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大聖堂にて


 ここは大聖堂。


 私たちの敬う神は。博愛の女神シェイリーン。


 その女神像の前に祭壇が設けられている。

 祭壇の前は踊り場のようになっており、神官、新郎新婦などがそこで結婚などの誓いをする。

 その祭壇に向けて幅の広い階段が八段ほど設けられており、その階段の下には通路がT字路のように広がり、縦の方の通路の両側には、各々百席ほどの椅子が備え付けられている。

 王室関係者と言えども特別席はなく、周りが護衛騎士で囲まれるだけ。


 新郎新婦はそれぞれ左右に広がる通路の先の扉から出てきて、階段の前で一緒になる。

 そして手を携えて、階段を上る。

 祭壇前に来たら、二人とも跪き、神官の言葉を待つ。

 

 

 私は、ウェディングドレスのトレーンは短めにしてもらったが、ヴェールは後方に長く広がる。それをを整えながら付いてくるカイラと侍女たちは大変だなと思いつつも、すました顔でブーケを抱え祭壇の前に向かって静かに歩く。

 耳にはルークが着けてくれたイヤリングが揺れる。

 

  

 正装をしたルークが私の正面から歩いて来る。そう言えばこんな風にルークを見たのは初めてかもしれない。

 

 美しいわ。姿勢が綺麗で足も長い。

 こちらの男性の正装は軍服のようなスタンドカラーのロングジャケットにトラウザーズ。ジャケット上下の基本色は黒だけど、ボタンなどの飾りや身頃の刺繍の色は自由。

 ルークの上着には緑と金色、つまり私の髪の色で鮮やかに刺繍が施されている。

 

 黒髪は綺麗に撫でつけられて、エメラルドのピアスが光る。

 

 ルークと祭壇へ続く階段下で一緒に手を取り、ゆっくりと階段を上る。

 そして私たちは祭壇前に跪く。



 大神官の声が聖堂に響く。

 

「ルーク・アルト・ディクソン、及びエルミナ・オールドフォードは共に手を携え、これからの長い道のりの中、困難や悲しみの訪れることがあろうとも、お互いを慈しみ、信と誠を捧げ、愛を失うことなく二人で乗り越えていくことを誓うか」

 

「「はい、誓います」」


 ここで二人は立ち上がり、大神官の前にある水晶に二人で手を添えて

 

「「博愛の女神シェイリーン様、私たちは貴女の愛に心からの感謝を捧げます」」


「では、ここに二人を夫婦と認める」


 私たちはここで指輪の交換をした。この世界にはない習慣。

 そしてルークが私のヴェールを上げキスをする。

 これもこの世界にはない習慣。


 来客が動揺するのが分かった。ルークはいたずらっ子のように片目をつぶり私に微笑む。


 その後、女神に一礼して、そのまま招待客の方に向きを変えて、また深く礼をする。

 これで一連の儀式は終わり。

 

 ここで来客の拍手が響く。


 その時、私の左後方に控えている小柄な眼鏡をかけた神官が動いたのを目の端に捉えた。

 振り返ると、手に光るものを持っている。

 

「あんたなんか幸せにしてやるもんか。そこの場所は私の場所だ」

と叫んで、私の方に突進してきた。


 前世の記憶が重なり、とっさの身体強化ができない。

 ルークが気づいて私の手を引き、抱きとめた時、その神官はシヴァのパンチを受けて転倒し気を失った。


 黒髪の鬘がはずれて見えたのはジェナの特徴あるオレンジ色の髪。

 眼鏡のとれた顔はまさしくジェナだった。

 

 彼女はすぐにオットーや周りにいた騎士たちに囲まれ、運ばれていった。


 それは一瞬のことだったし、拍手はまだ鳴りやんでいなかったので、彼女の言葉や手に持っている物に気が付いた人は殆どいなかったと思う。


 ルークが来客に向けて首をすくめて話した。

「手順を間違った神官が慌てて転んだようです。皆様、どうぞご心配なさらずに」


 あちらこちらで笑いが起こった。

 

 ルークが心配して私の耳元で囁く。

『エル、大丈夫か?』

『大丈夫よ。皆が守ってくれたから、足も震えていない。予定通りで......』


「それでは、エルミナから皆様にプレゼントがあります」


 ルークの言葉を合図に、私は聖堂いっぱいに虹を出現させた。

「わーっ」という声が響いたあとは、高い天井からたくさんの光の粒を降らせる。


 それは、聖堂の天窓から入る光と一緒になり、眩く輝いていた。

 

 さらにどよめきが広がる。


「エル、さあ行くぞ」

 降り注ぐ光の雨の中、私はヴェールを取り階段下に控えていた侍女のカイラにブーケとともに渡した。

 

「次はあなたよ!」

 

 目を丸くして驚くカイラを後にして、私たちは身体強化で神殿の裏口に走った。

 そこにはオットーさんが馬を引いて待っていたので、すぐにその馬に乗り神殿を飛び出した。



「次はあなたってなんだ?」とルークに聞かれた。

「前の世界ではね、花嫁のブーケを貰った人は次に花嫁になれるって言われているの」

「ん、だから?」

「カイラはオットーが好きなのよ。うふふふ」

「ははは、なるほど。それはいい!」


 遠くで、オットーの「待ってくださいよ~」という声がする。


 私たちはかねてから用意していた別邸に走り込んだ。

 そこは、引退した公爵家の執事とその夫人が管理しているこじんまりとした屋敷だ。


 執事の名前はアッシュさん。

 アッシュさんは私の母や私の小さい頃も知っている人だ。


「アッシュ、この場所はそう簡単には見つからないと思うが、神殿が来ても王室が来ても、一週間は誰も通すな。俺たちの邪魔をするなと言え。たとえ国が滅びてもだ」


「かしこまりました」


 息を切らしながら屋敷に駆け込んできたオットーの独り言が聞こえた。

「国を滅ぼすなんてシヴァちゃんにしかできませんよ......」

 

 

 

 

 私たちはその夜、身も心も一つになった。

 

  

明日から二話はジェナの視点になります。その後、後日談で完結します。

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