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第61章 住民登録ゲート問題

長江流域の上海(人口約40万)、武漢(ウーハン、人口約3万)、重慶(チョンチン、人口約2.5万)、及び長江支流流域の成都(チェンドゥ、人口約5千)には、それぞれ自治組織たる自経団がある。上海には10の自経団があり、それらを統括する自経総団が置かれている。自経総団は総書記と原則として9人の副総書記で構成され、それぞれ1つの自経団の責任者たる書記を兼務している。武漢自経団には地区ごとに漢陽ハンヤン漢口ハンコウ武昌ウーチャンの3つの支団があり、自経団の責任者たる書記と副書記2名は、原則として支団の責任者である支団書記を兼務。重慶には同様に3つの支団があるが、人口の少ない成都には支団はない。


国際連邦本部は月にあり、立法府たる評議会、行政府たる統治委員会、司法府たる最高裁判所から構成される。統治委員会は、内閣にあたる委員会の傘下に、専門分野ごとの局が設置されている。


主な登場人物


ミヤマ・ヒカリ:本作のメイン・ヒロイン、ネオ・トウキョウでターミナルケアを生き延びた。大陸の武昌に辿り着きダイチたちと行動を共にする、上海マオ対策本部技術第一部副部長、今は亡き同い年の従妹でカオルのフィアンセだったサユリに瓜二つ

周光立:(チョウ・グゥアンリー)ダイチの同級生で盟友、上海マオ対策本部の実務を統括する副本部長、上海自経総団副総書記を兼務、上海の最高実力者周光来の孫

アンナ・ポロンスキー:ロシア人、上海マオ対策本部民生第二部部長に就任

蔡俊熙:(ツァィ・ジュンシー)上海真元銀行出身、上海マオ対策本部財務部副部長

アドラ・カプール:インド人、上海マオ対策本部技術第一部部長

周光来:(チョウ・グゥアンライ)周光立の祖父。上海真元銀行の創設者にして自経団組織の立役者の一人。89歳にして上海の最高実力者

劉静:(リウ・ジン)周光来の秘書、約40年仕える側近中の側近

馮万会:(フォン・ワンフイ)報道機関である長江新報の主任編集員、ダイチと周光立の先輩

ミヤマ・ダイチ:ヒカリの従兄、中国名は楊大地 (ヤン・ダーディ)、上海対策本部チーフ・リエゾンオフィサー就任、武漢副書記は兼務

陳春鈴:(チェン・チュンリン)本作のサブ・ヒロインの一人、武昌支団幹部の一人、ダイチ、カオル、張子涵とは幼馴染

王敏:(ワン・ミン)上海真元銀行出身、上海マオ対策本部技術第一部副部長

劉俊豪:(リウ・ジュンハオ)コンピュータ系に強い人材紹介業者、上海マオ対策本部技術第一部副部長(非常勤)

林興建:(リン・シンジェン)上海マオ対策本部技術第二部部長

ジョン・スミス:ドイツ人、武昌で電気電子修理工房を営んでいたが、店を閉店、今は上海マオ対策本部技術第二部副部長

潘雪梅:(パン・シュエメイ)双子の警務隊員(姉)、第18支団に所属しつつ上海マオ対策本部公安部所属

潘雪蘭:(パン・シュエラン)双子の警務隊員(妹)、第18支団に所属しつつ上海マオ対策本部公安部所属

高儷:(ガオ・リー)本作のサブ・ヒロインの一人、ネオ・シャンハイのターミナルケア生き残り、武昌支団勤務を経て上海マオ対策本部民生第二部副部長

アルバート・アーネスト・アーウィン:国際連邦統治委員会情報通信局情報支援部長、ヒカリの連邦職員時代の上司

サラーマ・ラムズィ:国際連邦統治委員会の総理大臣にあたる委員長

張子涵:(チャン・ズーハン)本作のサブ・ヒロインの一人、武昌で物流業者を営みつつ上海マオ対策本部民生第一部副部長を務める

李勝文:(リー・ションウェン)タクシー運転手、ヒカリが大陸で最初に出会った人物、上海マオ対策本部民生第一部副部長(非常勤)

陳紅花:(チェン・ホンファ)商物流業者の首領の一人、張子涵と親交がある、上海マオ対策本部民生第一部副部長(非常勤)

汪花琳:(ワン・ファリン)成都自経団の職員、助理会で一緒になった陳春鈴と仲良くなった

ヤマモト・カオル:中国名は李薫 (リー・シュン)武昌支団副書記兼上海マオ対策本部リエゾンオフィサー


~周光立の業務日誌より~

 11月14日(木)

 昨日と同様よく晴れ。しかし一段と冷え込んでいる。

 今日の上海交替本部スタッフは民生第二部のアンナ・ポロンスキーと財務部の蔡俊熙。昨日と同様、本日も2つの開催自経団から20人の運営メンバー。

 午前は第8自経団。バス輸送中心だが昨日よりさらにスムーズにいった。予定通り10時開会。重慶も同時に開会しているはず。上海の会場参加者は800人強。予定通り進行し、質疑応答は8人ですべて1回のQ&A。11時50分頃PIT投票し、賛成977、反対1、棄権29。12時閉会。退出に30分。最後のバスが出るまでに40分ですんだ。


