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第57章 VRミーティング

長江流域の上海(人口約40万)、武漢(ウーハン、人口約3万)、重慶(チョンチン、人口約2.5万)、及び長江支流流域の成都(チェンドゥ、人口約5千)には、それぞれ自治組織たる自経団がある。上海には10の自経団があり、それらを統括する自経総団が置かれている。自経総団は総書記と原則として9人の副総書記で構成され、それぞれ1つの自経団の責任者たる書記を兼務している。武漢自経団には地区ごとに漢陽ハンヤン漢口ハンコウ武昌ウーチャンの3つの支団があり、自経団の責任者たる書記と副書記2名は、原則として支団の責任者である支団書記を兼務。重慶には同様に3つの支団があるが、人口の少ない成都には支団はない。


国際連邦本部は月にあり、立法府たる評議会、行政府たる統治委員会、司法府たる最高裁判所から構成される。統治委員会は、内閣にあたる委員会の傘下に、専門分野ごとの局が設置されている。


主な登場人物


ミヤマ・ヒカリ:本作のメイン・ヒロイン、ネオ・トウキョウでターミナルケアを生き延びた。大陸の武昌に辿り着きダイチたちと行動を共にする、上海マオ対策本部技術第一部副部長、今は亡き同い年の従妹でカオルのフィアンセだったサユリに瓜二つ

周光立:(チョウ・グゥアンリー)ダイチの同級生で盟友、上海マオ対策本部の実務を統括する副本部長、上海自経総団副総書記を兼務、上海の最高実力者周光来の孫

ヤマモト・カオル:中国名は李薫 (リー・シュン)武昌支団副書記兼上海マオ対策本部リエゾンオフィサー

李勝文:(リー・ションウェン)タクシー運転手、ヒカリが大陸で最初に出会った人物、上海マオ対策本部民生第一部副部長(非常勤)

アルト:トウキョウ籍のマリンビークル「TYOMV0003」、ネオ・トウキョウからヒカリを上海に運び、高儷の脱出を助けた、今はネオ。シャンハイの基地に停泊している

高儷:(ガオ・リー)本作のサブ・ヒロインの一人、ネオ・シャンハイのターミナルケア生き残り、武昌支団勤務を経て上海マオ対策本部民生第二部副部長

潘雪梅:(パン・シュエメイ)双子の警務隊員(姉)、第18支団に所属しつつ上海マオ対策本部公安部所属

潘雪蘭:(パン・シュエラン)双子の警務隊員(妹)、第18支団に所属しつつ上海マオ対策本部公安部所属

アドラ・カプール:インド人、上海マオ対策本部技術第一部部長

王敏:(ワン・ミン)上海真元銀行出身、上海マオ対策本部技術第一部副部長に就任

劉俊豪:(リウ・ジュンハオ)コンピュータ系に強い人材紹介業者、上海マオ対策本部技術第一部副部長(非常勤)

