15話…女子高に居る同性にモテる女の話
二学期が始まった。
「稲葉晴明に清き一票を宜しくお願いしまーす。」
「めんどくせぇ…。」
「シャキッとしなさい!」
昭葉に頭を叩かれて背筋を伸ばす。朝っぱらから校門で選挙運動は辛い。
そうだ、そもそも何故最近まで不良やってた俺が生徒会総選挙に出馬する事になったのか。
理由は単純、俺の家は貧乏だからだ。
「何言ってんのよ。あんたが騒ぎを大きくしたせいでしょ。」
「それはそれ、これはこれだ!家から寄付が出てればこんな罰は…くそっっ!」
母親のせいにするつもりは全くないが。
「どうせ出馬するんなら当選するわよ!」
昭葉はそう意気込んでいるが、当選なんてしたらたまったもんじゃねーぜ。
「稲葉が生徒会長になったら学校が崩壊する。」
神崎が言うと冗談に聞こえない。崩壊は流石に無いと思うが…。
「今回の立候補者、少ないのぬ…。」
昭葉に言われて気づいたが、たった六人しか居ない。例年十人は居るのに。その内四人がうちのクラス、二年四組とはどういう事だ。
「何でも生徒会長が許可しなかった奴が多かったらしいぜ。」
そう言うのは同じクラスの萩本だ。
選挙に出るには最低生徒四人の推薦と生徒会長の同意が必要で、俺は推薦を、昭葉と神崎、そして萩本と山本に頼んだ訳だ。あまり絡みの無い萩本だが、同じ部の神崎が頼んでくれた。そこまでして選挙に出たくはないんだがな。
「しかし誰も来ねーな。」
「嬉しそうに言わないのハル!」
「やっぱりあの二人じゃね?」
萩本の言うあの二人、黒沢愛と柳川巧だ。
黒沢は特に女子に人気で、学校中の不良女子は勿論、普通の女子からも格好良いと評判だ。
柳川は男女共に人気で、教師からも信頼されている。ウザいだけの熱血野郎かと思ってたがな。
以上が萩本に最近聞いた事だ。
「つか生徒会って何やってんの?」
何かと詳しい萩本に訊く。
「校外でのボランティアら交流活動は勿論、校内で色々仕切ってんだぜ?生徒の処罰を考えてんのも生徒会で、そういう事は教師はノータッチなんだとよ。この学校、教師は勉強を教えるだけのモンだしな。」
だから俺は停学になった事無いのか。納得だぜ。
「おはよー。ごめん遅くなっちゃった。」 推薦者の一人、山本が加わってきた。
「よう、わざわざ悪いな。」
「山本ちゃんおはよ!」
萩本のテンションがうるさい。神崎によると、決して悪い奴ではないが、女好きの軟派野郎らしい。一目瞭然だぜ。
「萩本君おはよ!」
「いやぁ選挙ポスター山本ちゃん作ったんだって?上手いなマジで!」
「誉めすぎだよー。」
そんな萩本に引く事なく笑顔で応対する山本は偉いぞ。
「票集まるといいね!稲葉君。」
「おう。」
正直票などどうでも良いが…山本に言われると頷かない訳にはいかない。票が少ないのもそれはそれで悲しいしな。
「ここ違うよ。」
「あーホントだ。こうか。」
「正解!」
昼休み、本来なら神崎と飯を食べているが、今日は山本に宿題を教えて貰っている。週一で教えて貰うのが習慣になってきている。
「しかしお前の教え方分かりやすいな。教師とか向いてんじゃね?」
「どうかなぁ。」
「仲良さそうねぇ。」
そう言って割り込んできたのはなんと黒沢だ。俺を見下ろして鼻で笑う。
「まさかアンタが選挙に出るなんてね。どうやら無理矢理らしいけど。」
なんだこいつ知ってんのか。柳川にウザく迫られたから知らないかと思ってたが。
「どうせ落選確実でしょ。」
「別に無理矢理立候補されられたんだし当選なんて考えてねーよ。」
「でしょうね。」
だからと言って小馬鹿にしたように笑われるのはムカつくぜ。
「しかし柳川にだけは生徒会長の座を取られたくないものね。」
「あんなウザ男にてめーが負けるかよ。」
「ただのウザい奴だと思ったら大間違いよ。」
余裕のない黒沢の顔は珍しい。まぁ俺も柳川がただ者ではない事くらいはわかっていた。
通るだけで男女共から挨拶を交わされるし、友人もかなり多い。毎年学級委員、中学でも生徒会長を務めていたらしい。
「あの男のマニフェスト知ってる?」
