19
収納袋から鍋屋調理器具を出して料理を作っていると、すぐにマックスが帰ってきた。
暑苦しいぐらいに心配されたから、生焼けの肉を口に突っ込んで黙らせた。
くそ、マックスに心配されるだなんて、最悪としか思えない。
適当に干し肉とか野菜を入れて煮込んでいる間に、マックスが釣ってきた魚をさばいて焼く。その間に周囲に何があったか聞いてみたが、何もなく平和な花畑しかなかったという。
これは本当に女王とやらに聞かないとダメだな。
スープが煮込み終わったから、順番に皿へとよそっていくと。
「ほれ、早くせんか」
いつの間にか輪の中に知らない顔が混ざっていた。
「って、誰だよ!」
思わず突っ込んでしまった。
「わー、女王様ー」
「女王様起きたー」
ピクシー達がブンブンと女王の周りを飛び回っている。
女王と呼ばれた女性は、大きさは俺たちと同じ普通の人間とは変わらないのに、体が半分透けているように見える。女王が偉そうに立ち上がると、不規則に飛び回っていたピクシーがピシりと整列をする。
偉い存在ではあるみたいだ。一匹のピクシーが声を張り上げると、次々にピクシーが声をあげていく。
「聞いて驚けー」
「驚けー」
「我らが女王であるぞー」
「ふふん、妾がダンジョンの管理人であるフィエーヤである!跪け、人間ども!!」
どこかの誰かが良く言ってる台詞と同じで、俺は呆れてしまう。
権力をもった奴は、種族が違っても言う事が同じなのか?
「さて、自己紹介も終わった所で、そのいい匂いのするものを、早く寄越さんか。人間の食事をとるのは久しぶりなのじゃ」
よく分からないが、機嫌を損ねたくないので予備の食器を出してついでやる。ついでに魚も渡してやると、嬉しそうに頬張った。
「やっぱり魚はうまいのじゃ。前回食べた魚は色々とボロボロじゃったからな」
「ボロボロ?」
「そうじゃ。表面の鱗は綺麗にとってあったが、内臓も残っておって随分と生臭くて嫌がらせかと思ったが、今まで以上の魔石があったからのう。ここ最近は魔力の含まない果物ばかりの奉納しかなく、仕方なく妥協してやったのだ」
……なんか言ってる事に心当たりがあるぞ。
「それって、バルト伯爵の家の地下にある祭壇の事か?」
「祭壇?ああ、そう呼ばれておるのか」
「違うのか?」
「あれは妾の秘密基地じゃ」
「「秘密基地?」」
思わず俺とイーサンが聞き返してしまう。マックスは全く意に返さずに魚を食べ続けている。
こいつ、重要な話をしていると分かっているのだろうか?
「そうじゃ。魔素溜まりを管理するのには、この地が最適なのじゃが、たまに別の場所に行きたくなるじゃろ?しかし妾が移動をすると、そこに魔力が溜まって魔物が生まれやすくなってしまうから、駆逐する為に置いてあるのじゃ」
は?なんだそりゃ。
「つまり、貴女のように居るだけで高魔力を発してしまう存在の居る場所を、ダンジョンと呼ぶという事か?」
「人間の居る地上ではそう呼ばれてるらしいのう」
「他のダンジョンも同じなのか?」
「概ねそうじゃ。妾達が地上に出ると大変な事になるからのう。他にも理由はあるが、人間に教える気はない」
まさかダンジョンの成り立ちがそんな事だとは思わなかった。
むしろ、そんな力の強い者が存在していたのなら、もっと本や口伝で残っていてもおかしくない筈なのに、何故知られていないんだ?
「なんでダンジョンの階層を増やしたんだ?前のままでも問題はなかっただろ?」
「む?お前たちはダンジョンの階層を増やして欲しかったのではないのか?その為に毎年毎年祭りをしていたんじゃなかったのか?童も心苦しく思っていたのじゃ。盛大に童の事を祭ってくれているのに魔石を奉納してもらえんおかげで力が振るう事が出来なくて」
そういう事か。
俺たちが意図せずに魔石を祭壇に奉納し、このフィエーヤとやらに力を戻した。彼女は礼にと善意でダンジョンの階層を増やしたという事か。
「ちなみに、どれくらいの階層が増えたんだ?」
「まあ、あの魔石の量では50階層が限界じゃな」
もうすぐ攻略されるかと思ったが、まだまだ先は長かった。
「で、この指輪は一体何なんだ?」
「ふふふ、妾の信頼の証じゃ。これがあれば妾にいつでも会いに行けるという、素晴らしいアイテムなのじゃ」
「いや、要らないです」
俺は即答した。これ以上面倒くさい人が増えると困る。
「何でじゃ!?」
「会うメリットが無い」
俺一人では、最下層に居るハイオークは倒せない。
こんな面倒くさそうなやつに会いに行くのに、護衛を雇うムダ金は使いたくない。
「嫌じゃー、たまには外の話も聞きたいのじゃ!」
「今までピクシー達が居るだけでよかったんだから、平気だろ」
「他にナルが喜びそうなメリットはあるのか?」
イーサンめ、絶対メリットを聞いてから横取りしようとしている。
「そうじゃ、聞いて驚け!童に頼めばダンジョンのどこにでも、好きな素材が採取出来るように変化させる事が出来るのじゃ!」
「それは凄いな」
という事は護衛を雇って下層階に行かなくても、素材がとれるっていう事か?
このピクシーの女王とやらに会うのは面倒だが、メリットはデカイ。
ちょっと心がぐらつく。
「ただし、オリハルコンとダイヤモンドが5個程必要じゃがな」
却下。
金がかかりすぎる。
「イーサン」
「興味はあるが、実証出来るだけの金が無い」
「マックス」
「俺は経営とか向かない」
「という事で、放置という事で帰ろう」
「なんでじゃ、破格じゃろ!?」
庶民の手には余り過ぎる。
その後ごねる女王を説得するのに、収納袋の中の食品のほとんどを吐き出す事になった。
一ヶ月は遭難しても大丈夫なように用意していたのに。