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第56章 対策本部始動

長江流域の上海(人口約40万)、武漢(ウーハン、人口約3万)、重慶(チョンチン、人口約2.5万)、及び長江支流流域の成都(チェンドゥ、人口約5千)には、それぞれ自治組織たる自経団がある。上海には10の自経団があり、それらを統括する自経総団が置かれている。自経総団は総書記と原則として9人の副総書記で構成され、それぞれ1つの自経団の責任者たる書記を兼務している。武漢自経団には地区ごとに漢陽ハンヤン漢口ハンコウ武昌ウーチャンの3つの支団があり、自経団の責任者たる書記と副書記2名は、原則として支団の責任者である支団書記を兼務。重慶には同様に3つの支団があるが、人口の少ない成都には支団はない。


国際連邦本部は月にあり、立法府たる評議会、行政府たる統治委員会、司法府たる最高裁判所から構成される。統治委員会は、内閣にあたる委員会の傘下に、専門分野ごとの局が設置されている。


主な登場人物


ミヤマ・ヒカリ:本作のメイン・ヒロイン、ネオ・トウキョウでターミナルケアを生き延びた。大陸の武昌に辿り着き、上海マオ対策本部発足とともに技術第一部の副部長に就任、今は亡き同い年の従妹でカオルのフィアンセだったサユリに瓜二つ

ヤマモト・カオル:中国名は李薫 (リー・シュン)武昌支団副書記のまま上海マオ対策本部リエゾンオフィサーに就任

高儷:(ガオ・リー)本作のサブ・ヒロインの一人、ネオ・シャンハイのターミナルケア生き残り、武昌支団勤務を経て上海マオ対策本部民生第二部副部長に就任

ジョン・スミス:ドイツ人、武昌で電気電子修理工房を営んでいたが、店を閉店し、上海マオ対策本部技術第二部副部長に就任

張子涵:(チャン・ズーハン)本作のサブ・ヒロインの一人、武昌で物流業者を営みつつ上海マオ対策本部民生第一部副部長に就任

オガワ・マモル:ヒカリの一人息子、選抜されて火星へ行った

ホシノ・ミユキ:選抜されて火星へ行った天才ピアニストの少女、マモルと仲良くなる

陳春鈴:(チェン・チュンリン)本作のサブ・ヒロインの一人、武昌支団幹部の一人、ダイチ、カオル、張子涵とは幼馴染

周光立:(チョウ・グゥアンリー)ダイチの同級生で盟友、上海マオ対策本部発足とともに実務を統括する副本部長に就任、上海自経総団副総書記は引き続き務めるが、第4自経団書記は退任、上海の最高実力者周光来の孫

艾巧玉:(アイ・チアオユー)モンゴル人、上海トップの総書記兼第2自経団書記で、上海マオ対策本部の本部長に就任、周光立の初任時の自経団書記

蒋霞子:(ヂィァン・シアズ)上海自経総団副総書記兼第3自経団書記で上海マオ対策本部の監察委員に就任

ミヤマ・ダイチ:ヒカリの従兄、中国名は楊大地 (ヤン・ダーディ)、上海対策本部チーフ・リエゾンオフィサーに就任、引き続き武漢副書記は兼務するが、武昌支団書記は退任(後任はグエン)

