９話…勘違いする馬鹿の話
最近昭葉の様子がおかしい。いや、元からあいつはおかしいが、そういうおかしいとは違う。なんか元気が無ぇというか、まぁそんな感じだな。
仲良くしている山本も気にしてるらしく、放課後、俺に何があったのか訊いてくるがわからねぇ。
「たまには溜め息ついてボーっとしてるし…。いっつも喋ってるような子なのに珍しいなーって。」
「確かになぁ。まぁ何かあったら言ってくれ。」
「わかった。ありがとね。」
山本が部活があるから、と言って別れた後、昭葉が寄ってきた。
「ハル……。」
「なっ…何だよ。」
今の昭葉はかなり暗い。あと笑いながら睨まれている気がするが気のせいだよな。教室には誰も居ねぇし不気味だな。
そして昭葉は言った。
「アンタ最近よくあるみんとお喋りしてるわね…。」
「え……………？」
確かに、話す機会は増えた。神崎が意地悪で教えてくれなかった勉強を教わってたり、神崎が意地悪で貸してくれなかったノートを借りたり。たまに雑談。
「お前、また俺は神崎の嫁だからとか言うんじゃねーだろうな？誤解は…。」
「違うし！いや、それもあるけどね。」
「あるんかい！」
だとしたらお門違いだ。俺は山本が好きとかそういうのは無ぇしな。そう言おうとしたら、昭葉の口から衝撃的な言葉が飛び出した。
「あたしが…、あるみんが好きだから！」「なっ………………！」
「だからあるみん好きになったりでもしたら許さないから！」
そう言い切って満足顔の昭葉。…まぁ多少びっくりしたがコインならそう驚く事じゃねぇな。
「安心しろ。俺にその気はねーよ。」
「マジー？良かった。」
「ただ、他にも山本好きな奴居るんじゃね？山本も好きな男がいたらどうする。例えばそれが神崎だったら？」
まぁ具体例は絶対あり得なさそうだが。神崎は山本があまり好きじゃなさそうだしな。
「あ…じっ仁だったら譲るわ。」
「俺は駄目なんかい！」
「いやだってハルに負ける以上の屈辱はないじゃん？」
こいつ神崎に似てきたか？
「俺も昭葉には負けたくねーし。」
「アンタのくせに！」
「こっちのセリフだ！」
「どーしたお前ら。」
神崎が割り込んできた。昭葉が何故か気まずそうに目を逸らす。俺は嫌がらせに言ってやった。
「おうおう昭葉の奴、山本が好きらしいぜ？」
「馬鹿ぁぁぁぁ！」
「神崎に言ってマズい事はねーだろ？」
昭葉が涙目で睨む。何だ？そんなに駄目だったか？
「そうかー俺にだけ言わないつもりだったのかー。」
神崎も面白がってるみたいだ。
「別に言うつもりだったし！ハルに先言われてムカついただけだし！」
「そうか…。山本さんか…。ま、岡田らしいっちゃ岡田らしいな。」
優しく言うが内心どう思ってるか気になるな…。神崎は山本を嫌ってね？ってよく感じるからな。でも他人の趣味をどうこう言う奴じゃねぇし。
しかし何で神崎は山本が嫌いなんだろうか。少し何かしらの反応がみたい。
「まぁでもよ？その内俺が山本が好きって言うかめしんねーぞ？」
俺が試しにそう言うと昭葉がまた睨んできやがった。神崎は…。
「そうなったら本人に任せるべきじゃないか？二人の行動次第でもある。」
好きにしろって事か…。まぁこいつらしいな。気にくわねぇが。
「おいおいまだ好きとは言ってねーぞ？」
「好きって言ったらケツバット百回。」
「その前にてめーをボコる。」
「女子相手にそれはどうなんだよ。」
気にしすぎだ。神崎は。
「こいつ女子じゃなくて腐女子だし。」
「岡田。」 バットを俺に振り下ろそうとしていた昭葉が、ぴたりと止まる。
「お前が本気なら、応援するさ。」
「仁………。」
何故か昭葉は不安げな顔だ。もしかして、こいつも神崎が山本嫌いなの気づいてたのか？鈍感そうなくせにな。
神崎は鞄を手にとって、俺達に軽く手を振ると部活に向かった。
「いやぁーまさかお前も気づいてるとはな！神崎が考えてた事。」
昭葉が目を見開く。そんなに驚く事でもないだろ。絶対俺を鈍感とか思ってやがったなコイツ。
「ハルも気づいてたの!?あたし勘で仁に訊いたんだけど図星だったみたいでさ！ハルには口止めされてたけど無駄だったみたいね！ホントあんたのくせに！」
「俺を誰だと思ってやがる！神崎と一瞬に居りゃあいつが山本を嫌いな事ぐらいお見通しだぜ？」
「………………………………え？」
今何と言った？と言わんばかりに、首をかしげる。
「だから、神崎が山本を嫌いな事くらい俺には…。」
「っあぁそう言ったのよね！あたしもだから迷ってさぁ好きだって言うの。仁が人っつか女子嫌うの滅多ないじゃん？」
「だよなー。あいつにしちゃあ…。」
「私も部活行ってくる！」
昭葉はスポーツバックをからって急ぐように教室を去った。急ぐというより…何だあの慌てぶりは。
外を見ると、雨が降っていた。ソフト部は雨でもやるのか、流石だな。