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 ヒカリは部長のアドラ・カプールと、朝から住民登録ゲートの件について議論した。

 人の輸送に万全を期し避難場所を十分に用意しても、住民登録がスムーズにいかなくては、輸送された人が登録ゲートの前に滞留することとなる。ボトルネックとならないために必要な住民登録のキャパシティを試算した。3月から5月の3ヶ月、約90日で46万人を登録することを想定。人定事項の確認、認証情報(顔、虹彩、声紋、静脈、指紋)の登録、MPワクチン(多目的免疫強化ワクチン)の接種で一人あたり10分はかかる。ゲート1台の処理能力は余裕をみて1時間あたり5人。1日12時間、90日間稼働して5400人。46万人の登録には90台をコンスタントに稼働させる必要がある。

 シャンハイ・レフュージ開設時に使用された2か所の登録スポットに、設置されているゲートは合わせて100台。最後に使われてから50年近く経過している。ちゃんと稼働するか早急にチェックし、必要なメンテナンスを行わねばならない。

 同時に、登録ゲートが十分に稼働しない事態を想定して、代替となるPITベースの簡易登録アプリの開発が必要。

 検討結果をカプールとヒカリは、対策本部全メンバーに11時にMATES送信した。


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~周光立の業務日誌より(続き)~

 昼の休憩時に、アドラ・カプールとヒカリによるレポートを読んだ。さっそく技術第一部・第二部と民生第二部に最優先事項として対応に入るよう指示。民生第一部には、登録ゲートの処理能力がネックとならないことを前提として、計画立案を進めるよう指示した。

 周光来の疲労が目に見えて強くなってきた。昨日までは、昼食もしっかりと食べ、食後に少しソファーで横になる程度だった。今日は午前の出番が終わるとずっと横になったままとのこと。昼食も食べず、看護師の資格をもつ劉静が点滴を打っている。彼女によれば、昨晩から様子が変わったらしい。それでも午前の出番は、ふだんと変わらず元気な様子でつとめていた。つくづくたいしたものだと思う。あと一日半。とりあえず今日の午後はいける、とのことだが、明日については具合をみて考えよう。

 午後は第5自経団。原則徒歩集合。予定通り14時に開始。会場参加者は900人強。質疑応答は8人でひとりだけ2回のQ&A。15時55分に行ったPIT投票は、賛成991、反対0、棄権14。16時25分までには退出が完了。

 長江新報の馮万会の取材。「3地域も含めて順調に進んでいる」と答える。

 19時少し前。ダイチとPIT交信。3支団とも同じ場所で開催の重慶は運営がスムーズに進み、10時、13時、16時と予定通り開催し、18時前に終了したとのこと。圧倒的多数で承認。これから重慶メンバーとの慰労会があり、陳春鈴が急かしているらしく、早々に切り上げる。

 あと1日を残すところまでこぎつけた。


 11月15日(金)

 楊大地と陳春鈴は、朝に重慶を発って成都へ向かう。成都助理会は15時からの予定。上海は曇ってきて、午後雨になるかどうか微妙な空模様。午後の第7自経団がバス輸送なので、どうにか天気がもってほしい。

 今日の上海交替本部スタッフは技術第一部の王敏と劉俊豪。いままでと同じく、2つの開催自経団から20人の運営メンバー。

 周光来はいつも通り9時少し前に会場入りした。劉静によれば食欲もなく、昨晩は粥を少しすすった程度とのこと。今朝も食事はとらなかったが、眼光に気力の充実だけは感じるとのこと。とりあえず今日一日。終わればしばらくゆっくりとしてほしい。


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 ヒカリは朝からネオ・シャンハイへ向かった。同行するのは民生第二部のアンナ・ポロンスキー、技術第一部のアドラ・カプール、技術第二部の林興建とジョン・スミス、そして双子の警務隊員。目的は登録ゲートの作動確認。

 本部オフィスのビル5階のメインオペレーションルームで、最初に登録ゲートのスペックと操作方法を確認する。それからヒカリがメインコントロール端末を操作し、登録ゲート全100台の起動を一斉にかける。その後ヒカリとジョンのペア、アンナ・ポロンスキーとアドラ・カプールと林興建のトリオの二手に分かれ、2ヵ所の登録スポットに向かった。それぞれ双子がひとりずつ付き添う。

 長江沿いの2ヵ所の埠頭に面する形で配置された登録スポット。それぞれゲート50台が設置されている。本部ビル1階の前に乗り捨てられたエアカーで、ヒカリはジョンと遠いほうのスポットに向かう。15分ほどで到着。ゲート番号51番から100番の1台ごとに作動状況を確認。ひとまず32台が作動していることがわかった。残りの18台のうち11台は、電源は入るがメニュー画面が呼び出せない状況。7台は電源自体が入らない。

