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ルーク視点 7


 俺は、執務室で書類を精査していた。これから一週間の休暇を取るので、ギリギリまで仕事をしている。

 そろそろ着替えなくてはと思っていた時だった。

 

 カイラが慌てたようにドアの外で控えている騎士と部屋に入ってきた。


「エルミナ様がお部屋にいらっしゃらないのです」


 俺は何故かそんな予感がしていた。だから慌てずに

「庭は探したのか?」

「はい、くまなく」


「大丈夫だ。俺が探しに行く」

 執事長を呼び、神殿に式を少し遅らせるように言付けた。


 机に置いていた真珠のイヤリングをポケットに入れて厩へ行き、馬を出して飛び乗った。


 が、エルの行き先が分からない。


 ――考えろ。どこだ? 

 

 王立植物園の温室は気に入っていたよな。

 王都の時計台からの景色も気に入っていた。

 リンツ公園の池のある庭も好きと言っていた。


 だが、違う。


 あれは、いつだったか?


 秘密基地?

 鳥のさえずりと風のささやきが心地いいと。


 そうだ、年に一度会っていた頃、一番落ち着く所と言っていた。

 どこだった?

 オールドフォード伯爵家だ。庭から続く林にある小屋。




 俺は伯爵家に急いだ。義父上はすでに神殿に行っているはずだ。

 

 執事のフェイスが出て来て「先程、エルミナお嬢様がおいでになりました。緊張しているので少し頭を冷やしたいとおっしゃって庭の方へ行かれました」と心配している様子だった。

 

 良かった。やはりここだった。


 マイロを呼び出し、林の小屋の方向を聞いた。

「お供しますか?」

「いや、いい」




 木洩れ日の中に見える小さな小屋のベンチにエルが膝を抱えて座っていた。


「エル、相変わらず逃げ足が速いな」


「ごめんなさい、ルーク。あなたが大好きなのに、私はいつもあなたに迷惑をかけてしまう。あなたとの結婚はとても嬉しいの。それなのに......」


「迷惑だなって思っていないよ。結婚式をやめるか?」

「ううん。やはり結婚式はきちんとしたい。でも足が動かないの」


「エル......、今、気が付いたよ。エルに正式にプロポーズしていなかったって」

「えっ、そうだったかしら?」

エルは俺を見上げて首を傾げる。


 俺はエルの前で跪いてエルの手を握り

「エルミナ・オールドフォード嬢。私、ルーク・アルト・ディクソンと結婚してください。どんな時も君の傍で君と共に生きて行きたい」


 そして、俺は持ってきた真珠のイヤリングをポケットから取り出し、エルの掌の上に乗せた。

 

 そのイヤリングはエルが母親から貰った涙型の真珠の上に俺の瞳の色の小さなパープルサファイアが施されている。

「これに誓って、君を幸せにするよ」


 エルは、その大きな碧の瞳を見開いて確かな口調で応えた。

 

「ルーク・アルト・ディクソン様、私エルミナ・オールドフォードは喜んであなたと共にあなたの傍らで生きて行きます。私もこれに誓ってあなたを幸せにします。ルーク、心からあなたを愛しているわ」


 エルの涙が幾筋も彼女の頬を伝う。俺はハンカチを出してそっとその涙をぬぐい、エルに口付けた。


「美しいイヤリングね」

「着けようか?」

「ううん、失くしたらいけないから、結婚式の前に着けて」


「それから、神殿で結婚の誓いが済んだら好きなだけ魔法を使ってもいいぞ」

「そうなの?」

「実は、昨日婚姻届けを出した。もうエルを神殿に取られることはないからな」

「じゃ、神殿の中を思い切りキラキラさせちゃうね」


『わーい、エル、思い切り楽しもう!』


「よし、魔法を使ったら、二人ですぐに神殿から逃げるぞ!」

「なんだかワクワクしてきたわ」


 俺は笑顔の戻ったエルを抱き上げて

「さ、戻るよ!」


 そのまま伯爵家を通り抜け、玄関の間に出たところで、ウィラやマイロたちを始め、使用人たちが何故か勢ぞろいしていて一斉に俺とエルに拍手をした。

 エルは俺に抱き着いて「嬉しいわ。もう大丈夫」と囁き、彼らに眩しいほどの笑顔を見せた。

 

 後にこの時の様子が絵になって、伯爵邸の広間に飾られ、子供たちに散々冷やかされることになるとは夢にも思わなかった。


 さて、帰る途中、エルに花屋の前で馬を止めてと言われた。

「こちらの世界ではブーケの習慣がないけど、やっぱりブーケを持ちたいの」


 ラナンキュラスの季節じゃなくて良かったと言いながら、花屋の店員にいろいろ注文していた。

 何やら可愛らしいブーケと言う花束を作ってもらっていた。


 その後、彼女はなんと馬ごと身体強化をかけたのであっという間に公爵邸に戻った。

 


 そして、いよいよ俺たちの結婚式が始まる。


 エルに危害を加えるなんて人間はいないと思うが。ああ、そう言えばジェナと言う娘がいたな。やはり警戒するに越したことはない。

 

 王族も来ているので警備は万全だ。


 誰もエルには指一本触れさせない。



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