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16話…馬鹿にしないでよ的な話

 女の子はやはり可愛い。投票は女子の票だけで良い。野郎の票は要らないわ。

 野郎には負けたくない。ただ、今敗北の危機に面している。稲葉にはあぁ言ったけども…。

「お、黒沢じゃねぇか。」

「っ柳川…!…何の用?」

 男子並に身長はあるあたしでさえも届かない長身の柳川。相変わらずヘラヘラしていてムカつくわ。

 昼休みの人通りの廊下。何故かあたしと柳川を避けるように生徒は通り過ぎていく。あたしは柳川を睨み付けると、気にも止めない様子であたしの肩に触れた。

「まぁまぁそんなカリカリすんな!ただ言いたい事があるだけだ。」

「何?さっさと言いなさいよ。」

「俺が生徒会長なったら学級委員頼むわ!」

 笑顔で、うざったい大声で、挑発の色も感じられない言い方。腹が立つ。

「安心しなさい。学級委員は続けられるから。」

「まぁそれでも良いんだがなぁ、過去に女が生徒会長になった例は無いぜ?」

 女には無理だ。そう言いたいのか。

「………舐めんじゃないよ。」

「まぁお前さんが信頼されてんのは知ってるぜ。女子にな。男子からはどうだ?この学校は男子が多い。」

「舐めんじゃないと言ってんだ!!」

 襟を掴もうとするが、軽くよけられる。何時もと変わらない快活な笑顔で、更にあたしを攻める。

「無理すんなって!お前さんには限界があるんだ!性別というな。」

「殺すわよ…!」

「生徒会長に立候補する人間が口が悪くちゃいけねぇな。」

 負けている。完全に今、この男に負けている。あたしが気にしてる事ばかり口にしている。今にも拳が奴を殴りつけてしまいそうだ。

「やっぱり元スケバンって奴か。喧嘩なら勘弁しろよ。ルールの無い戦いには興味が無い。」

 段々と柳川の笑顔が冷めていく。やはり裏があるわねこいつ。冷静に考えるとこいつだって生徒会長の素質があるわけじゃない。反論しようとして、誰かが柳川の名前を呼んだ。

「………柳川、学級委員に集合かかってる。第2講義室だ。」

「悪ぃ!サンキュー神崎!」

 突然の乱入者に、あたしの煮えたぎっていた頭が冷め始めた。柳川が去ると、乱入者―神崎君は面倒臭そうに私を見下ろした。この男は柳川より少し身長が高い。

「何?」

「柳川って黒そうだよな。」

「聞いてたの?」

「聞こえた、が正しいな。」

 あまり大差ない気がするな…。稲葉曰わく口喧嘩で勝つのは不可能らしいからあれこれ言うのは止めよう。

「誰にも言うんじゃないよ。」

「言えるか。そんな顔されて。」

「どっ…どんな顔よ!」

「傷ついてる。」

 ぶっ飛ばしてやろうかと思ったけど悪気はなさそうだ。

「気にしない方が良いさ。柳川が五月蝿いだけだ。黒沢さんが当選したら、稲葉が副会長なんだろ?」

 あ、そうだった。

「稲葉には会長は無理だろうしな。副会長として働いた方が合ってるかもな。」

「そうだね。だからあたしが是が非でも会長になるんだ。この学校変えたいしね。」

「応援してるから。」

「へえ…………。」

「じゃ、稲葉をよろしくな。」

 稲葉をよろしく頼まれる意味はわからない。

 というか久しぶりに男子に普通に接してもらえか気がする…あたしがいつも普通に接してないだけか。









 幼い頃から、歳の離れた姉が男にいいように扱われているのを見ていた。だからかもしれない。あたしは男には負けたくない。

 喧嘩は男に負けた事がない。稲葉とは決着がつかなかったけど。だから不良を辞めた今でも再戦を密かに望んでる。まぁ無理だろうけど。

 放課後、選挙活動を終えて教室で帰る支度をする。部活には入っていない。

 今日は一人で帰る。いつもは一音と下校するけど、あの子は頻繁に学校を休む。学校が嫌いらしい。でも理由がそれだけじゃないのはわかっている。

 教室を出ると、一人の男子に鉢合わせた。立候補者の一人だ。名前は確か…。

「お疲れ様、黒沢さん。」

「えっと、白石君だったかな。」

 良く知らないけど勉強が出来る生徒という印象はある。テストで学年上位をよく争っている。すらっとしていて落ち着いた雰囲気を持つ男子で、容姿もまぁよろしい感じ。