 ゲート番号と状況を表にしたところで、再びエアカーに乗って本部ビルへと向かう。メインオペレーションルームに入ると、アンナ・ポロンスキー、アドラ・カプールと林興建がすでに戻っていた。メインコントロールはそのままにして、6人でオフィスに向かう。全員パントリーに集合し、ヒカリがマシンの使い方を教え、それぞれに好みのホットドリンクを作ってテーブルに向かう。ヒカリはもちろんコーヒーを淹れて後を追う。

 状況確認。2つのスポット合計100台のうち、作動しているものが62台。電源は入るがメニュー画面が呼び出せないものが22台。電源自体が入らないものが16台。3分の一以上が機械的なメンテナンスが必要という結果となった。また第1スポットの作動しているもののうち5台について、アンナ・ポロンスキーがメニュー画面をテスト操作してみたところ、1台でエラーが発生したとのこと。作動しているものについても、システムメンテナンスが必要なものがかなりあるものと予想される。

 週明けから高儷にも加わってもらい、民生第二部、技術第一部、技術第二部のメンバーで機械メンテナンス、テスト操作、システムメンテナンスを開始することで、いったん上海に引き上げることとする。12時頃、ネオ・シャンハイ本部オフィスビルを後にした。


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~周光立の業務日誌より(続き)~

 助理会最終日午前の部は第3自経団。原則徒歩集合。予定通り10時に開始。会場参加者は950人近くに達した。今までで最も多く、簡易椅子を並べる寸前までいった。質疑応答は7人で全員1回のQ&A。11時45分に行ったPIT投票は、賛成1002、反対0、棄権10。11時55分閉会。

 周光来は昨日と同じく、ソファーに横になって点滴を受けている。話しかけると「まこと寄る年波には勝てんのう。ただ、あと1回。まかせておきなさい」。

 午後は第7自経団。結局自経団書記の周光武とは話すことができなかったが、自経団副書記のイブラヒム・ビン・ハッサンが招集したので、助理会自体は有効に成立している。バス輸送で雨が心配だったが、参加者の入場が終了した時点ではまだ降っていない。会場参加者は800人弱。予定通り14時に開始。周光来の映像が終わり、会場の照明がフェード・インする中に演壇の周光来本人が現れる。さっきまで横になって点滴を受けていたとは思えない、しっかりとした様子。声の調子も初日から少しも変わらない。自分の祖父ながら改めてすごい人だと思う。退場する後ろ姿からもオーラが漂っている。

 休憩時間に会場を後にする周光来を見送る。夜の慰労会に参加してもらいたかったが、とても言い出せるような状態ではなかった。劉静に「よろしく」といって会場に戻った。

 質疑応答は9人でうち3人がQ&A2回。一番長い質疑セッションとなり、PIT投票は16時を回ってから行われた。賛成925、反対10、棄権58となった。16時10分に終了。まだ雨は降っておらず、17時に最後のバスが会場を後にした。

 かくして上海の10の自経団の助理会が完了。すべての自経団で「圧倒的」ともいえる賛成で承認された。成都の楊大地からPIT連絡が入る。予定通り17時に閉会し、無事承認されたとのこと。これで上海、武漢、重慶、成都とすべての自経団の承認が得られた。

 連邦本部のアーウィン部長に連絡。全自経団の助理会による承認が得られ、協定が正式に発効したことを告げた。労いのお言葉。アーウィン部長は交渉代理人としての最後の仕事として、委員長に通告に行くとのこと。今日のところは早々に会話を切り上げる。

 5日間連続して支えてくれた高儷、張子涵、李勝文、陳紅花に、自分からも労いの言葉をかける。高儷から、登録ゲート確認に行った5人からのレポートの話。高儷をはじめ、来週から改めて忙しくなる。一日も早く、大きな人の流れをさばく目処をつけなければならない。そのためにもこの週末はゆっくりと休むようにと言った。

 降り出した雨の中、機材や資料を撤収したのち、19時から国父紀念ホール内の宴会場で慰労パーティー。対策本部メンバー14人と、各回の開催自経団から運営メンバーとして入ってくれた者に声をかけ、100人のうち85人が集まってくれた。総勢99人で、南京酒家の料理を立食形式で楽しむ。

 途中から各通信社の取材クルーにも入ってもらう。馮万会から労いの言葉。詳細は明日リリースするとして、ひとまず全自経団で承認され、連邦との協定が発効したことを公表。

 パーティーは22時にお開き。


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~陳春鈴の日記より~

 いま成都で助理会の打ち上げが終わって、用意された部屋に入った。

 成都に友達ができた! 武漢以外の女の子と友達になるのは初めて。成都自経団民政局の汪花琳ワン・ファリンという助理会のお手伝いに来ていた子。打ち上げで話をしていると、私の1つ下でしかも保育士出身。キャリアが似ていて背丈も私と同じくらいで話が合った。これからもMATESで連絡を取りあうことにした。


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~カオル(李薫)の独白~

 上海と成都の助理会が終わり、どちらも打ち上げをやっている。なんか自分だけ取り残された感じ。武漢はダイチと陳春鈴が戻るのを待って、日曜日に打ち上げをやる。


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