23話…文化祭で浮かれてる話
明日は文化祭本番。
「俺が学級委員!?」
「あたしも!?」
「つーわけで俺の後を頼むぜ!」
調理場に居た俺と黒沢に告げられたのは、学級委員に選ばれたという事だ。
「何でだよ…。」
「票が多かったんだよ。稲葉が最近頑張ってんのみんな見てたんだぜ?」
勿論俺も、と柳川。確かに最近勉強とかちゃんとやるようになったし選挙出たし…しかし何で俺が…。
「まぁあたしはあんたの後とは思ってないから。」
「まぁそう言うなよ黒沢!」
「おいそこの暇人。何か手伝ってくれないか。」
学級委員投票でそこそこ票を貰ったらしい、という神崎は、黙々と明日の準備に徹していた。
昨日の事は忘れたように。
昨日知った事はいくつもあった。生徒会長が降ろされたのは知っていたが、何があったのか詳しく聞いたのは初めてだ。
そして黒沢は、その事件は白石が関わっていると本人から聞いたという。それは神崎も初耳だったようだ。友人、橋本浩輔が白石と関わってた事を聞いても冷静だったが。
山本は黒沢によって介抱された。何か言葉も交わしたようだが、何を話したかは黒沢は言わなかった。
あまり触れてはいなかったが、神崎が山本を好きだという事も初耳どころか、嫌っていると勘違いしていた。
俺は神崎に謝り、黒沢も神崎に謝り、神崎も黙っていた事を謝った。誰が誰に何で謝るか何てもうどうでもよくなってきて、みんなただ謝っていた。
次の日。
「うへへへーやっぱ可愛いなぁ。」
メイド姿の女子、執事なのかよくわからない格好の男子。中にはホストみたいな奴もいる。昭葉はそんなクラスメートを眺めてにやにやしていた。
「仁ー。開店するけど大丈夫!?」
「おー。」
眠そうな神崎もしっかり着替えている。
「バーテン服…?」
調理担当なのに何か違う。
「あたしが選んだの!やっぱ何着ても似合うわねー仁は。」
「よく着てくれたなよ。」
「あんたも似合ってるわよ。」
「なっ……。」
「開店!だよ。」
大盛況だ。昼になり、飯を食べに来た客で殺到した。
「いやー。仁のパスタにサンドイッチに、大分好評みたいよ。あ、サンドイッチは黒沢さんだっけ。メイドも人気だし。金も結構入ったわね。」
「昭葉、良かったな。」
「まぁねー。あたしにかかっちゃあこんなもんよ!」
最近元気の無かった昭葉、大分嬉しそうだ。俺も少し安心する。
「ちょっとくらいサービスさせろよー。」
「止めてくださいっ!」
容器の落ちる音、女子の軽い悲鳴。他校の男子がクラスメートの女子の腕をつかんでいる。
「なんだぁあいつ。」
大事にならないうちに、とそいつの元に向かうが、先手をとられた。
「ウチはそういう場所じゃないんでねぇ。お引き取り願うよ!」
バーテン服の黒沢が、その男子の腕を捻り上げていた。
「あいつ…。」
「ま、用心棒みたいな?」
「調理場は。」
「仁が居るし…。」
いや、確かあいつは…。
『14時30分より、吹奏楽部のステージが始まります。体育館へ――。』
校内アナウンスで、今吹奏楽部が出払っているのに気付いたようだ。客も段々と減っていく。
「観に…行こう?」
「まぁな…じゃなくて!調理場!」
「今は注文取ってないし、吹奏楽部のが終わったら店再開しよ!ウチのバーテンダーとメイドの晴れ舞台を!」
ホスト姿の萩本もだな。
「どーせ目立たねーだろ。」
「バーカ。仁はソロやるのよ!」
音楽には興味無いが、たまには悪くない。昭葉と体育館に向かうと、黒沢に会った。既に演奏は始まっていた。
「あんたらも来てたんだ。」
「お前興味あんのかよ。意外だな。」
「別に!」
曲はよく知らないジャズの曲らしい。やっぱり音楽はわかんねぇ。わかんねぇけど…凄い。
萩本はドラムか。うわぁ凄いな。ドラム出来るだけでも凄いのに。
そして神崎が立ち上がって、トロンボーンを吹く。こいつこんなにうまかったのか。何吹いてんのかサッパリだが。
「うへへへやっぱ仁凄いー。」
