26話…仕返しの話
「仲良かった昭葉ちゃん裏切ったってマジ?」
「最悪!何あの人!」
「昭葉ちゃん大丈夫?」
「ウチら昭葉ちゃんの味方だからね!」
次の日、クラスメイトに囲まれたあたしは次々にこんな事を言われた。
みんな、現場に居た人から、「友達の少ない山本さんに構ってあげてた昭葉が、山本さんに偽善者だの要らないだのと言われた。」と聞かされたらしい。
「あの人さ、絶対私はお前らと違うみたいに考えてるって!」
「昭葉ちゃんもう構わない方が良いよ。」
今でも昨日の事が鮮明に思い出される。
『鬱陶しい。』
『あんたみたいなの要らない。』
まさかあるみんにあんな事言われると思ってなかった。思い出しただけで泣けてきそうで、そんな自分が情けない。
「あっ、来たよ。」
あるみんが教室に入ってきた。
「帰れよ!」
「マジサイテー!」
「昭葉ちゃんに謝れ!」
みんなに何と言われても、あるみんは黙ったまま席につき、予習を始める。いつもと変わらない様子だ。
これで良かったんだ。あるみんもあたしもこれで。
「今日勉強教えて貰うつもりだったのに避けられたのはそういう事かよ。」
ハルが教材を机に叩きつけた。
「俺はわかってるつもりだぜ、お前は偽善者ぶるような奴じゃねぇ。」
ハルだけじゃなく、慰めてくれたみんなからも言われた。昨日はあれからずっと、自分に偽善的な面があるんじゃないか、とかずっと考えていた。文化祭で仕切ってたことも、実は不快に思われていたらどうしよう、自分は何なんだろうって。
『みんな何考えてるかわからないのに。』
あるみんが言っていた通りだとは思う。でもハルもみんなもあたしは偽善者じゃないと言ってくれた。みんな理解してくれたんだ。あるみんには何も伝わらなかったんだろうけど
「山本の奴、今までいじめを受けてきたんだろ。他人不信になるのは仕方ねーよ。相手がお前でも。お前は悪くねぇ。」
あたしは…悪くないんだ。
いじめは傍観者も悪いと聞く。あたしは関わろうとしたんだ。これで良いんだ。
もう割り切ろう。仁も言ってたじゃない、山本さんは強いって。あんなに性格が歪んでしまっていたあるみんとはきっともう仲良く出来ないだろうし。
亮子ちゃん達の所に向かうと、みんな先に弁当を食べていた。
「昭葉遅ーい。」
「ごっめんるかちゃん。」
「稲葉君と喋ってたでしょー。いいなーいつるかに紹介してくれんのー?」
「だから稲葉にはその気ねーだろ。」
るかちゃんに突っ込む縁ちゃん。みんないつも通りだった。
「てかるかちゃん、まだハルが気になってたんだ…。」
「うー。でもその気ないなら他に誰か紹介してよー。昭葉って男子と仲良いし。」
「じゃあ…仁は?」
きっとあるみんの事を諦めるだろう、そう思って何となく挙げてみた。
「仁って…。神崎君?」
「神崎君とるかじゃ合わなくない?あの人頭良い美人系が好きそう。」
「ちょっと亮子どういう意味よー?」
亮子ちゃんの言う通りかもしれない。るかちゃんはタイプが違うんだよきっと。
「じゃあ頭良い美人系になる!」
「「「「いや、無理でしょ。」」」」
全員一致でるかちゃん変身計画は崩れ去った。
「てか昭葉って何であの二人と仲良いのさ?」
「あたしとハルは幼なじみでさ。中学の頃は関わり無かったけど。」
仁は高校で再開したハルと仲良くしてたから、自分も仲良くなった。まぁ、二人の観察が楽しかったのもあるけど。
「ハルと仁って面白いんだよー。てかお似合い。正反対だけどそこがツボなんだよねー。身長差もまた…。」
「わかったからわかったから。」
縁ちゃんに止められ、脱線しそうになった話を止めた。
