ジェナの視点 1
「エル、ルークに捕まる」の次のエピソード「ルークの話」が抜けていましたので、割り込み投稿しました。話が繋がらない部分があったと思います。申し訳ありません。
エルミナが公爵家に行った。
最初はエルミナが公爵夫人になるのかと思うと面白くなかったけれど、これは私にとってはチャンスじゃないかしら。
もしかすると、エルミナに代わって私が公爵夫人になれるかもしれないわ。
だって、ルーク・アルトとかいう婚約者が、悪い噂のあるエルミナを愛するわけがないもの。
なぜか夜会でも彼と接する機会がなかったのよね。私を見れば、絶対に私と結婚したいと思うはず。
そうだ、公爵家にエルミナを頻繁に訪ねて、その公子と親しくなっていけばいいんだわ。
私、冴えているわね! エルミナは婚約破棄されるのね。いい気味だわ。
ラルド殿下は中々婚約破棄をしてくれないから、既成事実を作ろうと思ったけれど、さすがに王家の人間は周りのガードが固いのよね。なかなか機会が訪れなかった。
まあそれで、かなり地位は落ちるけど、いつも私に愛を囁く伯爵の子息のカールを誘惑した。
これは上手く行ったわ。
彼はそのうちオールドフォード伯爵家に婚約の申し込みに来ると言っていた。
それでも公爵夫人になれるのなら、その方がいいに決まっている。
カールをからの縁談を受けるかどうかは悩むところね。
そんなことを考えていた矢先に、急にオールドフォード伯爵家から追い出された。
何が何だかわからないけれど、私も母親も伯爵家の人間ですらなかったという。
つまりただの居候だったということ。
それに弟が伯爵の息子じゃなかったなんて、私もまったく知らなかった。
弟と言っても、私は子供が好きじゃないからほどんど接触はなかったけど。
やたら太って、どんくさい子だったし。
結局、母親のバーバラは罪に問われて農奴にされ、遠方へ追いやられた。
母親なら、娘の役に立って欲しいものだわ。それなのに私の足を引っ張るなんて信じられない。
こんなことになったのも、あの呪われた娘、エルミナのせいだ。
早くになんとか排除したかったのに、なぜかいつも失敗した。
伯爵家を追い出された私は職業斡旋ギルドに行ったけれど、募集があるのは商家の下働きか洗濯メイドくらい。そんな手の荒れる仕事は嫌だ。貴族の家には紹介状や推薦状がないと働けない。
仕方なく下町をウロウロして、やっと小さな居酒屋で働くことになった。
さすがに娼館はごめんだわ。
エルミナに接触するには自由でなければ。
住居は居酒屋の上の小さな部屋だ。
貴族の娘としてチヤホヤされていた私がこんな生活に陥るなんてと涙が出たが、とりあえず先立つものが必要だと気を取り直した。
働くなんて初めてのことだし、足も手も腰も痛くなる。これなら娼館の方がましだったかと思ったけど、それは最後の手段と思い我慢する。
まあ、居酒屋に来る男たちの中に役に立ちそうな者を探しながら働くのも悪くはなかった。
慣れてきたところで、私は今後の計画を立てた。
まず、エルミナがいる公爵邸に行き、エルミナと会ってなんとかお金を出させる。ついでにその婚約者に会えればいいのだけれど。私を知れば誰が運命の人かわかるはずだ。
何やら公爵家に関する念書を書かされた様な気もするが、あんなのただの脅しに決まっている。
次は、伯爵令息のカールにあの一夜で妊娠したことにして、お金を取る。
ドレスは殆ど売ったが、一番いいデイドレスだけは残していた。
それを着て、期待に胸を弾ませながら公爵邸に行った。
豪華な門扉の前にいる門番に貴族令嬢時代に培った高飛車な態度で「私はこの屋敷にいるエルミナの妹よ。エルミナが私に会いたがっていると聞いたの。すぐに彼女に取り次いでちょうだい」と言った。
それなのに門番は私を門の中には入れてくれず、そこで待つようにと横柄な態度で私に告げた。
しばらくして、執事と思しき男が騎士二人を連れてやってきた。私を迎えに来たのかと思ったが違った。
こわばった表情の執事にこう言われた。
「エルミナお嬢様には、妹などいらっしゃらないはずです」
「私はエルミナお姉様と一緒に育った妹です。ジェナが来たと言えばわかるはずです。一目で良いから会わせてくださいませんか。姉も私に会いたいはずです」
今度は少し礼儀正しい態度にした。