「君の人気は絶大だな。選挙は負けそうな気がするよ。」

「そうかな。」

「柳川も相変わらず人気高いしな。」

 白石君の人気度はよくわからない。たまに女子が格好いいと言うのを耳にするくらい。成績が良いから推薦されたのかしら。

「柳川には負けたくないわ。」

「しかし今年はわからないな。稲葉が出るのは想定外だったけど。案外岩倉も有り得るんじゃないか。及川も頑張ってるようだし。」

「負ける気はしない。」

「俺も負けたくないなぁ。ま、お互い頑張ろう。」

 白石君はそう言うと自分のクラスの教室に向かった。

 しかし今日は何だろう。男子に普通に接してもらえるなんて珍しいじゃない。ふと、神崎君と話した事を思い出す。


『気にしない方が良いさ。』

『応援してるから』


 脳内で声と言葉が鮮明に蘇り、少し動揺する自分に気付いた。

 何だ、少しくらい優しくされたくらいで。応援するってのも多分稲葉のためだろうし。

 第一、男子は敵としてしか見てないはずなのに。柳川や白石君はテストでよく争っていていつも敵だっ意識していたし……。あ、神崎君にはテストで勝った事ないんだっけ。

 喧嘩強いって事も最近知ったし、存在が地味なのか意識していなかったのか。改めて気付くと脅威的だ。よし、やはり男子は敵なんだ。

「何してるんだ?」

「………………っ!?」

 背後から本人が登場。びっくりした…。神崎君は不審な目であたしを見ている。そんなに様子がおかしかったのかな。あたしとした事が恥ずかしい。

「どっどうしたの?」

「話があるんだけど。場所を移して聞いた欲しい。」

 そう言うと颯爽と歩き出す。何が何だかわからないまま、後を着いていった。








 放課後の屋上を利用する生徒は殆ど居ない。何やら、霊が出るとか噂があるらしい。勿論あたしは信じていないけど。

 放課後、屋上へ呼び出されるとか何かあるのかと思ってしまうあたしは、一音から少女漫画を借り過ぎたわね。

「で、話って?」

「さっき黒沢さんと話をしていた白石について何だけど。」

「白石君がどうかしたの?」

「白石が不良を束ねてるとか、そういう話は聞いた事ないか?」

 はぁ?白石君が?

 あの虫も殺した事がなさそうな温和な白石君が?

「知らない。てか白石君、そんな人には見えないんだけど。」

「黒沢さんの仲間が見たっていう、祭りの時の俺達の騒ぎ、あれに白石の仲間が居た。」

「どういう………。」

 訊くより早く、神崎君は携帯電話を取り出して、ある写真をあたしに見せた。あたしの仲間に送られてきたっていう、稲葉達が暴力を加えられている写真。

「写っている連中の一人、白石の推薦者だ。」

 確かに、よく見ると白石君の傍らに居た男子生徒が写っている。

「でもそれだけじゃ…。」

「もう一つ根拠があるが、事情で伏せておく。黒沢さんなら何か知らないかと思ったんだが。」

 まぁ確かに、裏で色々やってる奴には通じてるけども。

「稲葉は?あいつもそういう奴詳しそうだけど。」

「稲葉は巻き込まないつもりだ。」

「あたしは巻き込んで良いってわけか。」

 自嘲ぎみに笑う。

「稲葉より影響力あって、女子生徒の為に動いてる黒沢さんなら………と思ったのが正直な話だ。」

「女子生徒?…何が…。」

 あったの…?そう訊こうとして止めた。彼から威圧感を感じた。何も訊くな、と言わんばかりに。

「わかった、あんたと喧嘩してあたしが勝ったら協力してやるよ。」

 一度実力を拝見したかったから丁度良いわ。

「喧嘩?稲葉とやればいいじゃないか。」

「あんたとじゃないと意味が無いの。強いんでしょ?良く知らないけど。」

「知らないな。」

 しらを切ろうとする神崎君に、一方的に約束を取り付けた。

「明日放課後、選挙運動が終わったらここに来なさい。」








 次の日。

「逃げても良かったのに。律儀だね。」

「逃げるのは嫌いだからな。」

 約束通りに来た神崎君。相変わらず気だるそうにしていてやる気が全く見えない。 あたしは身の丈程ある長い棒を見せた。喧嘩の時には絶対に使う武器。少し槍術を習っていた事があるけど完全に自己流だ。それでも習っている人にも負けた事は無い。

