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ルーク視点 4

 

「エルは元気?」


「はい、お一人で裏の林に出かけることが多くなりまして、危険ではないのかと聞くと友達が一緒だから大丈夫とおっしゃるのです」

「友達?...」


「それとシヴァと声をかけている時がありまして、周りを見てもだれもいないので不思議だなと思うこともございます。不思議と言えば少し前ですけれどエルミナ様が林に行った後、天空に光の柱が立ってすぐ消えたことがございました。音がしませんでしたので雷ではないようでしたが、あれは何だったのでしょう?」


 そこまで聞いて俺は精霊姫伝説を思い出した。精霊姫には何かが常に傍らにいたと書いてあったような気がした。

マイロと別れてすぐに、王宮の図書室に駆け込んだ。


『精霊姫の傍らには必ず小さな精霊がいる。それは妖精、使い魔とも呼ばれ、精霊姫と会話し精霊姫にしか見えないがまれに姿を現すこともある』


『精霊姫の光は強く空を照らす。それはあたかも天女が空から降りてくるようだ。さらにその光で天に行けなかった魂を救う』


 間違いない。エルは数十年あるいは百年に一人と言われる精霊姫だ。なぜもっと早くに気が付かなかったのか。エルを国や神殿に絶対に取られるわけにはいかない。

まして他の男になんかとんでもない。エルは俺のエルだ。

 

 

 俺は慌ててオールドフォード伯爵を探した。彼はいろいろな建設現場を飛び回っているから中々捕まらない。

話をするのに一か月もかかった。


 彼と対面した時、俺はすぐに話を切り出した。


「伯爵、エルミナと私の結婚を許可して欲しいのです」

「はっ?」

「まあ、まず婚約と言うことになりますが」

「随分急な話ですね」

「私はやはりエルのことが心配で仕方がない」

「......」

伯爵は考え込むように、しばらく返事をしなかった。


「実は、そろそろバーバラたちに出て行って貰うつもりで動いています。ですから私としてはエルミナに婿を迎えたいのです」


「彼女たちに家を出ろと言ってすんなり事が運ぶのですか? 腹いせにエルに危害を加える可能性もありますよ。我が公爵家にエルを引き取っていた方があなたも安心なのでは?」


「......確かにそうですね。では、お父上のディクソン閣下の了承があればこの縁談をお受けしましょう」

「伯爵、大丈夫です。あなたさえ良ければ、伯爵家は私たちの子供の一人が継ぎますよ」


オールドフォード伯爵は、仕方がないとでも言うように首をすくめて言った。

「そうですね。期待しましょう」



 それから俺は、張り切って領地にいる両親のもとに往復十日間もかけて説得に向かったが

「いつ言い出すかと思ってたのよ」

そう母に言われて、拍子抜けしてしまった。


 マイロに時々話を聞いていることや、一年に一度エルに会っていることも両親には筒抜けだった。

 

「フィオナ殿下と婚約していた時は彼女を大切にしているようだったし、あなたも自分の立場を分かっていたから心配はしていなかったの。でもフィオナ殿下が亡くなってから二年近く経つのですもの」


 それで俺は、小さい頃の街での出来事やマイロから聞いた話をした。

「まったく、そんな無茶をしていたのね。何事もなくて良かったわ。エルのお蔭ね」


「で、その話を総合すると、俺はエルが精霊姫だと思っているのです」


すると母が言った。

「そう言えば、オフィーリアがエルは独り言が多いって心配していたことがあったわね。精霊と話していたのかもしれないわ」


「あ、『小さな友達』って、精霊の事だったんだ。俺は猫の事かと思っていた」


「精霊姫か......。光と水魔法が使えて精霊もいる。すごいなエルミナは。なぜ今まで周りに気が付かれなかったんだ?」

父が訝しげに首を傾ける。


「たぶん、周りに頼りになる大人がいなかったから、隠していた方が安全だと思った。そして精霊もそう判断した。とにかくエルにすぐにでも会って話を聞かなくては」


 エルが精霊姫と知られたら、ますます俺から遠のいてしまう。


「父上、今の時代は精霊姫がいたところで神殿の象徴に使われるだけと思うのですが?」

 

「何とも言えんが、精霊姫がいれば神殿の権威も増す。国としても民の心を掌握するために囲いたいと思うだろう。ただ、神殿も無理やり家族と離すことはしない。神殿の信条に反するからな」


 我が国の神殿は、博愛の女神シェイリーンを信仰する。家族愛や隣人愛を大切にして、その愛があれば戦争などは起きない、愛は引き裂かれるべきではないと言う主張を掲げている。理想論と思っていたが、この時ばかりは感謝した。

 

「お前が本当にエルミナと結婚したいのなら周囲がそれに気づく前がいいだろう」


 両親にエルとの婚約の許可を経て王都に戻った後は、オールドフォード伯爵に連絡を取り婚約を正式なものとした。

 

 一刻も早くエルを迎えに行きたいが、領地に行くのに休んだこともあって仕事は山積みだ。重要な会議も目白押しで連日王宮泊まりになっている。

 

やはり執事に彼女を迎えに行かせよう。とりあえず公爵邸にいれば、安全だ。

 

 使用人たちには

「エルミナ嬢は俺の大切な人だ。悪い噂も全て嘘だ。だから丁寧に扱うように」と徹底した。


まずはゆっくりと信頼関係を築くことが大事だ。昔の事やエルの知りたいことを話せばきっと俺のことを思い出してくれるはずだ。そうしたら、俺の想いを伝えよう。


 エルミナに会える日がどれほど待ち遠しかったことか。



次からはまたエルの視点に戻ります

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