「何度も言いますが、エルミナお嬢様には妹はいらっしゃいませんし、そのようなことは聞いたこともございません。お帰りください。これ以上嘘を重ねるようでしたら、王都警備隊に突き出します」
門から騎士が出てきた。
私はあとずさり、ここはひとまず退散して時々この辺でエルミナを待とうと思ったら、騎士の一人に「今後、この近辺でおまえを見かけたら、その場で取り押さえるからな」と言われてしまった。
母親の罪が知られているのだ。別のやり方を考えるしかないと公爵邸を後にした。
次はカールだ。
今度は妊婦用の服を買わなければならなかったが、この服のお金の分は回収できるだろうと思った。
カールのいる時間を見計らって伯爵邸に出向いた。
執事が出てきて、名前を聞かれたので
「オールドフォード伯爵の娘、ジェナと申します。突然お訪ねして申し訳ありませんが、大切なお話がありまして、カール様に合わせていただけないでしょうか」
丁寧にそう答えたら、応接間に通してくれた。
応接間で待っていたら、カールが渋い顔でやって来た。
「何をやってるんだ」
「何の話?」
「オールドフォード伯爵に婚約の話をしたら、伯爵は君が伯爵令嬢でもなんでもなく、本当の伯爵令嬢を虐めていたから家を追い出したと聞いた。エルミナ・オールドフォード伯爵令嬢の悪い噂も全部君が流したと」
「たまたまそうなっただけで、私も自分が伯爵令嬢じゃないなんて知らなかったのよ」
「それで今日は何の用事だ」
「あなたの子を身ごもったの」
「はあっ?」
「だから、結婚してくれるかしら? あなた私のことすごく好きだって言ってたでしょ?」
「平民とは結婚できないし、もう君のことは何とも思っていない。だいたいあの当時だっていろいろな男を侍らせていただろ?」
「そんなことないわ。男の人たちの方が私に寄って来ただけよ。とにかく、この子を産むのにお金がいるのよ」
私はお腹をさすりながらそう言ったが、カールは全く信じていないようだった。
「本当に僕の子だってどうして言える? 俺だけじゃないんだろ?」
「えっ、本当にあなただけよ」
「あの時は僕を選んでくれたと思って有頂天になったが、冷静に考えれば君はいつも嘘をついていた」
「嘘なんて言ってないわ」
「ラルド殿下だって、君を口説いたことは一度もないと言っていたぞ。妊娠も嘘なんだろ?」
「本当よ!」
「じゃ、これから一緒に医者の所に行こうか?」
「......」
医者はまずいと私は怯んだ。
「ちょっと待って」
カールは執事を呼び、紙に何やら書いて私の目の前に差し出した。
「これにサインして」
それには、二度とこの屋敷を訪れないこと。今後どんなことが起きても伯爵家には一切の係わりはないこと。今、いくらかのお金を持たせるがこれ以降の金銭の要求には応じないということが書かれていた。
そのお金は、半年は働かないで暮らせるものだったから、私は念書にサインした。
まあまあ成功だったわね。
嬉しくて、久しぶりに自分の身の回りの物を揃えていたら、一か月もたたない間にカールから貰ったお金の半分が無くなった。
だから、居酒屋の客に狙いを定めることにした。
一番良いのはお金持ちと結婚することだけれど、こんな下町の居酒屋に来るような連中にそんな人がいるわけはない。
私に言い寄る男は貧乏人ばかり。これはと思うと、すでに結婚していたりする。すごく金持ちで贅沢させてくれるのなら愛妾でもいいけれど。
これと言った収穫がないままに月日が過ぎて行く。
そう言えばオールドフォードの伯爵邸も人が随分と入れ替わっているらしい。
それなら私のことも覚えていない人が多いだろう。
伯爵本人はほとんど家にいないから心配することもない。
すべて母のバーバラのせいにして、私は被害者なんだと執事や使用人の同情を引いたら、お金を出してくれるかもしれない。
我ながら良い考えだと思って伯爵邸に行ってみたが、何故か騎士がうようよいた。
門扉の外から彼らに声をかけた。
「以前、この屋敷にすんでいたジェナと言いますが。執事か誰か責任者に取り次いでもらえますか?」
その途端
「隊長、念書を守らない人が来たようです。どうしますか?」
「捕まえて、街の警備隊に引き渡そう」
そう話すのが聞こえたので、慌てて走って逃げた。
敷地内に入っていなかったから、追いかけてはこなかったが怖ろしい思いをした。