林興建:(リン・シンジェン)上海マオ対策本部技術第二部部長に就任

張皓軒:(チャン・ハオシェン)ダイチの1学年下でカオルの同級生、上海マオ対策本部民生第一部副部長任

マルフリート・ファン・レイン:国際連邦統治委員会総務局長

ヌワンコ・オビンナ:国際連邦統治委員会科学技術局長

ミシェル・イー:本作のサブ・ヒロインの一人、香港系中国人で本名は于杏 (イー・シン)、国際連邦総務局レフュージ統括部のリーダー職、上海マオ対策本部に赴任予定

トンチャイ・シリラック:国際連邦統治委員会情報通信局情報支援部員、上海マオ対策本部に赴任予定

カリーマ・ハバシュ:スペースプレインの若手航宙士、上海マオ対策本部に赴任予定

アルバート・アーネスト・アーウィン:国際連邦統治委員会情報通信局情報支援部長、ヒカリの連邦職員時代の上司

フアン・マリーア・マルティネス:国際連邦統治委員会科学技術局観測予報部員

ミヤマ・ダイチ:ヒカリの従兄、中国名は楊大地 (ヤン・ダーディ)、上海対策本部チーフ・リエゾンオフィサー就任、武漢副書記は兼務

陳春鈴:(チェン・チュンリン)本作のサブ・ヒロインの一人、武昌支団幹部の一人、ダイチ、カオル、張子涵とは幼馴染

ミヤマ・サユリ:中国名は楊小百合ヤン・シァオバイフゥア、ダイチの妹、カオルのフィアンセ。1年前に病死

ジョン・スミス:ドイツ人、武昌で電気電子修理工房を営んでいたが、店を閉店、今は上海マオ対策本部技術第二部副部長

張子涵:(チャン・ズーハン)本作のサブ・ヒロインの一人、武昌で物流業者を営みつつ上海マオ対策本部民生第一部副部長を務める

艾巧玉:(アイ・チアオユー)モンゴル人、上海トップの総書記兼第2自経団書記で、上海マオ対策本部の本部長に就任、周光立の初任時の自経団書記

蒋霞子:(ヂィァン・シアズ)上海自経総団副総書記兼第3自経団書記で上海マオ対策本部の監察委員に就任

 11月1日(金)午後、対策本部幹部15人と、任命された公安部員2人の合わせて17人は、周光立とカオルのエアカー、李勝文のタクシー、第18支部警務隊の車の4台に分乗、上海の「埠頭」へ着いた。曇り空のもと、ひんやりとした川風に吹かれながら待つこと10分。14時頃、黄浦江を上ってくる2隻のマリンビークルが見えた。先に進むのがアルト。もう1隻はアルトのあとを10メートルくらい空けてついてくる、アルトよりほんの少しだけ大きめの船。

 接岸するとヒカリがアルトに駆け寄る。

「ヒカリさん。私の分と合わせて20人分の席を用意しました」とアルト。

「ありがとう。こちらは、今日は17人なのでちょうどいいですね。うしろの船はネオ・シャンハイのビークルですね?」

「はい。私と完全に連動するように設定しています」

 そう言うとアルトは、キャノピーを開いた。2隻とも同時に乗船可能になる。

 ヒカリを含む8人がアルトに乗り込み、残りの9人が12人乗りのもう1隻に乗り込む。乗船が終わると2隻のキャノピーが同時に閉まり、アルトが出航、もう1隻が少し遅れてアルトを追いかける。

 1時間ほどしてマリンビークル基地に着く。ヒカリと周光立、高儷と公安部員の双子を除き、シャンハイ・レフュージに足を入れるのは初めて。いつものように先頭に立つのが高儷と双子の姉の潘雪梅。13人がそれに続き、最後尾がヒカリと妹の潘雪蘭。地下6層からエレベーターで地上に上がり、乗り捨ててあるエアカー5台に分乗。レフュージ統治府本部オフィスのビルへ。5階のメインオペレーションルームに着く。

 ここまではすべて、高儷とヒカリのイマージェンシーキーで対応してきた。いずれ個別のセキュリティ設定をするとして、当分の間は全員がすべてのシステム、すべての場所にアクセスできるよう、15人のPITにイマージェンシーキーを装填する。

 さっそく技術第一部のアドラ・カプール部長と王敏副部長が端末に触れて、シスターAIのコントロール・ユニットを表示させる。

[ユニットの基本的な構成は上海と一緒だけれど、より機能が細分化されているようですね]とカプール。

[インターフェースも、より洗練されているようだ]と王敏。

「私も最初に武昌のシステムに触れたときに、同じ印象を持ちました」とヒカリ。

[シカリ、基本スペックをいただけませんか。システム要員に渡して習得させたいので]と劉俊豪。彼は非常勤の副部長として、エンジニアを集め、束ねる役割を担う。

「わかりました。PITに送信しておきますね」

[ところで、ネオ・シャンハイでの我々のオフィスはここになるのですか?]と技術第二部部長の林興建が周光立に聞く。

[オフィスとして使うには、サーバーや機器がいっぱいで、手狭な印象があるのですが]

