12話…夏休みらしくない夏休みの話
期末考査が終わった…色んな意味で。
「見て見てー仁、数学点数上がった!」
「流石だな岡田。」
うぜぇなこいつら…。
「昭葉、お前中間の時俺と同じくらいって言ってたよな?」
「あれ、だったけっ?」
因みに改めて昭葉の中間考査の成績表を見たら割と高得点だった。
「てめぇ嘘付きやがって!」
「あたしにとっては酷かったのー。」
「まぁまぁ落ち着け。」
言い争う俺と昭葉を、何時ものように神崎が止める。
「勉強頑張らない稲葉が一番悪い。」
貴様ぁぁぁぁ!
「高2の夏休み…か。」
あと一週間もしない内に夏休み。そんな時期だ。しかも高2の夏休み。遊ぶならこの時しかない。
「あたしは部活かな。」
「俺も部活だ。」
「俺はバイト。」
みんな暇は無し…か。
「まぁ1日くらい遊ぼーよぅ。毎年やってる祭りの日、8月5日ははあたし部活休みだよー。」
「俺はコンクール次第かな。」
吹奏楽部は勝ち上がれば県大会とか色々忙しいようだ。昭葉も全国大会を控えているようだが。
「俺も祭りの日なら休みだ。」
「よっしゃ決まりねー。」
神崎はコンクール次第だって言ってんのに…浮かれやがってこいつは。
夏休みに入って二日経った。しかし7月中は夕方まで補習がある。その為にバイトが出来る時間を惜しんで登校している。この日は、吹奏楽部はコンクールの地区大会とやらで、補習に来ていなかった。
奴の事を少し気にしながら補習を受け、6時まで暇潰しをしてバイトに向かおうとした時、大型バスが校内に入って来たのに気付いた。吹奏楽部だ。会場は近くにあるから結果がわかるまで会場に居ると言っていた覚えがある。結果を聞いてからバイトに向かおうと思った。
少し校門で待っていると、神崎と萩本が歩いてきた。何だが元気がない。
「よー神崎、終わったのか?」
なるべく明るく声を掛けると、神崎ではなく萩本が寄ってきた。
「稲葉じゃねーか。どうしたよ。」
こいつ、吹奏楽部では神崎と良く居るらしい。典型的なチャラ男だ。
「結果聴こうと思っただけだ。」
「…………………ダメ金だった。」
神崎が言う。ダメキン?金魚みたいな名前だな…そんな賞があるのか。と、不思議そうにしていた俺に、萩本は言う。
「金賞は金賞だが、次ある県大会に進めねーんだよ。」
「そうか…惜しかったな。」
それでも金賞か。確か一昨年まで盛んに活動していなかったらしいから快挙だとは思うが…。
「いやぁ悔しいね、俺達には来年あるけどよ?先輩達は最後だしなー。」
まぁお前は部活やってないから分かんねーかもだが、と萩本は俺の肩を叩く。
「まぁ見てろ、来年は県大会、関東大会まで突破して普門館だぜ!」
普門館は全国大会が行われる場所だと神崎が付け加える。
なんとなく、俺も部活やっておけば良かったなんて思ってしまった。まぁそんな余裕はねぇけどな。
「惜しかったねー。」
次の日朝、補習が始まる前に昭葉に話すと少し悔しがっていた。
「ま、みてなさいな、あたしらソフト部が全国大会頑張ってくるからさ。」
8月中旬にあるらしい。
「樟葉といやソフト!ソフトといや樟葉!負けないわよ!」
「来年には吹奏楽の樟葉高校にしてみせるさ。」
「仁には負けない!」
「いやいや違う部活で争うなよ…。」
まぁ樟葉高校といやソフト部なのは確かだだな。去年は全国大会で惜しくも準優勝だった筈だ。
「そういや祭り一緒に行く約束してたっけ!さぁ行くわよぅ!」
待ってましたとばかりに昭葉が言うが、そんな事すっかり忘れていた。
「あぁもうよくね?お前女子と行けよ。」
「えー。だって二人がイチャイチャする所見たいしー。二人の浴衣見たいしー。そうよ、浴衣姿の仁にハルが惚れてしまえば良いのよ!」
「大声だすな!第一男子二人に女子一人はおかしいだろ!」
しかも俺達をそんな目で見られるのはたまったもんじゃねぇ!