「あたしは得物使うけどあんたは?」

「何、本当にやるのか?どうせ俺が負けるだろ。」

「話し合いとか無駄だよ。」

 棒を手首で回してやる気を見せつけたけど何も反応が無い。

「凄いなー。余裕で剣道部とかにも勝てるんじゃないか?」

「いい加減にしなさいっ!」

 頭に来て、勢いで間合いを詰めて突きを食らわそうとした。すると、あろう事か寸の所でかわされ、棒身を手で掴まれた。しかも意外と力が強い。なかなか動かない。そして一瞬、力が緩んでしまい、その隙に棒を踏みつけられた。手から離れてしまう。

「どうだ?棒は使えなくなったけど。」

 急いで彼の襟首を掴んで、背負い投げしようと試みる。でも逆に肩を掴まれてしまう。あたしが壁際に居たのが不覚だった。そのまま壁に押し付けられてしまった。動けない。どんだけ力強いのこいつ。

「………………終了?」

「うるさい。本気出してないくせに。まだあたしは負けてない!」

 そう言うと一気に蹴り上げた。やはり間一髪の所でよけられるけど棒を取りに行けさえすれば………。

 そう思った時、腕を掴まれ引き寄せられる。一瞬で足元をすくわれて崩れるように転んでしまった。仰向け状態のあたしはまた抑え付けられ、足も固められている。反撃のしようが無い。

「終わり。」

「っ…………!」

 こんな惨めな負け方をしたのは初めてだ。反撃しようともがいても、更にきつく抑えつけられるばかりだ。

「さぁどうする?」

 そしてあれ、顔が近い。さっきの気だるさの無い、少し勝ち気に笑んだ表情。整った顔立ちをしてるから余計緊張する。

「離して…。」

「ん?」

「協力するからさ…。離して。」

 負けたからかもしれないけど、こんなんじゃただの女子だ。顔真っ赤で涙目かもしれない。

 協力すると言ったからか離してくれた。でも体に力が入らない。すると、神崎君に手をさしのべられたので、その力も借りて立ち上がった。

「………あっあのさ!本気出した?」

「対等に見てもらいたかったんだろ。」

 何てこと。考えを見透かされたみたいで恥ずかしい。1日にこんなに恥ずかしい思いをしたのは初めてだ。

「まぁでも多少、黒沢さんを女子だと思ってしまったけど。」

 まぁ実際女子だしね。

「さて、白石について調べて貰いたいんだが。」

「でもそんなに情報収集力ないけど。」

 というより、情報収集は仲間がやってくれてたからやった事がない。

「稲葉の元彼女…何て言ったか。」

「一音…。」

「彼女に頼めないか?」

 困ったな。一音なら喜んでやってくれそうだけどあまり学校に来ない。それに今更あたしの頼みなんて…。

「わかった。頼んでみるわ。」

「ありがとう。」

 悔しい。悔しいけど礼を言われた照れの方が大きい。確実におかしくなっていく自分。これだけの事でこんなに気持ちが揺れるなんて。








 一音の家に向かう。一音の両親とは顔見知りだから暗くなった時間帯でも家に入れてくれた。一音は部屋のベッドで横になっていた。

「いーおっ!」

「きゃっ!」

 ベッドの彼女に抱きつく。秋だというのに露出度の高い服を着ていた一音の肌を感じると、更に強く抱き締めた。

「一音、頼まれてくれない?」

「なぁに?」

「過去をあさって欲しい奴が居るの。」

 一音はどんな反応するかな、そう思ったけど戸惑いもなくあたしを真っ直ぐみつめて言った。

「愛のためなら。で、誰なの?」

「白石道隆。生徒会選挙に出てる男子なんだけどいける?」

 頷く一音。申し訳ないなと思いつつ、やはり恭順な一音は可愛いと思う。

「それともう一人。」

 彼について調べてもらおうとはさっきまで思っていなかった。とっさに、何故か知りたいと思った、過去を。

「誰?」

「神崎君。わかるよね、稲葉の友達。」

「わかった。」

 少し不思議がっていたが一音は敢えて何も訊かない。代わりにこう言った。

「愛、疲れてるでしょ?」

「………………ん。」

 あたしは一音の胸に顔を沈めると、そのまま眠ってしまった。









≫≫≫人物紹介


黒沢愛

誕生日:3月3日

身長:170cm


容姿:黒髪の長髪を2つに結んでいたり、下ろしていたり。スレンダー美人。


その他:男まさり。恋愛対象として女子好きだと自覚していて、男子は何かと嫌っていた。そして男子からも嫌われていた。だから自分に友好的な男子に対して免疫が無い。


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