笑いながら俺の腕に絡んでくる。酔っ払ってんのかこいつは。
「………いい。格好良いな。」
そう呟く黒沢は、ずっと演奏を凝視していた。
再開したカフェはたちまち人で溢れた。昭葉はずっと教室の外で宣伝している傍ら、中にいる俺達に指示を出したり忙しそうだ。
「岡田ちゃんよく働くなー。」
ホストみたいな萩本が、客席に座ってジュースを飲んでいる。
「てめーも働けよ。」
「ちゃんと接客してるぜ?」
因みに俺は昭葉に接客を外されて殆ど神崎達裏方の手伝いをしている。
「稲葉は愛想悪いんだよ!つか岡田ちゃん何気に可愛いよなー。愛想良いし。お前仲良いけどどういう仲?」
「別に。幼なじみみたいなもんだ。」
昭葉について指摘された事無かったがこんなもんだろ。
「かーっ!お前それだけかよ!まーお前女子興味なさそうだもんな!」
「何が悪い!。」
「俺にはわかるんだぜ。どいつがどいつを好きかなんて。」
そしてチラッと、裏方のスペースを見る。
「神崎もなー。あいつ読めないから最近までわかんなかったけどな。今じゃ無理してんのバレバレなんだよなー。」
「そうなのか?」
「そういうもんなの。言わなきゃわかんねーのに。」
「俺は、いちいち言われなくたって構わねーよ。察する事は出来ねぇけど。あいつが言いたい時に言えば良いんだよ。」
「ほー。お前もなかなかいい奴だな。」
「はーぎもーと君!」
ジュースを啜っていた萩本の背後には昭葉がいた。
「働け!」
「すいません女将!」
「誰が女将やねん!」
昭葉に蹴られてしぶしぶ立った萩本は、接客に向かった。
「ハル。」
「な…なんだよ?」
「あんたに客。」
若干不機嫌そうな昭葉の目線の先を見ると、金髪の巨乳が笑っていた。
「い…一音…!」
「じゃあよろしく!」
一音はクラスメートなのに、文化祭に関わろうとしなかった。そんなあいつが何の用だ。
「晴明。久しぶり。」
「お前何しに来た。」
「あんたに会いたかったの。」
すり寄ってくる一音。公衆の面前で何考えてんだこいつ。
「ついでに良い事教えてあげる。」
「何だよ。」
なるべく隅の席に座らせると、一音は紙を取り出した。
「読みなさい。あんたが知りたいかは知らないけど、あんたの友達の事が書いてるわ。」
「てめー、黒沢に頼まれて神崎の事調べてたんだろ。」
「まぁね。同中だし知らない事はあまり無かったけど。これには愛にも教えてない事が書いてあるわ。」
「知るか。」
ペラペラ喋る一音。不愉快た。
「てめーはこれ以上突っ込むな。」
強く言うと、一音は涙目になった。
「イジワル。私はあんたが好きなだけなのに。」
「おい…。」
「そんなに神崎君が好き!?このゲイ!」
紙を掴むと、俺の顔面に押し付けた。
「不登校にでもなったら私を見てくれるかなとか思ったけど神崎君神崎君って。どーせ山本さんが好きなんだから私を見てよ!」
「お前それどこで。」
「愛から聞いたの馬鹿!帰る!」
紙を残したまま、走って帰ってしまった。
「このヤり逃げ!」
そう言い残して。
「…の馬鹿!」
追いかけようと思ったが、諦めた。追いかけたら図に乗るに決まっている。
付き合っていた頃も、たまに「私と喧嘩どっちが大事」とか激高された事があった。厄介な女だ。
紙に押し付けられた紙は、床に落ちていた。拾い上げると、自然と中身が目に入ってしまう。何かの掲示板のようだった。所謂学校裏サイトで、生徒会長を降ろされたあいつの悪口が羅列していた。
まぁこうなるだろうな。俺は同時は金を得るのに必死だった。あいつも罪を被せられて逆境にも耐え、必死だったんだろう。あいつと俺が交わったのは、お互い暴力的な意味で強かったからだ。
そんな事を考えていると、頭を叩かれた。昭葉が心配そうに見下ろしている。
「あの子帰ったんだ。」
「あぁ。」
「そっか。そろそろ終わるから片付けするつもりでね。」
あぁそんな時間か。客はすっかり居なくなっていた。
あまり文化祭してなくて
申し訳ないっす。