「そぉ?」
「お前山本と行けよ!好きなんだろ?」
「分かった!四人で行けばいいんだ!」
「何故そうなる!」
第一、昭葉は良いとして神崎が嫌がるだろ。こいつ分かってんのかな全く。
「大人数が楽しいって!じゃあ誘ってくるねー!」
「あ、待てコラ!」
言ったら実行、こういう女だ、昭葉は。
「私が昭葉ちゃん達と?」
予習をしていたあるみんが顔を上げる。その仕草が可愛くて見とれそうになったけどここは我慢よ。
「そー。ハル達と嫌じゃなけりゃ。」
「全然!寧ろいいの?」
「勿論!」
良かった…。なんとか約束できそう。いやぁあたしも良い事思いつくわ、まぁ仁とハルのイチャイチャも見たいけど、ここは現実的に、仁の為に、と。
「浴衣着ていこうねー。」
これは大事。あるみん絶対浴衣似合うもん。
「いいけど…一応持ってるし。」
「よっしゃ決まりね!あるみん家遠いから着つけはあたしん家ですりゃ良いよ。」
「ちょっと昭葉ちゃん…。」
「何?」
色々手順を考えていたあたしの頭がストップする。
「何か必死だね…。」
「そお?」
確かに、何で必死になるんだろう自分。あたしは仁とハルがラブラブなのが好きで、でも何故か仁の片思いを応援するような事をしている。矛盾してるなー。
人通り予定をあるみんに伝えると、丁度補習開始のベルが鳴った。
「昭葉の奴、無神経だよなー。」
「好きにさせればいいだろ。」
放課後、俺は神崎が一人暮らしをしているアパートに居た。カフェオレを飲みながら宿題を教わる。因みに神崎は砂糖無しでコーヒーを飲んでいる。ここから色々と差を感じるが気にしねぇ!
「いや、お前にも嫌いな女子いるもんだなー。ま、人間だしな。」
「稲葉は女子が全員嫌いか?」
何か自分の事をスルーしたみたいに感じるが、改めてそう訊かれると全員ってわけじゃないと思える。
「正直言うと昭葉は好き嫌い以前に馴染み深いから嫌いと思った事ねぇし、山本は話しやすいしイイ奴っぽいから少なくとも嫌いじゃねぇ。」
神崎と違って予習見せてくれるしな。山本は。だから神崎の山本嫌いって意識を変えられないものか…。
「今度の祭りはまぁ…山本も来るわけだが楽しもうぜ?な?」
そう言ってやると数学の問題の符号が間違っていると指摘される。こいつ話聞いてんのか?
取り敢えず補習とバイトを乗り切ろう。8月5日は高2らしく遊んでやるか。昭葉の楽しそうな顔見たのは久々だしな。
「昭葉。」
部活が終わった後、ハスキーボイスに呼び止められる。縁ちゃんだ。
「一緒に帰らない?」
「良いけどー…みんなは?」
みんなっていうのは、亮子ちゃんに美香ちゃん、るかちゃんだ。みんな片付け終わってるだろうし…。
「今日は二人で帰ろーよ。話あるし。」
縁ちゃんが深刻な顔で言うもんだから、二人で帰る事にした。
変な感じだ。背が高くてボーイッシュな縁ちゃんと並んで帰ると男女のカップルみたいだ。
「で、話って何?」
「亜留美の事だけど。」
最近亮子ちゃんやるかちゃんがあるみんの事を本人の居ない所で色々言っている。それを察してか、あるみんは昼休み、あたし達に近寄らない。
「中学の頃何かあったの?」
「まぁ…ね。簡単に言っちゃうと、亜留美はいじめられてたワケ。しかも誰からってのがわからずに。本人はいじめだって思ってないみたいだけど。」
あたし達が居た中学でもあるみんが同級生に嫌がらせを受けてたとか、孤立したとか耳にした事があるけど、本当だったのかな。でも転校先でもそういう事があったなんて……。
「勿論、影でいじめてたのは亮子達だ。他にも不特定多数。ウチが何人シメても止まんなかったね。」
「でもどうして…。」
「ウチの中学荒れてたからね。特に女子。その中で亜留美は完璧過ぎたわけだ。」
まぁ受験前のストレスもあったんだろうね、と、呆れながら言う。
「それで不特定多数。しかも本人は自覚ナシだからどうしようもなかったね。」
「あるみん、本当に、いじめられてる自覚なかったのかな…。」
何考えているか分からないから、無自覚の振りも有り得なくはない。確かに…と、縁ちゃんが頷く。
「構うな、って事か。」
心配させたくないのか何なのか、それでも心配なものは心配だ。縁ちゃんも同じ意見みたいだ。
「なんとかしないとね。」
自宅はこっちだから、と縁ちゃんが手を振る。振り返すと、別れて一人になった。
縁ちゃんの「なんとかしないとね。」が耳に残る。そうだよ、なんとかしなきゃ。あたしはあるみんが大好きだし、ソフト部のみんなも大好きだし。
でも今はショック、それしかなかった。
・吹奏楽コンクールでは、金賞の内上位三校が県大会に出場出来るという設定。
・県は決めてないけど関東という設定。ただ私は九州人。いいのか。