24話…後始末だけは得意な奴の話
「学級委員!ゴミ捨て頼む!」
「机よろしく学級委員!」
あまり接客をしなかったせいか、俺は片付けで酷使されるハメになった。
俺=馬鹿力、やら体力あるとか方程式が成り立ってんのか、力仕事は俺任せだ。まぁ実際そうなんだが納得いかねぇ。あと学級委員と呼ぶのは止めろ。あと一応皿洗いとかしてたんだぞ。
「流石だな。すっかり学級委員。」
「なぁ学級委員って雑用なのか?」
残飯の処理をしていた神崎に嘆く。
「まぁ、学級をまとめるのは黒沢に任せて、頭がよろしくないのは雑用で良いんじゃないか?皿洗いもまともに出来なかったがな。」
今日はいつも以上に口が悪いな。
「お前色々大丈夫か?」
「稲葉に心配されるとは俺も堕ちたな…。」
「あーわかった一生心配してやんねー。」
「大丈夫だ。心配するな。」
流れで言ったのか本気で言ったのか、まぁこいつを心配するのは逆に失礼だよな。とか思ったりもした。
「稲葉ぁ!喋ってねーで机!」
「うっせー今行く!」
男子に呼ばれてそう返すと、神崎が少し笑った。
「なんか馴染んでるな。」
「まぁな。」
それだけ返すと、机を運びに向かった。
少し残ってしまった食品をタッパーに詰める。後で稲葉に持っていってやろう。作り過ぎた料理や菓子を稲葉に分けると、奴のお袋さんに喜ばれるのですっかり習慣になった。始めは稲葉に彼女が出来たとか勘違いされ、稲葉とお袋さんの間で揉めたらしいが。
食べてもらい美味いと言われるのは素直に嬉しい。料理人になりなさい、と岡田に言われたが仕事にする気はない。
「お疲れ。」
裏方を手伝ってくれていた山本さんに話し掛けられた。
「お疲れ。あまり休んでないだろ。」
疲れきったように笑う山本さん、少しやつれたように見える。
「大丈夫だよ。…うん、でもさ。」
何か言いたそうにそわそわしている。目線は手元にある。手元にはタッパーがあった。
「お昼…食べ損ねてさ。」
無邪気に笑いかけられながらそう言われると、タッパーのものを渡さないわけにはいかない。寧ろ作ってあげたいくらいだ。 稲葉と一緒に皿洗いを手伝ってくれて、しかも稲葉の失敗(洗い損ねや皿割り等)の処理にも追われ、その傍ら接客もしていた。職務怠慢な奴に渡すより山本さんに渡した方が食材も報われる。稲葉のお母さん、恨むなら息子を。
「余り物で悪いけどやるよ。みんなには内緒な。」
「ありがとう!」
タッパーをちゃっかり受け取る山本さん。
「美味しそう。昭葉ちゃんから聞いてたけど神崎君て料理上手いんだねー。」
「あいつ余計な事を…。まぁ良かったら今後何か作ってやるよ。」
「本当?楽しみだなー。」
数ヶ月前までまともに会話出来なかったし近付く事も躊躇ってたのにちゃんと関われるようになった。まぁ俺も進歩したな。
「じゃあちょっと用事あるから、ありがとね!」
飯貰いに来ただけか…。まぁいいが。大分片付いた所で今後は黒沢が来た。
「えー。余ってないの?」
「職務怠慢が何を言うか。」
食品が余ってたらくれないかな、とか思ったけど先客があったみたい。職務怠慢は聞き捨てならないけど。まあいいわ。
「で、片付いたのに今更どうした。」
「何さ、みんなの飲み物買ってきてやったから渡しにきたのに。飲みな馬鹿。」
こいつがいつも飲んでいる微糖の珈琲を渡し反応を見る。
「お、悪いな。」
受け取るとそばの椅子に座りすぐさま飲み始めた。機嫌良くなりやがって意外とわかりやすい奴なんだから。
あたしもさり気なく隣に座り、ミルクココアにストローを差す。
何で隣に座ったんだろう自分。ココアを飲む気にもなれなくて隣で珈琲啜ってる奴を見ていた。
すると、向こうもこっちを見た。目が合う。まずい。自分今どんな顔をしてるんだろう。
「黒沢。」
「……ん?」
「巻き込んで悪かったな。」
目を伏せる神崎。
「何を今更言ってんの。あたしの方こそ…悪かったっつーのに。お互いチャラだよチャラ。それで良いでしょ!」
そうまくし立てると、何がおかしいのか、ふっと笑いかけられる。
「な…何がおかしいのさ。」
「別に?」
