いな奴に漬け込まれて…本能を許すなんて。

 終わった、何もかも。



 改めて、遥か下、地面を見下ろす。特に何も無い砂利道。十分だ。


 死のう。


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