「マニフェスト?」
「寄付金制度の更なる充実化、あんたにとっちゃあたまったもんじゃないでしょ?」
寄付金制度…か。
この学校に寄付をしている家庭の生徒は、処罰が軽かったり(それ以前に普段から色々と緩いが)、何かが無償化されたり、成績に関係なく進級できたり。金さえありゃやってける学校だ。
そういう制度も生徒会が決めるというまた珍しい学校なんだ。
「そして岩倉。あの子も生徒会の決めた事をそのまま引き継ぐでしょうけど、マニフェストに『不良生徒への厳罰化』、さぁ稲葉、ピンチだねぇ。」
「嬉しそうに言うな。」
「そしてあたしのマニフェストは『寄付金制度の廃止、生徒会の独裁体制を廃止』どう、あんたにとって悪くないでしょう?」
置いてけぼりな山本を余所に顔を近付ける黒沢。
「あたしは絶対当選する。だからその時は稲葉、あんたが副会長。」
「うぇ!?」
「会長以外の役職の決定権は、会長にある、らいしね。」
じゃあ落選しても生徒会に入らないといけなくなる可能性があるのか面倒臭ぇ。
「そいつは困るぜ?大体てめーの下ってのが気に食わねぇ。」
「悪いようにはしないわ。ま、考えておきなさいな。それよりさ…。」
黒沢は携帯電話を取り出し、画面の写真を俺に見せつけた。
あの祭りであの集団に撮られた俺達の暴行を加えられた姿だ。
「岡田の携帯からあたしの携帯に送られてきたの。あんたも写ってんだけど。誰が撮った?」
「っよく知らねえ連中だったぜ?まぁ喧嘩した事はあったと思うがな。つか合成だしその写真。」
「いや、違うね。あたしの仲間が実際現場を見たって言ってんのよ。」
「なっ…!」
「安心しな、誰にも言ってないから。ただ仲間も誰か知らなかったらしくてね。ただ気がかりが一つ。」
黒沢は携帯電話を閉じると、ニヤリと笑って言った。
「神崎君がめっぽう強かった…とか。」
「あぁ…って気がかりってそれかよ!」
「まぁ落ち着きなさいって。彼が何者かってくらい一音に聞いたし。」
「あいつは不良じゃねぇぞ?」
「どーだか。」
不敵に笑う黒沢の胸元を、俺は制止しようとする山本を振り切って掴んでいた。
「知ってる事誰かにバラしてみろ。女だからって容赦しねぇ。」
「バラさないわよ。第一、女に手を上げようとするとか最低。」
周りの視線を感じる。俺は手を離すと、座り直した。
「さぁて稲葉、という事であたしが当選するからよろしくねー。神崎君にもよろしく言っといて。」
そう言うと、ポカンとしている山本に近づき、頬に触れた。
「投票よろしくね、可愛い山本さん。」
「てめぇいいから早くどっかいけ!」
何をしでかすかわからない黒沢を追っ払う。涼しげに去っていく黒沢を一瞥すると、山本を見た。
「わっ悪ぃな。」
「だっ大丈夫だよ!…ちょっとドキッとしたけど…。」
こうやって女を落としていったのか黒沢め。奴は長身と宝塚の男役みたいな顔立ちで、絶対男装が似合うと昭葉が言っていた。
「山本気をつけろよー。あの女色々危険だぜ。性的な意味で。」
「そっそうなの?」
男子から評判悪いの知ってんだぜ俺。
「第一お前好きな奴とか居ねぇの?黒沢に狙われるぞ。」
「そんな真面目な顔しないでよー。それに好きな人とか居ないし。今は他の事で手一杯だから恋愛なんてしてる余裕ないよ。」
来ーた学生の鏡。こいつ自分が男子に人気なの知ってんのか。女子からも男子からも狙われ放題だぜ。
「さ、勉強続きしよっか。」
「あ、悪い。」
学生の本分は学業だ。不良辞めて周りにもっと普通な奴として認められるには相応の学力もあった方が良い。前、山本に言われた。
こいつは学校生活が楽しいんだろうか。まぁ昭葉も居るし俺が気にする事じゃねぇか。
≫≫≫人物紹介
萩本知成
2月8日生まれ
身長:170cm
部活:吹奏楽部(打楽器)
容姿:茶色い癖のある髪の毛。制服は着崩している。
可愛い女子が好き。彼女募集中。そんな一見軟派な奴だが部活に入ると鬼のような先輩。教え方に問題あり(神崎曰わく)。だがなんやかんや信頼されている。打楽器の腕は凄い…らしい。