11話…意外と怒らせると恐い話
ただ単純にイラついた。
バイト帰りに学校に暇潰しに行ったら島村達を見掛けた。無視を決めこんでいたが気になったから三年教室の方に向かったら騒ぎ声と騒音。見るとこの様だ。
なんでこいつが土下座しなきゃいけねぇんだ。なんで吹奏楽部が荒らされないといけねぇんだ。納得いかねぇ。
三年二組の教室で神崎と一年を囲んでいた連中をぶっ飛ばす。殴っても殴っても仲間が現れる。島村は遠くでほくそ笑んでいるだけだ。
楽器ケースを投げられる。 小さい打楽器も何もかも投げられる。全て避け、手で払い、床に叩きつけた。すると、不意打ちで頭を殴られた。予想外の一撃に後方によろめいて床に座り込んだ。殴った奴も予想外だった。
俯いていた神崎が、俺を見下ろしていた。そしてさっきのように、正座をすると頭を下げて島村達に言った。
「これ以上の乱闘は止めて欲しい…!」
「神崎っ!?」
「今更土下座かよー?稲葉も土下座したら許してやるぜ?」
「なっ………!?」
俺にまでやれというのかこの男…。殴った方が早そうだ。
「稲葉は勘弁してやって欲しい。俺が…。」
「ぬかせ腰ギンチャク!!」
近づいてきた島村が、神崎の背中を踏みつけた。限界だ。俺は落ちていた楽器ケースを持って振り上げようとした。
「止めて下さい!」
俺の腕を誰かが掴んだ。神崎の後輩の男子だ。
「それ中に楽器が入ってるんです!そんな事したら楽器が…。」
「っせぇな……。」
その一年を睨む。それでも離そうとしないから蹴り飛ばしてやろうとしたが邪魔が入る。
殴られていた神崎だ。神崎を見下ろすと無様な姿で這いつくばりつつ、俺を止めようと必死に脚を掴んでいる。
「上條に…手をだしたらお前でも許さない…!」
俺は上條に楽器ケースを渡すと神崎を踏んでいる島村を殴り飛ばす。そして神崎を無理矢理起こした。
「情けねぇなー。お前のそんな姿見たくなかっかぞ。」
「俺が頭下げたら…許してやると連中は言ったんだ…!なのに…。」
「お前が土下座すんならこんな部活壊れた方がマシだ!」
自分でもマズい事言ったのは理解出来た。神崎は顔色一つ変えない。そして…。
「残念だ。」
そう呟くと、頭を掴まれ地面に叩きつけられた。神崎はしゃがむと、俺の頭を地面にこすりつけながら言った。
「島村先輩ー。稲葉はこの通り土下座しましたんでどうか立ち去って下さい。」
「…のっ離せ神崎っ!」
「なんならここに居る部員全員にも謝ってもらおうか。」
部員達の何人かは消えている。先生を呼びに行ったのか。
しかし動けない。神崎の奴、こんな腕力あったのか。
島村達はいきなりの仲間割れに気まずくなったのかはわからんが、そそくさと出て行った。俺は神崎に立たされる。さっきと逆だ。意味わかんね。
残ったのは数名の部員と俺達。部員達は立ったままで、やはり気まずそうにしている。神崎の後輩二人も。神崎はため息をついた。
「さて稲葉。お前が来てから酷くなったが。喧嘩しに来ただけか?」
「………俺はお前を助けに…。」
部員からの非難の視線を感じる。やはりさっき言った事はマズかったな。ただ俺はお前が大事なだけなのにな。
「そんな状況じゃなかったんだよ。俺が頭下げれば助かった。」
「お前はそれで良いのかよ…!」
頭下げるってのは相手に弱味を握られるようなもんだ。
「当然」
それだけ言うと、立っていた一年らしき部員達を片づけに促して、教室を去った。
来るのは先生だろうと思っていたら、どうやら昼飯を食べに出ているらしい。先輩方が連れて来たのは、何と生徒会だった。
「吹奏楽部は確か約ヶ月後にコンクール。なのにこんな問題起こすなんて…。」
嫌味を込めて言うのは、副会長の岩倉だ。島村達や稲葉に感じてはどうでも良いというように、さっきから吹奏楽部の部員に事情聴取をしている。そして、しきりに俺を見る。
「言っておきますが、部員誰一人問題行動は起こしていません。」
年下の副会長に敬語で言うのは部長の松田先輩だ。
「責任があるなら何も出来なかった僕に…。」
「松田先輩、誰が問題の中心に居ましたか?問題行動ではなく、中心、です。」
「俺だよ。」
松田先輩に責任を負わせるわけにはいかない。まぁ関係あるのは事実だから取り敢えず名乗り出た。
「やはり。神崎君。勝手に教室を使用し、三年生を怒らせたとかでしょう?」
「怒らせたのは事実だが勝手には使ってない。先生には許可をとってある。」
「生徒会は?」
「何?」
「生徒会は何も聞いていない。従って、無許可で使用したも同様。」
岩倉が澄まし顔で言う。しかし、一々生徒会に報告しなきゃいけない決まりなんて聞いた事ないな…。
「という訳で今から生徒会室に来てもらいますよ。稲葉君もね。」
「稲葉君、岩倉さんが呼んでたよ。」
さっきの教室で一人で居た俺を呼んだのは、山本だった。
確か山本はずっとこの教室の廊下で動揺していた一年をまとめていた。俺達が何をしていたか見ていたはずだ。
「悪かったな。」
「待った。」
教室を出ながらそう言うと、山本が呼び止めた。
「楽器の事は心配要らない。壊れたのは使ってないものだし、そこまで酷くない。」
「そうか。」
「でも…。見ただけじゃ分からないけど神崎君相当怒ってると思うよ。」
君が一番分かってるだろうねー、と山本は苦笑いする。
「君は神崎君の覚悟を無駄にしたし大事なモノを馬鹿にした。君自身そういうつもりは無いんだろうけどね。」
更に笑う山本。きっとこの女も怒ってるんだろうな。笑い方が怖い。
「部長は優しいから、稲葉君の事を考慮して部員にこの件についての口d止めをしたけど、私がクラスのみんなに言いふらしたら稲葉君のイメージ下がるねぇ。」
目が笑っていない。本当に言いふらすつもりか?