「てか男子ってさー。ぶっちゃけウチらの事どう思ってるかなー。るか気になるんだけどー。」
そして話を戻するかちゃん。どんだけ恋バナ好きなんだ。
「それ恋愛的な意味?」
「るかにはそれしかないでしょ。」
「何よ美香も縁も二人して!まぁそうだけどー。」
「少なくとも、ウチらには興味ないでしょ。」
そう言う亮子ちゃんは興味が無さそう。
「多分さほら!萩本君は誰でも良さそうだからるかでも良いんじゃないかな!」
美香ちゃんが真剣に言うけど萩君にかなり失礼だね。ウケるけども。
「るか、萩本君興味無いもん!」
「じゃああれか?生徒会長柳川か。」
「縁、レベルを考えなさいよ。」
「亮子ひどーい!」
「レベル的にはやっぱり稲葉じゃん。」
亮子ちゃん的にはハルはるかちゃんレベルか。馬鹿だもんねハル。ごめんねるかちゃんハルと同じで。
「でもハルは女子苦手だよ?しかも元カノ狙ってるよ?やる事やってるよ?」
っていう問題があったわね。
途端、身をよじらせ笑う縁ちゃんと亮子ちゃん。きょとんとする美香ちゃん。
「やる事やってるって昭葉あんた…。」
「縁ちゃん笑いすぎたよー。」
「るか、やっぱり稲葉君駄目かも…。」
シュンとするるかちゃん。てかどんだけ男欲しいんだ。煩悩ファック!
「もう良いじゃん、神崎で。」
「待ちなよ縁、レベル高い。」
「大丈夫、性格に問題があるから。Sだから。」
「ナイス昭葉!」
もうどうにでもなれ。
「でも山本さんが、神崎君が好きって聞いた事あるよ。」
美香ちゃんが言う。
「マジ?」
一気に場の空気が悪くなる。つかどこで聞いたの美香ちゃん。逆ならともかく、山本さんが?
「黒沢さんの間違いじゃねーの?」
「やっぱ縁も気付いてたか。案外わかりやすいもんね黒沢さん。」
まずい、それは初耳だわ。
「でも山本さんって何?稲葉じゃねーの?」
縁ちゃんそれ多分勘違い。
「ムカつく!あのビッチシバこー。」
どっちがビッチだよるかちゃん。まぁ良いや。
「わかった。放課後呼び出すから視聴覚室ね。」
またやるのか。どのみち、あたしも加わらないと駄目なんだろうなぁ。
殴るのは当然。バケツの水をかけたり、黒板消しを叩きつけたり、とにかく好き放題だった。暴行を受けている彼女は無抵抗で、それでもしっかりあたし達を見ながら耐えていた。目に映るプライドの高さなんて全く意味が無いのに。
「懲りた?ねー懲りた?それともまだやって欲しい?」
ほうきでつつきながら亮子ちゃんは顔を踏みつける。
「昭葉ぁ、あんたがやりなよ。」
そう言って少し下がる。あたしは地べたの彼女に上乗りになると、肩を掴んで抑えつけた。
「……あるみん…!」
「何?そんな呼び方しちゃ駄目だよ。躊躇ったら駄目だよ。」
耳障りな挑発。一気に頭に血が登った。頬を叩き、中間服のセーターを無理矢理脱がした。近くのバケツの水をかぶせると、体の線が浮かび上がる。
「そうやって…。あたしもハルもずっと馬鹿にしてたんでしょ!仁の信頼も疑ってたんでしょ!いじめられてたからって可哀想な素振りしてさ!いじめられる方にも原因あるじゃん!あんたのために悩んでた自分が情けないわ!」
いじめはいじめる方が悪いとずっと思ってた。でも原因がないのにいじめが起こるわけが無い。
「昭葉ぁー。そいつ死んで良いよね?」
「死んじゃえー。」
「死ねよお前。」
「だよねー。」
あたしが口にした事がない事を口々に言う四人。あたしも言わないと駄目だよね。
「…じゃえ。死んじゃえ…。」
これであたしが昨日どれだけ傷ついたかわかっただろうか。人の気持ちが少しは理解出来ただろうか。そんな事を考えながら、五人で視聴覚室を後にした。