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17話…話し上手は得する話


 いよいよ生徒会長選挙本番。



 いやぁ忙しい日々だったぜ。

 俺は活動なんざ面倒だったが、昭葉に無理矢理学校を連れ回されて、色々気付いた事を演説で読む事にした。

 まずはあれだ、挨拶が無いのな。まぁ俺も面倒で教師や先輩に挨拶はしないが、昭葉曰わく、マナーがなってないとの事。流石全国レベルの部活の奴は違うな。

 因みに昭葉の所属する女子ソフトボール部、先の全国大会で優勝したらしい。…いや、らしいも何も全校生徒で応援に行ったからこの目で見てきたぜ。昭葉はサヨナラのヒットを打ち、見事学園の英雄となりましたよ凄ぇなこの腐女子。

 だから校内回っても、昭葉ばかりが注目され、生徒会長選挙に出る俺が付属品扱いだ。

「校内行事でちょっと活躍した奴と全国で活躍した奴じゃあ違い過ぎる。」

 はいはい、何も活躍のない神崎は黙っていような。

 そしてやはり、寄付金制度についての改定をマニフェストに含める事にした。まぁ、当選する気は無いから、黒沢がなんとかやってくれるだろうが。

 本番前、俺達立候補者と推薦者は舞台裏で待っていた。

 何だろう。すんごい緊張するぜ?

「かっ顔が引きつってるわよ、稲葉。」

「てててめーもな。」

 緊張しているのは俺だけじゃなかった。黒沢もさっきからずっと髪の毛をいじったりしていて何やら落ち着いてない。この女も緊張するとは意外だ。黒沢の推薦者の女子も、立候補者の及川って女子、その他数名緊張していた。

「あんたミスするの確定。」

「てめーもな。」

「まぁまぁ落ち着けって。」

 そして、普段と何ら変わらない涼しい顔している奴はやはり神崎だった。

「黒沢さんなら大丈夫だ。」

「俺は?」

「心配するな、稲葉が失敗したらそれをネタに面白おかしく演説してやる。」

 本番前でも腹立つなこいつ。

「というか神崎、お前の原稿は?」

「覚えた。それにハナから原稿通りにする気はない。」

 はぁ!?

「柳川や白石や岩倉見てみろ。原稿持ってないだろ。」

 因みに順番は、岩倉、及川、柳川、白石、俺、黒沢の順だ。こいつらの後か。まずいな。プレッシャーが…。

「それでは立候補者、推薦者のみなさん、入場して下さい。」

 アナウンスに促され、舞台に並んである椅子に座った。

 会場を見渡すと大勢の全校生徒。教師は居ないのか。どこまで放任主義なんだ。

「それでは、岩倉さん、演説をお願いします。」

 俺は他の奴の演説は聞かない事にした。明らかに自分より上手い事言うんだろ。やべ、プレッシャーが…。

 横の神崎を見ると、相変わらず平然としている。こいつの心臓はなまりで出来てんのか。

 岩倉の熱弁が終わり、及川の真面目演説が終わり、次は柳川か。

 柳川はニコニコしながら演説を始める。あぁうぜー。

「学校の発展のために、更に寄付金制度の充実化を――。」

 うぜー。こいつ俺を学校から排除する気かぁぁ。

 しかし、やけに人気が高いのがムカツクな。時折歓声が聞こえる。あぁうぜー!