[オフィスには別の場所を考えています。高儷、ご案内を]と周光立。

[それでは、みなさんをオフィスへご案内します]と高儷は言い、先ほどと同じく潘雪梅と肩を並べ、メインオペレーションルームを後にする。15人が続く。今度もしんがりはヒカリと潘雪蘭。

 廊下を3,4分ほど歩き、高儷は元民生第1支部のオフィスに皆を招じ入れる。

[いったんこちらを全員のオフィスとしましょう。要員が増えて足りなくなってきたら、別のオフィスを追加することにして]

 ここでコーヒーブレイク。パントリーのマシンの扱いに慣れている高儷とヒカリが、各人のドリンクを用意し、それをカオルと張皓軒が運ぶ。双子はいつものとおり、交替で入口の警備につく。

 しばらく思い思いに過ごす。メインオペレーションルームに行く者。オフィスの端末を起動させてレフュージの見取り図を見るもの。ブレスト的に打ち合わせをする者。高儷とヒカリの周りには、レフュージについての質問をする者が絶えなかった。

 16時45分に再集合。最初とほぼ同じ隊列で、VRミーティングルームへ向かう。大きな両開きのドアを開け、周囲がグリーン一色の空間に入る。

[噂には聞いてたが、ほんとにこういう空間なんだなあ]ジョンが目を丸くして言う。

「起動して月側と接続すると、もっと驚きますよ」と言うとヒカリは、入口横のパネルに行ってアーウィンたちのいる月側のVRミーティングルームとの接続を確立する。

「チーム・アーウィン」のVR画像が現れる。シャンハイ側から「おお」と声が起こる。


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~周光立の業務日誌より(続き)~

 17時より、上海マオ対策本部の幹部メンバーと、月の「チーム・アーウィン+1」にマルフリート・ファン・レイン総務局長が加わったメンバーとのVRミーティング。武昌の楊大地は、PIT画像をシャンハイ側のエア・ディスプレイに投影して参加。

 まず、月側の8人が自己紹介。それから上海の対策本部組織を自分から説明し、メンバーそれぞれが自己紹介。

 当方のスケジュールとして、まず助理会について。11日から15日まで開催予定。当方側手続きが15日中に完了、協定の正式発効となる見通しを述べる。

 並行して検討を進める避難に関わる事項について、概略説明。

 月側からは、ヌワンコ・オビンナ局長がシャンハイへの派遣スタッフの人選を発表。まず、部長級のリエゾン・オフィサーにはミシェル・イー。彼女には連邦アドバイザーも兼務させてはとのお話があり、同意。

 次に副部長級の連邦アドバイザーとしてトンチャン・シリラック。事務系のミシェル・イーのパートナーとして、技術系、しかもシステムのスペシャリストであるシリラックが適任とのご判断。ヒカリが大きくうなずく。こちらも同意。

 ミニプレインの操縦士は、連邦調査団が来たときのスペースプレインの副操縦士、カリーマ・ハバシュになった。

 3人の赴任時期は、協定発効に合わせて月を発つスケジュールで調整中とのこと。

 また、今後の月側の対応スタッフは、総務局、科学技術局、情報通信局にて人選中。協定発効後に任命される予定。

 本日の確認事項は以上。しばらく歓談。

 自分から「アーウィン部長は別のことを考えてられるとのことだが、差し支えない範囲で教えてほしい」と質問。月側の参加者を一瞥した後「正式決定ではないが、マオの脅威に曝されるAORコミュニティーが他にも地球上に存在する前提で、彼らを安全なレフュージに収容するプロジェクトを実施すべく、マルティネスと検討を始めている」とのこと。

