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公爵家からの脱出


 そしてその夜。

 

『シヴァ、逃げる方法を決めたわよ!』

『うん、どうする?』

『二階の私室のバルコニーからシーツをつないで降り、そのまま木立ちを抜け川沿いに上流へ行き、橋を渡っての北の街ギレンへ。そこでペンダントを売って、さらに東の大きな街バーモアを目指すわ』

 

 地図は実家の書庫で紙に写したものを持っている。だいたいの距離も分かっている。ただし実際に歩くのは地面の状態や高低とかでいろいろ変わってくるとは思うけれど。

 

 人が見ていないところで歩く時は光を纏って身体強化する。

 光はエネルギーとして内側に作用するので外から見ると昼間はそれほど目立たないとシヴァは言うけれど、用心に越したことはない。

 身体強化を使わずに疲れたり傷ついたりしたときは、覚えたばかりの治癒魔法を使って進む。

 

 シヴァは魔法を使えるが、シヴァが魔法を使うとすべてを破壊しちゃうから、めったなことでは使わないという。ただ、私に危害を加えようとする人には容赦しないらしい。

悪い人にはパンチをするという。猫パンチ?

 

 

 次の日の朝食のパンは勇気を出してお代わりした。そしてメイドさんのスキを見てリュックに入れた。

 

 決行は今夜。

 

 朝食後 執事が部屋にやって来た。

 

「明日には若様が帰宅すると連絡がございました。これからのご予定につきましては若様とお話し合い下さい」


 私はいかにも彼と会えるのを楽しみにしている様子を見せてにこやかに言った。

 

「まあ、やっとお会いできるのですね。今日は少し庭でも散歩して、部屋で本でも読みますわ。書庫は確か南側の一階でしたね。それから夕食は早めにしてください」


「かしこまりました」


 夜のために昼寝をしようと思って、花を愛でるふりなどをしながら、屋敷の回りにある庭を一周した。

 

 傍にいた騎士が呆れて

「ご令嬢なのに健脚ですな」

「はい、散策が好きなのです」


 事実、庭は美しい。低木の高さも微妙に異なり、小道の傍に咲く花も茎の高さを考えて植えられている。

 小高い四阿の回りは綺麗に草が刈られ、日当たりの良い場所にはこの季節の花々が咲き誇こる。ある区画は噴水の回りが石畳になって四方に道が伸びている。刈り込まれた低木が見事だ。雑草一つない。

 

 昼食が終わって、メイドに頼んだ。

「日に当たって疲れたので、少し休みたいのだけれど、夕方前に起こしてくれるかしら」

「はい、かしこまりました。ゆっくりとお休みください」


 昼寝もしっかり取れた。夕食も食べ、携帯できるものはリュックに入れた。

 早めに就寝したいとカイラさんに言って、一人になり、逃亡の準備を進めた。

 

 夜が更けたころ、男の子に見えるように最近育ってきた胸を布で巻いて隠す。ズボンとブラウス、その上からベスト状のチュニックを着て、ウェストにベルトをする。帽子もかぶった。

 

 シヴァは昼間は浮いていることができるのだけれど、夜はきちんと寝てエネルギーを補充するという。

シヴァを入れたリュックを背負い計画通りにバルコニーからシーツを伝って下に降りた。

 

 屋敷の後ろの木立ちを抜け、それからはひたすら夜の道を川のある方向へ向かう。川に着いたら、川に沿って北へ向かっている狭い道を歩く。

 

 昔は、ギレンの街に行くときにこの道を使った人は多かったらしいが、川向うに広い道が出来てから、この道は猟師ぐらいしか使わなくなったという。

獣は、イノシシや熊、鹿などが多いようだ。狼はいないが狐はいる。


道は険しい。急な坂が続くと思うと、下りになる。

足元は柔らかい所、固い所、やたらに滑るところが交互にある。

所々には大きな石が転がっていて、木の根も所々剥き出しになっていた。

手ごろな枝をストック代わりに使い、必要な時は懐中電灯のように光を出しながら進んだ。


身体強化をしていると私の体がうっすらと光るので、獣除けにもなった。

時折、夜行性の小さい獣と遭遇するが、危険を感じることはなかった。

水の心配をしなくていいのはラッキーだ。水筒はかさばるし重い。


しばらく進んで行くと、崖の所に出た。下が見えないのでどのくらいの高さかまるで分らない。だから、目の前の一歩を見つめながら進んだ。


滝の音が聞こえて、そこになにかがいる気配がした。感覚的に動物とは違う。

それは、いくつもある。

目を凝らしてみると、人間のような形はしているのだけれど、透き通っている。

慌ててシヴァを起こした。

 

『う~ん。どうしたの?』

『何か周りにいるの......』

『ああ、この人たちは』

『人なの?』

『神様の下へ行く道が分からなくてさまよっているの』

『あ、幽霊なのね』

不思議と怖くない。私にとっては何をするかわからないジェナの方が怖い。

 

『エル、光で導いてあげて! 光の道を空に向かって出すの』

『サーチライトね。分かった!』


私はすぐに光を足元から天空に飛ばした。

光の道を彼らが上って行く......。あちらで大切な人に会えるといいわね。

  

 それにしても彼らはどうしてここにいたのかとシヴァに聞いたら、かなり昔、北の国との戦争があった時に、こちら側から奇襲できる道を川の両側に急いで作ったという。

崖が多くてかなりの難工事だったらしい。

 

 昼夜を徹しての作業で安全性は二の次だったから、沢山の人が崖から落ちたり、事故にあって亡くなった。彼らはなぜこのような目に会うのか納得できなくてそのままこの川の回りに居ついたそうだ。

 何か他人事とは思えない。

 

 そのような場所が結構あちこちにあるらしい。

神様はそこまで手が回らなくて、彼らが天国に行く機会が中々訪れないという。

 

『だから、エルがそう言う人たちを見つけたら、光で天国へ導いてあげるといいよ』

『なるほど。それが精霊姫の役目の一つなのね』

 

 そうやって進んでいくうちに丸太が三本ほどが川に架けられている橋を見つけた。

そこを越えてしばらく獣道を歩いて行くと王都から続いている大きな道に出た。

 

多分、このまま広い道に沿って東に行けばギレンの街に着く。


今度は整地されている道を進むので快適だ。まだ人は通っていない。

 

やっとの思いで、ギレンの街に着いたのは夜が明ける頃だった。

 

 

「シヴァ、新しい道を切り開くわよ!」

 

 

明日から四話は、ルークの視点になります。エルミナの母の出奔の真相に迫ります。

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