再び公爵邸
丸二日しかいなかったけれど、侍女のカイラさんをはじめ、公爵邸のみんなは私のことをとても心配してくれていたようで、ルークと手を繋いで帰った私を見てそれは喜んでくれた。
私はただひたすらに謝った。いえ、使用人には頭を下げてはいけないから
「面倒をかけて申し訳ありませんでした。二度とこのようなことはしません。末永く見守ってくださいね」などと。
それからルークは長期間仕事を休んだこともあり、半端のない忙しさで、私も伯爵邸に戻ることにした。父と向き合い話をしたかったのだ。
ルークはジェナのことを心配して、数人の騎士を私に付けてくれた。
伯爵邸には執事のフェイスが戻って来ていて、私と会えてとても喜んでいた。
私の部屋はすでに、改装して新しい家具も入り綺麗に整えられていた。
ジェナとバーバラの部屋はもう何もなく、いずれは客室に改装すると言うことだった。
メイドのウィラは私を見て泣き出してしまった。
「もっともっとお嬢様に寄り添いたかったのに。意気地なしでごめんなさい」
「何を言ってるの。ウィラがいたから、頑張れたのよ。感謝してるわ」
そう言ったらもっと泣かれてしまった。
料理長のケビンも満面の笑みで私を迎えてくれた。
庭師のマイロもそのまま伯爵邸で働くことになっている。
使用人たちも入れ替わり、屋敷の中はすっかり穏やかな雰囲気になっていた。
父には土下座をする勢いで謝られた。
まあ、父が陰ながら私を心配していたことは伝わっている。
図書館で勉強を教えてくれた先生方も父が手配した人たちだったし、私のために衣服や図書館へ行くお小遣いもウィラを通して渡してくれた。
父は「エルミナを置いていけ」と母に言ったことで私に負い目を感じていたのだと思う。
愛情の示し方が分からなかったとしても、きちんと話せば幼い子供にだって物事はわかるはずなのに。
今後は隠し事は無し、何でも話す、と念を押した。
ルークには私が公爵邸を逃げ出したことは絶対に言うなと言われていたので、何でも話し合うと言った手前、後ろめたくあるけれどそのことには触れなかった。
しばらくして、公爵邸にルークのご両親が戻って来ることになったので、私も公爵邸に戻った。
ルークの両親とは小さい頃に何度も会っているはずなのに、うっすらとしか思い出すことができなかった。
「気にしなくてもいいのよ」と優しく言ってくれたが、居たたまれない気持ちになった。
「こうして会えて本当にうれしいわ。ずっとあなたのことは気にかけていたの。具体的な行動をとれなくてごめんなさいね。それにしてもエルミナがルークのお嫁さんになるなんて、オフィーリアもきっと喜んでくれるわね」
私は初めて気が付いた。こんなにも私を心配してくれる人たちがいたと言うことを。
そしてしばらくの間、お義母様に公爵家としてのマナーを教わることにした。
今は昔ほどマナーにうるさくはないと言うけれど、貴族令嬢としての基本も定かではないし、ルークに恥をかかせたくない。
そして私は十八歳になった。
迷惑だとは思ったけれど、次代の公爵夫人の権限(?)を利用して、厨房を使わせてくれと頼み込んだ。料理人たちも暇々に手伝ってくれて、一日がかりでバースディケーキを作った。シヴァも楽しそうに飛び回っていた。
出来たケーキは、スポンジの膨らみは今一つだったけれど、クリームを回りに塗ったり、果物を飾るとそれなりに見えた。
小さい蝋燭を手配してもらって、ケーキの上に十八本を立て、ルークの前に姿を現したシヴァとハッピーバースデーを歌って、ろうそくの火を吹き消した。
この次はルークの誕生日ね、と言うと、彼は「公爵家の行事として定着させよう」
とても嬉しそうな顔でそう言った。少しずつこの家での歴史が出来ていく。
そんな時、領地のルークのお祖母様の具合が思わしくないと言う報が入り、私たちはルークの領地に向かった。
幸い、お祖母様は少し回復されて、ご自分の部屋の暖炉の前で揺り椅子にもたれながら、本を読んでいた。
私は彼女に近寄り、椅子の前に膝をついて彼女の手をそっと握った。
「エルミナです。長い間ご無沙汰しました」
「本当にエルミナなの?」
「はい、おばあさま」
「会いたかったわ! ごめんなさいね。私はあなたに何もしてあげられなかった...」
一筋の涙が彼女の頬を濡らした。私はまだお祖母様のことを思い出せないが、母が彼女を好きだった気持ちが良く分かった。
おばあさまに公爵邸での事やこれからの事を話した。穏やかに私の話を聞いていた彼女は、そっとベッドサイドのチェストを指さした。
「そこにオフィーリアからの手紙が入っているの。自分の部屋でお読みなさい。もちろんその手紙をどうするかはあなたが決めてね」
彼女は、遠くを見るように静かに窓の外の空を見上げた。
チェストの引き出しには、母からお祖母様宛の何通かの手紙が入っていた。