「大丈夫だよー。そんな事しないってば。神崎君には謝ってよ?」
そう言うと俺の背中を押した。俺は軽く頷くと、生徒会の元に向かった。
生徒会室には岩倉と、一人の男子と、既に神崎が居た。
「お前が稲葉かー。」
入るなり、部屋の奥にある椅子にふんぞり返っていた男子が笑った。
「割と伝説化してる不良がどんな奴かと思ったら意外と普通だな。」
「っあぁ!?」
「怒るなって。つかてめー、俺が生徒会長なの分かるか?」
そいつが立ち上がると、相当な長身だと分かった。肌は浅黒く、筋肉があるのも見てとれる。運動部か。何か柳川と同じ匂いがするな。つか生徒会長とか知らなかったぜ。去年の選挙に参加した覚えが無い。
「その様子だとわかんねえみたいだな。俺は生徒会長の沢木宗一郎だ。」
沢木か…。うん、全く知らなかった。
「会長、それで彼等に用事とは?」
「あー、こいつらの処遇についてだな。」
こいつら、という事は、俺と神崎って事か。俺が何かしらの罰を受けるのは当然だが…。
「二人とも…。」
「神崎は何もしてねぇよ。」
「稲葉。」
神崎が俺を止めようとするが無視だ。
「納得行かねぇ。大体、島村の野郎はどうなってんだよ。」
俺が沢木に対してタメ口なのが気に食わないのか、さっきから岩倉に睨まれている。沢木は声を上げて笑いながら、岩倉の頭を叩いた。
「島村はな、ここへんじゃ有名な資産家5御曹司なんだな。」
沢木が言うには、島村家はこの高校に多額の寄付を毎年してるとか。だから息子に処罰を与えて島村家の機嫌を損ねさせるのはたまったもんじゃないらしい。
「結局は金かよ。」
「そういうモンだぜ?因みにお前のクラスに居る、黒沢、山本、坂井もその家系だな。」
因みに俺の家もだな、と沢木は笑う。この高校、金持ちが多いとは聞いていたが…神崎もアパートで一人暮らししてるだけあって、割と金がある家らしいが。
「お前んちも寄付とかしてたら処罰は考えてやらんでもねーがなぁー。」
やべ、キレそうだ。俺の家は貧乏で奨学金借りまくってんだよな。父親は居なくて母親は病弱、俺がバイトしてなんとか暮らしていけてるようなもんだ。なのに私立に通っているのは俺が公立高校の入試に落ちたからだ。
「無理みたいだな。ならば…。」
謹慎か?退学か?もう何でも来いって感じだ。
「生徒会総選挙に出ろ。」
……………………は?
「ぶっちゃけこれ位の騒動はこの学校は見逃すだろ?お前が良く分かってる筈だ。」
確かに。去年は割と暴れてたが、厳重注意で済んでいた記憶がある。
「だが、生徒会としては不服だ。だから選挙出ろ。」
「おかしいだろそれ!」
「推薦者は神崎な。」
神崎を見ると、笑いをこらえていた。そうか、こいつへの処罰は無しって事だよな…じゃなくて!なんつーリアクションだこいつは!
「因みに、選挙に出る可能性が高いのは、黒沢と柳川かな。奴らは人望あるし。ただ立候補の人数が少ないと盛り上がらねぇ。だからお前出ろ。」
「頑張ろうぜ稲葉。」
「嫌だぁぁぁぁ!」
選挙は9月末だった筈だ。困ったぞ。恥さらすようなもんじゃねぇか。
詳細はその内知らせる、と、生徒会室から追い出された。
しかじ何で休日なのに生徒会が居るのか、謎だな。
俺は稲葉を音楽室へ連れて行って、部員達の前で謝らせた。稲葉の奴、案外素直に頭を下げもんたから拍子抜けだ。
まぁ許してやるか。まず、俺を心配しての言動だったわけだし、それに俺が稲葉の推薦者だしな。あんまり関係ないが、まぁどうでも良くなったってのが一番だ。
俺と神崎。二人で並んで帰る。
あの後、片付けを手伝って部員達に事情の説明、そして謝罪をした俺は、まぁなんやかんやで許してもらったついでに楽器を色々吹かされた。おかげで酸欠だ。
そして今に至る。
「稲葉。」
「あ。」
「悪かった。」
「先に謝んなよ。つか謝るな。」
言ってる事がおかしい気がしたが気にしない。
「心配させて悪かったって言ってんだ。」 予想外の言葉に、俺はむせそうになりながら返した。
「べっ…別に誰もてめーなんか心配してねぇし!」
「大丈夫か?」
「寧ろ俺の方が…!悪かった…。すまなかった。」
やっと言えた。そう思って神崎を見上げると、相変わらずの無表情で、頭を掻き回された。
「んだよ!」
「別に。」
あぁ、こいつより身長低いのが駄目だった…。昭葉に見られたら絶対からかわれるな。
そうだ、またハル受けとか言うんだろ?勝手に言ってろバーか。
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作者ページからどうぞ。
誤字脱字駄文ばかりで申し訳ない。