20話…犯罪な感じの話
「はぁ!?神崎も黒沢も居ねぇの!?」
「よくわからないんだけどねー。」
山本が居なくなった事を伝えたらどこかへ行ったらしい。昭葉もよくわからないようだ。
「ねぇハル。」
「なんだよ。」
「仁さ、最近隠してる事あると思うんだよね。」
あいつは隠し事を…。
「するような奴だしな。」
「ね。ただでさえあんたにも…。」
昭葉は何かを言いかけて、ハッと口を塞いだ。
「俺に…?」
「なっ何でもないよ!」
これは確実に何か隠してるな。昭葉は嘘が下手だ。
「もういい、神崎と黒沢探しに行くぞ!」
「調理室どーすんのよ!」
「萩本に頼んどけ!」
最近馴れ馴れしいから引き受けてくれるだろ。
しかし神崎の奴…。隠し事なんかしやがって。
ここはどこだろう。職員室に行くはずがいきなり頭を殴られて薄暗い部屋の隅で座り込んでいる。目を開くと自分を連れてきた男子が、私の頬に触れて微笑んでいた。
「白石君…?」
「久しぶりだな。元気だったか亜留美。」
同じ学校だとは知っていたけど会うのは中学以来。なんで去年は関わってこなかったのかは知らないけども。
「名前で呼ばないで欲しいな…。」
「どうして?」
「だって…好きな人も名前で呼んでくれないのに。」
行った途端、髪を鷲掴みにされ引っ張られる。意識がハッキリしてないせいか、余り痛さを感じない。
「俺は亜留美が好きだよ?」
「私は白石君が嫌い。」
「ハッキリ物を言う所も好きだな。」
「気持ち悪いから離れてよっ。」
思い切り彼を突き飛ばす。力が無いから尻餅程度だったけど。
周りを見渡すと、ハードルやら陸上部が使う物がある。陸上部の部室だろうか。そういや白石君も陸上部だ。
「相変わらずだね亜留美…。」
再び近づいてくる。首と背中に手を回されて、そのまま力強く抱き締められた。
…最悪だ。さっきまで衣装を試着してて、急いでコートを羽織って来たのに、コートを剥ぎ取られて今は露出度高めのメイド服だ。昭葉ちゃんには悪いけどこんな役するんじゃなかったな…。
「無抵抗なんだな。可愛くない。」
「誰か助け…!…んっ。」
口を口で塞がれた。気持ち悪い。息苦しいな…。
何されるんだろう。嫌だな。中学の頃も色々されて嫌だったな…。思い出すのも嫌だもん。
唇を解放されて大きく呼吸をすると、今度は床に押し付けられる。
「助けを呼ぼうったって無駄だ。部室の回りには仲間が居るし、生徒も教師も文化祭準備で忙しいだろ。」
「わかんないよそんなの。」
「馬鹿だな。教室で呼ばれた時点で抵抗すれば良かったのに。心のどこかで俺を好きだって気持ちがあるんだろ?」
「調子に乗ってんじゃ…!」
カッターナイフで服があちこち裂かれる。
「君は幸せ者だ。中学一年の頃から俺と知り合えて。あの時から君は俺の一番なんだよ。」
昭葉ちゃんに教わって作った衣装が台無しだな…。
「またあいつが助けてくれると思ってる?あの時みたいに。また迷惑かけるだろうに助けを求めてる。」
「そんな訳…ないよ。」
あの時みたいになったら今度こそ私は…。
「そうか、なら決まりだ。亜留美は俺のものだ。」
慣れてんだろ?いいだろ?彼がそう囁くと私は抵抗するのを諦めた。声を上げたり抵抗したら余計につけあがるのはわかってるし。なされるままにしたら解放してくれるだろうし。
ああ。私はもう駄目だな…。
「陸上部の部室ってここか…。」
「っていうか何、この仲間の数。」
よっぽど暇なのか、三十人近くの白石の仲間が居た。二人で相手していたら随分と時間がかかってしまった。
「よく先生にバレないわね。」
黒沢が一人の首を絞めながら訊く。
「白石と山本さんは本当に中に居るんでしょうね?嘘でもついてたら…。」
そいつはガクガクと首を縦に振る。
「しかし黒沢、ここ鍵が閉まってるんだが。」
「任せな!」
黒沢は棒を回し、鍵に振り下ろすと木っ端微塵に破壊した。
「随分と乱暴だな。」
「黙んなさい。行くよ。」
黒沢は陸上部の部室のドアを思い切り開く。部室の隅に山本さんは居た。
彼女はコートにくるまって震えていた。
「来ないで。」
か細い声でそう言った。
「山本さん?」
「白石君が……。」
ドタン!
後ろで音がした。振り向くと黒沢がダンベルを当てられ倒れていた。
「全く、黒沢さんはお前と組んでいたのか。」
ダンベルを持った白石が、黒沢を踏みつけて笑っていた。
「黒沢さんがお前と亜留美について調べていると言って俺の所に来たんだよ。まさかお前と協力関係にあるとは知らずに全て話してやったさ。」
俺は床の黒沢を見る。
「ごめんなさい…ごめ…。」
謝る黒沢。本当だという事か。
「だから久々に亜留美を痛めつけてやろうと思ってね。黒沢さん、亜留美嫌ってたみたいだから。」
「だから何だよ。」
悪いのは全てこの男じゃないか。
「黒沢と山本さんに触れるな。俺が相手してやるよ。」
「はっ!」
上着を脱ぎ捨てると、俺も白石も同士に掴みかかった。
あの時もそうだった。あの時も私が暴行を受けて神崎君が助けに来てくれたパターン。目の前で殴り合うのを呆然と見ていた。
「あるみん!無事!?」
「どうなってんだこりゃ…。」
昭葉ちゃんと稲葉君。何で来たんだろう。
「怖かったねあるみん…。もう大丈夫だから。」
「昭葉ちゃん…神崎君が…かっ…。」
もうすでに白石君は居ない。稲葉君と昭葉ちゃんが来るのを悟った白石君は、裏口から逃げ出した。大分ボロボロになっていた気がする。
「神崎…お前どうしたんだよ!?」
「あー悪いな。」
一方で殆ど無傷の神崎君。稲葉君が来た時には何時もの調子に戻っていた。
昭葉ちゃんは神崎君の所に向かうと、無表情の神崎の顔を平手打ちした。
「馬鹿じゃないの!何でハルに何も言わないの!何の為のダチよ!」
凄い剣幕で、胸ぐらをつかんで怒鳴る昭葉ちゃん。
「あるみんの事だって…何も言わないで…そのくせこんな…。」
「それ位にしとけ昭葉。」
昭葉ちゃんを離すと、稲葉君は神崎君に向かい合った。
「なぁ、もしかしてこれはお前が前言ってた…。」
「あたしは…全部聞いたよ。」
黒沢さんは起き上がって言った。
「白石本人から全て。しかも奴はまた山本さんに何かするって言ってた。神崎、あたしは山本さんを連れて外出て戻ってくるからちゃんと話なよ。」
私は黒沢さんに立たされて、部室の外へ出ようとした。
「待って黒沢さん。」
少し止まってもらうと、黙っている神崎君に言った。
「ありがとう…ごめんね。」
何か返された気がしたけど、構わずドアを閉めた。