張皓軒:(チャン・ハオシェン)ダイチの1学年下でカオルの同級生、上海マオ対策本部民生第一部副部長に就任

アドラ・カプール:インド人、上海マオ対策本部技術第一部部長に就任

蔡俊熙:(ツァィ・ジュンシー)上海真元銀行出身、上海マオ対策本部財務部副部長に就任

李勝文:(リー・ションウェン)タクシー運転手、ヒカリが大陸で最初に出会った人物、上海マオ対策本部民生第一部副部長(非常勤)に就任

陳紅花:(チェン・ホンファ)商物流業者の首領の一人、張子涵と親交がある、上海マオ対策本部民生第一部副部長(非常勤)に就任

朱菊秀:(チュ・ジューシウ)タクシー運転手李勝文の妻

潘雪梅:(パン・シュエメイ)双子の警務隊員(姉)、第18支団に所属しつつ上海マオ対策本部公安部所属

潘雪蘭:(パン・シュエラン)双子の警務隊員(妹)、第18支団に所属しつつ上海マオ対策本部公安部所属

馮万会:(フォン・ワンフイ)報道機関である長江新報の主任編集員、ダイチと周光立の先輩

劉俊豪:(リウ・ジュンハオ)人材紹介業者、コンピュータ系に強く、上海マオ対策本部技術第一部の副部長(非常勤)に就任

 翌10月30日水曜日、朝9時に武昌を発ったカオルのエアカーで、カオル、ヒカリ、高儷、ジョン、張子涵が上海へ向かう。助手席にジョンが座り、女性3人が後部座席に。

 中継局の建物で昼食兼トイレ休憩のとき、高儷がヒカリのところへやってきた。

【火星のマモル君は元気?】とふだんの口調で高儷。

【おかげさまで】

【仲良しのピアニストも?】

【めきめき上達しているみたい】

【そう。それは本当によかった…】

【…あの、あなたは…大丈夫?】とヒカリがためらいながら尋ねる。

【そうね…まあ、大丈夫ってとこかな】

【そう】

【でもね、引きずっている。たぶん一生、引きずりながら生きていくことになると思う】

一呼吸おいて高儷が続ける。

【正直な気持ちを言うと、ヒカリ。マモルくんが生きている貴女のことが、羨ましくてしょうがない】

【…】

【ごめんなさい。どうか気にしないでほしい】

【うん】

【マモルくんは、あの頃の私たちが「希望」を込めて送り出した、そのひとりだもの】

ヒカリに向けていた視線を少し遠くに向けて高儷が続ける。

【私は生き残された。「なぜ、私だけ」って、そんな運命を恨んだりもした。でもいまは、思っている。私は、別の「希望」のために生きているのだと】

 高儷の視線が向くほうに視線を合わせて、ヒカリが言う。

【こちらのひとたち】

【そう、みんなの希望を未来へとつなげる。そのために私は生かされたのだと】と高儷。

【わたしも同じなのかな】

【そう思いましょう】

 ふたりは視線を再びお互いのほうに戻して微笑んだ。


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~カオル(李薫)の独白~

 休憩のとき、ヒカリと高儷が話し込んでいた。内容はわからない。でも、やはり彼女たちにしかわからない世界があるんだということを再認識する。僕には理解できない、立ち入ることのできない世界が。


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~陳春鈴の日記より~

 いまごろみんな上海に着いて、ご飯食べてる頃かな。周光立も一緒なんだろう。

 やっぱり羨ましい。


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~周光立の業務日誌より~

 10月31日(木)

 上海マオ対策本部の仮オフィスとした第18支団の大会議室に、明日正式発令される組織の幹部メンバーのうち、艾本部長、蒋監察委員、楊大地を除く全員に、朝一番で集まってもらった。楊大地は武昌に残り重慶等との調整にあたる。

 連邦との交渉経過を中心に経緯と今後のスケジュールについて話をする。上海真元銀行出身の二人には、事前に9月に自経団幹部に説明を行った際の映像を見てもらった。まずは助理会。そして2月の春節までにネオ・シャンハイ側と上海、武漢、重慶、成都側の準備を終わらせ、春節明けから本格的な移動にはいる。5月末までに移動を完了。6月14日の「その日」に備える。

 その後、メンバーを紹介しながら各部の担当事項について説明。

 全体の顔合わせがすむと、各部に分かれて打ち合わせ。ただし張皓軒は助理会の準備を引き続き進め、李薫と民生第二部のメンバーが資料準備などサポート。また技術第一部のアドラ・カプールには、PITリモート参加システムと事前投票システムが正常に動くか、確認をしてもらう。

 自分は、財務部副部長の蔡俊熙と打ち合わせ。

 まずは上海真元銀行の機能の移行スケジュール。春節までにシステム・設備の受け皿をネオ・シャンハイ側に立ち上げ、その後、人の移動に合わせて上海側を縮小し、ネオ・シャンハイ側を拡大する。移行期間中の両地点でのシステムの同期、紙幣の運搬、スタッフの移動…ブレスト内容をもとに、午後に蔡俊熙にレポートをまとめてもらう。

 3地域の移動経費の融資についても調整が必要。楊大地、李薫と連携して進めてもらう。

 午後は民生第一部・第二部の合同会議。

 準備のできた助理会の通知文、投影資料、事前掲示資料を確認。問題なし。これで明日の招集通知を行う。

 上海の開催日程は以下のとおり。

 11月11日(月) AM 第4自経団

           PM 第1自経団

    12日(火) AM 第9自経団

           PM 第2自経団

    13日(水) AM 第10自経団

           PM 第6自経団

    14日(木) AM 第8自経団

           PM 第5自経団

    15日(金) AM 第3自経団

           PM 第7自経団

 次の課題は開催場所である第5地区の国父紀念ホールに、各地区から1000人規模の参加者を運ぶ手段。各自経団開催日の1週間前までに公表できるよう、張子涵、李勝文、陳紅花に明日から手配にとりかかってもらう。