 推薦者もやはりうざかった。柳川をどんだけ誉めるんだよ。

 まぁしかし、実際人気あるから人望もあって、金もあって、金は関係ないか。いい奴なんだろうって事はわかるぜうん。

 次は白石とか言う奴。しかし推薦者の奴見た事あるような無いような。

 今度は女子の歓声がやかましい。どうせイケメンとか何とかで人気なんだろ。しかも演説もまともだし上手いし。落ち着きあるし。…って次俺じゃね?はは、死んだな。

「稲葉。」

「あ?」

 神崎が声を潜めて言う。

「お前にしか出来ない事すりゃあ良いんだ。無駄に気負いするなよ。」

 俺にしか出来ない事…。知るか。

 いや、神崎にしちゃまともな事言うけどよ、お前みたいにアドリブ入れてこうなんざ出来ねーよ。

「稲葉君、演説をお願いします。」

 来た。神崎と共に舞台の中央に向かい、マイクを調整する。始めようとするが騒がしい。

「ってゆーかあいつ不良だろ?」

 はい聞こえたよ俺の地獄耳。俺は深く呼吸をすると、言った。

「俺は不良を辞めた!」

 シーン。

 はい、やってしまいました。

「だから話を聞け…聞いて下さい。」

 笑いをこらえる声がきこえる。野次を飛ばす声も、爆笑する声も。

「俺は俺なりに、この学校について考えてみた―――。」

 挨拶の事、寄付金の事。原稿を見ながらだったが、思った事を話した。

「自分の家が貧乏だからかもしれない。けど寄付金による待遇の差に困ってんのは俺だけじゃないと思う。金で何でも解決する悪い風潮は断ち切るぶきだ。」

「教師に対しての挨拶が無い。俺が言えた事じゃないがやはり挨拶は大事だと思う。バイト先で良く言われるのだが――。」

「俺は不良だったし、今でも劣等生だけど、だからこそわかる事があるし…だから票を下さい。」

 頭を下げる。終わった。無事に。

 自分で読んで、改めて頭の悪い演説だ。だがやり切った。当選は有り得ないと思うが、悪い気分はしない。あとは神崎に託そう。

 入れ替わると、神崎が演説を始めた。

「皆さん、お耳汚しをさせてしまい大変申し訳ない。」

 どっ、と笑い声。つかこいつ何言ってんだ?

「お察しの通り、こいつは救いようのない馬鹿で、最近までは様々な問題を起こし、迷惑を被った方も居るのではないだろうか。俺もその一人だ。けれども…。」

 何、誉めてくれないのこいつ。しかも普段あまり喋らない奴がこんなに話すとは。しかも原稿無し。マジで原稿考えてないんじゃないのか?