 次回VRミーティングは、協定発効後、2人の連邦派遣幹部の着任と連邦側の対応スタッフの任命ののち、11月20日前後に行うこととなった。18時半終了。


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~陳春鈴の日記より~

 夜、楊大地から電話。シカリ姉さんの代わりに、武漢と重慶と成都の助理会の進行役をやるように言われた。12日に武漢の3支団をやって、14日に重慶の3支団、15日に成都自経団とのこと。重慶は一度だけ行ったことがあるけれど、成都は初めて。

 たまには武漢を離れられるのは気分転換にもなって悪くはない。けど…行き先が…。

 詳しいことは週明けに話すと言いながら、なんやかや助理会の説明。15分くらい話しただろうか、「今回の指名は周光立のたっての希望でもある」と言われた。えっ! 周光立が? なんで早く言ってくれないの。彼に認めてもらったんだとしたら、本当に嬉しい。

 喜びに浸っていると、楊大地からさらに「8日に上海で開催されるリハーサルに立ち会うように」との話…えっ? ていうことは、上海に行けるってこと? なによ、なんで最初に言ってくれないの? 嬉しくて声のトーンが素っ頓狂になっていたんだろう。楊大地が「どうした? 気分でも悪いか?」と聞いてきた。声を落ち着けて「すべて了解しました」と答えて電話を終えた。

 上海へ行くのは何年ぶりだろう。長くても2泊3日だろうけれど、本当に嬉しい。

 ついに、あの人に…今夜は眠れるだろうか?。


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~カオル(李薫)の回想~

 サユリのことを思い出した。天真爛漫で、よく笑う子だった。

「ダイチから聞いたよ。君はモテないほうじゃないんだってね」

 サユリは大好きなお兄ちゃんのことを名前で呼ぶ。

「そうね…君はもっと笑ってみたら? そしたら意中のヒトに振り向いてもらえるかもよ」

「意中のヒト」サユリは僕にそう言うと、満面の笑みを僕に向けた。

 初めて二人だけで映画を観に行った日、帰りに寄ったコーヒー店でのこと。

 言われたから無理に笑おうとしたんじゃない。サユリと同じ時を過ごすにつれて、僕は自然とよく笑うようになったんだ。

 サユリが逝ってその笑顔を見られないようになって、僕はまた、笑わないようになった。


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~周光立の業務日誌より~

 11月2日(土)

 李薫、ヒカリ、高儷、ジョン・スミス、張子涵の5人は、いったん武昌へ戻る。李薫のエアカーに乗り込んだ彼らを見送る。ヒカリ、高儷、ジョン・スミス、張子涵は、来週半ばに再び上海へ引っ越して来る。

 そうそう、陳春鈴がヒカリの代役を務めてくれることになった、との楊大地からのMATES。彼女とはPIT会議では何度も一緒になっているけれど、直に会うのは今度のリハーサルが初めて。

 10時に本部長である艾巧玉海総書記に週次の報告。監察委員の蒋霞子副総書記が同席。幹部メンバーで洗い出した課題について説明。


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 武昌への道すがら、陳春鈴の話題になった。

[事務処理能力と、これまでの経緯を十分に理解しているということからいうと、ヒカリの代役としては、適任だろうなあ]とジョン・スミス。

[けど今頃、あいつ天にも昇る心地でいるんじゃない]と張子涵が、噂話の雰囲気で話す。

[そうね、たしかに]と同じトーンで高儷。

「面と向かって、は初めてじゃないかしら」と笑みを浮かべながらヒカリ。

[おいおい、陳春鈴がどうかしたのかい]とジョン。

[相変わらず武昌の男どもは、デリカシーがないねえ]とあきれた風の張子涵。


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~カオル(李薫)の独白~

 ヒカリはそんなに笑う人じゃない。どちらかというと表情に乏しい。

 けれど、彼女がたまに笑みを浮かべるのを見ると、自然と僕の顔にも微笑みが浮かんだ。

 血がつながっているとはいえ、いとこ同士。なんでここまでそっくりなんだ。

 ヒカリの笑顔の中にサユリを見たようで、嬉しくもあり、そして残酷だとも感じる。


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