思わず目を逸らしてしまう。ていうかこいつ、自然体に笑えるんだ。
「お互い普通にしてりゃー苦労しなかったのかもね。」
何となく言うと、何時もの無表情に戻った。
「別に、苦労してるなんて思った事もない。」
「普通に学生して恋愛もしてさ。」
「してるじゃないか。お前だって松野が好きなんだろ。」
「あたしは…。」
一音が好き。それには変わりはない。今までずっと言いきかせてきたんだし。あたしは一音が好き、守るんだって。
だから口が裂けても…。
「あたしは…あんたに上手くいって欲しいの!山本さん!ずっと好きで何もしてないって馬鹿か!」
「お前なー…。」
「あたしは…!」
言葉が詰まってしまう。何を言おうとしたか自分でもよく分かってないが、言ってはいけない気がした。
「今日は疲れてるんだ。片付けもほぼ終わったし帰って休めよ。」
またそうやって無駄に気を使って優しくしてさ。あたしに何の気も無いくせに。
あぁあたしは、こいつの前だと女子になる。稲葉でさえ負けた事無かった喧嘩も負けて、勉強も適わない。人望もあたしよりあったんだろう。
なのに全く不愉快にならない。弱ってた時にちょっと優しくされたからって単純かあたしは。
「ねーあたしはやっぱり女子なのかな。」
なんとなく訊いてみてすぐ後悔した。けど返されたのは割とマトモな答え。
「生物学上では確実に女子なんじゃないのか。でも性別にこだわるなよ。お前は男か女か以前に黒沢愛なんだ。」
あたしの目を見て言う。あたしとの喧嘩で本気出したこいつが言うから説得力は無くはない。
一番性別にこだわってたのはあたしだ。そう言っているように思えた。
「ありがとね。あたしはもう帰るよ。」
「そうか、じゃあな。」
立ち去ろうとしたら、手を掴まれる。驚いて振り向くと、手のひらに珈琲飴。
「あっ…。」
「みんなに配ったからやるよ。」
あんたどんだけ珈琲好きなんだよ。そうツッコミたかったけども。触れられた手を押さえながら駆け足で帰った。
「ハール!」
すっかり片付いた教室の隅でぼーっとしていると昭葉が背中を蹴ってきた。
「お疲れ!」
「おぅ。お前も頑張ったな。」
「まぁねー。お陰様で繁盛したわ。」
随分と誇らしげだが、入った金は学級費に当てられる。まぁ企画やら会計やら雑務やら何やらは全てこいつが請け負ってたから大したもんだ。
「ね。なんか奢ってよ。」
「はぁ!?」
「いーじゃんよー。」
酒に酔っ払ったように上機嫌だ。さっきまでクラスの連中と打ち上げといって騒いでいたがマジでアルコール取ってねえよなこいつ。
「…今度何か奢ってやるよ。」
昭葉の頭を、いつも神崎が俺にやるように、掴んでわしわしとかき回してやるとニタニタ笑う。猫かこいつは。
色々あったが無事に終わった文化祭。頑張ったこいつをどう誉めてやろうか。
「うへ…ありがとーハル。」
礼を言うのは俺の方だろうな。なんてな。俺が変わったのもこいつの所為なんだしな。
「やあ。」
帰ろうとしていると、先日散々痛めつけた男に話し掛けられた。
「何の用だ?また殴られに来たか。」
「この前は油断したな。神崎があそこまでやる奴だとは思ってなかった。」
「負け惜しみはいい。何の用だって言ってんだ。」
少し前まで何とも思ってなかったこの白石。今は声を聞いただけでも神経を逆撫でされるようだ。
「お前、俺を大分前から知ってたみたいだな。」
「まぁね。」
「昔を色々言うのは嫌いだが、浩輔を使ってまで…何がしたかった。」
黒沢から聞いた事を思い出す。俺が浩輔を傷つけたせいでもあるがこいつと繋がってなければ…。
「お前が気に食わないだけさ。あの子と仲良く出来るお前が…。」
嫉妬か。大体予想はつくが。
「誰と仲良くしようと俺の自由だ。」
「ただあの子は…亜留美は俺だけの物なんだよ。」
そう言うといきなり首を掴んできた。壁に押し付けられる。相当な力で首を絞められ意識が朦朧としてきた。
やられっぱなしもまずい。腹を殴ろうとするとかわされる。首が自由になったがあまりの痛みにしゃがみこんだ。顔を上げると白石はもう居なかった。
次から昭葉ちゃんメインで
頑張ります。
多分。