「―――さっきの演説を聞いたと思うが、底辺に居るようなこいつの目線じゃないとわからない事があるんだ――。」

 底辺は余計だな。

 しかし、こいつがこんなに喋るとは思わなかった。貶してんのか誉めてんのかわからない、たまにウケを狙ったような話で演説で生徒の耳を掴みんでいる。

 つかどんだけ俺の話をする気だ。いいよバイト頑張ってるとか話さなくても。

「―――こいつに任せては貰えないか。俺はこいつが生徒会長になって面白い変革をしでかす事を期待している。以上。」

 アドリブでやりとげやがったよ。笑い混じりの拍手喝采。歓声。こいつ、こんなに話が巧かったっけ。

「何突っ立ってんだ。終わったぞ。」

「お…おぉ。」

 黒沢達と入れ替わる。黒沢とすれ違った時、奴の緊張を感じた。

「黒沢大丈夫かよ。」

 案じる間もなく、黒沢の演説が始まった。だがやはりハプニングは起こってしまった。


「私はかねてからこの学校に対し―。」

『―――キィィィィン――プツン。』


 不快な音がして、静かになった。黒沢がマイクのチェックをする。放送担当が駆け寄り、何かを言って下がっていく。

「私はかねてからこの学校に対し、不満を抱いていました!」

 黒沢が再び演説を始めるが、マイクが入っていない。声を張って演説している。マイクの代えが無かったのか。

 しかも生徒が黒沢の演説を聞いていない。特に男子生徒が喋ったり帰り始めたり、好き放題だ。

 黒沢が動揺し始める。普通ならここでキレてもよさそうだが。俺ならそうしてたな。


 しかしまずいぞ黒沢。どうする…。

「すみません!聞いて下さ………」

「うるせーな!」

「演説止めろスケバン!」

 黒沢の声を遮る見知らぬ男子生徒。それに煽られたのか声を上げ始める生徒達。

「不良に学校任せられるかよ!」

「下がれ糞アマ!」

「下ーがーれ!下ーがーれ!」

 酷いな。

 何故俺の時はこんな事は起きなかったんだ。俺だって不良やってたし更に拙い演説だった。明らかに黒沢の方がしっかりしているし信頼もあるのに…。

 黒沢は唇を噛みしめ肩を震わせながら、罵声に耐えていた。

「黒沢、お前舐められたままだぞ、いいのかよ。」

「黙ってなさい。」

 黒沢に睨まれ、大人しくしている事にした。ここで事を起こしたら、俺にとっても、黒沢にとっても良くない。

 黒沢が俯き考えていたその時。

「いい加減にしようぜみんな!」

 明るい声が騒ぎを断ち切った。柳川だ。立ち上がって、黒沢の肩に手を置く。

「こいつだって心を改めて、学校を良くする、今までと違う方法を考えたんだ。稲葉の演説だってそうだったろ?聞いてやろうぜ。」

 柳川の説得により静まる生徒達。柳川はそれを確認すると黒沢を一瞥し、席に座った。

 黒沢は柳川を一瞬睨むと、再び演説を始めた。








「いやぁ柳川、やっぱあいつは凄ぇな。」

 放課後の教室。俺は神崎と二人きりだった。全ての演説、投票が終わった後だった。

「ウザいだけじゃねぇんだなあいつ。」

 黒沢の演説の時、柳川の影響力が改めて凄いと感じた。もう柳川が生徒会長で決定じゃないか。

「なぁ神崎、お前も…。」

「稲葉。」

 浮き立っていた俺の気持ちが、神崎の俺を呼ぶ声で静まったような気がした。神崎が俺を真っ直ぐ見てきた。

「なっ何だよ?」

「あいつだって…。」

「稲葉ぁ!神崎君!」

 神崎の話しが遮られて、一人の女子が教室に入ってきた。

「確かあんた黒沢の……。」

「愛さん見なかったかい!?」

 黒沢の仲間の一人である、明らかに昔ながらのスケバンのような女子数名だった。つかなんで俺だけ呼び捨てなんだ。

「黒沢?見てねーな。」

「最近ただでさえ様子おかしかったのに…。」

「あんな事あって気落ちしてたらどうしよう…。」

 動揺する女子達。黒沢の様子がおかしいのは知らなかったが、気落ちするような奴には見えない。


「という訳だ、悪いが居場所は知らねーぞ。」

「俺達も一緒に探そうか。心当たりがある。」

 女子達を追い返そうとして、神崎がそう言った。

「はぁ!?」

「いいから行くぞ。」

 様子おかしいのはこいつもじゃないか?女子に親切なのはいつも通りだが。…怒ってるのか?いや、違う。何なんだこいつ。 取り敢えず、半ば無理矢理、黒沢を探す事にした。






 案外簡単に見つかった。神崎の言った、心当たり――屋上で一人涼んでいた。

「愛さん!」

「心配したッスよ愛さん!」

 駆け寄る女子達。黒沢は仲間を抱き締めながら、俺達二人を見た。

「……あんたらは何の用?」

「神崎君が愛さんを探してくれたんですよ!」

「稲葉は相変わらず役立たずッスね!」

 おいそこ余計な事言うな。

「散々文句言いながらついてきたクチだね。悪いね、心配かけて。」

 疲れたように笑う黒沢。

「あたし…駄目だったね…。」

「黒沢さん、まだ結果は決まってないんだ。」

「決まったようなもんだよ。あーあ、あの男にしてやられた。」


 あの男…誰だ、柳川か。やけに敵対心を持っていたらしいからな。

「あたし、落選してたら不良に戻るよ。」

「愛さん!」

「向いてなかったんだよ生徒会長は。結局信頼も何も無かったし。緊張しちゃうし。反発されるし。駄目だねあたしは。」

 もう諦めたようだ。黒沢は笑いながらしゃがみ込んだ。肩が震えていて、女子達は気を遣うように少し離れていった。俺も見なかったようにしようと目を逸らした。黒沢が泣くなんて、多分本人も認めないと思う。

「黒沢さん。」

「神崎、行くぞ。」

 唯一黒沢をずっと見ている神崎を引っ張って帰ろうとしたが、振りほどかれた。神崎は俯く黒沢の前にしゃがむ。

「今は気張ろうとしなくて良い。あんたは頑張った。何も悪くない。」

 神崎がそう言うと、今まで無理をしていたのか、声を上げて泣き出した。我慢しきれなくなった仲間の女子達も駆け寄って、黒沢に寄り添った。神崎はそれを見届けると、屋上を出て行った。

「待てよコラ!」

 置いて行かれた俺は奴の背中を追う。追いつこうとして、何故か足が止まった。

 虚しくなった。俺は何も出来なかった。






 結局、当選されたのはやはり柳川だった。結果に文句は無いが黒沢の件がありあきらかにフェアじゃない、まぁ今更仕方ない事だ。

 因みに次点は白石、岩倉、そして黒沢だった。俺は悲しくも及川の次、最下位だ。

 黒沢は、女番長に戻ったのか、俺もハッキリはまだわからない。







ヒロイン…

昭葉の出番がorz



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