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結局定期的に甘いものを差し入れに来るという事を約束させられて、漸く解放された。
最下層から出ている転送の魔法陣に乗って地上に出た時には、すでに朝日が昇っているのか眩しい光がさしている。
結局一泊してしまった。
そもそもピクシーが夜行性だなんて、初めて知ったぞ。女王が起きてさえいれば、すぐに帰れたものを。活用する機会のない知識が増えた。
「眠い」
「ナルは気絶していた分、寝たようなもんだろ」
イーサンはあの面倒な女王に絡まれていないから、言えるんだ。
「今日は依頼なんて行かずに、帰って速攻寝るぞ!」
体力馬鹿のマックスと違って、一般人の俺はこれから店を開けなきゃいけないのだ。
冒険者って名の無職はいいよな。
ダンジョンの入口には、何故か大勢の町の人が居た。
珍しいな。
町の奴らはダンジョンになんて近寄らないのに。その中に金の翼の面々も居て、更にげんなりする。
なんだよ、もう王都から帰ってきたのかよ。
その輪の中に何故かギルド職員のエリンが居た。
「ナルさん、無事だったんですね」
俺の方を見て駆け寄ってくる。
「エリン、なんでこんな所に居るんだ?」
「ナルさんがダンジョンに潜ってから帰ってこないので。ミラに聞いたらマックスさんも戻ってきてないというし。3人で新しい階層に行くと言っていたので、心配になった町の人たちが金の翼に依頼して、捜索に向かう所だったんです」
その中には気まずそうな顔をしたシビルの顔もあった。
何だかんだ言って、シビルは債権者を大事にするからな。
「帰ってこれたんなら、行く必要はないね」
「全く人騒がせなんだから」
ブツブツ言いながら金の翼の面々は帰っていった。
良かった。
あいつに借りなんて作りたくなかったからな。
「ナル、なんか言う事はあるか?」
ココの親父も居る。
余程心配かけたようだ。
「……悪かった。ちょっとトラブルがあってな」
「ケガはないのか?」
「ない。心配かけて悪かった」
素直に言葉が出てきた。
「実はセオドアさんにはメリッサちゃんだけでなく、お前の面倒も頼まれてんだ。自分がこの町に呼んだのに、結局まるごと押し付けたように思って気にしてるんだ。だから、ナルの事も定期的に報告してる。今回の事を聞いたら、良くなった体がまた悪くなるぞ」
知らなかった。
だからあんなにも気にかけていたのか。
「セオドアさんには、黙っておいてくれ」
「無理だな」
少しは俺の頼みだって聞いてくれたっていいだろうに。だが、心配をかけたのは事実なので、強くは言えなかった。
俺が無事だということが分かると「なんだよ」「心配して損した」などと相変わらず言いたい放題言いながら、集まった町の人たちは帰っていった。
こんなにもこの町の人たちに心配されていたっだなんて、知らなかった。
それが、薬が作れる人が居なくなるからだっていう理由だとしても、ちょっと嬉しいだなんて、俺は単純だったのかもしれない。
最後に残ったのは、うつむいたままのメリッサだった。
「メリッサ」
声をかけるとメリッサが抱き着いてきた。
涙で濡れた顔は、初めて会った時を思い出させた。
「良かった、ナルまで居なくなるんじゃないかと思って」
メリッサにとって死はとても身近で、避ける事が出来ない災いなのだろう。
最初から悲しませる事が分かっていた。
だから、早く帰りたかったっていうのに、結局泣かせてしまった。
「大丈夫だ。お前が結婚して幸せになるまで見届けるって約束だろ」
「分かってるけど」
俺はセオドアさんにされていたように、メリッサの頭を撫でる。
大人ぶって見せても、まだ俺もメリッサも子供なのだという事が分かった。
「あーあ、ダンジョンに閉じ込められて、今日の俺は疲れたな。メリッサ、俺の代わりに店番してくれないか?」
「いいよ。ナルは見てるだけでいいから」
呆れているマックスとイーサンを置いて、俺とメリッサは手を繋いで、自分の店へと帰った。