 助理会の確認の後、ネオ・シャンハイへの移動に伴う民政関係の課題について洗い出し。

 第一部は移動計画の作成とロジスティクスの確保。春節明けから5月末まで、100日程度ですべての移動を終わらせなければならない。洗い出された課題を列記する。

●区単位、自経団単位で順次移動する形での基本計画作成

→ネオ・シャンハイでの受け入れのために先行して移動する者の特定

→移動支援と4地域の機能維持のために後追いで移動する者の特定

●これらをスケジュールに落とし込み、移動手段を確保

●連邦に依頼する空輸機材・要員の所要見積もり

●携行品についての規則作り。原則は一定の上限重量で規制

→職業や生活維持のため、別枠での持ち込みを許可するルール作り

●食料品・生活物資の供給

→ネオ・シャンハイ側は当初から避難用食料・物品で対応

→4地域も、一定のタイミングで通常の商物流を停止、避難用食料・物品の配給を開始

 まだまだ他にも課題はあるだろうが、いずれにしてもロジスティクスがキーとなる。

 第二部についても列記する。

●移動した住民を連邦市民として登録しMPワクチン(多目的免疫強化ワクチン)を接種する手続き

●避難用仮住居の割り当て

●医療について

→ネオ・シャンハイの医療用ロボットも含めた設備を当初から活用

→それらを使いこなすための医師はじめ医療従事者のトレーニング

●教育について

→移動期間中の教育機会をできる限り途切れさせない

→個別のフォローアップ

●その他の住民サービスについて

●避難期間終了後の正式住居の割り当て

 民生系に共通の課題として、スタッフの確保。李薫と張皓軒から「プレスリリース後のネットの反応で『できることがあったら協力したい』旨の書き込みが多数あった。ボランティアスタッフを募ることにつき、張皓軒が中心となって進めることとする。

 夕刻、技術系の2つの部のメンバーのところへ。概要説明を受け、本日の検討内容をレポートとして送信してもらい、詳細は明日確認する。

 ヒカリから、システム関連の初動対応のため武昌に戻らずに引き続き上海に留まりたいとの申し出を受ける。武漢、重慶、成都の助理会運営に楊大地と一緒にあたる予定だが、それでは11月2日から18日頃まで上海を空けることになる。申し出に同意。ヒカリから「代わりは陳春鈴ではどうか?」との話。楊大地と相談して決める。

 夜は李勝文に頼んで例の店に卓を2つ予約してもらい、李勝文の妻、朱菊秀チュ・ジューシウが加わり総勢16人で懇親会。


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~陳春鈴の日記より~

 今日は上海で懇親会だって高儷姉さんがMATESで言っていた。

 みんな一緒。いいなあ…


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~カオル(李薫)の独白~

 助理会の準備と民生系の課題洗い出し、結構ハードな一日だった。

 夜の懇親会、グズグズしてたらヒカリと同じ卓になれなかった。

 張皓軒と高中時代の思い出話。これはこれで楽しかった。

 サユリが旅立ってから1年と4ヶ月。またひとつ、「あしたは来月」の日が暮れていく。


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~周光立の業務日誌より~

 11月1日(金)

 月が替わって上海マオ対策本部関連の人事の正式発令。対策本部幹部メンバーとは昨日顔合わせをし、今日も午後一緒になる予定なので、朝一番で辞令をPIT送信した。

 対策本部最初の一般スタッフとして、潘雪梅と潘雪蘭を公安部に配属する旨の辞令を交付した。第18支団警務隊との兼務。

 張皓軒と武昌出身の幹部メンバー合わせて6名は、今日も朝から仮オフィスの大会議室にいる。他のメンバーはいったん元の所属部署で引継ぎを行った後、午後に合流する。引継ぎが完了するまで彼らは「行ったり来たり」となる。

 午前10時。上海各自経団の助理会の招集通知が、議決権のある区長助理とオブザーバー参加権のある区長・副区長全員に送信された。同時にPIT事前受付システム、事前投票システムが稼働し、資料掲載サイトが閲覧可能となった。

 助理会招集関連業務が問題なく片付いたことを確認した後、長江新報の馮万会に連絡。事前に渡してあった資料をもとに、記事のリリースを依頼した。

 ここまですませたところで、昨日もらっていた技術系2部のレポートに目を通す。

 技術第一部については、シャンハイ・レフュージのシスターAIと自経団・上海真元銀行のシステムの連携が最初のポイント。元はすべて連邦のシステムだが、自経団・上海真元銀行は60年前のプラットフォームなので大幅な調整が必要。いったんシャンハイのサーバー上に自経団・真元銀行のシステムのレプリカを作成し、レプリカ経由でシスターAIとの連携を図る手法を検討しているとのこと。同時に他の部のシステムニーズを把握し、必要な改修・開発・テストの実施を進める。シャンハイ側で対応にあたるエンジニアの確保が課題。スキル要件と工数を見積もり、劉俊豪に人材の確保をしてもらう。

 技術第二部はシャンハイ・レフュージのインフラ施設の再起動と整備。まずは避難用区画とそれに関連する部分。さらに避難期間終了後の居住スペース。スペックとおり機能するかテストし、不具合を整備していく。技術第一部との連携が重要。整備のめどがついたら、運用フェーズで必要なサポート要員を確保し、研修して戦力化する。

 楊大地とPITで話す。

 3地域の助理会について。上海から1日遅れて12日(火)の武昌から始まり、15日(金)の成都開催で完了できる見通し。招集関連業務のテストを4日に武昌のヒカリが中心になって各地域で行い、それぞれ1週間前には招集。

 ヒカリの件、楊大地も了解。代わりの3地域の進行役として陳春鈴がヒカリも自分も適任と思っていると告げる。楊大地から本人に伝え打ち合わせをするとのこと。また8日(金)に実施する上海のリハーサルに、立ち会ってもらってはどうかと話す。楊大地も同意。


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