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母からの手紙

 

 * * * * 

 <一通目>

 

  親愛なるマルシア伯母様


 その後、お変わりありませんか。

  

 私たちのために、たくさんのご迷惑をおかけしたことを心からお詫び申し上げます。

 

 ティモシー様と私は無事この地パルヴィンに着きました。

 

 ティモシー様のことは、これからティムと書かせていただきます。なぜなら私たちはティムとリアとしてこの地に生涯生きることを決めたからです。

 

 パルヴィンは温暖と言うより少々暑いのですが、それでも木陰や家の中はとても快適です。

 カラフルな果物、見たこともない野菜などがたくさんあり、好奇心がくすぐられます。

 

 空はどこまでも青く、海は碧色に輝いています。その色はエルミナの瞳の色と同じで、海を見るたびにエルミナを思い出して、切なく悲しい気持ちになります。

 

 ティムはそんな私をいつも優しく見守ってくれます。私がティムを支えようと思っていましたのに、これでは逆ですね。

 

 ティムはこちらに来て、とても調子が良さそうです。

 

 そうそう、何もしたことのない私が、親切な近隣の方たちに教わり、料理をするようになったのですよ。

 失敗したときは両隣に駆け込んでいますが、近頃は駆け込む回数も減ってきました。

 

 ティムは花壇の手入れがすっかり楽しくなった様子で、毎日、草花に話しかけています。

 ひどい嵐が来た時も、怖がっている私の心配より草花の心配をしていました。

 

 先日、この島にしかないシュマという果物が、身体の毒を排出してくれるらしいと言うことを知りました。

 ティムに毎日食べてもらおうと思っています。

 

 伯母さまもくれぐれも御身をお大切にお過ごしください。

 私たちのことを認めてくださって、心から感謝申し上げます。

 

 

     リアことオフィーリアより

       

       

 * * * * 

  

 <二通目>


  親愛なるマルシア伯母様 

 


 お変わりなくお過ごしでしょうか。

 

 早いもので、最初の手紙を出した時から一年半が経ってしまいました。

 ご無沙汰して申し訳ありません。

 

 あれから、何と私たちは果樹園を手に入れたのですよ。

 たまたまお年で廃業する方が、私たちにやってみないかと声をかけてくださいました。

 

 何も知らない私たちですが、なんとか周りの方々の協力を得て頑張っています。

 

 ティムですが、あの果物のせいか、とても顔色も体調も良くなっています。

 まだまだ死ねないと、毎日、果樹の世話をしながら園内を見回っています。

 昔のティムからは想像もつかないでしょう?

 

 エルミナは元気でしょうか?

 エルミナは決して私を許すことはないだろうと思っています。

 それでもいつかエルミナに会える日が来ると信じて生きて行きます。

 

 伯母さま、御身をお大切にお過ごしください。



       リアより


 * * * * 

  

 <三通目>


  親愛なるマルシア伯母様


 お元気でお過ごしのことと思います。

 

 こちらに来て三年の月日が経ちました。

 実は半年前に子供が生まれたのです。もちろんティムと私の子供です。

 

 名前はアレクシス。男の子です。

 最近は寝返りをするようになって、片時も目が離せなくなりました。

 今は、やっと寝てくれたので、傍らでこの手紙を書いています。

 

 エルミナはわりと大人しい子でしたし、メイドもいたので子育てがこんなに大変とは思いませんでした。

 ティムも時間の許す限りアレクシスと過ごしています。

 生後半年の子供に向かって「おとうしゃまとおかあしゃまのどっちが好き? やっぱりおとうしゃまか!」なんて言うんです。

 こんなに親ばかになるとは思ってもいませんでした。

 

 果樹園も順調です。

 

 伯母さま、ご無理なさらずに御身をお大切にお過ごしください。



      リアより


 * * * * 

  

 <四通目>

 

 親愛なるマルシア伯母様

 

 早いもので、アレクシスも四歳になりました。

 元気に育っております。

 

 ティムも頑張っています。ここのところ少し咳などをするようになったので、それがちょっと心配です。

 

 最近は果樹園で採れた果物をジャムやジュースにした物がとても良く売れるようになりました。

 クッキーやケーキの材料として、乾燥した果物の取引も多くなりました。

 王都方面にも出荷するようになっていますので、そのうち「ティムとリアの店」というラベルを見ることがあるかもしれません。

 

 同封しました真珠ですが、こちらの島の特産物です。

 もし、エルミナに会うことがあれば、渡してくださると嬉しいです。

 受け取ってもらえるかは分かりませんが。

 

 とりとめもないことを書きました。伯母さまもくれぐれもお元気でお過ごしください。

 

    リアより

 

 

 * * * * 

  

 <五通目>

 

 親愛なるマルシア伯母様

 

 王都を発ってから十年の月日が流れました。

  

 悲しいお知らせです。

  

 ティムが一月ほど前に亡くなりました。

 やはりあの蛇の毒は少しずつティムの体の中を弱らせて行きました。

 それでも、あの時せいぜい三年と言われた命がここまで持ったのは奇跡だと言われました。

  

 ティムは半年ほど前から体調不良を感じていましたので、彼は七歳になったアレクシスに私たちの過去をきちんと話しました。

  

「私たちはいろんな人を傷つけてしまった。今の幸せはその上に成り立っているんだ。だから感謝の気持ちを忘れないで欲しい。

いいかい。アレクシスは一人じゃないんだよ。もちろんお母様もいるし、この島の人たちは家族みたいなものだけどね。それでもアレクシスには血の繋がったエルミナという名のお姉様がいる。アレクシスが大きくなったらお母様と一緒にエルミナお姉様に会って欲しい」

  

 アレクシスは神妙に頷いていました。私はただアレクシスを抱きしめるしかありませんでした。

 

 本当に私たちのわがままを聞いてくださってありがとうございました。

 公爵様ご夫妻、そしてジャレッド様にも心から感謝しております。

 

 ティムのお墓は、私たちの果樹園が見渡せる丘の上にあります。

 今もその丘で、ティムと一緒にどこまでも青い空と碧の海を見ています。

 

 伯母様、「おかあさま」と呼ばせてください。

 おかあさまにティムを会わせて差し上げられずに、ごめんなさい。

  

 この手紙でお気を落とされないか心配です。御身をお大切になさってください。

  

    リアより


 * * * * 

  

 

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